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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第七章 日常へ
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日常へ4








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 スレイは静かに話しはじめた。静かに椅子に座り、取調室の薄暗い室内にも文句を言うことなく若干俯きながら話す。その話を、ラアットは黙って聞いていた。スピカを殺したのは自分が命じて銃を撃たせたシーアだった。そして、男が怒り撃った奴隷は偶然逃げた者だった。別に、スレイが何かをしたわけでもなかった。

 しかし、彼女は逃げている最中に偶然にもスピカが撃たれた現場を見てしまったのだ。そして、見ているところをスレイに見られてしまったのだ。だがスレイは追うことをしなかった。奴隷の言葉を信じる者はいないし、放っておいても誰かに捕まるのだから。だから放っておいても大丈夫。そう思っていた。

 スレイが思っていた通り、奴隷は数日後に死体で発見された。奴隷が死ぬのはよくあること。そのため、何故死亡したのかはわからなかった。知る気もなかったのだ。

 そして、シーア。彼女は黙っているようにと言われていたにも関わらず、スピカがいなくなった嬉しさから、スレイは自分のものだと思っていた。スレイはスピカではなく、自分を選んだと思っていたのだ。そのことから、シーアはまるで自慢話しのようにスピカを撃った日の話しをメイドや執事に話すようになってしまったのだ。しかも、話すのはスレイが出かけて屋敷にいない時だけ。話してはいけないとわかっていても、スレイが出かけると気持ちをおさえることができなかったのだ。そんなシーアの所為で、屋敷のメイドと執事の全員がスピカが死んだ真実を知ってしまったのだ。

 暫くは、メイドも執事も知らないふりをしていた。だが、スピカが殺されたように自分たちもいつか殺されるのではないかと恐怖を隠してメイドと執事達は屋敷で働いていた。屋敷で働いている全員が、屋敷に奴隷がいることを知っているのだ。だから、シーアの話しを聞いて次は自分かもしれないと思いすごしていたのだ。

 そう思っていれば、スレイに会った時の態度が変化してもおかしくはない。態度の変化にはスレイもすぐに気がついた。だから、出かけたふりをして屋敷を見張った。そして、シーアが真実を話しているところを見てしまった。

 黙っているように言っていたのに、自慢話しのように話すシーアを許すことができなかった。スレイは屋敷へと静かに入ると、持っていた短刀で、会うメイドや執事の心臓を一突きにして殺していった。そして残ったのはシーアだけ。コックも全て殺したスレイは、殺されたメイド達を見て震えるシーアに微笑みかけた。

 その微笑みにシーアは安心した。だがスレイが許してくれるはずもなく、シーアは他の者たちと同じように心臓を一突きにされた。スレイは素早く行動した。そのため、メイドや執事達が助けを求める前にスレイは屋敷にいる者全員を殺害したのだ。最後にシーアを残したのは、恐怖から動けなくなるだろうと思ったからだ。怒らせてはいけない者を、怒らせたことにより動けなくなるなんてスレイはわかっていたのだ。

 スレイは屋敷にいた全員を殺害した。それだけではなく、スレイは殺害した全員に蘇生魔法をかけた。それは、この世界では禁忌とされている魔法の一つだ。死んだ者を魔法で生き返らせてはいけない。それは、スレイも知っている。それなのに、蘇生魔法をかけたのだ。

 その理由は、自分の命令に従わせるためだ。蘇生魔法は、死者を生き返らすことができるが、生き返らした者の意思はなく、蘇生魔法をかけた者の命令だけを聞いて動く者となるのだ。

 僅かに体内に流れる血液が、体を腐らせる速度を遅くしているのだ。体に魂は存在しておらず、スレイの魔力により体が動くようになったのだ。言葉を話すことのない、ゆっくりと体が腐って行く、スレイの命令しか聞かない人形。そして、そんな彼らから必要のなくなった血液を、自分の武器にするために常に持ち歩いていたのだ。

 だからスレイは、スピカに蘇生魔法を使わなかったのだ。スレイは、自分の意思で行動をして話す生きた彼女が好きだったのだ。奴隷がいることをアレースに話そうとしなければ生きていたスピカ。話すことさえしようとしなければ、奴隷がいると知っていても別に殺すことはなかったのだ。そんな彼女が、自分の命令を聞くだけの人形となるのならば、蘇生はしたくなかった。自分の命令だけを聞く彼女なら、スレイはいなくていいと思ったのだ。

 シーア達は、身の回りの世話などをしてもらうために必要だったのだ。掃除も料理も全てメイドと執事、そしてコック達がしていた。突然姿が見えなくなって、周りの者達に不審がられるのもよくはなかった。蘇生する前からやっていたことは、同じようにできる。蘇生されてから新しくやることは、上手くできない。そのため、スレイは屋敷に人を呼ばなくなった。人を呼んで、メイド達の様子がおかしいことに気づかれたくなかったのだ。それだけではなく、僅かに漂いはじめている腐敗臭にも気づかれたくなかったのだ。

 用心していたため、今までずっと誰にもバレずにいたのだ。ツェルンアイのために白龍を誘拐してもらわずにいたら、今もバレずにいただろう。それだけではなく、犯罪者として捕まることもなく、ツェルンアイと引き離されることもなかったのだ。そう、半笑いでスレイは言った。

「彼女――ツェルンアイのことは一目惚れで、スピカさんのように好きで大切にしたかったらしい。だから、地下に閉じ込めていた」

 屋敷の裏庭の下にあった地下室。ツェルンアイに怪我をさせないため、そこに閉じ込めていたのだという。閉じ込めていれば、怪我をしないだけではなく、病気になることもないと考えたようだ。だがそれを聞いたガヴィランは、あの地下にいたら逆に病気になってしまうと思った。

 あの地下の奥には生きている者はたしかにいたが、それ以外に多くの死者がいた。それをあの場に放っておいたのだ。別の病気にかかっていてもおかしくはない。それは、あの地下に出入りしていたスレイにも言えることだ。

「さて、一つだけツェルンアイに聞いておきたいことがある」

「まだ、何か?」

「ああ。エリス達がいる場所で聞くつもりだった。今後、何処で暮らして何をするのかを聞きたい」

 ガヴィランのその言葉に、ツェルンアイは一度龍を見たが俯いてしまった。それは、龍に言っても意味がないといってもいいものだったからだ。しかし龍は、何故ツェルンアイは自分を見たのかと首を傾げていた。

 龍に言っても仕方がないのだから、ツェルンアイは目を閉じてゆっくりと息を吐くと目を開いて顔を上げた。今後自分が住む場所はない。何故なら、ツェルンアイは森に住んでいたのだ。何処の森かはわからなかったが、森へ帰ることができても、そこにはもう仲間の姿はないのだ。ツェルンアイがその森へ帰る理由もない。

「私には、帰る場所も住む場所もない。だから、今後もあの家にいてもいいかな。何ができるかはわからないけれど……」

 エリスを見て言うツェルンアイの言葉を、ガヴィランもラアットも黙って聞いていた。だが、その言葉を聞いてエリスは首を傾げていた。

「え? てっきりずっと住むんだと思っていたのだけれど……違ったの?」

 エリスはツェルンアイを保護するとは言っていたが、そのまま家に住むものだと思っていたようだ。だから、ツェルンアイの言葉が不思議で仕方がなかったようだ。

「住んでもいいの? 何もできないのに」

「別に何かをしてほしくて、住んでいいって言ってるわけじゃないわよ。それに、暫くは私たちの手伝いをしてくれれば良いわ。ツェルンアイができるような簡単なことしか頼まないから安心して」

「よし! じゃあ、それで決まりだな」

 ツェルンアイとエリスの会話を聞いていたガヴィランが一度両手を叩くと、懐からメモ帳とペンを取り出した。そして、何かをメモするとすぐに懐へと仕舞ってしまった。

 先ほどツェルンアイに何処で暮らすのか、何をするのかを尋ねていたので、エリスの家に住み手伝いをするということを書いたのだろうと龍は思った。もしも、別の国へ行くのならばメモをすることはなかっただろう。この国には関係ないことなのだから。

「さて、そろそろ戻るよ。これでも俺達は忙しい」

 そう言ってガヴィランはラアットを見た。目が合うとラアットは小さく頷いて白美を見てから来た道を戻りはじめた。すぐにガヴィランも続くのかと思っていると、ガヴィランは龍に近づいて耳打ちをした。

「ツェルンアイは本で得た知識はあっても、森の中でずっと暮らしていたから、お金のこともよくわからないらしい。だから、色々と教えてやってくれ」

 そう言うとガヴィランは、龍の背中を力強く叩いた。本で知識を得たとしても、森で暮らしていたツェルンアイはお金を必要としなかった。だから、お金の使い方というものがよくわからないのだ。

 森に住んでいれば、食べ物は自分自身で獲らなくてはいけない。肉は、鹿やウサギを狩れば簡単に手に入るし、キノコなども森に生えている。だから、お金を出して買う必要もないのだ。そのためツェルンアイは、お金を使ったことがない。一緒に暮らすのなら、今後買い物に行くとき、そばについてお金の払い方などを教えればいいと龍は考えて頷いた。

「さてと、行くか。あ、ウォーヴァー」

「……何だよ。行くならさっさと行けよ」

「酷いな」

 ガヴィランを見て、目を見開いていたウォーヴァーに声をかけると、冷たくそう言われてしまう。しかしガヴィランは気にしていないようで、一度小さく笑うと口を開いた。

「組織の(おさ)として、自警団を見て警戒するのは良いいことだと思う。けどな、知っている仲じゃなかったら、何かやましいことでもあるのかと思うぞ。それと、あの3人のことなんだけどな」

 あの3人と言われて、ウォーヴァーは小さく頷いた。スインテ、グスティマ、ルスディミスのことだと白龍とツェルンアイ以外はすぐにわかった。

 ユキはエリス達に話しを聞いているため知っているが、白龍とツェルンアイには話していないし、その必要もないと全員が考えているため2人は首を傾げていた。

 だが、2人以外はガヴィランの言葉の続きを待って何も言わなかった。黙っているウォーヴァーたちを見て、ガヴィランは続きを口にした。

「あの3人は、今回のこと以外でも犯罪に手を染めている。中には殺人ってのもある。刑務所送りは免れられない」

「二度と出てこられないのか?」

「……最低20年は出てこられないな。最悪、終身刑だ。それで、一つ聞きたいんだが……あいつらが、いつ何処に行ったとかってのはわからない……よな?」

「わかるわよ」

 そう言ったのは、丁度扉を開いたアリエスだった。アリエスは、依頼に行く者達から何処へ向かうのかを聞いてメモをしていた。それは、スインテ達も同じ。

 全員が出かける前に、アリエスに何処へ行くかを告げる。誰に言われなくても、全員がそうするのは習慣となっているからだ。スインテ達も、いつも出かけるとにはアリエスに行き先を告げていた。だから、アリエスは知っている。いつ、誰が何時頃に何処へ向かったのかを。それが、嘘でなければだが。

「なら、後日話しを聞きに来る。その時は……私服がいいか?」

「ああ。お前も俺の仲間に敵意を向けられるのは嫌だろう?」

「当たり前だ。お前の組織は、俺達自警団ではかなり信用しているからな。あの3人以外に悪い噂もないしな。……それじゃあ、早くて明日には来る。もしも制服で来たらごめんね!」

 笑顔でそう言うと、ガヴィランは軽く手を振って小走りでラアットを追いかけた。もしも制服で来た時のことに対して文句を言おうとしたウォーヴァーだったが、少し行った先で待っていたラアットと合流している姿を見て小さく溜め息を吐くだけで何も言うことはなかった。これ以上彼らの仕事を遅らせてはいけない。忙しいと言っていたのだから。

 そんなウォーヴァーを見てアリエスは小さく笑った。そのことに対してウォーヴァーは何も言わなかった。笑われたことには気がついていたが、言っても無駄だと考えたのだろう。

「それじゃあ、本当に行くわね」

「ああ。気をつけてな」

「ばいばい、白龍ちゃん」

「うん。ばいばい」

 龍と右手を繋いで白龍は、手を振るアリエスに手を振り返した。手を振ることはなかったが、ウォーヴァーは腕を組んで僅かに微笑んでいた。

 先頭を歩くエリスとリシャーナが「住民登録をしないといけない」という会話をしているのを聞いて、龍は自分の住民登録はされているのだろうかと思った。もしもされているのならば、エリスがやってくれたのだろうと考えた。

 だが実際は、エリスではなくアレースが登録してくれたのだ。龍だけではない。黒麒と白美、白龍、それに動物であるユキの登録も全て、アレースがやったのだ。

 エリスとリシャーナの話しを聞く龍と手を繋いでいる白龍は、歩きながら辺りを見渡していた。手を繋いでいるため、離れる心配はないだろうと安心して見渡しているのだ。それに、白龍の隣には龍だけではなくツェルンアイがいるのだ。手は繋いでいないが、隣に知っている人がいるだけでも安心できたのだ。知らない人に並ばれることもないから。

 道行く人は、買い物をしていたり仕事の途中だったりと様々だ。中にはエリス達に視線を向ける人もいるが、すぐにそらして歩いて行ってしまう。

 しかし、1人だけは違った。茶髪の背中までの長さの髪をした女性は立ち止まって睨みつけるようにして誰かを見ていた。白龍はその視線の先が何故か気になった。女性の視線の先を見ると、そこにいたのは龍だった。

 女性がどのような思いで、龍を見ていたのかは白龍にはわからなかった。しかし、何故か胸が少し痛んだ気がして俯いた。そんな白龍の痛みに気がついたのか、龍が白龍に「どうかしたのか?」と問いかけた。『白龍』と対である『黒龍』には、痛みや苦しさがわかるのだ。それは、怪我の痛みなどではなく心の痛み。その痛みに、龍は気がついたのだ。首を傾げて問いかける龍に、白龍は目を合わせて首を横に振った。

「何でも、ない」

 そう言って微笑んだ白龍は、龍に女性のことを話さなかった。もしかすると、魔物が嫌いなため、龍を睨みつけていたのかもしれないと考えたからだ。

 しかし今の龍には角が生えていなければ、翼も生えていないのだ。しかし、以前そんな姿の龍を見たのかもしれない。だが、それはないと白龍は思った。だからあの女性は、魔物だから睨みつけていたというわけではないと白龍は気がついていた。では、何故睨みつけていたのか。

 それは、どんなに考えても白龍にはわかるはずもなかった。もしかすると、前代の『白龍』の記憶があればわかったのかもしれない。白龍は、そう思った。








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