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四章・十三節 月下美人

 涼が京都へ発ったその晩、雀も動いていた。


 ここ最近不登校の生徒が一人おり、その生徒の自宅に直接赴いていたのだ。


 時刻はとっくに日付を超えた深夜。非常識極まりないが生憎と生徒会副会長としてきたわけではない。そっちの顔は昼間に済ましてきた。


 建売住宅が並ぶ閑静な住宅街。どの家もとっくに寝静まり、街を脅かす殺人鬼を警戒してどこも固く鍵を閉めていることだろう。窓はほとんどカーテンを引かれ、中の様子を窺うことはできない。


 当然ではあるが家は外とは隔絶された空間であり、住民にとっては何処よりも安堵できる場所だろう。多少大げさな表現をしていいなら最小単位の城といったところか。


 インターネットの普及で人と人とを繋ぐ物理的距離が実質的にゼロになった弊害で、ご近所付き合いは昔と比べてか細いものに成りつつある。かといって現代人が隣人に無関心なのかと問われれば、それも違うだろう。


 たとえ交流がなくとも隣家から怒鳴り声や悲鳴が聞こえたり、人の出入りがなくなれば周囲の人間はいずれ異常に気づく。


 ──それも一般的な尺度での話であるが。


「静かね」


 本日二度目の家庭訪問。不気味なほどに静まり返る二階建てのその家を前にし、魔術師の面立ちで雀は昼間と全く同じ感想を呟いた。


 そしてこれも昼間に倣いインターホンのボタンを躊躇いなく連打。ただ就寝しているだけならば今にも窓から怒鳴り声が落ちてきそうなものだが。


「やっぱりダメか」


 無反応。


 念のために再び連打してみたが結果は同じ。


 この家族が旅行に出ているといった情報もなければ、ここ最近の近隣住民からの目撃証言もまた無い。


 悪い予感が的中したようだ。


 家には人払いの結果が張られていた。一般人がここに近づかないようにする暗示に近い術式だ。魔力抵抗のない人間であれば違和感を覚えることも出来ないだろう。


 昼間に訪れた時点で当然雀はこの結界に気付いている。次に浮かび上がる疑問は誰がこの結界を敷いたかであるが、魔力痕からそれは明白。


 結界の主の目的は隔絶よりも隠蔽だ。その為に術式に限らず人里離れた深い森や、山岳のトンネルなどを便宜的に結界と呼称することもある。


 そういった性質上、家屋というのは結界と相性がいい。


 アニメや漫画のように砲撃やミサイルを跳ね返すよう御大層な強度は必要ない。ほんの少し意識を逸らす助けをすればいいだけのこと。


 雀の目の前にある結解はその理想といえよう。学校や職場の外部の人間が異変に気付いてここまで来たとしても素通りするのが関の山。


「ま、私は違うけどね」


 黒髪を靡かせて雀は堂々と門扉を通り抜け、玄関に手をかけた。


 鍵は閉まっていない。玄関はあっさりと開き、滞っていた空気が外へ抜けていく。


 鼻につくのはこの家の匂いとかなりの埃っぽさ。掃除をしていないというより、人の出入りがなく空気の流れが遮断されていたからだろう。


 タタキには靴が何足かある。家の誰かが几帳面な性格なのか、キチンと揃えられ脇に並べてある。しかしその中には五輪高校指定の革靴が見当たらず、下駄箱も同様であった。


 もはや件の生徒だけ出掛けている、などとは考えまい。


「……一階にはいないか」


 一階は玄関から直ぐにキッチンを併設したリビングがあり、和室が隣り合うオーソドックスな間取り。浴室やトイレまで見回っても五分と掛らなかった。


 年代物の振り子時計の規則的な音がやたらと大きく響く。長針は頂点を過ぎて間もないので、探索中に鐘が鳴るというお約束は無しだ。


 灯りは付けずに雀は二階へ──というよりスイッチを押しても全く電気が付かない。玄関回りは生きている様だが、他は全滅していた。


 一度外に出て電気メーターを確認してみたら、メーターがかなり回っていた。人払いの結界は玄関灯に寄生するように展開されたが、そこまで電力を消費する術式でもない。別の所でまた電力を消費しているのだろう。


 では何に?


 考える先に答えは雀を出迎えた。


 二階に踏み込むと右手の部屋から微かに甘い匂いが漂ってきた。あと二部屋あるが雀は眼もくれずに右手の部屋へ。


 ドアに下げられたネームプレートをスマホの明かりで確認すると、雀は奇妙なものを見た。


「右腕……?」


 裏返されたネームプレートに殴り書きされた二文字に最初こそ雀は首を傾げたが、しかし奇妙な共通点に気付く。


 猟奇殺人の三人目までの犠牲者は皆右腕を失っていたという。四人目は左腕との事だったが、同じ『右腕』を指していると見て間違いないだろう。


「確か三件目と四件目の境は……」

「──ちょうどゴールデンウイークが始まる頃だな」


 背後からした声に雀の身体は脳より先に反応していた。


 直立状態から半身を捻る最小限の動きから最速で放たれた足刀蹴り。


「うおっ!? 二度は御免だっ」


 四足を畳んだ倉橋の頭上を雀の蹴りが掠め、何本か毛が散った。


「あ」

「あ、じゃねえっ。危ねえだろうが!」

「暗がりで女の後ろにコッソリ立つ奴こそ危険でしょ。気配まで消しちゃって」

「餓鬼がいけしゃあしゃあと……!」


 監視官として付いてきた倉橋は文句を垂れつつ雀からやや距離を取った。気配まで消すのは少々過剰ではあったが、長年の経験が意図せずそうさせただけで悪意はない。


 ちなみに彼はまだ犬の身体のままだ。涼から借り受けた淑艶の形代は雀が預かっているが、霊体化した状態で倉橋の傍で待機している。


 憑依というのは術式を行使すれば即相手に乗り移れる訳ではない。スマホにアプリをインストールするように、術者の意識を移すための土台作りが憑依の第一段階にある。


 憑依を利用した直接的な他殺が殆ど過去に例が無いのはこのためである。


 現在倉橋は淑艶に対してその作業を急ピッチで実行中なのだが、熟練の憑依師である倉橋でさえ手間取るほどに、淑艶という式神は人間に近しい。


 以上が未だ彼が犬に甘んじている理由である。


 雀は鼻を鳴らして踵を返すと、今度こそドアノブへと手を伸ばした。


「……開かない」

「結界か?」

「違う。物理的にドアが固定されてるみたい」


 ドアノブは溶接されている様にビクともせず、暗くて分かりづらいがドアの隙間も塞がっていた。


 それも雀がちょっと魔力で膂力を強化しても小動もしない強度だ。


 これをやったのは──


「錬金術師ならこの程度は朝飯前だろうな」


 雀が咄嗟に頭から追い出した人物を倉橋が遠回しに口にした。


 無論錬金術師でなくても部屋を密閉する程度は術師ならそう難しくはない。ただ術式で物質の合成や精錬をやってのける錬金術なら格段に手間が省けるのも確か。


「ここは任せな嬢ちゃ……っておい!」


 倉橋の制止は間に合わず。


 ドアに手をあてがった雀は魔力を腕に充填、ノータイムで魔弾をぶっ放した。


 轟音、閃光、そして煤塵。


 ドアは大部分が木端と吹き飛び、壁との接合部を僅かに残すのみ。


「馬鹿野郎、周辺住民の事を考えてねえのか!」

「ちゃんと結界は張り直してるっての。アンタだって今一枚張ってたじゃん」

「そういう問題じゃないッ。街中で何の躊躇いもなく魔術を行使する馬鹿が──うっ!?」


 早口で捲し立てていた倉橋の顔が唐突に歪んだ。雀もまたキツク鼻を抑えて、全身に浴びたその匂いに身を捩らせた。


 ドア越しであっても僅かな隙間から廊下へ漏れていたものと同種の、遥かに高濃度の甘い匂い。鼻腔に触れた瞬間、脳髄が溶け落ちるようだった。


 間もなくして煙が晴れ、その正体が明らかとなる。


「なっ、花!?」


 視界に飛び込んで来たのは、暗闇の中で尚白く映える月下美人の花であった。床から天井まで幾百の月下美人が咲き誇り、甘い香を放っていた。


 考えるまでもなく普通の植物ではなく、何らかの術式の産物であろう。


 天井の中心や壁の一部で一層密になっている見るに、恐らくは電力を貪り食っているのだろう。今もまた一輪の月下美人が芽吹いた。


 自己繁殖する魔導植物。俄かには信じ難い光景であった。


 そしてその中に埋もれる遺体が四つ。


 中年の男女二人が折り重なるように倒れ、中学生ぐらいと思われる少年が窓際で息絶えている。最後の一人は首つり自殺を図った五輪高校の生徒。


 皆、右腕が欠損し、服の上からでも分かるほど腹が陥没していた。


 間違いなく街で起きている猟奇殺人と同一のものであろう。


「……っ」


 喉元から熱いものが競り上がり、雀はトイレに駆け込む間もなくその場で吐いた。


 初めて死体を見たということもあるが、それ以上に月下美人が発する異様な妖気に脳がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたようだった。


 胃の収縮が中々収まらず、何度もえづく。晩御飯を抜いてきたお蔭で溶けた食い物が出る事は無いが、胃酸で口の中が大層酸っぱい。出すももの尽きて漸く吐気も止まった頃には、全身から噴き出した汗で随分と服が重たくなっていた。


「きついなら帰った方がいい」

「うっさい……ちょっと酔っただけよ」


 今だけは雀の言葉には覇気が欠けていた。魔術師といえども雀は高校生だ。平然とこの現場を直視できる方が異常といえよう。


 それでも乱暴に口元を拭い立ってみせたのは、意地と胆力の賜物だ。


 吐き出した分の気合いを込めるように、顔を思いっきり叩けば、雀の眼に再び気力が宿る。


「大したもんだ」

「お世辞はいいから、アストレアの監視官がこの状況をどう見るか聞かせて頂戴」

「普通に考えれば一連の殺人はこの月下美人を使ったものだろうな。霊術か魔術どっちの代物かは判然としねえが、まあ術師が絡んでいる以上殺人の手段に大した意味はない」


 物的証拠が挙がりにくいのが魔導犯罪の厄介な点だ。推理小説の様にあれこれと趣向を凝らしたトリックを施す必要は無く、存在する術式の数だけ手段が生まれる。よほど犯人の手の内に精通していない限り、考えても無駄なのだ。


 真っ先に追及するべきは《誰が犯人か》であり、次点で《動機》だ。


「遺体と部屋を精査したいところだが、この花には触れない方がいいな。遺体からみるに、まず間違いなく寄生するタイプだろう。右腕が好物とは随分と偏食家なようだ」

「茶化してんじゃない」

「……そうだな。今のは失言だった、許せ」


 倉橋を咎めはしたものの、自分をはぐらかしたい気持ちは雀も一緒であった。


 他の三人の遺体同様に首を吊っている生徒は右腕こそ欠損しているものの、その死因は間違いなく首を吊った事による頸部骨折と窒息であろう。憶測に過ぎないが寄生された彼は家族を殺めてしまい、自ら命を断つことで月下美人を振り解いたのだ。恐らくは贖罪も込めて。


 唯の人間には酷過ぎる選択だ。


「一体誰が何のために……」

「あまり考えるな嬢ちゃん。一般的な犯罪捜査では動機は容疑者を絞り込むのに重要な要素だが、魔導犯罪じゃ犯人の思考を追及することに繋がる。行き過ぎると脳みそが涌くぜ」

「そこまで深読みする頭はありません。流れ的に今のは当然の疑問でしょ。それに相手をとっ捕まえて吐かせる方が手っ取り早い」

「ふむ……それもそうだな」


 事態が混迷を極めようとも成すべきことをシンプルに捉えられるのは、アストレアでは重要な資質と言われている。


 時にそれは単細胞や猪と卑下されることもあるが、チームに一人でも雀のような人材がいれば目的がぶれることは無い。足りない思慮は他がカバーすれば何ら問題は無い。


「まあ、現場検証は必要だがな。花共が電気をチュウチュウ吸ってる間に分かる範囲で調査はしておいた方がいい」


 倉橋はそう言ったが、調べられる範囲は限られている。部屋の中は月下美人に埋め尽くされ侵入は難しく、遺体の回収も困難だ。中は廊下から観察することが精々だろう。


 溶接されていたドアも雀が吹き飛ばしてしまい、破片も花達に埋没している。倉橋の非難の視線に雀はバツが悪そうに下手くそな口笛を鳴らした。


「す、過ぎたことでしょっ」

「別に何も言ってないが?」

「ぐっ……」


 もっとも溶接されたドアの接合部、特に廊下側を観察すれば硬化術式らしき痕跡が見て取れる。丁寧に解呪していてはどれだけ時間が掛るか不明。破壊に踏み切ったのは迅速と評価出来なくはない。


 結果論に過ぎないのでやはり雑の一言に集約されてしまう定めではあるが。


「しかし花か……宵波の帰投はもう少し遅らせるべきだったな」

「どうして? 彼こういうの詳しいの?」

「あいつも花を模した術式の使い手だ。あっちは白じゃなくて真赤な彼岸花だがな。あれに絡め捕られて生きてたやつは見たことが無え。まったく、恐ろしい紅白だな」


 意見を聞こうと雀は早速涼に電話を掛けてみた。


 しかしコール音が響くばかりで一向に出る気配がない。SNSも同様。


「ダメ、繋がらない」

「もうある程度復調している筈だが……何かあったか」


 涼が京都へと発ったのは今晩のことだ。時間を鑑みれば既に到着してホテルに入っている筈だ。倉橋が小型通信機で連絡を試みてもやはり繋がらない。


 寝ている、と考えるのは安易か。


 その時雀の脳裏を掠めたのは先日の涼の姿であった。僅かな感覚だけを残して衰弱する尋常ならざる状態だったが、涼は霊力の枯渇が原因と取れるような発言をしていた。


「ねえ、彼が犯人なんてことは有り得ると思う? 他人から霊力を奪う目的で犯行に及んだ、みたいな」

「それは無いな」


 即答であった。


 聞いた雀自身も言いながら可能性は低いと思っていたが、この反応は少し意外だった。


「理由は?」

「そうだな……人間生きてりゃ大なり小なり当てはまることだが、アイツは奪われる苦しみを誰よりも知っていると俺は思ってる。ただ……」

「ただ?」

「それ以上に与えられる幸せと、与えることの喜びを原動力に自分を死ぬ気で鍛え上げた男でもある。犯罪者に落ちる事はまず有り得んな」


 倉橋から語られる宵波涼の一面はそのまま信頼に直結するものであった。


 多くの犯罪というのは悪辣な環境が人に犯行に強要させるものだ。貧困地域で犯罪率が高い傾向にあるのは暴力が自衛に、略奪が飢えを凌ぐ手段に繋がるから。無論、事はもっと複雑で一概に語れるものではないが、やはり環境が人間に与える影響というのは凄まじい。


 涼の過去を少なからず知り、またアストレアでの数奇な巡り合わせを知る倉橋に言わせてしまえば、涼=犯人説は考慮にすら入らない。


「そこまで信用しておきながら、この前は随分とボロ滓に怒鳴ったもんね。しかも私怨混じりに我を忘れちゃって」

「実力も含めて信用はしている。だが信頼は別という話だ。取り乱した件は突かれると弱いが……兎に角宵波が関わっていることはまずない。これは断言していい」

「ふうん。じゃあ逆にこの現状から何が読み取れるの?」

「花については正直今の段階ではお手上げだ。読み取れることと言えば、物理的に封印されていた所を見るに、この花共は術式で封じるには具合が悪いのかもってぐらいかね」


 窓や換気口、天井も隙間なく溶接されているだろうと、倉橋は推測を付け加える。


 物理的な破壊力には乏しいのか、ざっと観察した限り月下美人が部屋から脱走した様子も見られない。


「これをやった殺人鬼には距離を取って戦った方が良さそうね」

「ああ。花には特に触れない方が賢明だ。何が起きるか分かったもんじゃねえ」


 遠距離戦であれば魔弾の射手たる雀が得意とするところだ。事件が殆ど街中で起きているために、気兼ねなく大火力を解放することは難しそうだが、他の術式を用意しなくて良いことは僥倖だ。


「……」


 戦闘方針に異論はない。


 だがどうしてだか、雀は今までのやり取りの中に微かな違和感を覚え、静かに眉根を寄せた。


 その違和感の正体に気付く一瞬前であった。


 雀たちの背後。廊下の窓から夜風が迷い込み、いつの間にか雀たちの足元にすぅと人影が伸びていた。


「──どうして貴女がここにいるの、雀?」


 鈴を転がす様な可憐さでありながら、明確な憤りと圧倒的な魔力が伴った声。


「退け神崎ッ!」


 一瞬で臨戦態勢に入った倉橋が濃密な霊力を迸らせ、弾かれたように背後へ疾走した。


 この状況が彼にその選択を強いたのだ。いま雀たちは数メートルと無い短い廊下で前方を月下美人に、もう一方を侵入者に塞がれてしまった構図だ。


 人払いの結界が張られたこの家に入って来る人間など、考えるまでもない。


 思考を置き去りにした元監視官の鍛え抜かれた直感が倉橋に全力攻勢に駆り立てた。


 一条の矢と化したその疾走は彼我の距離を瞬きの間に零にし、刀剣の如き牙は喉笛を容易く捉える。


 そのはずであった。


 倉橋が飛び掛かるのとほぼ同時に、小康状態にあった月下美人が雀を飛び越え倉橋に一斉に襲い掛かった。


「なんっ、ぐ、がああああああああああああああッ!?」


 制御を失った倉橋の牙は悲鳴に溺れ、自ら生み出した運動エネルギーをそのままに突き当りの部屋へと突っ込んだ。


 衝撃で肉が潰れ、骨が砕けるも、直後に起きた月下美人の捕食の前では些末事。


 花達は倉橋の肉体に一斉に根を下ろし、肉と血、そして霊力を貪り始める。抵抗しようと霊力を高めたところで、その場で霊力を食い尽くされ、もがく度に急速に死が近づいていく。


 雀は直ぐにでも救けに行きたい所であったが、生憎と眼の前の人物がそれを許さないだろう。


「雀、一度だけ忠告してあげる。今すぐこの件から身を引きなさい」

「そう言われて私が大人しく『はい分かりました』って言うと思う?」

「聞き分けなさい」

「お断り」


 憎まれ口を叩き、雀は術式を展開。弾倉となる術式陣に魔弾が装填されていき、右腕を銃身と化す。


 久方ぶりに見る同居人は随分と様変わりして見える。


 修道服に似た王陵女学院の制服に袖を通した西洋人形のような少女。その左腕に湧き立つ様にして咲き誇る月下美人は不気味なほど彼女に似合っていた。


「その趣味の悪い花、ここで引っぺがしてやる!」

「無謀」


 やり取りはそれだけ。


 一切の躊躇いもなく雀は最速で装填した魔弾を侵入者──雨取照へと撃ち込んだ。


 魔弾は青白い火柱となって壁を貫き、それが神崎雀の一連の猟奇殺人に対する開戦の狼煙となった。


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