女の子探しは夜の街からだ! ③
「ど、ドブ虫ッ!」
「あ? ドブ虫はねーだろッ!」
「ドブはドブでもドブの掃きだめの方がお似合いでは?」
「あんだと!? 今度はその乳を舐めまくるぞ!」
俺とアミラが舌戦を広げていると、店員が間に入ってきた。
「ちょ、アミさん。お客様に失礼なことは言わないでください!」
「……失礼しました」
ムスッとした顔で俺に謝るアミラ。
なるほど、これは別の意味で気分が良いな。
「はい、で、お名前は聞くまでもない、と」
「随分横柄な態度を取るじゃないか? あ? 店員さぁん」
「ちょ、失礼しました、ロイズ様!」
やや投げやりに言ってきたが、まぁ良しとしよう。
「で、どのようなご用件で?」
「いや、別にアンタに会いに来たわけじゃないんだが」
「そ、それはそうだけど、何かここに目的があるんでしょ!」
「どういう意味だ?」
アミラの美しい顔の頬は、やや赤く染まる。
「……だ、だって、その本当に勇者、なんでしょ?」
「ああ、まぁさっきは盛大にいい蹴り貰ったからな。信じてなかったんだろうとは思っていたが」
「そりゃそうよ! いきなり来て勇者ですって言われても、納得できるものじゃないわ。けど、あれだけの魔物の証、それにそこのヘベレケ剣士が熱く謝ってきたのよ」
それは意外だな。今やリエラ嬢にべろべろのデレデレですが。
「さっきね、土下座したのよ。こいつの非礼は詫びます。でも本当に勇者で、この世界のことを愛してくれてるんだってね。まぁ昼間のは気持ち悪かったけど、でも、その……」
話し続けていると、口が止まる。
「なんだ?」
「その、ご、ご……ご面倒かけたなって!」
「なんだそれ」
俺は軽く笑い、ビールを一口含む。
「それで、天下のギルドの支店長でもある、アンタがなんでこんなところにいるんだ?」
これも俺のいた世界同様ではある。金に困った奴はドリ酒で働く、という風習はやはりあるようで、俺もあまり詳しくはないが、値段の高い薬類を買う際には、こういった店で働き金銭を得るらしい。
この質問には答えづらいのか、間が空く。
「……私ね、妹がいるの」
「妹か」
「ええ、私の双子の妹。名前はラミラっていうんだけど、私と違って明るくて、仕事はできないんだけど、とっても笑顔が眩しい子だったんだ。だけど、魔王が世界を闇に包んだとき、疫病みたいなものが流行ってね……」
それについては、俺達も魔王に挑む直前に少し聞いた話だった。
魔王の闇に触れた者は、徐々に魂が魔物となり、やがて魔物と同等の精神と力を持った者になる。というものだった。それは通称魔物化感染ウイルスとも呼ばれている。
「魔物化感染ウイルスか」
「……ええ。そのウイルスにかかった直後に、魔導士の方に病の進行を遅らせる為に、氷漬けにしてもらったんだけど、その金額も高いし、それに薬ができたって巷て噂になってそれを買おうにもお金がいるしで。今の収入じゃとてもじゃないけど買えないのよ」
「俺も聞いたことはあるが、それに対しての薬があるってのは聞いたことがないな。それに氷漬けで遅らせるってのもどうなんだか」
実際、金属化の魔法で病の進行を遅らせることはあっても、氷漬け本当に状態を遅らせることができるのかは微妙だな。
「そんなわけでお金がいるんです。ま、こんなことを勇者様に言ったところで何も変わりませんけどね」
「ま、俺達は人助けってより世助けって感じだからな。世界でもそう伝わってるしな」
「はい。そこは割り切るしかないと思ってます。なので、私にもお酒をください」
「仕方ねぇな」
俺は店員に頼んで、新たにビールを持ってきてもらう。
乾杯した後は、アミラは一気に飲み干した。
「ぷはっ……あのねぇ、ロイズさん」
「ん?」
「私って、怖いですかねぇ?」
あれ? まさかこれはビルドタイプの酔い方!?
もしやにゃんにゃん的な!?
これは待ち焦がれていた、伝説のお持ち帰りだぞ!?
「いや、怖くないぜ。始めっから、俺はアンタが綺麗でどうしようもない子猫ちゃんだと思ったぜ? その綺麗なシルバーの髪。まるで彫刻家が掘ったかのような整った顔。俺の為に降臨した天使だと思ったぜ?」
「いやん」
エンジン全開は俺もだぜビルド!
そこで膝枕してもらってるとこ悪いけど、俺も同じことをアミラにしてもらうんだ!
そして、夜の営みへ……みたいな!?
「さぁ、いってごらん? アミラは俺の天使。アミラにとって俺は?」
「う、うん……」
顔も火照ってきていて、とても色っぽい。
これは俺の伝説の始まりだッ!
「私ね、自分より弱い人って興味ないの。だって、それは私みたいな女の子を守れないってことでしょう? だけどね、強い人がいてくれたらね……」
「うん! うん! うんッ!」
アミラは満面のまるで天使みたいな顔で言った。
「サンドバックにできるじゃない。だから、私のサンドバックになってください」
「は?」
「殴られ役みたいな? うーん、とりあえず、ストレス発散できる人がいいなぁ」
「え? それって例えばね、こんなことしたら?」
俺は思わずアミラの豊満な胸を鷲掴みにした。
だが、昼間のような殺意はない。
「こうしちゃう」
だが、その言葉が聞こえた瞬間俺は宙に舞っていた。
右頬から天井に向かってる感じ。
やがて、俺の身体は自分の席へと落ちた。
「い、いてぇ!?」
「ふふ、触るのは厳禁だぞ? 私の彼氏になったとしても、殴るわよ」
「ええ!?」
なにそれ!?
子作りできないじゃん!?
それって彼氏になっても何もさせてもらえないってこと!?
「そ、そうですかぁ。さ、さすがに痛かったなぁ……」
「ロイズさんは大丈夫です! だって勇者ですから!」
俺は隠れてパラメーターを見た。
服が普通ではあっても、さすがにライフが半分ごっそり減ってるのには目を疑った。
やはり、女は強い!
そこからは、俺も自分自身が死に至りかねないと思い、最早面接のような態度で接していた。
店を出る頃にはビルドも酔いどれ状態で、空にも明かりが昇り始めていた。
「おい、ビルド。自分で歩けないのか?」
「お、俺はぁ勇敢なるぅリエラたんの戦士ぃ~」
「こりゃダメだわ」
それから宿屋に行って次の日は丸一日を寝て過ごした。
その翌日のことだった。
「あの、ここにロイズ様いらっしゃいますか!?」
「なんだ?」
ノックがあり、扉をあけると、そこには俺達が身ぐるみを剥いだ店員と、ギルドの受付の男がいた。
あ、こりゃ、金を巻き上げられる感じかなぁ。
「突然失礼します。すいませんが伺いたいことがあるんですが」
「えっと、その、服については……」
「服のことはどうでもいいんです! いや、良くないんですけど、そうじゃなくて!」
ギルドの受付の男が前に出てくる。
「アミラ支店長が行方不明なんです! どこに行ったかわかりませんか!?」
「いや、何もわからないが……」
どうやらアミラは何も告げずにどこかへと消えてしまったらしい。
あの夜は普通に、話していただけだが……。
「そういえば、アミラは妹が病気で、それについて何か調べに行ったんじゃないか?」
「それは我々も知っています、知っていますが、行かれる際は必ず伝言や置手紙をしていくんです。なのに、今回は何も言わず……」
ということは何も言わずに去ってしまった。
寝て過ごした昨日のことであれば、どっか行ったんじゃないかと言えるんだが、どうやらそうではないらしい。
「消えたのは、昨日か?」
「いえ、正確には、お店で営業が終了してからです」
「なるほどな。で、俺に何か手がかりがないか、と?」
そんなものはない。
強いて言えば、アイツの内情を少し聞いただけぐらいだろう。
第一、アミラは強い筈だ。だから、拉致とかは考えにくいんだが……。
「どうしたロイズ何事だ」
どこかに行っていたビルドが戻ってきた。
ビルドに事情を話していると、少しだけ考えて話した。
「……アミラ様がか。いや、先ほど店の者からも同じことを聞いてな。アミラ様と言えば、この街では随分有名で、男女分け隔てなく接してくださる尊敬のできる方であり、礼儀も正しく、誰もの憧れだから、突然行方を眩ますのは考えにくいと言っていてな」
「おいおい、今の話微塵も信じられないんだが」
アミラが礼儀正しく、男女分け隔てない? そんなわけあるか。足舐めたり、乳揉んだら殴られたんだぞ? おかげでこっちは金貨は使い切っちまうしで最悪だったんだぞ? まぁ半分以上はこの筋肉ビルドのせいなんだが。
「でもまぁ、少し心配ではあるな」
「勇者様もわからなければ、どうすることも……」
沈黙が広がる中、ギルドの受付の男が去っていき、少ししたら戻ってきた。
「た、大変です! 勇者様!」
「なんだ?」
「たった今、ここから近くのブリスタン山に、危険度Sランクの魔竜が現れたとのことです!」
「おいおい、ロイズ、ブリスタン山って言ったら、ここからかなり近いぞ! 下手したら、街に襲ってくるぞ!」
え、また戦えと言うんですか。
戦うのは嫌いじゃないけど……。
「アミラが心配なのもあるが、とりあえず、ブリスタン山に向かうしかねぇか。どうせ即日魔物討伐なんだろ?」
「はい……」
「俺とビルドがいりゃ充分だろ。なんせこのエロ筋肉は、魔物の軍勢相手に一人で戦って生き残った男だからな」
「エロ筋肉はないだろ。まぁなんにせよ、俺とこの性悪勇者なら、なんとかなるはずだ」
俺とビルドは支度を済ませ、ギルドの受付の男とドリ酒の店員に見送られながら、ブリスタン山を目指した。