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丘の上の洋館に住む魔術師の少女二人へ、監視官の青年が派遣されました。  作者: 天塚海人
間章Ⅱ その弟子、魔法少女
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間章二・三節 弟子来たる

 模擬戦当日。


 集合場所である神崎邸には宵波陸奥と宵波伊予の両攻城官候補生の姿は無かった。


 監督が涼と知り、双子の兄妹は他の候補生を買収して別の監督の元へと向かったらしい。


 双子の替え玉工作を涼は前日には察知していたらしく、うきうき顔で歓迎の料理を作っていたところに仲間からその連絡が入り、分かり易く落ち込んで部屋に引きこもってしまった。


 既にテーブルは普段の数倍手の込んだ料理の数々で埋め尽くされている。


 更に居間の端にはプレゼントの手製のコートやお土産湯の菓子折りまで用意されている。


 照も雀も口にこそ出さないが、正直キモイ。


 兄弟愛にしても行き過ぎだ


 ただプレゼントはともかくとして、料理は無駄にはならなかった。


 というのも──


「いやー、師匠にこんな歓迎して貰えるなんて思ってもみなかったわ。うん、美味い!」


 双子の替え玉として別の候補生がやって来たからだ。


 一人であったが、ガツガツと料理を掻っ込むその候補生の少女は、別の意味で照と雀にインパクトを与えた。


「師匠? という事はアンタ──」

「弟子だよ。とってもアタシが一方的に先輩を師匠って仰いでるだけだけどね」


 雀の斜向かいに座る攻城官候補生はサディ・クラウンと名乗った。


 名前の通り外国人だ。


 ややくすんだ長い金髪をポニーテールで纏め、首に真赤なスカーフを巻いている。春は近いがまだ

まだ寒い日が続くというのに、タンクトップとホットパンツに栗色のジャケットを着こんだだけという軽装。言葉使い共々、彼女のエネルギッシュな性格を表す様だ。


 顔と首元以外殆ど肌を露出しない師匠(すず)とは正反対。


 歳は照と同じ十五歳だという。


 イギリス出身であれど日本人の照より身長も一回り高く、160cmの雀よりも更に少し背が高い。


 照たち素人目から見てもその肉体は鍛えられ、引き絞られている。皮下脂肪の向うに筋肉が透けて見えるようだ。


 ジャケットの裏には拳銃らしきものもチラチラ見えており、屋敷に招かれた時もさり気なく遮蔽物や逃走経路をチェックしていた。


 見習いとはいえやはりサディもアストレアの構成員ということだ。


「にしても写真通り神崎さんも雨取さんも本当に美人だな。これで魔術師の名家っていうんだから、同じ女術師とて嫉妬しそうだ」

「雀でいいわよ。なんかアンタにさん付けされるのはむず痒い感じ」

「じゃ、アタシの事もサディで」


 お互い自身と似通った波長を感じ取ったのか、サディと雀は出会ってから早くも打ち解け始めていた。


 対して照といえば一言も発する事もなく定位置のソファで読書中である。


「にしても弟子、ねぇ。パッと見まったく戦闘スタイルが違うように思うけど、もっと良い人いるんじゃない? 涼はこの一年は五輪(こっち)で任務中だし」

「その指摘はもっともなんだけどな。監視官ってのはアストレアでも最高位の称号なんだ。ベテランの攻城官でも下っ端の五等監視官に十年以上かけても届かない事もザラ。にも関わらず師匠はたった三年足らずで監視官を拝命した異例中の異例。教えを賜りたい奴はアタシだけじゃない」

「へえ、やっぱりアイツ結構凄いのね」

「そりゃもう。弟子入りは断られ続けてるけど、何だかんだで面倒見もいいし。料理の味付けからも存分にそれが伺えるな」


 ニヤリと悪戯っぽく笑ったサディが口に運んだのはタルタルソースがたっぷりかかったチキン南蛮だ。ただし雀の好みに涼が寄せた一品だ。


 雀はあまり揚げ物が得意ではないため、涼は鶏肉を揚げずに時間をかけてカリカリに焼き上げており、更に皮の部分を少し照り焼きにしている。酢の酸味も苦手である雀に合わせ、タルタルソースは市販のマヨネーズを使わず、酸味を抑えた自家製のものを使用。


 他の料理も大なり小なり雀と照の舌に合わせたものばかり。


 遠回しにしっかりと監視されている事を指摘され、雀は何だか微妙に癪である。


 模擬戦をするにあたり雀はそれとなくサディの戦闘スタイルに探りを入れてみたのだが、結果は第一印象が補強されたに過ぎず。逆に揶揄われてしまった。


 候補生といえど、やはり手練手管にはアストレアに一家言あるということか。


 やられっぱなしは雀の趣味ではない。


 触れないでおこうと思っていたが、雀はサディが此処にいる理由を突く。


「で、アンタはその尊敬する師匠を欺く事に加担したと」


 ギクリとサディの肩が跳ね、それまで勢いよく動いていた食事の手が止まる。


「……やっぱり師匠は怒ってた?」


 恐る恐る確認してくるサディに雀は何も言わずにただ笑って応じた。


 途端、サディの顔が真っ青になる。


 実際には涼は落ち込んでいるだけで、昨日から部屋に籠りっぱなしであり、雀たちも今日は顔を合わせていない。


 勝手にサディが勘違いしているだけであり、無論雀がそう誘導したのである。


 質の悪いことをすると傍観する照は呆れていた。


「んん……でもアタシも陸奥と伊予に脅迫紛いな真似されてこうなったっていうか、そもそもの原因は師匠にあるというか……」

「なに? アイツ兄妹と仲悪いわけ?」

「まあ、そんなところなんだけど……」


 一応雀も照も今回の模擬戦に関しては関係者だ。こうなった事情を知る権利がある。


 しかしこうなった事態の原因を語るべきかサディは頭を悩ませた。


 何しろ身内の恥である。涼が義弟と義妹と上手くいっていないのはサディが二人の代わりに現れた事から容易に想像出来よう。


 罰則上等の違反を犯してまで涼を避ける哀しき過去。


 涼の名誉を守るためどう言い訳しようかサディは難しい顔で逡巡するも──


「まあ、いっか」


 次の瞬間、サディはあっさりと師匠を見限った。良くも悪くもあれこれと悩まない思いっきりのよい性格なのがサディという人物だ。


 付け加えるなら此度の事態は彼女も被害者。涼には悪いと思うも、少しぐらいの悪戯ぐらい許容されるだろう。


「ぶっちゃけた話、陸奥も伊予も師匠の事は苦手……というか嫌いなんだよな。まああくまでアタシから見た限りだけど」

「容赦ないわね」

「辛口なのは認めるけど、誰が見ても同じ結論になると思うぜ。あ、あとお父さんの事も大っ嫌いだな。まあアタシ達くらいの年齢じゃ珍しくもないだろうけど」


 宵波家現当主、宵波直嗣がこの場にいれば血を吐いて苦しみ抜くであろう発言だ。


 話を誘導しておきながら雀は何だかいたたまれない気分である。


「ていうのも去年の時点で陸奥も伊予も攻城官への昇格は堅いだろうって言われてた。あの二人の能力は並みの攻城官を大きく凌いでるし、何度も正規の任務に組み込まれたりもしてる」


 肉体的、精神的にもまだまだ発展途上ではあるも、その実力に疑いの余地はない。


 実際、去年の査定でもあとは模擬戦をクリアすれば、それで晴れて攻城官の仲間入りであった。


 しかし合格とはならなかった。


「読めたわ。そこに涼が関わってくるのね」

「そう。去年は受験人数が多くて、模擬戦の相手が不足したらしくてな。で、監視官に上がりたての師匠に白羽の矢がたった」


 二人の会話を聞いていた照は何だか嫌な予感を覚えた。


 つい最近その話の結末を何処かで聞いた気がする。


「察しの通り陸奥と伊予の相手は師匠になって、結果として二人は不合格を頂戴したのさ」

「なるほどね。まあ気持ちは分からなくはないけど、それで逃げるような真似をするようじゃ実力はあってもその先は厳しんじゃない?」


 言葉は選んだものの、雀の言い分は『軟弱』の二文字に集約される。


 殺し合いなど日常茶飯事なのが術師の世界。一度の敗北、それも模擬戦での敗着を理由にして逃げ出すようでは論外。


 それはサディとて意見を同じにしている。


 ただこの話、根が深いのは此処からである。


 模擬戦は限りなく実戦に近い形式が求められる。ならばスポーツの試合のような《よーい始め》の合図など有り得ない。


 潰す相手が明確であるならば、先手を制したものが圧倒的に優位に立つの自明の理。


 涼は照に語っていた。


 自分ならどう戦うかを。


 即ち──


「新幹線で移動中に奇襲喰らって二人は瞬殺。そのまま最寄り駅で『不合格』と叩き返されれば……まあ嫌うなって方が難しいよな」


 やはりかと、照は顔を覆いたくなった。


 仕事に私情を持ち込まないのは美点かも知れないが、まさか家族にまで容赦がないとは。いや、或いはそれも家族愛なのだろうか。


 涼は奇襲という手段こそ取ったものの、実際の犯罪であればトレインジャックに該当する。


 その為にまず邪魔となりそうな陸奥たちを潰すのは実に合理的な判断。


 アストレアであれば例え候補生であっても、そういった事態への対処能力も求められるのだろう。

 命のやり取りに未熟も熟練も関係ない。


 照の予想が正しければ涼は勝ち筋は残していた筈だ。そうでなくてはただの蹂躙になってしまい、実際にそれはもう完膚なきまでに叩きのめしたのだろう。


 自ら入れた兄妹の罅で落ち込んでいるとなれば、滑稽もいいところであるが。


「よくもまあ……これだけ浮かれられたものね」


 テーブルを埋め尽くす料理を一瞥し、雀は呆れを露わにする。


 予定通り陸奥と伊予が来たとしても、それはそれでドン引かれる事は請け合いか。


 あるいは薬物等を警戒し口する事も無いかも知れない。


「そんだけの事がありながらよく替え玉なんて引き受けたわね。師匠の雷が怖くないの?」

「ビビッて縮こまってちゃなんも始まらない。アタシは何でも形から入るようにしてんだ。あるべきビジョンがあれば、後はそれを目指すだけ」


 言いながらサディはポテトサラダを小皿に取り分ける。


 模擬戦の仮想的とはいえ、サディが敵地のど真ん中で能天気に食事を摂っているのは平静を保つ一種のルーティーンだったようだ。


 緊張と弛緩を上手く切り替えるのは熟練の監視官でも難しい。


 食事の重要性は言わずもがなだ。神経の張り詰め過ぎで食事が喉を通ら無くなれば、体調に悪影響が出る。


 お喋りに花を咲かせていたのも緊張緩和の一環か。


「まあでも正直五輪に無事着いた時にはホッとしたわ」

「さっきの話を聞けば、そりゃね」

「我が師匠ながら鬼畜っつーか、卑劣というか、やる事がえげつないのなんの。今も生きた心地(・・・・・・・)がしないね」

「……へえ、やっぱり気付いてたか。まあそうよね」


 サディの最後の言葉を受け、雀の双眸がスゥと鋭くなる。


 造られていた和やかな空気が剥がれていく。


 陸奥と伊予の件から察せるように、模擬戦の査定は戦う前から既に始まっている。


 サディとてそれは承知済。


 それは同時に雀や照がいつ何時攻撃を仕掛けられる状態にあると言うこと。


 敵が来ると分かっているならば、備えない道理は皆無。


 五輪に入った時点でサディは自分が雀たちの監視網に引っ掛かる事は百も承知だった。


「随分あっさり屋敷に来たもんだから最初は拍子抜けしたけど、覚悟の上で踏み込んで来たのか。思いっきりがいいわね」

「よく言うぜ。アタシが此処への最短距離から少しでも外れれば、即仕掛ける満々だったくせによ」

「真昼間から市街地でドンパチは流石にしないわよ」

「嘘つけ。アンタは必要とあらば躊躇いなく撃つタイプだ。ビルの半壊ぐらいなら経験済みだろ」

「失敬ね、そんな過去も予定もないわよ……多分」


 雀の最後の言葉は尻すぼみしていった。


 約半年先にはなるが、雀は雑居ビルところか人獣との戦闘で大橋を通行不可にし、廃工場一棟を半壊させている。サディの見立ては残念ながら現実となる。


 ほんの少し間サディは疑わし気な視線を向けていたが、余計な事だと首を振って頭から払う。


「ところでおっぱじめる前に一つ確認していいか?」

「なに?」

「どうしてアタシがターゲットだって分かったんだ?」


 元々陸奥たちが五輪に来る予定であった以上、サディの来訪は予定がいであったはず。


 覚悟の上ではあったが、感知結界対策も最低限講じていたというのに予想以上に早く補足されてしまったのだ。


「ああ。それはだって──」


 雀は特にネタ晴らしを渋ることなく、サディの首に巻かれたスカーフを指差す。


師匠(すず)へのリスペクトがあからさまなのよ、その派手な赤は」

「あ」


 そう言われサディは摘んだスカーフに視線を落とし、間抜けな声を上げた。


 涼が髪を結う赤いリボンと同じく、彼女のスカーフもまた目が覚めるような鮮烈な赤。


 特にこの一年は雀と照にとって見慣れた赤であり、最も意識を引かれた赤。


 サディの容姿や服装も相まって、駅前の人混みの中であろうと嫌がおうにも目立つ。


「ちょっと露骨すぎたか。何か急に恥ずかしくなってきたぞ……戦闘でも的になりそうだし、捨てるか」


 言うな否や、サディはスカーフを解いて無造作に放り投げた。


 あろうことか料理が並ぶテーブルの上へと。


 考えより行動が先に出る性格なのかも知れないが、褒められたことではない。


「ちょっと! 恥ずかしいからって適当に捨てじゃ──」


 スカーフを掴み取ろうと伸ばされた雀の手が、途中で不自然に止まる。


「しまっ──」


 スカーフの内側に刻まれていた術式を雀が認識した時には、既に彼女は術中であった。


 雀が見たのは五色の糸で刺繍された縄。


 これ即ち、不動明王が持つ羂索(けんじゃく)による悪魔縛りの術法。


 不動金縛りだ。


 ただしサディが用いたのは視覚をトリガーにした簡易式。


 即効性は見込めるものの、術式強度が低く、見習い術師の素の抵抗力であっても数秒で瓦解する儚い効力しか持ち合わせない。


 たかが数秒と侮るなかれ。


 サディにとっては先手を制するには十分過ぎる。


「縛れッ!」


 サディはスカーフに込めていた霊力を解放。


 速攻で組み上げた術式によってスカーフが無数に枝分かれし、硬直する雀を縛り上げた。


 テーブルに倒れる雀から視線を切り、サディは椅子を蹴飛ばし走り出す。


 狙いは無論、照である。


 査定は既に始まっているのだ。それは未だ涼がサディを咎めに来ない事から明らか。


 同時に模擬戦に明確な開戦規定もない。此れもまた涼が陸奥たちを奇襲した事例から読み取れるだろう。


 そして古今東西問わず先手を制した者が戦闘の主導権を握るものだ。


「覚悟!」


 サディがカランビットナイフを抜き放ち、照との五メートルと無い距離を瞬きの間に詰める。


 女豹のように飛び掛かったサディにあっさりと照はソファに押し倒される。


 ソファの上で大きく跳ねる照の首元でサディのナイフが怜悧な光を放っている。照の両手は頭上でサディに片手でがっちりとホールドされ、鳩尾には軽くであるが膝が入っている。


「乱暴ね」

「アタシら攻城官候補生は皆荒っぽいからな。お姫様の扱いは期待しない方がいい──チェックだぜ、雨取さん」


 体格差一つとっても、今の状態の照がサディを押しのける事は不可能だ。


 身動きを封じられたばかりか、頸動脈と鳩尾の二つの急所を抑えられている。


 勝利を確信したサディの口元に笑みが浮かぶ。


 確かにサディの動きは悪くなかった。


 雀の意表を突いたスカーフの視線誘導からの不動金縛りは見事なものであった。


 タイミング、霊力伝達、術式軌道速度、いずれもほぼ完璧。


 数的劣勢と敵陣のど真ん中という状況を覆すのであれば、速攻で戦場の主導権を奪う事は理に適っている。


 ただ致命的な誤認が一点。


 照たちに捕捉された時点で、サディに先手は有り得ないのだ。


「!?」


 唐突にサディの視界にノイズが奔った。


 そこに比喩は無い。


 極彩色の射線がサディの視界を乱雑に掻き乱し、気付けば照は眼の前から消え失せていた。


「ちっ! やっぱりそう甘くないか」


 サディが面を上げた時には、居間は異界と化していた。


 絨毯がひとりでにめくれ上がり蛇のように蜷局を巻く。ソファが四足獣のように歩き出し、シャンデリアが回転し明滅を繰り返し、馬と馬車の影が部屋を回っている。見ればテーブルの料理の数々はケーキやお菓子にすり替わっており、銀のナイフとフォークが輪を成して踊り、ティーポットから飴色の紅茶がテーブルへとバシャバシャ零されている。


「Shit! 鏡魔術による鏡面空間の投射結界か!」

「正解。ようこそ、鏡の世界へ。今の貴女はさながら鏡の国へ迷い込んだアリスそのもの」


 声の出所は雀だ。


 サディは油断なくナイフを構えるも、雀は拘束を意に介さずのそりと身を起こした。

 いや。雀ではない。


 継ぎ接ぎのフェルト生地で造られた雀の人形が照の声で話しかけていた。


 歯だけは何故かリアリティの高い雀人形がクッキーを乱暴に噛み砕きながら、照はサディにこの模擬戦での勝利条件を告げた。


「鬼ごっこをしましょう。(わたし)を捕まえるか、この空間から出る事が出来れば貴女の勝ち」

「そいつはシンプルでいいな。で、負けたらどうなる?」

「こうなるわ」


 雀人形が風船のように膨らみ、紙吹雪を撒いて破裂した。


 入れ替わるようにして砂時計が現れた。タイムリミット付というわけだ。


 砂の落ちる速度と残量からサディが導き出した時間は、約三百秒。


 五分程度でこの異空間から照を見つけ出すか、脱出しろという。


 タイマーモードにしたスマートウォッチに残り時間を設定し、サディは冷や汗を拭う。


「鬼畜過ぎんぜ、師匠」


 ぼやくサディ目掛けて、テーブルからナイフとフォークが一斉に射出された。


 サディは余裕でこれを回避するも、間髪入れずに轟音を立てて天井が落ちて来た。


 あわや圧死直前のところでサディは扉を突き破り、廊下へと飛び出す。


 ほっとするのも束の間。


 当然のことながら異界化しているのは居間だけに非ず。


 古風ながら趣のあった廊下はそのままであるが、合わせ鏡のように延々と同じ景色が続いている。


 さらに扉やカーペットの隙間からトランプが這い出し、短い手足が四角から生える。


 所謂トランプ兵。前後から全く同じタイミングで現れたトランプ兵は、それぞれのマークを刃にした槍を取り出し、その切先をサディへと向ける。


 挟撃だ。


「鬼畜過ぎんだろ!」


 咄嗟に火の術式を編み上げたサディはしかし、壁紙の隙間から遅れて現れたトランプ兵に摑まった。


「しまっ……」


 意趣返しとばかりに身動きを封じられたサディへとトランプ兵の群れが殺到する。


 査定は始まったばかりだ。


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