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誰かの為に動くのはこれからだ! ①

 魔竜アルカドラと共に、俺はブリスタンコールに舞い戻ってきた。

 いつもは活気ある街だが、この日は雨が降り、広場にいつもいる人々はどこかへと散っている様子。

 俺とアルカドラは到着後、すぐに近くにあった医者に飛び込んだ。

 そして、医者はアミラの容態を見て飛んで治療に移った。その為、俺とアルカドラは待合室に通された。


「…………」


 俺が座りながら黙っていると、アルカドラは俺の方に華奢な手を置いた。


「こんなこと言う事でもないかもしれぬが、あの女は助からぬ」

「なッ!?」


 アルカドラは小さな顎に手をあてて、続ける。


「勇者と呼ばれたお主にならわかるかもしれぬが、あれはライフ。つまり生命維持の話ではないのだ。誰かに倒された、とかいう話ではなく、一種の病だ」

「どういうことだ」

「悪魔との契約、というものを知っているか?」


 悪魔との契約。俺達一行は、旅をする中でも多くの人々の生き死にを見てきた。

 その中で、悪魔と契約した者もいた。ある者は、巨万の富を得る為に、ある者は、自らの欲望の為に。

 そうした者達の末路は、やがて、闇の魔力に包まれ、最後は凶悪な魔物となる。


「……ああ、知ってるが、アミラがそうなのか?」


 契約を済ました者であれば、誰であれ闇の匂い、というものがある。それは勇者である者にしかわからないものではあるが、アミラからはその匂いはなかったのだ。


「闇に契約した者だからこそ、わかるものがある。アミラという女は悪魔との契約を恐らく自分との命の引き換えに応じたのじゃろう」

「命と引き換えに、か」


 考えられるとすれば、妹の命を救うためにだろう。だが、仮にその契約をするとすれば、街やギルドの人間に置手紙くらいするだろう。それがアミラという人間なのであれば。


「まぁなんにしても、ここで待っていても何も始まらん。一旦外に出るぞ」


 アルカドラはそう言いながら外に出た。

 俺も後に続いて外に出ると、雨はまだ降り続けていた。


「……さて、そういえば我の名を言っていなかったな」

「アルカドラじゃないのか?」

「アルカドラは魔竜の姿の名。我はメイアと申す」

「メイアか、俺は――――」

「知っている、ロイズじゃな。とりあえず、我の婚約者としてお主は合格じゃったが」

「誰も合意してないんだが」

「もう一つ試練を与えてもいいか?」

「いや、ごめんだね」


 今はそんな気分じゃないし、アミラのことも心配だ。

 それに幼女が婚約者になったって何も嬉しくない。


「俺は誰かの為に生きるのをやめたんだ。勇者として世界を救ってきたんだから、それくらいいいだろう」

「ダメじゃ」


 メイアは俺を睨み付けてきた。その眼光は鋭く、まるで魔竜を見ているみたいだった。


「我は先代勇者が憎かった。それは自分の都合でのみ動き、人間という種族の為だけに我ら魔族を葬り去ってきたのじゃからな。もし、ロイズ、それがお主でも同じことをするまでじゃ。我は誰かの為に考え、動くことのできる者こそが、この世界の中心、すなわち神になれると思うのじゃ」

「神? 別に俺は――――」

「女子なら誰でもいいと言うのなら、それはお主が一番わかっておろう。くだらない幻想を捨て、神となるのじゃ。そうすれば、あの女神とやらの席を奪還できるんじゃぞ」


 何を言っているのだ? 

 メイアの目的は俺を神にするつもりなのか?


「ま、それが真実であれ、俺には関係ない。俺は俺の為だけに生きる」

「そうか、ならば、そこにアミラと契約した悪魔がいるとしてもか?」

「何言って――――」


 俺はメイアへと振り返ると、メイアの視線は俺ではなく街の上を見ていた。


「……気付いたかしら?」

「ああ、気付いたも何も、どういうつもりかもわからぬが、お主、この男を監視してて何が楽しいのじゃろうかと思ってな」

「その勘の良さが先の魔王は嫌いだったのよ? だからあなたは、充分な力も発揮できない魔竜へと姿を変えられ、その小さな子供にしかなれぬ身体にしたのよ」


 上にいたのは、冷気を漂う、白銀の髪をした女だった。

 厚化粧、というのが強い印象を持つ女。体つきはとても魅力的な女性だ。


「お前が、アミラと契約をした悪魔なのか?」

「悪魔? 悪魔ではないけれど、そうね、契約したわ。あの女、私にどうしても助けたい妹がいるから、私の命と引き換えに生き返らせてほしいって言ったのよ? バカだと思わない? そんなの魔女の私にも無理だけど、魂だけ抜き取ってやったわ」

「何!? お前、まさか騙してアミラの命を!」

「命まで取っちゃいないけど、魂はここにあるから、あと三日で死ぬんじゃない? 知らないけど」


 俺は気が付くと剣を抜いて、魔女に向かって走っていた。


「人の欲に漬け込む悪魔めッ!」

「だからッ! 悪魔じゃないって言ってるでしょッ!」


 剣が走った先は冷気によって止められる。


「なんでそんなにムキになるのよ。知ってるわよ? あなた結婚したくてこの世界に残って嫁探しをしてるんでしょ? 別にあれくらいの女ならいくらだっているわ」

「そうじゃねぇッ! アイツは、自分の妹を救おうと夜の店でまで働いて、なんとかしようとしてたんだぞッ! そんなのもわからねーのかッ!」

「知ってるわッ!」


 俺は魔女に跳ね返され、地面に戻される。


「……お主、女は斬れないんじゃないのか?」

「わからねーよ。気が付いたら、俺は剣を抜いていた。だから、こいつを傷つけたとしても、それは俺じゃない」

「なんという理不尽……」


 メイアが呆れた顔をしていたが、それはもう関係ない。


「勇者ロイズ。あなた勘違いしてるわね。私があの女をどれだけ見てきたと思ってるの? あの女の妹が魔物化感染ウイルスにかかって氷漬けにし、その代金を支払うまでの間、ドリ酒で働かせてたのは、私よ? そうはじめから、あの女は私の手の上だったのよ。ようやく魂を手に入れたんだから、私の労力もわかってほしいわ」

「なんだと!?」

「それに、あなたの相手は私じゃないわ」


 魔女が抑えきれない笑みを溢した。


「そうだ、お前の相手は彼女――――リエラ様ではない」

「な……」


 この魔女がリエラと呼ばれたから驚いたのではない、目の前に現れた見慣れた剣士を見て、俺は驚きを隠せなかった。


「び、ビルドッ!?」

「ロイズ、俺は目覚めたのだ。お前の言っていた通りだ。俺は彼女の騎士。一国の騎士という名は捨て、これからは冷魔女リエラ様の為に身を捧ぐ騎士。さぁ、リエラ様に剣を振るったのだ。お前を裁くぞ」


 ゆっくりと抜かれた剣。それはビルドが母国の名剣として、大切に扱っていた大剣。普通の人間ならば、その大剣は片手では持てぬほど重い。だが、ビルドはそれを軽々と、まるで団扇のように扱う。

 名剣ファレンシアは、俺達の困難の数々を救ってくれた剣であると共に、ビルドの魂そのものだ。


「さぁ、ビルドちゃん。あなたの元主を倒しなさい」

「御意。さぁ、ロイズよ。俺とここで戦い、死んでくれ」


 俺は剣を力強く握りしめた。

 冷魔女リエラは、笑いながら遠くへと姿を消していく。


「メイアッ! 一生の願いだ。あの女を追ってくれ!」

「ふ、その願いは聞けぬな。我を妻にしてくれるというのであれば、聞いてやるぞ」

「今はそれどころじゃないだろ!」

「ふむ。仕方がない。これが亭主関白という奴か」


 ぶつくさと文句を言いながら、リエラの後を飛ぶようにしてメイアは追っていった。


「お前は幼女趣味なのか?」

「ちげーよ」

「そうか、まぁいい。リエラ様の魅力に欠片も届かぬ小童などどうでもいい。今はお前を倒すことだけ、それだけが俺の使命と思える」

「クソッ!」


 構えたビルドと俺。

 二人互いに、睨み合う。ビルドの眼差しは、これまで俺に向けられていたものではなく、魔物達に向けられていた真剣なもの。

 奴の強さは俺が一番知っている。

 どんな魔物をも切り伏せる斬撃を持ち、空中にいる竜なども一太刀で沈める。

 その筋肉が意味するのは、どんな大剣も軽く扱える力に更に、どんな相手も一撃で仕留める力強さ。

 加えて、奴は何度斬られても立ち上がるタフネスも侮れない。


 ビルド・インディンスの二つ名、それは究極正統派騎士アルティメット・ライト・ナイト


 すなわち、どんな攻撃も防ぎ、どんな相手であろうと斬り伏せる。

 それが、ビルド・インディンスだ。


「来ないなら、こちらから行くぞッ!」


 ビルドが上段に剣を構え、叩き下ろす。

 俺は剣で受け流し、ビルドの肩に斬りかかる。

 だが、ビルドは大きく飛び退き、俺の剣を交わした。


「これで終わりじゃないッ!」


 俺は片手をビルドに向け、叫んだ。


「フレイム・アローッ!」


 片手から溢れんばかりの炎が矢の形を成し、それは一瞬のうちにしてビルドに届く。

 当たった瞬間に小さな爆発を生み、ビルドの身体は煙に包まれた。


「……俺の殺意が伝わるぬか、ロイズよ」

「なんだとッ!」


 ビルドは煙の中から真っ直ぐ突き進み、俺に向かって剣で横薙ぎを放つ。

 咄嗟に自分の剣でガードするも、俺の身体はまるでぬいぐるみのように軽く吹き飛ぶ。


「うぉッ!?」


 俺の身体は近くにあった小屋へと突っ込み、仰向けになって倒れた。

 ビルドの一撃を防御しきれなかったのだ。


 気が付くと、俺の顔の前に剣の切っ先が向けられる。


「……ロイズ。悪く思うな。これもリエラ様の為だ。お前の小賢しい魔法など、何百何千と見てきた俺には通用せん」

「……そうか」


 ロイズは剣を大きく振りかぶり、俺に振り下ろした。


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