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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第一章 船に乗る
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船に乗る5








******






 現在龍は、膝に白龍を乗せて馬車に揺られていた。足元には丸くなったユキが眠っている。左隣にはツェルンアイが座っており、右隣にはリシャーナが座っていた。

 正面にはエリス。エリスの左隣には白美と黒麒。そして、右隣にはアルトが座っていた。

 まさかアルトが馬車に乗ると思っていなかった龍は、ウェイバーが急ぎならアルトに頼むと言っていたがそれができないためどうするのかと思ったようだ。だが、他にも郵便配達員がいるのだから彼らに頼むのだろうと考えたようだ。

 アルトはこれからアクアセルシス王国に手紙の配達があるのだという。そのため、目的が同じであるエリス達と一緒に行くことになったのだ。アクアセルシス王国に手紙を届けたあとは、別の国へも行くようだったが、どこの国なのか教えてはくれなかった。

 しつこく聞くこともなかったのだが、馬車に揺られてすでに5時間がたっている。出発する前にアレースが6時間程度でつくと言っていたので、そろそろ目的地だろう。

 馬車を引いているのは、城で飼育されている龍馬だ。普通の馬より2倍速く走ることができる。そして馭者はエード。

 アクアセルシス王国に行くためには、東にある港町アクティアへ行かなくてはいけないのだ。家畜を育てている村を通ってからはかなりの速度で走らせている。そうしなければアクティアへは6時間でつくことはできないのだ。

 通りすぎた村からアクティアへは1日かかるのだ。だから、龍馬で行くのだという。1日も馬車に揺られているのは疲れてしまう。だから少しの悪い乗り心地は我慢だ。それに、普通の馬車であればもっと乗り心地は悪いのだろうから。

 もうすぐアクティアが見えてくるだろうと思いながら、龍はヴェルオウルを出発した時に馬車の中から見た女性を思い出していた。何故か龍と女性は目が合ったのだ。だから龍は女性をしっかりと覚えていた。

 茶髪で腰までの長い髪を持つ女性。目が合ったから覚えているわけではない。女性の目には、今の龍が言葉にできない思いがこもっているように感じたのだ。だから覚えている。

「そろそろアクティアだ」

 アルトが龍を見て言った。

 それから間もなく、港街アクティアが見えてきた。エードは馬車の速度を落としてアクティアへと入った。ヴェルオウルから離れているにもかかわらず、多くの人がいた。人種は人間だけではなく、エルフや獣人が多い。

「あら? あれは……」

 覗き込むようにして外を見ていたエリスが何かを見て呟いた。その視線の先を追うと、そこにいたのは知っている人物――サトリだった。

 レストランから出てきたサトリは1人ではなかった。白髪の男性と黒髪の人よりの獣人の女性と茶髪の人よりの獣人の男性と一緒だった。

 どうやらサトリは彼らと仲がいいようだ。レストランの前で笑顔で手を振り、離れていく3人を見送っていた。

「ねえ、サトリの近くで止められる?」

「大丈夫ですよ」

 エリスは、自分の頭の近くにある小さな窓をノックしてエードに声をかけた。その言葉が聞こえたようで、エードは頷いて答えると、向かってくるサトリの少し前で馬車を止めた。

 何故自分の近くで馬車が止まったのかと首を傾げるサトリ。足を止めていなかったサトリだったが、突然目の前で馬車の扉が開かれれば立ち止まってしまう。そのまま歩けばぶつかってしまうからだ。

 驚いて目を見開いたサトリの前に現れたのは、扉を開いた本人であるエリスだった。

「あら、お出かけ?」

「ええ。アクアセルシス王国にね。サトリは相談屋としての仕事でここまで来たの?」

「彼らは古い友人よ。ここに来るって連絡があったから、一緒に食事をしていただけよ」

 先ほど別れた3人と一緒にいたところを見られていたと気がついたサトリは笑顔でそう言った。古い友人と言ったことから、何度も一緒に食事をしたことがあるのだろう。

「それに、ここまで相談屋としては来ないわよ。で、貴方達はアクアセルシス王国へは観光?」

「ええ。行ったことがないから、これから船に乗って行くの」

 馬車内を覗きながら言うサトリに、エリスは嘘をついた。相手はサトリなのだから本当の事を言ってもいいのではないかと龍は思ったようだが、何か考えがあって嘘をついたもんだろうと思い何も言うことはなかった。

「サトリも一緒に行く?」

「船に酔うから遠慮しておくわ。それに、私は仕事もあるの。これから特別に私が出向いて相談に乗ってあげないといけない人もいるのよ。だから、帰ってきたら話を聞かせてね」

 そう言ってサトリは手を振って歩いて行った。相談屋としてはここまで来ないと言っていたのに、これから相談にのりに行くと言っていたサトリに龍は首を傾げた。

 贔屓にしている人なのか、それともお得意様なのかもしれない。サトリの元にどのような人達が相談をしに来るのかも龍は知らない。だから、考えてもわかるはずがなかった。

 馬車に乗り扉を閉めたエリスは椅子に座ると、窓をノックしてエードに出発を促した。歩いて港まで行けるが、このまま馬車に乗って行けば早くつける。エードはノックの意味を理解したようで、馬車はゆっくりと動き出した。

「なんでサトリに嘘をついたんだ?」

 正面に座るエリスに問いかけた。理由は知らなくてもよかったのだが、エリスがどうしてサトリに嘘をついたのかが知りたかったのだ。

「国王に会いに行くって言ったら、サトリに理由を聞かれるじゃない。それなら、観光でいいのよ。半分は当たっているし」

 アイルに会ったあと、観光のために数日はアクアセルシス王国に滞在するつもりなのだと龍は気がついた。

 ――荷物が少し多いと思ったのは、滞在するつもりだったからか。

 馬車に積んだ荷物。それには着替えが入っている。少し多いと思っていた龍だったが、女性だから多いと思っていたのだが、ここで違うのだとわかってしまった。

 龍は洗濯されていれば、同じ服を交互に着ても構わなかった。汚れていなければ、翌日に着てもいいと思っている。だから、滞在することを知らなくても数日分の着替えがあればそれでよかった。

 もしも必要になれば、現地で購入すればいいのだ。それは龍だけではなく、黒麒も思っていることだった。ただ魔物専用の服があるかはわからない。

 さらに馬車を走らせて数分がたった頃、龍は海の匂いを感じ取っていた。しかし龍は今まで海の匂いを嗅いだことはなかった。それなのに海の匂いだとわかった。

 それは、前代の『黒龍』達が知っているからだろうと龍は思い、不思議がることはなかった。

 龍馬が歩き始めたのだろう。馬車から見える景色がゆっくりになった。エリス達が下りる準備を始めると、馬車が止まった。それから間もなくエードが扉を開いた。

「港につきました。気をつけて下りてください」

 その言葉に、それぞれが荷物を手にして馬車を下りた。先に下りた白龍とツェルンアイは、最後に下りた龍から離れようとしない。

 それを見て微笑んだエードは、忘れ物がないことを確認してから静かに扉を閉めた。馬車を背にして、自分を見ている黒麒と視線を合わせた。

「右手に見える船が、皆さんの乗船する船です。乗船の際にチケットをお見せ下さい」

 そう言ってエードが指さす方向には大きな船があった。それは、豪華客船とも呼べるものだった。白龍達は大きい船に喜んでいたが、龍は本物の船をはじめて見たが、チケット代が高額なのではないかと考えていた。

 チケットはアレースが用意してくれたもののため、金額は誰も知らない。

 ――車はないのに、船はあるのか。

 金額のことは考えてもわからないので、別のことを考えることにした龍が思ったのはそれだった。

 この世界に来てから一度も車を見ていない。それに、飛行機も見ないだけではなく、言葉として聞くこともない。だからこの世界には存在しないのだろう。

 船は海を越えるために必要だったが、車は馬車があるから必要はない。さらに、この世界の住人は空を飛ぶという方法は考えなかったのだろう。

 だから、あちらの世界にも存在しているものはあるが、この世界にはないものが多いのだ。

 ――まあ、車とか飛行機は、馬車と船があるからいらないか。

 そう考えながら、エリス達と一緒に船へと向かう。白龍の荷物は黒麒が持っており、最後尾でエードと少し話をしてからあとを追いかけてくる。

「船、大きいね」

「そうね。はじめて見た」

 船を見上げて言う白龍とツェルンアイの言葉に龍は頷いた。後ろに追いついた黒麒の笑う声がしたが、気にすることはなかった。

 エリスが乗船チケットを渡しているのを見て白美達が船に乗って行く。階段を上りながら振り返るユキを見て、白龍とツェルンアイは龍から手を離して2人でゆっくりと階段を上り始めた。

 その後ろに続く黒麒は、2人が階段から落ちても大丈夫なように、両手を軽く前へと出していた。その様子に笑いながら龍はエリスを見た。

 すると目が合ったエリスが頷き階段を上り始めたので、龍も続いた。波に揺られ僅かに揺れる階段から、海を見下ろして龍ははじめて見る海に小さく息を吐いた。

 アクアセルシス王国にたどり着くまでの船旅で、何も起こらなければいいと願いながら龍は階段を上った。










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