エウラの決意 ー兄の折れた魔剣ー
シリーズ名『方舟大地フォロスハートの物語』で本編を読むことができるのでそちらも是非読んでください。よろしくお願いします。
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兄が居なくなってしまったーー死んだのだ。
兄エルグはこの都市でも一、二を争う凄腕の冒険者だった。ここ最近は別々の旅団に入った為に、碌に話す事も無かったがーー私は兄が大好きだった。
父親は無く、母親のみで育てられた私達兄弟。私が十三になってすぐに、母が病で亡くなってしまった。そんな時でも兄は私の面倒を見ながら旅団に入り、若者の中でも優秀だと言われる冒険者になっていった。
そんな兄の背中を追う様に、私も冒険者になる事を目指して、同年代の少年がやる様な事は全てやった。管理局が開く若者向け冒険者育成訓練に参加し優秀な成績を残すと、その勢いのまま「深緑の風見鶏旅団」に入って剣の腕を磨き続け、十六になる頃には、旅団の中の若手で一番と呼ばれる様になり、その後もたまに兄と剣の稽古をしたりしながら、ずっと都市シャルファーの中でのみ生きてきたのだ。
けれど私は、いつかは中央都市ミスランで冒険に出たいとずっと思い続けていた。旅団に入ったばかりの時に先輩から聞いた、ミスランの転移門が様々な場所へ通じていると言うのを聞いて、いつかはミスランで冒険をしてみたいと思う様になる。
エルグも居なくなり、その兄が残した「折れた魔剣を修復して欲しい」と言う願いを思うと、シャルファーに求める事はもう無くなってしまったと感じ始め。兄が最後に残した言葉「オーディ」何とかについての情報を求めて、兄の居た旅団の冒険者達に尋ねるとーーその名に関する有力な情報を得る事が出来た。それはミスランに居る錬金鍛冶師、オーディスワイアの事だろうと言われたのだ。
私はすぐに決断した。「深緑の風見鶏旅団」を抜ける決意をしてミスランに向かったのだ。ミスランに居る錬金鍛冶師が兄の魔剣を直せたら、私もミスランにある旅団に入って新しく生活をやり直せるのでは、と考えた。
失ってしまった物は取り戻せないが、私自身はまだやり直せるはずだ。
兄の分も生きて行こう。
そんな風に思い始める。
「折れた心もまた新たな輝きを見つけて立ち直れるはずだ」
私はそう呟くと荷物を背負って、ミスランへ向かう荷車に乗り込んだ。