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夢幻神在月  作者: 堤明文
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序章



 目を閉じたのは、恐ろしかったからだ。

 数秒後に訪れる衝撃が、激痛が、そして死が、恐ろしくてたまらなかったから、歯を食いしばりながらきつく目を閉じていた。

 だから、その瞬間に起こったことは見ていない。

 暗闇の中で一秒経って、二秒経って、三秒経って、何秒経っても地面と激突しないことにようやく気付いて、少年はおそるおそる目を開けた。

 最初に見えたのは、黒い空。雲の少ない澄んだ夜空の中で、色とりどりの星々が競い合うように瞬いている。

 次いで見えたのは、人の顔。こちらの顔を覗き込むように見下ろしていた誰かと目が合って、絶句した。

 その誰かは、腰まで届くほど長い髪をした、若く美しい女だった。

「天国にようこそ」

 澄んだ柔らかい声を、女はその唇から零す。

 それから、幼子をあやす母親のように微笑んだ。

「――なんてね。残念でした。ここはまだあの世じゃないよ」

 言われて、学生服を着た小柄な少年は、現状を認識する。

 水の流れる音が聞こえる。虫の鳴き声が聞こえる。線路を走る電車の音が聞こえる。その窓から零れる明かりが見える。背中から伝わる硬い石の感触がある。

 確かに、あの世ではない。

 ここは河原。人気の無い夜の河原。ついさっきまでいた場所とほとんど同じだ。違うのは、自分の位置が橋の上から橋の下に変わったことだけ。

 そこで今、彼は見知らぬ女に膝枕されている。

「でもちょっと危なかったね。お姉さんが下でキャッチしてあげなかったら二時間ドラマの被害者風仕立ての死体になって朝まで放置だったよ、君」

 少年の頭を太腿の上に乗せながら、女はそんな冗談を言う。その表情と声音はどこまでも軽く、明るく、深刻さなどまるで無い。

「いやー、傍から見ても何かやらかしそうな雰囲気バリバリだったからさ……フライング気味に動いて正解だったね。うん、我ながらファインプレー」

「……生きて」

 少年は、掠れた声を発した。

「生きて……るんですか……? 俺は……」

 その問いに、女は即答する。至極当然のことを告げるように。

「うん、生きてる生きてる。めっちゃ生きてる。怪我もしてないよ」

 そんな馬鹿な、と少年は思った。

 自分は死んでいなければ――少なくとも、大怪我をしていなければおかしい。それだけのことをした。

 この女が何をしたにせよ、怪我も負わせずに自分を助けることなど出来ない。そんなことは無理に決まっている。

 しかし、確かに女の言う通り、怪我らしい怪我はどこにもないようだった。体のどこからも痛みを感じない。

「あなたは……?」

 拭いきれない疑問を抱えたまま、少年は女に問いかける。

 自分を助けてくれた女。ふざけた口調の女。髪が長くて、目鼻立ちの整った、自分よりいくらか年上と思しい女。

 こんな女は知らない。何処の誰なのか全く分からない。

「通りすがりの超絶美女。只今絶賛休業中のアーティスト」

 女の返答は、答えになっていないばかりか、微妙に意味不明だった。

 そんな調子で、彼女は妄言を続ける。

「そんでもって、君のストーカー。ギリギリセーフの犯罪者予備軍。ギリギリアウトかもしんないけど」

「は……?」

「あ、ストーカーだから通りすがりって言わないね。うん、そこ訂正。めっちゃ露骨に君の尾行してました。ごめんね」

 訳の分からない発言の連続に、少年の思考はついていけない。

 果てしない大宇宙と同じくらい、目と鼻の先にいる女の頭の中は謎だらけだった。

「ちなみに名前は朝宮遥ね。よろしく」

 少年――筒井清次郎は、この夜、陽気で不可思議な女と出会った。



数年前に書いた小説ですが、PC内に封印したままにしておくのもどうかと思ったので投稿しました。

今読み返すと「何でこんな駄文を書いてたんだろう……」と思うくらい序盤は文章がひどいです。

中盤以降になれば(少なくとも文章だけは)多少ましになると思いますので、寛容な心で読んでいただけたら幸いです。

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