一番列車
駅務、その夜勤に当たる男たちが居た。夜間でも通過する列車があるのだ。それを安全に走らせる為の職掌についている。上り方の隣駅に繋がる鉄道電話がなる。助役の秋津邦夫は、それを取る。
「もしもし」
『もしもし、二千十七列車閉塞。』
駅間における車両の不存在を確かめる。そして居ないのであるから、そこに列車が入ってもよいように合図をする。
「二千十七列車閉塞、オーライ。」
定時に来るなら、この駅を通過する年内最後の列車になる。静かな駅事務室に時計の音だけが聞こえている。
十五分ほどして、再び上り方の駅から鉄電がかかってきた。
『二千十七列車、定時通過。』
「二千十七列車、定時通過オーライ。」
これで駅間に列車が入った。次の駅に列車が入ってもよいか聞かねばならぬ。下り方の駅に電話をかける。
『もしもし』
「もしもし、二千十七列車閉塞。」
『二千十七列車閉塞オーライ。』
駅から先が通ってよいならば信号を変えねばならない。梃子を引いて下り線の出発信号機を下ろす。現示したことを示す信号反応器の模型が動く。下り出発、反位。今度は駅に入って良いことを示す下り線の場内信号を変える。下り場内反位。そして、出発信号機が下りていることを予告する通過信号機を下ろす。通過反位。さらに場内信号が下りていることを予告する遠方信号を下ろす。これは遠いから、非常に梃子が重くて全体重をかけて引かねばならない。徐々に梃子が動く。やがて信号反応器の遠方信号が反位に変わる。
やがて遠方信号の辺りから汽笛が聞こえてきた。遠方信号の梃子を蹴飛ばしながら定位に戻す。ぼんやりと見えてくる前燈。そして列車は轟音を立てて通過していった。場内、通過、続いて出発信号をすべて定位に戻した。そして下り方の駅に通過した旨を伝える。
「二千十七列車、定時通過。」
『二千十七列車、定時通過オーライ。』
駅事務室の時計が2400、つまりは年が変わったことを伝える。今度は下り方から電話がなる。
『二千十八列車、閉塞。』
「二千十八列車、閉塞オーライ。」
今年一番の列車がいよいよやって来る。
今は使われていない双信閉塞に基づく描写。でも信号取り扱いの順番は今も同じよ。