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古口宗の意味怖モドキ

私の戻らない青春

作者: 古口 宗

いつものです。

そろそろお気づきかも知れませんが、名前は皐月、水無月、文月と月の名前からとっています。ただし8月があるとは言ってません。確約出来ないからです。

「あ、暑い...。」


 今年の夏はきっと()()()()なのだろう。梅雨の到来を待っていたら夏が来たな、と言った具合に。

 芙美子という名前だからか、今年の蓮の花も大変だな、等と考えてしまう。


「行ってきまーす。...あり?聞こえなかったかな。ま、いっか。」


 家を出た私は、すぐに学校へ向かう。今日は寝坊気味だったから、少し危ないのだ。原因はケータイが鞄に入ってたせい。昨日枕元に置き忘れたのかな?うっかりしてた。

 とまあ、こんな暑い日に朝からマラソンなんてさせられたから、機嫌は最悪だし汗はびっしょりだし、女子高生の姿としてどうなのだろう。


「芙美ちゃん。おはよう。」

「あっ、蓮菜!おはよっ!」


 蓮菜は小さい頃からの友達だ。しっかりしてて、頭も良くて、優しい娘だ。まぁ、私だって運動とか背丈なら負けていないけど。


「今日は蒸し暑いねぇ~。」

「そうだね。明日には雨が降るのかも。」

「おっ?とうとう梅雨かなぁ。」

「流石に終わったんじゃないかな...。」


 蓮菜が苦笑いを浮かべながら、また後でね、と告げて教室のドアをくぐった。隣のクラスの入った私は、机に向けて歩き、足を止めた。


「えっ...。何で、なの?」


 私の机の上には、菊の花が生けられており、クラス中、皆が私を見ていない。これはおかしい。いつもなら、「はいっ!遅刻ギリギリー」、なんて囃される所なのに。


「ね、ねぇ。これ何?ちょーっと趣味悪くないかなーなんて...。」


 隣の席に座る生徒も、その質問には答えてくれない。前の席に座る生徒も、肩を叩いても見向きもしない。

 私が奮闘しているうちに、教室には先生が入ってきた。やがて出欠を取り始めた先生さえ、私の名前を呼んでくれる事は無かった...。




「えっ?集団無視?」

「...かもしれない。でも理由が分かんないんだよぉ~。」


 昼休み。いつものように屋上の一角に陣どり昼食を取る私は、蓮菜の横で愚痴っていた。まさか先生さえグルとは。確実に私が何かやらかしたに違いない。割と多かったしなぁ、クラス中から怒られるくらいの事やっちゃうの。


「でも、今回は本当に理由が分からないんだ?」

「そうなんだよー、心当たりの欠片も無いの。集めた給食費出し忘れて給食が無かったり、教室のドア外して出られなくなった訳でも無いのに。」

「今考えると、芙美ちゃんって結構ドタバタしてるね...。」

「うぐっ、何も言い返せない...。」


 蓮菜の言葉に若干傷付いたけど、教室に居るよりは良かった。あれは結構心に来たなぁ。


「あっ、芙美ちゃん。そろそろ五時限目始まるよ?」

「えっ?もう、そんな時間か。この前のテストヤバかったんだよね~。」

「アハハ、今度教えてあげるよ。」

「ありがと蓮菜ぁ~。愛してる!」

「はいはい、すぐに戻るよ~。」


 蓮菜に促されて教室に戻るけど、誰も見向きもしない。先生が入って来て扉を閉めるまで私、立ってたんだけど...。

 一番悲しいのは、托也君までこのイジメに参加してることだ。好きな人に無視されるのは、まるで存在まで否定されている様な悲しさがある。


「それじゃあ、これを分かる人...って聞いても答えてくれないよな。そんじゃ...托也、これ答えられるか?」

「俺ですか?えっと...36N・mです。」

「ほい正解。式は27ページの式13番な。」


 いつものように授業が進むにつれて、段々と私を無視しているなんて事を忘れていく。けど、私の机に置いてある菊の花が、凄い存在感で無視できない。何でか退かす気にもなれないしなぁ。

 チャイムが鳴って先生が退出した後、更に六時限目も終えて、皆が部活に出ていく。托也君はサッカー部のエースで、いつも遅くまで練習してるみたい。教室から見下ろしてから帰るのが、帰宅部の私の日課だった。今日はそんな気分になれないけど。


「あっ、居た居た。芙美ちゃん、一緒に帰ろうよ。」

「は、蓮菜ぁ。」

「うわ、泣いてるの?大丈夫、芙美ちゃん。」


 誰もなくて反応してくれないから、蓮菜の言葉が心に染みる。もう蓮菜の家に泊まりたい位だ。


「ん~、そだ。今日は家でお泊まりしない?私、一人暮らし慣れなくて寂しいからさ、芙美ちゃんと夜も話したいなーって。」

「えっ、蓮菜エスパー!?私も蓮菜と居たいよー!」

「よしよし、私は絶対に芙美ちゃんの味方だからね。」


 その晩、私は蓮菜と二人でいっぱいお喋りをして過ごした。いつの間にか眠くなって、結構早く寝ちゃったけど...。




 次の日、朝早く目が覚めた私は蓮菜と一緒に早めに学校に行った。大分精神的に回復してた私は受かれていたのだろう。托也君の後ろ姿を見て、一目散に駆け寄った。そして、私は、立ち尽くした。

 彼が私の机に花を置いた張本人だったから。

 駆け出した私は学校なんて行ってやるかと強く誓った。




 夕方になって、辺りは既にほの暗い。家に帰っても、誰も扉を開けてくれない。鍵も落としてしまったみたいだ。


「...芙美ちゃん。」

「...蓮菜。どうしたの?私を笑いに来た?」

「そんな事しないよ。」

「私は、騙されてたんだよ。皆、私がどんなに謝っても、どんなに頼んでも怒ってもくれなかった。今は家にも入れないんだよ。私なんて、どこにも居場所は無いんだよ...。」

「大丈夫だよ、芙美ちゃん。私のお家に行こ?勉強は私が教えてあげる。私だけは芙美ちゃんの味方だから。」






「おっ?托坊、今日も花なんざ買ってんのか。彼女か?」

「あっ、どうも。て言うか違いますよ。彼女...だったら良かったんですけど。」

「フラれたのか?だからって菊の花はちょっと酷くねぇか?」

「酷くは無いと思いますよ。普通の文化です。」

「あぁ、そういう...。まっ、強く生きろよ。」


 今までは蓮の花だったから何で変えたのか不思議だったけど。気の毒に。

 俺は3日前の失踪事件なんてのを思い出しながら、自宅のボロアパートに帰っていった。

ネタバレ



















菊の花って、弔いの意味があるんです。イジメとかで遠回しに死ねって意味で使われるなんて事もありますけど、托也君は良い子なんです。

また、蓮の花って仏様の足場として有名ですよね。死者に近い立ち位置なわけです。

つまり、芙美子さんは死んでいて、蓮菜さんだけが死人を見ることが出来たんですね。死んでしまった芙美子さんですが、蓮菜さんと別れることなく友達で居続けられらといいですね。

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