電話のベル
刃先に流るる
赤い液体は
後々、悪い物と
言われるのだろう
延々と鳴り響く
電話のベル
そんな音にしていたかなと
疑問符が先行し
小さな声色で
「もしもし」が
聞こえてきた
酒焼けしているのか
嗄れ声の中に
無理矢理に見つけた
昔ながらの声
「久しぶりだね」と
僕が話し掛ければ
「変わらないね」と
間が空いた
僕だけが素直に
生きているみたいに
続く息の苦味に
何かを取り繋ぐ
たまに飲んでいたから
ありったけの
友人のデータ
片手に持って
明るい声を出す
頷く声が
思い出を摘み
遠くに居ることを
付着させるみたいだ
話を聞いているのか
上の空の中に
無理矢理に見つけた
固有名詞の間
「飲みに行こうか」と
つい、口に出した僕
「別に、良いよ」と
間に挟まる
僕だけが本能的に
生きているみたいに
スカート姿を知らなかったから
女になったね、という感想は
仕舞い込んだ
話だけを考えながら
他愛無い会話を
歩きながら続けた
あの頃とは違う香りが
半歩、後ろに居ると
流れてくる
小さな居酒屋畳席まで
それは変わらず
対面に座った時に
壊れた記憶があった
時間は顔を変えるのか
笑顔を見る中で
無理矢理に見せられた
傷痕と途中の生傷
「飲むの初めてだね」と
楽しいを時間に充満させる
「そうだね、乾杯しよう」と
言葉を探して捻り出す
僕だけが異常な形で
生きているみたいだ