二章・十一節 合理に生き、温情を踏み台に
【前節のあらすじ】
任務に失敗し、孤立無援となった八坂攻城官は逃走虚しく捕獲対象であった少女から一方的に嬲られる。
基礎技術一つをとっても力量差は歴然であり、ただ死を待つのみとなった八坂を救ったのは、神崎雀の監視官である幸白誠明だった。
瀕死の重傷を負った八坂を治療する為、誠明はとある人物に連絡を試みた。
場所は神崎邸の居間。
ひとり朝食の完成を待つ雀はソファーに身を預けながら眠気覚ましのコーヒーをさして美味そうにもなく飲んでいた。
眼前のテーブルにはキッチンから持ち込んだホップアップトースターが香ばしい匂いを立ち上がらせている。
「……」
テーブルにはバケットに納められた食パンの他、数種類のジャムやマーガリンが並べられている。要は今日の朝食はこれだけである。
雀は決して料理が出来ないわけではないが、味へのハードルはかなり低い。
高校入学と同時に実家から離れ、土地の管理者としてこの屋敷で生活するようになって暫くは自炊が中心だった。
生徒会を務めるだけあって自己管理はしっかりと行き届いている雀だが、学業に加え魔術研究、更には土地の管理、侵入者への対応などで時間を圧迫されたことで、真っ先に省かれたのが食事のそれだったのは必然だろう。
照との共同生活が始まってからは当番制が立案されたものの、敵対しない限りは極力不干渉であることが術師の暗黙の了解。居間で顔を合わせる事も少なく、不健康とはいかないが体調を保つためだけの味気ない食事を各々部屋で取るだけの毎日が続いていた。
そんな神崎邸の食事事情が変わったのは涼が台所に立つようになってからだ。
どういうわけか中華だけは頑なに作ろうとしなかったが、涼の作る料理は家庭的ながらどれも雀たちの胃袋を存分に満たした。照に至ってはそれまで日本人形の様だった顔色に紅が差すようになり「人形が息づき始めた」などど言われる始末。
最初こそ女としての矜持を刺激され荒を探していた雀も、ある出来事を機に台所を涼に一任するようになった。
こうなっては雀たちの自堕落は加速度的に磨きが掛かっていったのは自明の理といえよう。否、涼がそうしたとも言えるか。
平日は朝晩、土曜は三食に付きティータイム付属(日曜日は監視自体を休みにしていた)に加え、「あれが食べたい」とリクエストを事前に出しておけば栄養バランスを考慮した献立に仕上げてくる徹底した仕事である。
不味いと評判の学食に雀の依頼で涼がアレンジを加えたことをキッカケに、現在にまで続く飲食店へメニューの味を掛けた殴り込みに涼を連れ回すという暴挙にまで発展したが、それはまた別の話。
かくして台所革命が起きた神崎邸だったが、肝心の涼がいなくては時代の遡行は必然。
「この分じゃ涼がいなくなった後の反動は想像以上になりそうね」
自虐混じりの自己分析がはじき出した結論に頭痛すら覚えそうだった。
去年の暮あたりから涼の部屋に上がり込むようになってから危機感は抱いていたが、いよいよ持って無視できない。
この質素な朝食が良い証拠である。
「はあ……大人しく料理の腕を磨くしかないか」
自らの怠慢を戒める気持ちで、せめて野菜とチーズを挟んだ即席のサンドイッチにしようと台所へ向かうため廊下を出た時だった。
疲れ果てた中年男性の声と見知った少年の声が届いた。
台所へ向かう踵を返し声の方向、エントランスを挟んだ客室エリアの西館一階へ向かうと声の人物、幸白誠明が天文台の魔術師・国枝忠隆に喰って掛かっているところだった。
「早く答えろ! 八坂さんはどうなったんだ。俺が入ってもいいのか」
「感情に任せて捲し立てんな喧しい。徹夜明けの頭に響いて仕方ねえ」
よれよれの白衣を血で汚した国枝は誠明の剣幕に顔を顰める。彼の言葉を裏付ける様にその顔には疲労が色濃く浮き出ており、艶を欠いた毛髪は針金の様になっている。
昨晩、日付が変わる頃になって誠明が屋敷に担ぎ込んできた八坂慎一郎攻城官の緊急治療に伴って、国枝は涼の指示で呼び出されたのだ。
客室の一室を緊急治療儀礼室に仕立て上げ、夜通し行われていたであろう治療には誠明は無論の事、家主の雀も立ち入りは赦されなかった。
一晩中治療室前で待っていたのだろう誠明の気持ちは、雀も分からないでもない。
何しろ八坂の容態は素人目にも目に余るほどだった。欠損している左腕などまだマシと思えたほどだ。
見たことなど勿論ないが、硫酸の浴槽に沈められたのなら、ああいった溶けた身体が出来上がるのだろうか。
我ながら悍ましい想像に嫌気が差し、苛立ち紛れに雀も国枝へ問いかける。
「終わったの、国枝博士?」
呼び掛けられようやく雀に気付いた国枝は、うっと微かに気圧される。
国枝は神崎家の膝元にありながらその存在を明らかにせず、今まで地下に潜っていた魔術師だ。こういった隠匿術師の多くが土地の恩恵を掠め取る盗賊めいた輩が殆どであり、発見次第懲罰もしくは抹殺される運命にあるのが常だ。
国枝の場合天文台を霊地から独立させていたため照との協議の末、幾らかの上納金と引き換えに不問に処したのだ。
こうして涼の協力要請に従っているのは、雀とは別に先月五輪で猛威を振るった、人に獣の因子を組み込まれた合成魔獣・人獣の一体の存在を隠していた罪で、アストレアから観察処分を受けていることが理由している。
どちらの事情にせよ親子ほど歳の離れた雀たちに首輪を付けられて、平然としていられるわけも無かった。
それでもこの場では疲労感が勝ったのだろう。緊張は直ぐに弛緩し頭痛を堪える様に雀の問いに答えてきた。
「詳しくは宵波に聞いてくれ。俺は儀礼術式に専念してただけだからな。あとできれば俺に仮眠できる場所と、アイツに大量のタオルを用意してやってくれ」
「その前にシャワーを浴びて頂戴。タオルと着替えは先に幸白君に用意させたから。仮眠はそこの階段を上がって突き当りの部屋を開けておいたから、そこを使って頂戴」
「了解……」
「おいまて、話を勝手に纏めるな」
ノロノロと風呂場へ向かう国枝に尚食い下がる誠明を無視して、雀は言われた通りバスタオルを用意しに一度その場を離れる。
常備しているミネラルウオーターと一緒にバスタオルを持って取って返すと、誠明はまだ治療室の前にいた。
どういった事情か雀は知らないが誠明は涼に対し苦手意識を持っているらしく、彼を前にすると抜き身刀のような姿勢に切味がなくなる。治療室に踏み込めてないのがその良い証拠だ。
「涼、入るわよ」
「………………ああ」
そんな誠明をキッパリ無視して雀が扉をノックすると、小さく返答が来た。
「ちょっと、大丈夫!?」
部屋に入った瞬間視界に入ったのは、椅子にぐったりと腰掛ける血塗れの涼の姿だった。
尋常な血の量ではない。
過度に露出を嫌った服は無事な部分を探すのが困難なほど血に濡れ、長い髪や衣服の裾は血が滴っている。手にはべっとりと赤とクリーム色が混じった脂肪が付着しており、足元には同じようにして汚れた手袋が散乱していた。
だがそれらは涼本人の血によるものではない。
血糊の大部分から霊気が舞っていることから、式神技術を応用した人工血液だろう。
それでもただならぬ有様だ。
涼本人もそうだが部屋中が赤く染まり、噎せ返るほどの血臭が立ち込めている。
よほど疲労しているのか駆け寄る雀の呼び掛けにも涼は相槌しか返してこない。
持ってきた水を手渡すと緩慢な動作で一口二口と飲み下していくと、僅かばかりだが生気が戻ってきた。
「八坂さん!?」
遅れて入って来た誠明がベッドで横たわる仲間へ駆け寄る。
そこで初めて雀はベッドの存在を思い出した。
掛け布団を取り払われたパイプベッドには全身を包帯で覆われた人型があった。
人工呼吸器に繋がれ荒い息で絶えずマスクを白く曇らせるそれが八坂なのだろう。屋敷に運ばれた段階では肘先からの欠損だけだった左腕は、肩口にまで至り梵字が綴られた拘束具のようなものが宛がわれている。
治療中に容態が悪化したのだろう。四肢欠損は右足にも至り、落ち窪んだ眼窩が八坂に二度と光が与えられないことを物語っていた。
部屋中が血塗れで気付きにくいが、ベッドを中心に刻まれた術式が八坂の拘束具に接続されている。恐らくはあれは延命装置であり生命時装置の役割も兼ねているのだろうと、雀は推察した。
「おい宵波。治療は上手くいったのか、先輩は助かったのか!?」
「……視て分からんのか。辛うじて一命を取りとめただけだ。正直、生きてる方が不自然な容体だ」
「どういうことだッ。お前は式神技術の応用で肉体の補完が出来るのだろう。それだけの技術があって何故助けられない! それとも我々が協会派だから見殺しにする気かッ」
誠明の言い分は間違ってはいない。涼の技術をもってすれば雀を治療したように重症であろうとも即生活に復帰させることも可能だ。
──しかしそれにも限度がある。
「喚くなッ。肉体補完といっても外科手術と手段が違うだけで本質は何ら変わりはしない。患者自身が弱っていれば幾ら肉体を補おうとただの負荷にしかならない。こいつの身体はまるで出来そこないのプリンみたいな有様だった。身体中の細胞が得体の知れない魔力に侵されてグズグズに崩れて縫合なんて出来やしない。輸血した傍から自らの血圧であちこちの血管が裂けて、絶えず失血状態だ。そのせいで無事だった組織まで崩壊が進行して右足は諦めるしかなかった。術式で無理矢理霊基に殻を宛がわなければ、いまごろお前が踏んでいる床はコイツだったに違いない。視ろ! 彼を生かしてしまった俺達の咎がどれほどのものか」
「……ッ」
誠明の髪を力任せに掴み取り、涼は生死の境を彷徨う同胞に誠明を突き付ける。
涼の言葉に虚偽や誇張の類が一切含まれていないことを、術師であるならばその眼が雄弁に語るだろう。
故に眼を逸らす事など許さない。
監視官である涼が気付かないわけがない。
誠明が目視はしても霊視をしようとしない事を。
「や、やめろッ」
手が振り払われるよりも先に、涼の術式の発動が早い。
視覚共有。多くは式神と術者を繋ぐ術式を、強制的に誠明に打ち込む。
視れば、視れば分かるのだ。
どれだけ詳細に容態を語るよりも明瞭に、死が人型を蝕む現実を。
死に体。いいや、もはや生きた死体と称した方が正しいとすら思えるほどだ。
視覚共有の時間は僅か数秒程。
しかして、それで十分。
胃袋を掻き回されたような強烈な嘔吐感に襲われた誠明は、次の瞬間には涼によって壁に叩きつけられ、喉を締め上げられていた。
「がっ………」
「吐くな。そんな資格俺達には無い。あれを望んだのはお前で、応じたのは俺だ」
呼吸ごと吐瀉物を押しとどめられ苦痛に喘ぐ誠明を、涼は淡々と押さえ込む。自身の言葉を裏付ける様にその声音は影から這い出たように凍てついていた。
ともすれば酸欠で死にかねない状況でありながら、眼の前の青年に恐怖したほどだ。
「涼! それ以上は流石にやり過ぎ――」
見かねて止めに入ろうと一歩踏み出した瞬間、それに気づいた。
先程の涼に当てられたのだろう。
無意識に視覚を術師のそれに切り替えていた雀は、八坂と似た症状を涼から視て取った。
「涼。もしかして手が……」
「……夜通し触れてればこうもなる」
誠明を掴む涼の手から流れ出る鮮血は彼自身のもの。
医者が患者の病に掛かる事はざらである様に、八坂の治療に掛かりきりだった涼も両手首まで侵食されていた。正常な霊気の流れは見られず、泥のように澱んだ魔力に両手が侵されている。
誠明の脚が蹴り上げられる。会話で僅かに緩んだ涼の手が膝で弾き上げられ、熟れた果実の様に肉が潰れる。
それを涼は表情一つ変えずに原型を失った我が手を一瞥すると、手袋ごとダメになった手を引き抜き、足元に溜まる他の手袋の池へ捨てた。
べしゃりと、湿った音を立てた手袋はよく見ればどれも僅かに膨らみが見て取れた。
それがどういうことなのか考えないように雀は眼を逸らす。
「がはぁ……はぁ、何故だ」
拘束から抜け出した誠明も見ていたのだろう。喉元を押さえ喘鳴交じりの嗄れ声はどこか怯えるようでもあった。
「だったら何故先輩の命を繋いだんだ。一思いに命を絶ってやるのが慈悲ではないのか。治療分野の素人の俺達とはお前は違うだろう。何故生かした!」
「つくづく甘い奴だ。それともとぼけているのか? お前は良心や道徳に準して俺に救命を乞うたわけではないだろう。監視官というのは聖人の素質に乏しい者が務めるものだ」
それは誠明が人としてごく当たり前に持つ義と尊厳で隠した、アストレアの監視官としての負の側面。
「お前は冷徹に残酷に合理的に、アレから得られる情報を欲し、俺は交渉に応じ治療した。楽にしてやるならば、それを真っ先にやるのはお前の役割だ。なぜ介錯しない、どうして治療の選択肢を取った? それはお前がアレの命よりも、アレが持つ情報を優先したからだろう」
八坂を除けば協会派の術師は全て消滅している。
手段も術式も不明。
相手は一個分隊規模の術師を壊滅させて尚、その実力は未知数。誠明が持ち合わせた情報は僅かに目撃した“影”のみであり、対策は方向性すら定まらない。
故にあの場では少しでも選択肢を増やす必要があった。
唇を噛み締め、道徳と尊厳で自らの選択を誤魔化しながら、幸白誠明は八坂慎一郎の生命を使ったのだ。
まともな神経と覚悟では直視すらできない残忍な選択。
正義の女神の名を背負う彼等とは矛盾したあり方。
心の逃げ道を全て潰され、業深き自身に雁字搦めにあう誠明はとうとう何も言えなくなってしまった。
「ユ、ユキ……シ、ロォ」
誰もが押し黙る血の匂いが圧し掛かる静寂を破ったのは、苦し気な声。
素顔すら包帯で隠れた八坂だった。
ハッと顔を上げた誠明はベッドに駆け寄り、八坂の口元に耳を寄せる。
これには涼も僅かに驚く。誰よりも彼の容態を正確に把握していただけに、もう意識が戻ることは無いだろうと見ていたのだ。
だがそれも長くは続きそうにない。
誠明の名を呼ぶ、ただそれだけでも相当な苦痛が伴ったのだろう。八坂の身体は苦痛に強張り、口元には血が滲む。
やがて命を振り絞る様にして弱々しい言葉が紡がれる。
「言ッタダロ。全部、話ス……ッテ。ダカラコレデ、イ……イ」
これが最後の役目だと、約束の履行を果たすため消えかけの命の火を任務にくべる。
不意に込上げる涙を押し止めることに誠明は必死だった。そんな資格は無い。
これが八坂の遺言に、そして生き様となるだろう。
誠明は一音すら聞き逃すことの無いよう、恩讐の呪詛と共に八坂の最後の言葉をその内に刻み込んでいった。
涼はその様子を途中まで見届けると、短い黙禱を捧げた後、力なく揺れる袖をそのままに静かに部屋を後にした。
もうやれることは無い。
それ以上に彼自身も八坂を蝕む魔力に少なからず脅かされている上、心身共に限界が来つつあった。
後を追ってきた雀がバスタオルを被せてくる。
律儀に洗って返すと伝えてから髪と顔だけを片腕で拭うと、べったりとした血糊がタオルを汚していた。顔や胸辺りは八坂本人の血を一番浴びた場所だ。
「何があったか聞かないの?」
「それは君も同じだろう? 俺は治療の報酬とは別口に情報提供は確約しているから、一度帰ってから改めて聞く」
「そんなフラフラの状態でどう帰るってのよ。ああ、もう言った傍から」
足取りの覚束ない涼は廊下を右へ左へ揺れながら進むも、何もない場所で受け身も取れずに転んでしまう。
言わんこっちゃないと雀の盛大な溜息に涼は何も返せない。
体力も霊力も国枝の比ではない程削がれているはずだ。欠損した手を代替しない所からもそれは明らかだ。
それでも重い身体を引き摺り歩き出す涼に――
「てい」
「!?」
足払いを一つで涼を転ばせた雀は彼の首根っこを引っ掴むと、気遣いを全く感じさせない足取りで浴室へ向かう。
「やめろ。廊下もそうだが君も汚れるぞ」
「屋敷から血塗れの男が出てくればそっちの方が問題でしょ。いま照が着替えを持ってくるから、それまでお風呂に入っておいて。酷い臭いよ。それに土地の管理者として詳らかにしたいことは、何も幸白君だけじゃないから」
「それは分かっているが……ああ、それよりも礼が先だったな。ありがとう神崎。場所を提供してくれて助かった」
「御礼は後でキチンと貰うから気にしないで」
紫涅和泉の失踪が発覚してから雀もまた直ぐに動き出していた。
五輪の結界内であれば時間だけは要するもののほぼ確実に足取りを掴みきる事が可能故、早い段階から照と連絡を取り追跡を開始していた中、昨晩八坂の緊急搬送を受けたのだ。
見返りを見越しての対応だったがそれは理由の半分。もう半分は今回の事件が過去の因縁と絡んでいるのでは、そんな根拠のない勘に頼ったものだ。
わざわざ国枝を避けて女性専用の浴室に涼を運び込んたのは、その勘を確かめる為でもある。
「ねえ涼。今回の件、もしかして去年取りこぼした奴らと関係がある?」
「……さあな。だが似たような印象は確かにある、かも知れない」
扉越しに歯切れの悪い所感が返ってくる。
昨年の事だ。
まだ宵波涼が代理として雀と照の監視任務に従事していた時期、街では経絡系、一般的には丹田と呼ばれる部位と血液が抜き取られる猟奇吸血事件が発生していた。
八坂達を襲った術師と同じ様に、苦労の末に追い詰めた猟奇殺人の犯人は一介の術師が持つには逸脱した力を有していた。
どうにかして猟奇殺人犯の撃滅には成功したものの、雀も照も再起不能の深手を負ったことで犯人の片割れを逃してしまった。
当然捜索は続けていたが、まるで霞に撒かれた様に手掛り一つ得られず一年以上の歳月が過ぎた。
──もし雀の勘が正しいのなら。
「八坂って人に拷問紛いの治療を施した責任は私達にもあるわね」
「……」
自虐も諦観の色はなく、ただそれが必然だというように雀は落ち着きを払っていた。
それがあまりに自然だったためか、咄嗟に否定しようとした涼の言葉は声に出ることなく、瞑目と共に雀の在り方に敬意を抱いた。
僅か一時間後。八坂慎一郎は奥歯に仕込んだ毒物を服用し、自ら命を絶った。




