女の子探しは夜の街からだ! ①
連投します。
「婚活王に、俺はなるッ!」
「いきなり何を言うんだか」
俺達は始まりの街ブリスタンコールに戻ってきた。
この街は、中世ヨーロッパ風の街並みであり、かつ多くの人種が行きかう自由の国である。
人種といえどもエルフから、亜人種……まぁ猫耳と尻尾のある人間もいるということだ。
「懐かしいな、ここで、宿屋の看板娘に話しかけたら、顔殴られて残りライフが1になったんだよなぁ」
「そんなことがあったのか!?」
驚くビルドに俺は満面の笑みで返す。
広場の中央に俺らは、数分ぼーっと街並みを眺めていた。
この街で、俺はビルドと出会い、こうして旅に出ることになったのだ。
まぁ、ムサイ男の成り行きはともかく。
「……ここまで長い旅路だったな。ロイズ。俺は一度自分の故郷に帰るよ」
「ん、そうか、マーシュ」
「ああ……」
マーシュの表情は不安に包まれていた。その理由としては、マーシュの妹が当初魔王の四天王の一人に呪いにかけられていたのだが、その治療法というのがソイツをブッ飛ばしたところで、変わりはなく、魔王を倒せばもしかしたら治るかもしれない、という医者の話だった。
「元気になってるといいな」
「……そうだな。ロイズ、お前のわけのわからん野望もいいが、ほどほどにな」
そう言い残すとマーシュは街の出口まで一人歩いて行った。
「ロイズ、僕も一度神父に挨拶をしに行きたいんだ。だから、僕も一度神父の元に行ってきてもいいだろうか?」
「ホーカスも行くのか」
「ああ、報告もかねてね」
偉く厳しい神殿で修行を重ねたホーカス。そこの神父は厳格な人ではあるが、誰よりもホーカスのことを気にかけていた。きっと親に生存報告をしに行くようなものだろう。
こうして、世界を救った俺達四人の勇者パーティの二人は去っていき、俺とビルドだけになった。
「……ビルドはいいのか? 城に報告とかしなくて」
「ああ。俺には帰る故郷もないからな」
ビルドは孤児だった。だが、持ち前のタフネスで鍛えぬき、城の騎士として抜擢されたが、魔王の攻撃を受け、かつて守っていた場所は亡国と化しているのである。
「よし、とりあえず、二人だけだが酒場にでも行こうか!」
「はぁ?」
「な、なんだ、その顔は……」
いや、仕事終わったからとりあえず酒。それは家庭を持つ男の習慣だろうが。
俺達はまだ家庭のかの字も築いていない、いわば酒場の酒の味も知らない男だ。
それをわからせてやるしかないな。
「ビルド、美味しい酒の条件ってなんだと思う?」
「そんなの決まってるだろう。運動の後、仕事の後。つまり身体を動かした後の酒が格別に上手い――――」
「愚か者め。お前は何もわかっていない! この世で一番おいしいご飯は何か! この世で一番ゆっくりできるところはどこか! 何も知らないんだな。20歳も超えているジジイのくせに」
「じ、ジジイだと!?」
「いいか? よく聞け。これは俺の尊敬して止まない、ある人からの言葉だ」
ごくりと生唾を飲むビルド。自分の答えに自信満々だっただけに、俺の答えが気になるようだ。
「これは鉄の芦花家男子条家庭の過ごし方編! その一! 美味しいご飯は美人がいて初めてその料理は劇的な味を開花させる!」
「……」
「その二! この世で一番ゆっくりできるところ、それは美人の隣である!」
「……」
「その三! 美味しい酒は、美人が注いでくれた酒である! これ以上の飲料はこの世にない!」
「……それが条件なのか?」
固まったビルドは、大声で芦花男子条件家庭の過ごし方編を叫んだ俺をじーっと見ていた。
「不満があるようだな」
「ああ、不満だらけだ。そんなもので本当にそうなのか俺にはわからん」
「そうか、ならば実践あるのみ、だな」
こんな堅物、絶対そんなことないみたいな顔してるけど、絶対女が近くにいたら鼻の下を伸ばす筈だ。今にその顔を俺は目に焼き付けたいぜ。
「よし、ならば金と情報が必要だな」
「なんでそうなるんだ?」
「わからないようだな。俺の世界にはかつて、この世界の通貨でいうところの5銀貨程度で女の子とお酒を飲む文化があったのだ」
「5銀貨だと!? 5銀貨もあれば三日は食事ができるじゃないか!?」
アーリッシュ・スウィングスでは、日本円で1000円が1銀貨が相場である。従って、1金貨は銀貨100枚つまり、100,000円程度ということだ。銅貨は1枚10円である。世界全体の買い物もそこまで高くないので、大体5銀貨あれば三日は食事を外食で済ませられるのだ。
「だが、現在の所持金は俺とビルド合わせても……銀貨6枚と銅貨20枚しかないわけだ。とりあえず、金を稼ぐぞ」
「いや、待てロイズ。何故金が必要なのだ」
「わかってないな。俺はさっきの話をしただろう? この世界にも女の子が隣に座ってくれてお酒が飲める場所があるんだよ」
「ま、まさか、ロイズ……あの店に行こうと言うのか!?」
あの店、というのは、大概どこの街にもある施設。
通称、ドリ酒。キャバクラと変わりはないんだが、値段は金貨3枚からと、とても高額な場所であるのだ。この世界の住人、特に男にとっては夢のような酒場だから、ついたあだ名がドリ酒というらしい。
「ひとまず、軍資金を調達するぞ!」
「よ、よし! で、どうするんだ?」
さすがのビルドも少しはやる気を出したらしい。声のトーンがやや高く、周囲の人達も俺達を見ている。ほとんどが男だが、皆バカを見るような眼で見ているのだ。まぁ、ドリ酒にいけないお前らは一生いけない夢でも見てろってんだ。
ま、歩いてるイケてる姉ちゃんは、俺達がこんだけ騒いでても振り向きもしないが。
「で、軍資金に関しては、これを使うんだな」
俺がポケットから出したのは、魔王までの道のりで倒した魔物の素材のごく一部だ。
これを出してもビルドは、首を捻るだけだった。
「こんなもの、売ってもそんな金額にはならないぞ?」
「違う違う、売るんじゃないんだ。証として使うのさ」
素材を鞄に入れ、俺はこの街のギルド支部へと向かった。
ビルドと共に、ギルドブリスタンコール支店に入ると、広場の角に四つテーブルがある。そのうちの掲示板があるカウンターへと向かった。
補足として、ギルドは全国各地にある。ギルドでは、即日魔物討伐係、資材の調達係、討伐困難危険魔物討伐係、冒険者募集係と四つのカウンターがある。これも全国各地で同じだ。俺達が向かったのは討伐困難危険魔物討伐係である。
「こんにちわ。ギルドブリスタンコール支店へようこそ。本日はどういった要件でございましょうか」
俺よりもやや若い男が対応してくれた。
「ああ、今日魔王を討伐した勇者だけど、色々倒したから、その証を見せに来たんだ」
「はぁ……」
ギルドの受付は、なんとも信じられないといった顔で俺を怪訝な顔をしてみてきた。
だが、机の上に無数の魔物の素材を散りばめると、眼の色を変えた。
「こ、これは!? 銀竜の瞳に、海虎の牙! それに雪朱雀の羽まで! こ、これだけあれば、この掲示板の魔物の討伐依頼書も減りますよ!」
「だろ?」
ギルドの受付は、驚いた様子で奥に入って行った。
「……なぁ、ロイズ。これ嘘じゃないか?」
「何が嘘なんだ?」
討伐困難危険魔物係とは、即日魔物討伐とは違う。何が厳密に違うのかというと、即日魔物討伐は依頼を受けたことを契約し、その魔物を倒し、その証を提示すれば完了し報酬を得る、というシステムだ。
反対に、今回の俺達のような討伐困難危険魔物係とは、近辺に生息するであろう魔物であり、それを害とみなした一般人が貼り紙を作成し、誰でも討伐できるようになっている。つまり契約は必要なく、討伐した証だけが必要となる。その為、証だけを見せれば報酬は頂ける、というメリットがあるのだ。その分当然魔物も即日魔物討伐よりも群を抜いて強いが。
「だって、これ、魔王城にいた奴らじゃないか」
「だが、もしかしたらここら近辺にいた奴が魔王城に戻ってきていたかもしれないだろ?」
「むぅ……」
ま、原則としては近辺で出た魔物を討伐しなきゃいけないんだが、それくらいは見逃してもらいたい。
「お待たせしました! 支店長室へ行ってください!」
「な、なんと!?」
「ま、そうなるわな」
俺達はギルドの受付人に進められ、奥に進む。
重厚な扉があり、俺はそれを押して開いた。
「よくぞ来てくださりました。旅人よ」
「旅人じゃないんすけどね」
「え?」
あのガキ、ちゃんと勇者だって伝えてなかったな。
「まぁいいでしょう。私がギルドブリスタンコール支店長の、アミラ・シュラです」
「こ、こ、こここ、これはははは、ご、ご丁寧にににに」
「あら、そちらの逞しそうな方は、緊張しているのかしら」
「ああ、いつものことなんで、気にしないでください」
ビルドの厄介なところが出たな。コイツは女の前だと緊張して壊れたロボットみたいになるんだよな。
しかし……このアミラ・シュラ、とても戦闘能力が高い。
まず銀色の長い髪に白い肌が輝いて見える。そのうえ小顔で綺麗で整っていやがる。豊満なバストではあるが、垂れていなさそうな形に細い体付き、これは眼も疑うような美人でしかない。
というか、オーラが半端ないんだわ。食らいつきてぇ……。
「えと、素材を拝借するに、倒された魔物は全部で10種類ですね。なので、金額にすると8金貨と600銀貨の支払いとなります」
「おおッ! そ、そんなに貰えるのか!?」
「ええ、正当な報酬ですからね」
ウフフとあざとい微笑みを見せるアミラ。だが、そこも色っぽいんだよな。
「よし、アミラさん。一つだけ言っていいですか?」
「はい、なんでしょう」
「この額とアミラさんの今夜の相手等価交換っていうことでどうでしょう! いやぁ、俺はやっぱりギルドの財政が気になっちゃいますし、それにアミラさん、俺、一応勇者ですよ! 今夜一発どうっす――――」
そのとき、俺の頬を何かが掠めた。そして、血が垂れる。
一瞬にして、机の奥にいたアミラの片足が俺の頬の横にあった。
「……聞き間違いかしら。この程度の額で、この程度の容姿で、この程度の強さで、勇者とか言って、私を夜の相手に誘ったのかしら? 嘘じゃなかったら、あなたの首は今頃そこで、おねんねしている筈ですが、私の聞き間違えですよね?」
ニコっと笑うアミラ。
俺の背筋に悪寒が走った。
隣のビルドも固まっていた筈が、今度はガタガタと震えていた。
「……フッ」
全く見えなかった。魔王という世界を破滅させようとしていた者をも倒したこの俺が、見えなかった……。ほんと、つくづくなんで女が魔王を倒さなかったのか疑問で仕方ないぜ。
こんな狂暴そうにふるまっていても、所詮はレディーだろ?
と、俺は我慢できず、顔の横にあったアミラの足を両手で支え、舐めた。
「ふふふ」
次の瞬間、俺は意識を飛ばした。