大好きな二人のために。
ゴーン、ゴーン…
国中に幸せの鐘の音が響きわたった。
薄暗く冷たい地下牢の中にいるわたくしの元にも聞こえるほど、民は皇太子の婚約に沸き立っている。
「おめでとうございます!」
「なんて素敵なんでしょう!まるでお伽噺のようね!!」
あちらこちらで祝福の声があがり、皆、お祝いのために走り回っている。
いつもなら牢の入口にいる見張りも、罪人に責め苦をもたらす看守も、今日ばかりはここに近寄らず皇太子とその婚約者を祝っていた。
皇太子をたぶらかし、婚約者となるべきものを貶め危害を加えんとした罪でここに入れられているわたくしにとって、二人の婚約は唾棄すべきもの…のはずだ。はずだった。
だけど……
「おめでとうございます…おにいさま、おねぇさま…」
今ならここには誰もいない。
なら少しだけ、神に祈ってもいいでしょう?
大好きだったおねぇさま。
大好きだったおにいさま。
二人が一緒に笑っていてくれるなら、幸せでいてくれるのなら、リリィはとても幸せです。
笑いながら愛し合う二人を引き裂けと命じるお義父様とお母様が怖かった。
わたくしを大切にしているフリをして、一挙一動まで両親に報告する侍女や騎士たちが怖かった。
笑うこと、怒ること、泣くこと。
そういった感情の発露をことを喜ぶた両親のために、大袈裟に振る舞うことを覚えた。
両親が望む天真爛漫で愛される子供を演じることに必死だった。
段々と粗雑に扱われるおねぇさまを助けたくても、わたくしの声はあの二人には正確には届かない。
だから決めたの。
わたくしが全て壊そう。と。
色々とアクシデントもあったけれど、上手くいってよかった。
おめでとう、おねぇさま。
おめでとう、おにいさま。
本当に大好きで愛してましたわ。
祈りを終え、立ち上がって小さな格子の間から空を見ていると、カチャン…と鍵が外れる音がした。
「お待たせ!リリィ!!」
振り替えればそこには大好きなおねぇさまがとても幸せそうな顔で微笑んでいる。
「おねぇさま…」
「遅くなってごめんなさいね?さぁ、行きましょう!!」
おねぇさまが横にいる全身を真っ白な貫頭衣で隠し、首の下まである服と同じ真っ白で目玉の所だけくりぬいた三角帽を被った男に合図をすると、男は両腕につけられた拘束具を外し、エスコートするように手を差し出した。
その気づかいが嬉しくて、わたくしはその手をそっととっておねぇさまの後を追う。
わたくしはこれから太陽の光の下で、ずーっと二人の幸せを願い続けるのだ……