エアネル、レンネルの旅立ち
「なんなのあいつ! ふざくんな!」
ふざけるな、と言おうとして噛んでしまった。
「姉さん、落ち着こうよ。それより、これからどうするかを考えようよ」
弟は冷静だ、こんな事も予期していたのかもしれない。私と違って頭のいい奴だから。
私達の入っている旅団「黄土の岩窟旅団」は、都市ゲーシオンの中では下から数えた方が早いくらいの、中堅所の旅団だった。ところが最近旅団長になった奴が責任量を設定すると言い出して旅団内は大荒れ、旅団を抜けると言い出した団員は大勢いた。
「私達もここを出よう!」と私は宣言する。
「え、……うん。それはいいけれど、どの旅団に入るの? それとも入らずに冒険を? 旅団に入るなら早めに決めないと、抜けた人達が先に入って僕らの入る隙間がーー」
「この街を出るの! あの噂を聞いたでしょ」
私が言うと弟は「え、どの噂?」と首を傾げる。
「ミスランの凄腕鍛冶師の噂! その人に新しい武器を作ってもらおう!」
弟はクロム鉄鋼ならあるけれど、武器を作るにはお金がいるよと現実的な事を言う。
「だ、大丈夫! 私達の貯めておいた物があるでしょ。それに売れる物は売ってミスランに向かうの!」
「む、無茶苦茶だなぁ……」
弟は苦笑いをして部屋の中の物を確認しながら、なにやら計算を始めた。こういった事はレンに任せよう、私は戦闘で役立つくらいしか能が無いのだから。
「ぎりぎりかな、ミスランに着いたら、宿屋に泊まるのもケチらないといけなくなりそうだけど」
弟の言葉に、だいじょうぶ、なんとかなる! と根拠は無いけれど強がって見せる。これまでも二人でなんとかやって来た、大丈夫。
私達はすぐに部屋の物をまとめて、売れる物は売って金に換え、必要な物は背嚢や荷袋に入れておく。ーーミスランまでは、歩いてだって行く事はできるんだ。
私達は鉄の武器を手にし、互いの顔を見合って頷き合う。このぼろっちい旅団宿舎ともお別れだ、前任の旅団長には悪いが清々する。
あんな男に旅団を任せるなんて、やっぱり人を見る目が無いのだ。あんな自分勝手なバカに旅団を任せるくらいなら、うちの弟にやらせた方が百倍マシだろう。
「さあ、こんなウ○コみたいな旅団は、さっさと出て行きましょう!」
私は力強く宣言し、部屋のドアを開けた。
「姉さん……そのウ○コみたいな旅団に居た僕達が惨めだから、やめようよ……」
レンが蚊の鳴く様な声で呟いた。