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女の子探しは夜の街からだ! ②

「痛てぇ……」


 目が覚めると、木造の屋根が写った。

 起き上がり、周りを見渡す。どうやら、俺はアミラに蹴られて気を失っていたようだ。

 外を見れば、夜だった。


「お、起きたか」

「あ、ああ……」

「災難だったな。お前もこれに懲りたら、あんなことはするなよ。まぁ、女王にするよりかはマシだが……」


 以前、女王にも似たようなことをしたが、そのときはマジでやばかった。処刑されるところで、なんとかホーカスとかマーシュが手伝ってくれて逃亡したのだ。


「ま、さっきのロイズを見てたら、お前はこの世界にいるんだなと思ってちょっと嬉しくなったがな」

「そうかそうか。んで、その足の震えはどうした?」

「ん? 武者震いだ」


 どうやらさっきのアミラがよほど怖かったのだろう。最早トラウマだな。


「で、変わりに受け取っといたぞ」


 ビルドがアミラから受け取った金貨と銀貨を俺に渡した。

 ちゃんと報酬は貰ったみたいだな。


「……よし、ビルド! 行くぞ!」

「……ほ、本当に行くのか?」

「ここにきて何を迷っている?」

「いや、さっきの一部始終を見ていると、やはり女は怖い生き物なんじゃないかと……」

「そんなことはない! あれはちょい特殊な例じゃないか?」

「この旅の途中、全女性から似たようなことを受けているロイズが言うと信憑性がないな」


 そうだっけ? 俺蹴られるのもご褒美だから忘れちゃった! というかさっきのは蹴られて嬉し過ぎて倒れただけだし。ほんとだよ?


「じゃあ、行くか」


 俺とビルドは休んでいた宿を後にし、再び街の中心地へと足を向ける。

 人並みはほぼない。だが、一際光で溢れた綺麗な建物があった。


「あれがドリ酒……」

「ああ、夢の国だ」


 そう、俺もまだこの世界に来てからはドリ酒、俺的解釈キャバクラは入った事はない。

 まぁ、経験の一つとして行ってみるのはアリだと、親父にも言われた事だし。


「経験の為だぞ、ビルドよ」

「あ、ああ。これも男の中の男になる為だ」

「芦花家男子条! 家庭編その三!」

「上手い酒は隣に綺麗な女がいるときに飲む酒だったな」

「まぁ近いがだいぶハショってるな」

「お前だって略してるぞ!」

「細かいのはいいんだよ、要は心意気ってやつだ」


 こうして、俺達はドリ酒の前に進んだ。


「いらっしゃいませ! ドリ酒ならぬ、始まりの愛へようこそ!」


 三十代くらいのスーツを着た男が出迎えてくれる。笑顔良し、礼節良し。やはり高い店はサービスが違うな。


「む、俺ら普通に鎧なんだが、いいのか?」

「フッ、それもそうだな」


 俺達は実用性しかとっていないから、まだ戦ったばかりの格好である。

 反対に入口のスタッフは随分チャラい、もとい綺麗な格好をしている。

 ここでやることは一つ。


「おし、経費削減だな」

「へ? お客様?」

「もう一人呼んで来い」

「は、はい?」


 店員は中に入り、もう一人のスタッフを連れてきた。

 俺とビルドは向かい合い、お互いに頷くと、店員を路地裏へと連れ込む。


「ごめんね、俺達、今日は勝負しに来てるからさ」

「これは御互いの為だ」

「ちょ、お、お客様ぁぁぁぁぁ」


 二人の店員から身ぐるみを剥ぎ、俺達はスタッフ同然の格好となった。


「……これも俺の鍛錬の為。悪く思うなよ」


 ビルドはまるで神に捧ぐかのように、縄で縛られた裸の二人の男に祈りを捧げた。

 二人とも気を失っているが、まぁ俺らが楽しんだ後は目を覚ますだろう。


「よし、行くか! 相棒よ!」

「おう! 相棒よ!」


 店に入ると、街の雰囲気とは打って変わって、煌びやかな場所だった。そうまるで昼間の城の中のような感じ。

 各テーブル席があり、そこかしこに、金の持っていそうな男達が綺麗なお姉ちゃんと愉快に話している。その最中に酒を煽っている。まさに、親父の言っていたことだった。


「こ、これがドリ酒……。ここは、天国なのか!?」

「ここは天国じゃねぇ。だが、天国に繋がる階段の一歩だ。ここで女を射止めた奴は、生涯を射止めるってな」

「さすがだ、ロイズ! 勇者は言う事が違うな!」

 

 いつにも増してビルドのテンションは高い。

 中にいた別の店員がやってくる。


「あれ? うちのスタッフ見ませんでしたか?」

「ああ、いなかったから勝手に入ったんだが」

「お客さん、どこかうちのスタッフの服装に……」

「とりあえず、席に案内しないか? 俺達は喉がカラカラなんだよ」

「す、すいません失礼しました!」


 スタッフが頭を下げると、角の席へと案内される。

 なるほど、他の席がどうなっているのかは、席に着くとわからなくなる仕組みのようだ。いや、はたまた魔法かもしれん。


「ろ、ロイズ、胃がキリキリするんだが……」

「なんだ? ビビってるのか? かの有名な騎士ビルド・インディンス様も女がとても恐ろしいと見える。魔王を倒した男なのにな」

「そんなわけあるか。俺は誇り高きホメルノス王国の騎士! 引く事は知らず、前進のみ!」

「よく言った。それでこそ、俺の仲間だ」


 丁度よくビールを店員が持ってくる。

 俺とビルドは乾杯し、それを一気に喉に送り込む。


「これが、戦前の酒。やはり戦の前の酒は上手い」

「仕事の後が上手いんじゃないのか?」

「いや、どうだろうな、気分的なものじゃないか」


 どうやらビルドのエンジンが温まってきたみたいだ。


「こんばんわ。リエラです。よろしくお願いします」


 笑顔で現れた女性。細身で可憐な印象を抱く、茶色の猫耳を持ち、金色のショートカットの女の子が赤いドレスを着て現れた。

 その子はビルドの隣に座った。


「失礼します。えへっ強そうな人ですね、名前はなんて言うんですか?」


 満面の笑み。親父はかつて、これは作り物と言っていたがフェイクにしては出来過ぎている! これは幻なのか!?


「お、おおおお、おれ、おれ、おれれれ、び、びる、びるどどどど」

「おおれびびるどぉ? 面白い名前ですね!」


 リエラの手はビルドの両手を優しく包み込んだ。

 その瞬間、ビルドの顔は真っ赤に染まり、まるでタコのようになった。


「店員よ! ビール10杯くれ!」

「えーリエラも飲みたいなー!」

「ビール11杯だ!」

「かしこまりましたッ!」


 もうエンジンマックスオーバーヒート寸前みたいだ。こんな手を握られただけでオーバーヒートするとは……。

 追加のビールが来ると、ビルドはリエラとぎこちない乾杯をし、一気にビールを飲みほしてはまた、次のジョッキを握り、一気に飲み干した。

 そして、それを10杯全部飲み尽くしたのだ。


「お、おい、飲み過ぎじゃないのか!?」

「ロイズ、俺に、夢を見せてくれるのだろ!?」


 俺に向かって既に酔ったのか、頭をフラフラにして目線が合わない。いつもは何十杯と飲んでも平気なビルドが初めて酔った姿だった。

 するとリエラはビルドの顔を両手で掴み、自分の方へと顔を向け直させた。


「違うよ? 夢じゃなくて現実だけど、もし夢を見ているのだとしたら、私を見てほしいなぁ」

「ふぐッ!?」

「ビルドッ! 気を確かに持つんだッ!」


 ビルドの鼻から血が垂れ、それを拭くリエラ。

 なんでこんなビルドが得をするの!?


「大丈夫? 私、強い人が弱い所を見せるの、辛いだろうけど、頼ってくれてるみたいで、スキだよ?」

「ぬふぉぉぉぉぉッ!」


 ありゃ、もう駄目だわ。こりゃ機関車トーマスならぬ、暴走機関車ビルドスっすわ。


「俺はねぇ、リエラたん、この世界をね、救ったんだよぉ?」

「本当! ありがとうぉ! 私ね、ずっと暗い世界を歩くの怖かったのぉ。だって、怖い魔物たくさん出るでしょ? だから、それを明るくしてくれて、あ・り・が・と」

「えへへへ、リエラたんが元気に過ごせるようにと思って頑張ったんだぁ」

「嬉しいよぉ? だから、今夜はいっぱい楽しもう?」

「もちろんだよぉ!」


 更に追加のビールを頼んだ。

 いや、ほんと、どうしてくれんの?

 金足りるかわかんないんだけど。


「あ、ロイズさんの女の子は、ちょっと待ってくださいね」

「ああ、まぁ指名したわけでもないし、気長に待つとするか。将来の嫁をな!」

「え、ああ、はい」


 え? なんでビルドとはあんなにデレデレしたのに、俺には素っ気ないの?

 意味不だわぁ。


 しかし、街の普通の酒場とは違った意味で、騒々しい。ここは、どんな男でも、ビルドのようにデレデレだ。

 なんか、ビルドがイチャイチャしてるのみたら、俺に何もないみたいでイライラするなぁ。


「なぁ、リエラちゃん」

「はい、ロイズさん、なんでしょう?」

「俺とソイツどっちがカッコイイ?」

「はぁ?」


 一瞬凍りついた顔をするリエラ。ビルドはそれに気が付かず、リエラに片腕を回し、まるで俺の女気分を味わってるみたいだ。


「ちょ、あり得ないんですけど。私にはぁ、ビルちゃんだけだからねぇ」

「そうだよなぁ。おいロイズぅ俺のリエラたんに何言ってんだよ! どう見たって俺の方がカッコイイだろう? 見ろよ、鍛えぬいたこの筋肉!」

「わぁぁカッコイイぃぃ。カッコ良すぎてリエラ、死んじゃう!」

「……ここに連れてきたの死ぬほど後悔してるわぁ……」


 俺が首を垂れると、すいません、と声が聞こえた。


「あ?」

「遅れて申し訳ございません。私、アミと申します。よろしくお願いします」


 ニコっと笑顔で、遂に俺にも待ちわびた女の子が訪れた!


「って、え?」

「え、昼間……」


 そこに現れたのは、俺のことをショック死させようとした、アミラが白いドレスを着て立っていた。

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