プロローグはこれからだ!
お久しぶりの方も、初めての方もこんにちわ。時間帯的には僕はこんばんわなんですけど、楽しんで頂けたら幸いです。一番楽しいのは、僕かもしれませんが。
『よくぞ世界を混沌の渦から救出してくださいました。これであなたの願いを叶えられます』
アーリッシュ・スウィングスという世界の中心地上空。
闇色の雲に包まれた空の下、天空の大地にて俺、勇者ロイズは片膝を着いて空を見上げた。
夜とは違った暗い雲に覆われた空が晴れていく。
「……これで、終わったんだな……」
「そうみたいだな……」
ここまで長かった。全てはあの日から始まったんだ。
俺は別の世界から来た、どこにでもいる高校二年生の芦花 鋳巣里だった。
帰り道に大好きなアイドルのゲームをしている最中に、死角からトラックに突っ込まれ死んだ筈だった。
本来は死んで別の人間の精神の一部として生まれ変わる予定であったが、ゴネた結果、この世界の魔王を倒したら、元の世界に戻り死ななかったことにしてくれる、という話だった。
そして、勇者ロイズとして、見た目はそのまんまだけど、生まれ変わり、この世界で冒険を重ねてきた。
多くの紆余曲折を超え、俺は遂に魔王を倒した。
「……これで、ロイズともお別れ、か……」
仲間のゴリゴリのボディビルのような強靭な肉体を持ち、褐色に焼けた肌の剣士ビルドは、そう呟いた。
「女神アイラよ! 本当にロイズは元の世界に帰ってしまうんですか!」
『……ええ、それが彼との約束ですから……』
坊主頭の僧侶、体は細いが真面目が取り柄のホーカスは天に向かって叫んだ。
「ロイズにもロイズの夢がある。だから、こうしてこの世界を救うことができたんだ。ロイズのことも考えてやれ」
黒い魔道帽子をかぶった男、女顔のイケメンお兄さんのマーシュは帽子で顔の表面を隠した。
『さあ時間です。ロイズよ。お別れの言葉を』
天からの女神の声に、俺は立ち上がり、三人の仲間の方へと視線を向ける。
ここまで本当にいろんなことがあった。
ビルドに死ぬほど鍛えられ、ホーカスには延々と勉強させられ、マーシュには酒を死ぬほど飲まされた。
だが、それも終わってみると、案外楽しかったかもしれない。
――――そう、かもしれない、だ。
そう、俺は別に前の世界になんて執着はなくなっていた。
こいつらと過ごす時間が、そうさせたのかもしれない。
『どうしたのです、ロイズ』
「女神アイラよ、一つ聞いてくれないか?」
『ええ、なんでしょう』
俺は最後の最後の疑問を叫んだ。
「なんで、俺のパーティは、皆男なの!?」
「「「え」」」
一瞬で仲間三人の口からこぼれた。
『はい?』
「話と違うじゃん! 俺、勇者になったらモテモテな人生送れますよ! って言われたからこの世界に来たんだけど!?」
『……おっしゃる意味がわかりませんね』
この世界に来る前に、いくつか勇者として行ける世界を探していたのだ。神の世界でいうインターネットで。
その時、女神アイラは「ここなら、可愛い子もいて女性の方が優秀で、とてもいいですよ」と言っていたので、この世界に決めたのだ。
いや、俺高校二年生ですよ? そりゃ女体に興味しかないよね!
「お、俺達が不満だったのか?」
「いや、そうじゃないけど、俺はもっと華やかなパーティを想像してたんだよ!? それがなんでムサイ男だらけなのさ!」
ビルドが驚いた顔をしていた。それはもう、親友が俺はお前が好きなんだって言われたくらいの顔。
「確かにロイズの言う事も一理ある。が、それ以前の問題があるだろう」
「ああ、マーシュの言う通りだな」
マーシュとホーカスは同時に頷いた。
それもその筈、実はこの世界では剣と魔法の世界ではあるものの、自分の残りの命や攻撃、または攻撃を受けた際のダメージ量などを瞬時にパラメーターを呼び出してみる事ができる。
簡単にいうと、前の世界のように見た目がモノを言うような世界ではないってことだ。つまり、筋肉ムキムキだから強い、というわけではない。細身の人間が弱いということでもない。
何が言いたいのかというと、この世界では男より女の方が三倍強いのだ。
女子全員赤い彗星みたいな。
「男より、女の方が強いんじゃ、勧誘もできないじゃん!」
『……それはあなたが弱いからじゃない?』
「いやいやそれ関係ないでしょ! なんで女より弱い男が魔王やっつけなきゃなんないのよ!」
『それは結果論でしょう。大丈夫ですよ。さぁ、帰りましょう』
天に向かって文句を叫んだが、どうやら帰したいらしいな。
なるほど。
だったら、こっちにも言いたいことがある。
「……そんなに元の世界に帰したいのか」
『ええ、そういう約束でしょう? 最初は帰る為に頑張るとかうんとか言ってましたよね?』
「だが、事情が変わった」
『どういった事情なんでしょうか」
答えは単純だ。
「俺は、この世界に永住し、可愛い女の子と結婚して、骨を埋めるんだ!」
『はぁ?』
女神の声は上擦っていた。
いや、これガチな意見なんだもん。
何故、帰りたくないのか。なのに魔王を倒したのか。
この世界を歩き回り、火の中水の中森の中、歩き回ってきたが、強さだけじゃない、この世界の女は元の世界のレベルを1としたらレベル30くらいの可愛さなのだ。おっと、平均だぜ? 中にはもちろんレベル測定不能なんてのも珍しくはなかった。
高校二年生の俺には刺激が強過ぎたわけだが。悉く女に話しかけると「男のくせに話しかけてんじゃねーよ」という罵倒が飛んでくるのだ。もちろん、今はそれもご褒美になって……おっとここからは言わせるなよ?
「そういうわけだ。よろしくな、俺の婚活パートナー共よ」
「ロイズ……いいのか?」
「ん? どうしてだビルド」
「だって、最初はあんなに帰りたがっていたのに、俺達とそのコンカツパートナーとなって旅をするのだろう?」
「旅かどうかは、わかんないけどな」
いつも真顔のビルドが、やや口角が上がっている。少し嬉しいのだろう。
『待ちなさいロイズ! あなた何をしようとしているのかわかっているの!? 元の世界に帰れないのよ!』
「ふっ」
俺は目を伏せ、キメ顔で叫んだ。
「俺の親父は一つだけ。そう、一つだけだ! 俺にこう言った。男の中の男になりたくば、自分が良い女だと思った女は全員食らい尽くせ! とな」
『……却下ですね』
そうか……。ならば仕方あるまい。
「……困ったワガママガールさんだ。まさか、そこまで俺に惚れているとは……。そうまでして、俺をアンタの膝枕の上で寝かせておきたいんだろ? 俺の行動を監禁して束縛したいんだろ? 今時かは知らないが恋愛ソングでも聞いて俺を引き留めたいんだろ? なら先に言えよ。アンタも良い女だったから食べてや――――」
『気持ち悪い』
まだ話してる途中なのに、気持ち悪いは失礼じゃね? さすがのダイヤモンドハートの俺もちょっと傷ついたよ?
『はぁ……帰すにはもう一度私のところに呼び戻さないといけないし、戻ってきたら何されるか、考えるだけでも怖いので、ロイズ、あなたのことは置いていきます……』
「おっと、間違えるなよ? 俺はアンタが俺のことを好きだって、ずっと思ってるんだからな?」
『ストーカーになりかねないので、お願いです。私のところに来ないでください』
「それはツンデレってやつだな!」
『もう知りません。気持ち悪いので、二度と現れないでください』
そう告げると、天の声は消え、いつの間にか闇色の空は晴れていた。
徐々に青空が広がっていく世界に、俺達は魅了された。
「元の世界に、戻ったんだな……」
「……ああ、俺達の戦いはこれからだ!」
こうして、俺達の新たな冒険は幕をあけた。
「……で、なんでそんなに女が好きなお前が、世界を救ったんだ?」
「ん? そりゃ勇者になればモテると思ったからさ。ビルドもそう思ってついてきたんだろ?」
「いや、違うんだが……」
俺達は最初の街、ブリスタンコールに向かった。