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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第五章 真実
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真実6







******





 スピカは奴隷が逃げたことに怒った男が撃った銃によって命を落としたのではなく、スレイの屋敷で働いてるメイドの銃によって命を落とした。しかも、それを命じたのはスレイだったのだ。

 それを知って、エリスは歯を力強く噛んだ。真実を知っていながら、スレイは知らないふりをした。それどころか、すぐに手当てをすれば助かったかもしれないのに、それをしなかった。たとえ奴隷がいることを知られたとしても、スピカと別れるようなことにならなかっただろう。何故なら、スピカはスレイのことが本当に好きだったから。どうしてエリスの姉、スピカを殺す必要があったのか。そう思う龍の考えを読んだかのように、スレイは口を開いた。

「私の仕事は信用が第一なんですよ。奴隷がいないからと信用して、取引をしてくれる方々が多いのです。それなのに、彼女が手紙であっても誰かに奴隷がいることを話してしまっては、今後今のように仕事ができなくなる可能性が高いのです。だから……ね?」

「……好きだったんじゃないの?」

 スレイを睨みつけながら、低い声でエリスが問いかける。その問いかけに、スレイは何度も頷いた。その頷きは、エリスの言葉を肯定したからだろ。普通ならばそう考えるだろうが、エリス達は誰もそうだとは思わなかった。

 スレイは言葉にしていないため、『好き』なのか『好きだった』のかはわからない。スピカを手にかけようと決めた時、スレイはどう思っていたのか。

「ふふっ。当時はスピカのことが、とても好きでした。ですから、私自身で手をかけることをしなかったのです。いいえ、私自身で手をかけることができなかったのです。好きな人を手にかけるなんて、誰だって嫌でしょう? ですから、彼女にしてもらったのです」

 そう言ってスレイは指を鳴らした。すると、エリス達のいる1階やスレイのいる2階の様々な部屋から人間が現れた。その格好から、この屋敷で働くメイドと執事だとわかる。しかし、見るからに全員の様子がおかしいのだ。

 全員の露出している肌が異様に青白かったのだ。まるで、生きていないのではないかと思ってしまうほどに青白い。だが、彼らは自分の足で動いているのだ。

 階段の前にいたエリス達を半分囲むようにして立つ彼らは、ラアットと白美が警戒する。エリスはスレイを睨みつけていたが、スレイに近づいた人物を見て目を見開いた。何故なら、一瞬そこに姉であるスピカがいると思ってしまったのだ。スレイの横に並んだメイドは赤い髪をしていたが、とてもスピカに似ていたのだ。しかし、それはスピカではなくジェラ・シーアだ。

「スピカを殺したのは、この子だよ?」

「それ、でも……貴方が命令をしたのなら罪は同じよ」

 あまりにもシーアがスピカに似ているため動揺するエリスを、スレイは口元に笑みを浮かべながら見ていた。スピカはいなくなってしまったが、スレイはスピカに似ているシーアをそばに置いて満足しているようにも見えた。

「スピカに似ているでしょう? 黙っていれば、髪の色が違うだけで本人と間違ってしまいそうになるでしょう?」

「……ならないわ」

 冷静になってシーアを見てみれば、顔は似ているがどう見てもスピカに間違えることはなかった。立ち姿も、目つきもスピカとは全く違うのだ。世の中には似た人間が3人はいるという。シーアはその1人だというだけだ。

 スレイの話からも、スピカとシーアの性格が全く違うことがわかっている。それでも似ているというだけで、そばにいることにスレイは本当に満足しているのだろうか。

「……さて、貴方達はあの日の真実を知ってしまった。……真犯人を知っている者が生きていては困るのです。なので……死んでください」

 語尾にハートがつくのではないかと思う言い方をしたスレイは、口元に笑みを浮かべたまま右手を上げた。すると、エリス達を囲んでいたメイドと執事達がゆっくりと動き出した。どうやら、右手を上げることによってメイドと執事達に指示をしたようだ。

 それと同時に、あたりに不快な匂いが漂った。それは、白美とユキだけではなくエリス達も気がつくほどの匂いだった。いったい何の匂いなのかと思う龍の耳に、ユキの静かな声が届いた。

「これは、死臭だよ」

「死、臭って……まさか、こいつら」

「あれ? もしかして、そのネコが喋ったのかな? 残念ながら私には何かを言ったようには聞こえなかったけどね」

 足元にいるユキを見た龍の言葉に、スレイはユキが何かを言ったのだと気がついたようだ。しかし彼はアレースと同じで、ユキの言葉を聞くことができないようだ。きっと、ラアットにもユキの言葉は聞こえてはいないだろう。何故なら、彼らはただの人間だ。ただの人間でユキの言葉を聞くことができるのは、エリスだけなのだ。彼女がユキに魔法をかけた本人のため、彼女だけにはユキの言葉が聞こえるのだ。だから、彼らにはユキの声は聞こえないのだ。

「死臭……ウルル山脈では嗅がないから、すぐに気がつかなかったよ」

 雪山では死臭を嗅ぐことが少ないのだろう。白美が低い声で言いながら、近づいてくる執事が伸ばす両手を凍らせた。すると凍った両手は、凍った重みに耐えられずに床に落ちて砕けてしまう。

「思ったより腐敗しているみたいだな。動いただけで、体が崩れないことが不思議なくらいだ。まあ、原因はあいつしかいないだろうけどな」

 相手はすでに死んでいるため、ラアットは剣を抜いて近づいてくるメイドや執事を戸惑うことなく斬りつけていた。たとえ斬りつけたとしても、殺人にはならないという安心感から手加減をしていないのだろう。それに、手加減をして自分が怪我をするのも嫌なのかもしれない。ラアットは一応護衛としてついて来ているのだ。手加減をして、そばにいる白美が怪我をするのも気分がいいものではない。

「はじめは、このままだとシーアが屋敷以外の者にも真実を話してしまいそうでしたので、心臓を突き刺してから蘇生魔法をかけて言うことを聞かせていたのですが……殺してしまったがために、少しずつ体が腐敗してきたんですよ。だから、この屋敷にも魔法をかけて屋敷内の時間を遅く流れるようにしたのです。シーアを殺す前に、真実を知ってしまったメイドと執事達も同じように心臓を一突きにして蘇生魔法をかけたのです。そのおかげか、私の言うことに逆らう者はいなくなりました。出掛けていたメイドや執事達も帰ってきたら、他の者と同じように心臓を一突きにして蘇生魔法をかけました。たとえそうなったとしても、コックの料理は味が変わることなく美味しいですよ。それに、彼らから血を抜いて私の武器として使わせてもらったのです。だって、彼らに血はもういらないでしょう?」

 そう言って笑うスレイは懐から小瓶を取り出した。その中には赤黒い液体が入っていた。話の流れからそれ血液だろう。メイドか執事のもの。それとも両方か。自分の血液を使用し、武器とすることは構わない。しかし、他人の血液を使用して武器にすることは禁止されている。血を求めて戦争が起こったことが過去にあったからだ。禁忌ではないが、禁止されているのだ。それが知られてしまえば、罰せられる。さらに、蘇生魔法。それは、現在禁忌とされており、使用を禁止されている。

 元々、死者を蘇らせることに対して、禁忌ではないのかと言われていたのだ。そのため数年前までは、禁忌ではなかった。しかし、蘇生魔法を使用された者は生き返るのではなく、使用した者の魔力により動くことができるようになるだけなのだ。それだけではなく、蘇生魔法を使用した者の命令は、どんなものであっても聞くということが判明したのだ。そのため、蘇生魔法は禁忌とされ、使用できる者は住民登録所で書類を受け取り、蘇生魔法を使用できると登録しなければいけなくなったのだ。

 登録をすませると、その場で腕輪を受け取ることになる。その腕輪は、登録された魔法を使用することができないようにするものだ。登録した者は常にその腕輪をしなくてはいけないのだが、スレイは身につけてはいない。そのことから、スレイは登録していないということなのだろう。誰にも蘇生魔法を使えることを話していないため、登録を進められることもなかったのだろう。だが、登録していないことも罰せられる対象となる。それなのにスレイはエリス達に話した。それは、話を聞いた全員を消すつもりだからなのだろう。ここでエリス達が消えたら、動く者がいたとしても関係ないのだろう。

 スレイは左手で小瓶を持ち、右手で蓋を開けると放り投げた。そして、右手を小瓶の上にかざす。すると、中に入っていた血液が丸い塊となって出てきた。

「私は、魔法はあまり得意ではないのです。ですが、時間を遅くする魔法と、他者から血を抜いて武器にする魔法。そして、蘇生魔法は得意なんですよ。さあ、皆さん! 彼らを殺してください!」

 右手を上げると丸い塊となった血液が、五つの赤黒い針となった。そして、階段下にいるエリス達へ向けて右手を突き出すと、五つの針はエリス達へと飛んで行った。

 龍はエリスを引き寄せ、黒麒とユキとリシャーナは横に移動することでそれをかわした。床に突き刺さった針は、そのまま赤黒い液体となった。

 またこれを使って攻撃してくるかと思い、エリスが2階を見上げるとそこにはスレイの姿がなかった。その代わり、2階から階段に向かってメイドと執事が歩いてきている。すでに数人は、階段を下りはじめていた。その先頭にいるのは、シーアだった。

「追わないと!」

 2階の何処かにいるであろうスレイを追いかけようとした龍は、エリスから手を離して右手を左手中指にはめている指輪にかざそうとしたがそれはできなかった。何故なら、エリスに右手を掴まれたからだ。スレイを追いかけるには、何かがあった時のために武器は必要だろう。こちらが見つける前に、スレイが武器を手にして襲いかかって来ては大変だ。

 それなのに何故止めるのかとエリスの目を見た龍だったが、何も言えなかった。エリスが真っ直ぐ龍を見ていたからだ。階段にはユキが先に上がり、下りてこようとしているメイドと執事に飛びかかり攻撃をしている。その後ろにリシャーナが続き、彼女もナイフで攻撃をしている。しかもリシャーナは、頭に容赦なくナイフを突き刺しているのだ。

「龍は白龍を探して。壁の何処かに入口があるのなら、ここら辺にあってもおかしくないわ」

 そう言うエリスは階段を見た。階段は壁に囲まれており、この下にもう一つの階段があってもおかしくないと考えたのだ。それに、左右に二つの階段を作ればいいのに、玄関からすぐに階段というのがエリスには引っかかったようだ。そのような屋敷は多いだろうが、商人だというのに泥棒が入ったらすぐに2階へ上がれるような作りなのが疑問だったのだろう。もしかすると、階段下に倉庫があるかもしれないと思いながらエリスは龍の背中を押した。

 ラアットが近づいてくるメイド達を斬り伏せてくれているおかげで、メイドと執事達に邪魔されることなく龍は階段横へと立つことができる。たしかにそこは壁だった。全てが白い壁。

「けれど、白龍を見つけても鎖に繋がれている可能性があるのでは?」

「そう、ね……そうだ。役に立つとは思えないけれど……」

 黒麒の言葉に、顎に手を当てて考えたエリスは何か思いついたのか紙を取り出した。広げると1メートルほどの正方形の紙で、それには魔法陣が描かれていた。どうやらエリスは、何かを召喚しようとしているようだった。出来れば召喚する瞬間を見たいと思った龍だったが、白龍を探すことに集中しようと小さく首を横に振ってから白い壁に右手を触れた。

「主人の(めい)に従い、囚われた者を逃がすための鍵を見つけて持ってきなさい。『迷犬』!」

 ぼふんと音をさせて魔法陣の上に現れたのは、1匹の犬だった。犬は一声吠えると、階段へ向かって走り出した。エリスの命令通り、鍵を探しに向かったのだろう。

 攻撃をするメイドや執事をかわして、何処かへ向かう『迷犬』をリシャーナがメイド達に攻撃をしながら追いかけた。1匹だけにして、目を離したら攻撃される可能性があるからだろう。

「へえ、『名犬』か」

「そう、『迷犬』なのよ」

 噛み合っているように聞こえるが、噛み合っていないことに黒麒は気がついていた。1階よりも人数が少なかったため、倒されたメイドと執事のそばでユキが2階からエリスを見下ろしている。どうやら、ユキの様子から2階にいた者は全員倒したようだ。

 1階ではまだ、白美とラアットが戦っている。倒しても倒しても切りがないようだ。エリスと黒麒は階段を上がりながら、倒れているシーアを見た。首にユキが噛みついたあとがあり、頭にはリシャーナのナイフが刺さったあとがあった。

 シーアだけではない。他の者達にも同じようにナイフのあとが頭にあるのだ。2階にいたメイドと執事達は全員倒れているのに、1階はエリスが見下ろしてみると誰も倒れていないのだ。

 いや、倒れてはいる。しかし、すぐに起き上がっているのだ。腕や足がなくなっても、心臓を貫かれても起き上がる。それを見て、エリスは気がついた。

「頭を狙って!」

 リシャーナが攻撃した者は倒れたままだ。それは、全員頭を攻撃されていた。頭を攻撃すれば起き上がらないと言うことを、リシャーナはわかっていたのだろうか。だから、ユキが噛みついて倒れた者にも攻撃をしたのだろうか。倒れて動かないのならば、攻撃する必要はない。それなのに、攻撃したのだからわかっていたのかもしれない。今この場に本人がいないので、知っていたのかはわからなかった。

「頭? 首を飛ばしても同じか!?」

 そう言ったラアットは容赦なかった。2人の首を同時に刎ねたのだ。それを横目で見ていた白美は、自分を囲む5人の頭を凍らせて目を閉じた。たとえ死んでるとしても、見たくなかったのかもしれない。ゆっくりと倒れる体の頭が砕けるのは、見ていて気持ちのいいものではないだろう。

 階段の上から倒れた7人を見ていたエリスだったが、倒れた者達に動く様子がないことを確認するとユキに近づいた。ユキは自らの鼻でスレイが何処へ行ったのかを嗅ぎ分けたのか、先に進んで行く。エリスと黒麒はただ黙ってついて行った。

 そして、その頃龍は見つけていた。階段下の壁は違和感のない白。だが、軽く叩いていくと、一カ所だけ音が違う場所があったのだ。もしかすると倉庫の可能性もある。だが、本当にそこが倉庫だとしたら、扉を隠す必要はないだろう。

 龍に近づく者は白美とラアットが攻撃をしてくれるので、気にせずに扉を開く方法を考えることができた。ドアノブもなければ、襖のような引き手もないのだ。

 それならばと、龍は壁の向こうにあるであろう空間に向かって両手で壁を押した。壊してしまわないように、ゆっくりと力を入れていく。突然力強く押したら、今の龍の力では壁を壊してしまう可能性が高い。壊しても構わないのだが、この先にあるのが倉庫だとは限らないのだ。それに、倉庫じゃなかったとしたら誰かがいるかもしれない。だから、注意しなくてはいけないのだ。

 ゆっくりと力を入れていくと、突然小さくガコンと音が鳴ったため手を止めた。もしかしたら、壊してしまったのではないかと思ったが違ったようだ。足元を見ると、どうやらスライドドアだったようで、レールが見えていた。

 右斜め前方に移動したスライドドア。それを右へとスライドすると、やはりそこには空間があった。そして、中に入ると右には下へと続く階段があったのだ。

「白龍……」

 龍にはわかっていた。階段の先に見えている扉。その向こうに白龍がいるということが。スライドドアを開けたことにより、白龍の気配がそこからしていたのだ。なるべく音を立てないように階段を下りて行く。扉の先に、白龍以外がいるとわかっているからだ。

 気配だけでは、他に捕まっている奴隷なのか、見張りをしている者なのかはわからない。階段を下りると龍は、目の前にある扉のドアノブに手をかけた。なるべく音を立てないように、ゆっくりと扉を開いた。






******





 騒がしい。そう思って目を覚ました。今が朝なのか夜なのかは、ここでは窓もないためわからないが夜だろうことがわかる。何故ならみんな眠っているのか、とても静かだったから。

 しかし、白龍は起きていた。私が体を起こすと、白龍も起き上がり、地上へと続く扉のほうを見た。ここからは直接扉を見ることはできない。けれど、扉のある方向はわかる。地上の音はここではあまり聞こえることはないのだが、何故か今は音がよく聞こえた。

 そして、誰かが近づいてくる気配もしている。いったい誰なのかはわからないが、気配からして1人だ。白龍と同じように、扉のほうを見た時、小さく呟く声が聞こえた。

「龍……」

 それは白龍の声。呟いた名前は聞いたことのある、白龍の仲間のものだった。まさか、龍という仲間が白龍を助けにここに来たのか。そう思った時、ドアノブの回る音が僅かに聞こえ、扉が開いた気配がした。それと同時に、地上の騒がしさが響いた。












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