間章二・一節 憧れ無くして、成長なし
とある攻城官候補生の手記より──
『憧れ無くして、成長はなし』
アタシの座右の銘で、手前勝手に師匠を仰ぐ人がくれた言葉だ。
師匠は十代でありながら最速で三等監視官に上り詰めた人だ。
政府公認執行機関アストレア。警察、自衛隊に次ぐ国内の第三勢力に数えられる組織で、三等以上の監視官は組織の象徴の様な存在だ。
攻城官、諜報官、分析官、研究官……全ての兵科に二等以上の適性を示し、尚且つ比類なき戦闘技術ないし能力を有した者のみに与えられる役職、それが監視官だ。
アストレアが持つ権利・権限の内、実に三割近くが与えられるとされる三等以上の監視官は、いわばアストレアの化身。
アタシ達みたいなひよっこ候補生から見ればアストレア創設者の一族と同じく、天上人といっても過言じゃない。
その監視官へ候補生からたった三年弱で昇格したにも関わらず、師匠を天才と呼ぶ声は驚くほど少ない。
現在でも魔術師二人を単独で監視するという異例の任務に従事しているというのに。
ある日、とある《航空機ハイジャック事件》をたまたま耳にして、師匠を天才の二文字で片付けない理由を知った。
当時師匠は監視官候補生でも何でもなく、今のアタシと歳も変わらない唯の中学生だったらしい。
師匠は不運にもハイジャック事件に巻き込まれてしまったらしい。
その事件は将来を有望視されていた、それこそ天才と呼び声高い監視官候補生の犠牲によって終結した。
未だ全容が解明されていないその事件を契機に、師匠は死に物狂いで己を鍛え上げたのだ。
そうして亡くなった候補生の軌跡をなぞって、飛び越えるように監視官を拝命した。
アタシはそれを愚昧にもカッコイイと憧れてしまった。
志半ばで逝ってしまった人のIFを継ぐなんでアツいドラマみたいな話だと。
だけど、これは決して美談なんかじゃなかった。
正義という言葉に陶酔して、その裏に隠れた苦悩と膨大な傷を知ろうともしなかった。
アタシが、攻城官候補生サディ・クラウンがその事を思い知ったのは、突然訪れた初陣での事。
漫画や映画じゃない本物の悪と対峙して、自分の憧れが如何に見当違いであったか思い知った。
忘れもしない。
あれは世間がバレンタインで賑わい始めていた時期だった。




