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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第七章 日常へ
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日常へ2








******






 白龍は目を開けることが怖かった。龍達と出かけて、疲れたから1人でベンチに座り待っていただけなのに、後ろから誰かに押さえられて薬を嗅がされて眠ってしまった。そして、目を覚ますと知らない場所にいた。

 明かりもなく暗いそこは、白龍の目で確認しなくても近くに龍達がいないことはわかっていた。けれど、そこにはツェルンアイがいた。初めて会う人ではあったが、白龍はツェルンアイが危ない人ではないとわかって安心できた。

 知らない場所に1人でいるというわけではなく、ツェルンアイと一緒にいたから安心することができたのだ。けれど、いつも一緒にいた龍達ではないから少し不安ではあったし、寂しくもあった。でも、それをできるだけ隠して龍達が助けてくれるのを待っていた。

 ツェルンアイと仲良くすれば、それだけよくない視線を向けられていることには気がついていた。それでも、仲良くすることをやめるなんてことはできなかった。同じ空間にいるからというだけではない。何故なら、ツェルンアイが初めて会った時よりも明かるくなり、よく話し、良よく笑うようになったからだ。

 その変化が嬉しくて、仲良くしないという考えはなかった。たとえ、そのよくない視線の人物が攻撃してくることになっても考えが変わることはなかったのだ。しかし、攻撃されるのは白龍のはずなのに、自分を守って怪我をするツェルンアイを見て、白龍は早く助けが来ればいいのにと願っていた。

 本当は助けてくれるのが龍達ならいいと思っていたが、助けてくれるのなら誰でもいいと思うほどにツェルンアイの怪我は増えていった。そしてあの日、白龍は龍の声が聞こえた気がしていた。

 黙っていると、ツェルンアイの言葉に返答をして姿を見せたのはやはり龍だった。まだ助け出されてはいなかったが、白龍はこれで暗いここから出られると思ったのだ。

 それなのに、今目の前はとても暗かった。それは、目を閉じているからだとすぐに気がついた。それでも、目を開けるのは怖かった。何故なら、龍に助け出されたことは夢で、本当は今でもあの暗い場所にツェルンアイと2人でいるのではないかと思ったからだ。

 けれど、あれが夢だったのか、それとも本当にあったことだったのかを確かめるには目を開かなくてはいけない。白龍は落ちつくために息を吐いてからゆっくりと目を開いた。

 ――明か、るい。

 視界に入ったのは、天上だった。暗くないのなら、龍に助けられたのは夢ではないのだろう。それがわかり、白龍は安堵の息を吐いた。けれど、今いるここは誰の部屋かわからず、白龍は起き上がろうとしてやめた。

 右腕に触れる何かを確認して、それが眠っているユキだと気がついたからだ。1人でいると起きた時不安がるだろうと思われて、隣にユキがいるのだろうと考えた。

 ユキへと体を向けて、左手で起こさないようにユキを撫でる。本当に帰ってきたのだと、ユキを見て思う白龍だったが、もしかするとまた違うところにいるのではないかと不安になってくる。それは、龍の姿を見ていないからだ。気配で近くにいるということはわかるのだが、不安がっている白龍はそのことに気がついていなかった。

「泣いてるの?」

「え?」

 白龍に声をかけたのは、眠っていたはずのユキだった。どうやら、熟睡していたわけではなかったようだ。いつの間にか顔を上げて白龍を見ていた。いつもより優しい声のユキは、白龍に顔を近づけた。

 顔を近づけられても白龍は逃げなかった。それよりも、ユキに言われたことに驚いたからだ。気がつかないうちに涙を流していたのかと思った白龍は、右手で自分の頬に触れたが濡れてはいなかった。

「泣いて、ないよ」

「心が泣いてる」

 そう言って、まるで流れる涙を拭うようにユキは白龍の頬を舐めた。そして、ゆっくりと体を起こすと爪を立てないようにベッドの上で伸びをした。

 そして、その場に座り黙って白龍を見た。その眼差しには、下に行かないのかという問いかけが含まれていることに白龍は気がついた。行きたいけれど、本当にそこにいるのかは分からないため怖いのだ。

「大丈夫。一緒に行こう」

 ベッドから下りて言うユキに白龍は頷くと、ベッドの横に置いてあった自分の靴を履くとゆっくりと立ち上がった。そして、部屋を見渡して漸くこの部屋が龍の部屋だと気がついた。いつも寝起きしていた部屋だと、今気がついたのだ。開かれている扉に近づくと、ユキが先に廊下へと出た。

 自分の知っている場所であることは間違っていなかったが、下からは誰の声も聞こえなかった。廊下を歩く白龍を振り返りながら、ユキはゆっくりと階段を下りはじめた。

 あまり離れないように、白龍も階段を下りはじめた。しかし、無意識に足音を立てないように階段を下りていた。それは、もしもそこにいるのが龍達ではなかった場合、すぐに逃げられるようにと考えた白龍が意識することなくやっているのだ。知っている場所であっても、もしかすると似ている場所なのかもしれないと声がしないため考えた。

 先に階段を下りたユキは、一番下で大人しく座って白龍を待っていた。ソファーに誰も座っていないことを確認すると、足音をたてないようにキッチンを覗いた。

 そこには、見慣れた人達の姿があった。だが、全員が背中を向けて何かをしていた。何をしているのかは、白龍からはわからなかった。ユキがゆっくりとキッチンに近づき、エリスの足にすり寄った。

「あら、ユキ。……白龍、おはよう。体調はどう?」

「なんとも、ない。なに、してるの?」

 すり寄ってきたユキの頭を撫で、キッチンを覗いている白龍に気がついたエリスは、白龍に近づいてしゃがんで声をかけた。顔色もよく、小さく安堵の息を吐いた白龍は背中を向けている龍を見て問いかけた。

 白龍に問いかけられた龍は、開けていた冷蔵庫の扉を閉めて振り返った。白龍に近づき、しゃがむと龍は微笑んで右手で白龍の頭を撫でて口を開いた。

「おはよう、白龍。みんなで作ったのが、丁度できたんだ。歯と顔を洗っておいで。準備をしておくから」

「……うん」

 頭を撫でられ、嬉しそうに目を細めて笑みを浮かべていた白龍だったが、右手で龍の服を掴んで俯いて返事をした。家の中であろうと、離れることが嫌だったのだ。1人になることが怖くて仕方がなかったのだ。

 そんな白龍の思いに全員が気がついた。だから、準備をするのなら手伝えないという理由と、自分は邪魔になるだろうという理由から、ユキと白美が白龍に近づいた。

「それじゃあ、一緒に行こう」

「私は作ることに参加できなかったけど、白龍のためにみんな頑張っていたみたいだよ。歯と顔を洗ったら、みんなと食べよう」

「うん。みんなと、食べる。楽しみ」

 そう言った白龍は龍の服から手を離した。その手を白美が握ると、手を引いて白龍とユキと一緒にリビングを出て行った。開けたままの扉の向こうから、白龍達の声が聞こえる。楽しそうに話す白美の声、それに答える白龍の声を聞いて龍は一度手を叩いた。

 準備をするために、扉から自分の後ろにいるエリス達を見た。彼女達の手には、すでに皿やスプーンなどが握られていた。どうやら、彼女達もできたものを早く食べたくて仕方がなかったようだ。

「盛りつけするから、皿は二列くらいで並べてくれ」

「わかりました」

 皿を持つ黒麒に言うと、黒麒は盛りつけしやすく皿を並べた。それを見て、龍は冷蔵庫から三つのタッパーを取り出して、皿のそばに置いた。

 両手が塞がり、冷蔵庫の扉を閉めることができない龍の代わりに悠鳥が閉めた。それに礼を言って、龍はタッパーの蓋を開けるとエリスからお玉を受け取り、盛りつけをはじめた。

 そんなエリスを黙って睨みつけるようにして見ている人物が1人いた。それは、ツェルンアイだった。彼女は、作ったものができるまでの間に改めて全員を紹介されていた。悠鳥とは、初めて会ったのだが、『不死鳥』ということに驚きはしたが、今のエリスに対するようなことはしなかった。それどころか、初対面にしては仲がよさそうにしていた。

「そんなに睨みつけなくたって、私は龍に対して恋愛感情なんて全くないから安心して、ツェルンアイ」

「……それは、わからないじゃない」

 そう。ツェルンアイは、エリスが龍のことを好きなのではないかと疑っているのだ。龍のことは、好きだけれど恋愛感情はないと言っても、何故か信じてくれないのだ。悠鳥達の言葉は信じても、エリスの言葉や気持ちは信じないのだ。それはもしかすると、女の勘というものなのかもしれない。

 エリスは気がついていないだけで、本当は龍のことが好きで、ツェルンアイはそのことに気がついているという可能性がないわけではない。

 だが、エリスは龍を恋愛対象としては見ていないというのは事実。ツェルンアイがどれだけ警戒をしようが、それは今のところ変わることはないのだ。

「さて、盛りつけ終わったから並べていいよ」

 そう言った龍が盛りつけていた皿には、同じ大きさの丸いものが三つずつ乗っていた。龍に言われて、リシャーナと悠鳥がテーブルに皿を並べて行く。

 そして、それぞれの皿に黒麒に手渡されたスプーンをエリスとツェルンアイが置いていく。全てに置くと、白龍の手を引いた白美と白龍が現れた。その後ろにはユキが歩いている。

「タイミングがいいですね」

 そう言った黒麒は白美と目を合わせた。その意味がわかった白美は、白龍の手を引いて他の皿よりも小さな皿が置かれているテーブルの前の椅子に座らせた。

 皿に乗っているものを見て目を見開いた白龍は、隣に座った龍を見上げた。エリス達も皿が置かれているテーブルの前の椅子に適当に座り、白龍を見ていた。

「みんなで、白龍のために作ったんだ。それぞれ味が違うんだ。白龍はどれが好きかな? 今度はそれを一緒に作ろう」

 微笑んで言う龍に、白龍は視線を皿に戻してスプーンを手に取った。そして、全て一口ずつ食べて一つを指差して口を開いた。

「これ! この、アイス。どれも、美味しい。でも、これ」

 白龍が指差したのは、山羊乳で作ったアイスだった。他にも牛乳と羊乳で作ったアイスがあったのだが、やはり飲み慣れている山羊乳で作ったものが口に合うようだ。

 笑顔で美味しそうにアイスを食べる白龍を見て、エリス達もアイスを食べて感想を述べている。やはり、山羊乳で作ったアイスが好みのようだ。そして、自宅でアイスを作ることができるということに驚いていた。この世界では、アイスの作り方を知っているのは一部の者だけのようだ。

 龍はアイスを食べる白龍を見て、安堵の息を吐いた。白龍はアイスを購入するために、1人で待っていたときに誘拐されたのだ。もしかしたら、アイスを見て嫌なことを思い出すかもしれないと考えていた龍だったが、そんな様子もなく安心したのだ。

 スプーンを手に取り、龍は牛乳で作ったアイスから食べはじめた。久しぶりに口にした牛乳の味に笑みを浮かべた。体は違っても、やはり龍にとっては牛乳で作ったアイスが一番だった。だが、白龍や他の者達にも好評な山羊乳アイスを今後も作るのだろう。

 それに、牛乳は高くあまり売ってはいないのだ。龍は一度だけ牛乳が売っているのを見たが、山羊乳よりも高く倍以上の値段をしていたのだ。それなのに龍は無理を承知で山羊乳、羊乳、牛乳の購入をアレースにお願いしたのだ。

 白龍にアイスを作ってあげたいという願いを聞いたアレースは、思っていたよりも早く全てを揃えて配達してくれたのだ。しかも、思っていた以上の量で、自分達の分も作ってくれという意味を込めて、入れ物もつけて。

 それらも同時に作り、今は冷凍庫の中だ。次にアレースが家に来た時か、龍が城に行くときに持っていけばいいのだ。白龍を連れて、城へも顔を出したいので、その時でもいいだろうと考えていた時知った声が聞こえた。

「おっ、アイスじゃん。美味しそうだな」

「ガヴィラン!?」

 いつの間に家へ来たのか。リビングに入ってきていたことにも龍は気がつかず、後ろに立つガヴィランに驚いて振り返った。その隣にはラアットも立っている。龍の正面に座っている黒麒や、その隣のエリスは気がついていたようだ。

 龍の右隣に座るツェルンアイも驚いて目を見開き、2人を黙って見ている。そんな2人を気にすることなく、ガヴィランは龍の手からスプーンを取り、ソファーの背もたれから身を乗り出して龍が持つ皿からアイスを一口食べた。

 ラアットはエリスの右隣に座る白美に近づき、アイスを食べさせてほしいと手を合わせて頼んでいる。目を細めて何も言わない白美だったが、アイスを食べて機嫌がいいのか三種類のアイスを食べさせていた。

「うん。変わった味のもあるけど美味しいな」

 三種類のアイスを一口ずつ食べたガヴィランが感想を言って、龍にスプーンを手渡した。それを黙って見ていたエリスが、ガヴィランに声をかけた。

「それで、何しに来たの?」

「ああ。彼女の事情聴取をするために呼びに来たんだ。それと、お前達が宿に置いて行った荷物も持ってきた」

 『彼女』と言ってガヴィランはツェルンアイを見た。スレイの屋敷にいつからいたのかなど聞きたいとわかったツェルンアイは、アイスを食べ終わった皿をテーブルに乗せて皿にスプーンを置いた。

 ガヴィランが持ってきた荷物は黒麒が受け取り、洗濯をするために籠へと置きに向かう。

 黒麒がリビングを出たのを見て立ち上がろうとしたツェルンアイだったが、右隣に座るリシャーナが口を開いたため大人しく座ったままでいた。

「屋敷の地下にいた子達はどうしたの?」

「事情聴取ができる者はした。自宅があり、帰宅を希望する者は体調がよくなれば送ることになった」

「他の方は?」

「帰りたくない者や、帰る場所がない者は施設で住み込みで働いてもらおうと考えている。施設は人手不足だからな。アレースに許可はもらってる。あとは本人達次第だ。動くこともできない者達は、とりあえずメモリア先生の元へ連れて行った」

「そう……」

 メモリアの病院で手当てを受け、動くことができるまで回復することができれば、そのあとどうするのかを考えていけばいい。だが、メモリアの元へ連れて行った者は回復する可能性が低いのだ。それは、メモリア本人の口から出た言葉でもあった。

 それでも、治らないからと見殺しにすることはできない。回復する可能性も少なからずあるのだ。だから、メモリアは連れてこられた者達を引き受けたのだ。

「さて、一緒に来てもらってもいいか?」

「聞かれたことに答えればいいんでしょ?」

「言いたくなかったら、無理に答えなくてもいいからな」

 立ち上がったツェルンアイに言ったのはラアットだった。龍と白龍の前を通り、ガヴィランに近づくツェルンアイを見て龍は口を開いた。

「何かしたら殴るからな」

「しないって。何? 心配してるの?」

「当たり前だろ。あんな場所にいたんだから」

「安心しろ。帰りもしっかり送るし、もしも何かあったら守ってやるからさ」

 笑顔で言うガヴィランに龍は一度頷いた。黒麒がリビングに戻ってきたのを見たエリスは、あることを思い出した。思い出して小さく声を上げたエリスに、ガヴィランが視線を向ける。

「あ。そういえば、ウォーヴァーのところに行かないといけなかったんだ」

 朝冷蔵庫を持ってきたウォーヴァーは、「ヴィシーデがお詫びをしたいらしいから、今日来てくれ」とエリスに言っていたのだ。そのことを、新しくなった冷蔵庫に喜んでいたために忘れてしまっていた。

 今そのことを思い出したエリスに、ガヴィランは少し悩んで軽く手を叩いた。家へ送っても、誰もいなければツェルンアイがもしかすると不安になるかもしれない。そう思って、ガヴィランは何も考えずに言った。

「それなら、魔物討伐専門組織『ロデオ』に一度立ち寄って、お前達がいればツェルンアイは一緒に帰ればいいな」

「……そうね」

 そう言うと、ガヴィランとラアットはツェルンアイを連れてリビングを出て行った。ウォーヴァーのところに行くと聞いて、ヴィシーデのことだと気がついた龍は、ツェルンアイと白龍、そして自分の食べ終わった皿とスプーンを持って立ち上がるとキッチンへと持って行った。

 黒麒もエリス達の皿とスプーンを持って来たので、龍はそのままそれらを洗う。洗わずに置いておくよりも、先に洗っておいたほうがいいだろうと考えたのだ。量も少ないので、すぐに洗い終わる。

 濡れた手をタオルで拭くと、外出の準備をしているエリス達を見て階段を上って、部屋に入ると財布を取った。机の上に置いていた指輪を手に取り、定位置につけると部屋を出た。扉は開いたままだ。

 階段を下りて、手にしていた財布をポケットに仕舞うと、エリス達と同じように立ち上がっていた白龍と右手を繋いだ。

「さて、行きましょうか」

 そう言ってリビングを出たエリスの後ろにユキが続いた。どうやら、今回はユキもついて来るようだ。気温はそこまで高くないと言っても、地面は熱くなっているだろう。

 ユキのことも白龍と同じように注意して見ていようと考えながら、龍は黒麒の後ろに続いてリビングを出た。その後ろには、白美とリシャーナが続いていた。








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