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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第一章 心から信頼できる者
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心から信頼できる者5








******






 誰かがスレイを招き入れたわけではないのだと知ったアレースは大きく息を吐いた。何やらぶつぶつと小さく文句を言っている。龍には聞こえなかったが、どうやらラパンには聞こえていたようで、苦笑を浮かべていた。もしかすると、耳がいい白美にも聞こえているのかもしれない。

 だが、何も言わずにいつの間にかテーブルに置かれていたお茶を一口飲んだ。どうやら聞こえていたとしてもアレースの呟きに対して何かを言うつもりはないようだ。

「それでは、私は仕事に戻らせていただきます」

「あ、私も戻ります。突然お邪魔して申し訳ありませんでした」

「いや、助かったよ。ありがとう、ラパン」

 礼を言われたラパンは、うっすらと頬を赤らめてエードと共に部屋を出て行った。今まで、アレースに礼を言われたことはなかったのだろう。

 そしてアレースは、自分の仕事机と向かった。仕事をするつもりなのか椅子に座ると腕を組み大きく息を吐いた。両手を机について、エードに渡された封筒の存在をその時漸く思い出した。ずっと手に持っていたというのに、スレイが現れたことにより忘れてしまっていたのだ。

「さて、龍。今回の依頼の報酬だ」

 そう言って机の上に封筒を置いて龍へと差し出した。立ったままアレースを見ていた龍は、差し出された封筒を素直に受け取っていいものかエリスを見た。だが、エリスは寝ている白龍を見ており、龍の様子には気がついていない。

 もしかしたら、龍が自分で判断しなさいという意味かもしれないと考えて龍は小さく息を吐いた。元々龍への依頼で受け、報酬もアレースから受け取る予定となっていたのだ。

「ありがとう」

「いいや、こちらこそありがとう。また頼むよ」

「わかった。できれば少しでもいいから、白龍ができることもあればお願いしたい。今回の報酬も俺じゃなくて、全て白龍に対して払われるべきものだしな」

 自分は1スピルトも貰えないという龍にアレースは微笑んだ。言ってしまえば、依頼されたのは龍だったが、龍はそれを白龍任せた。それは、依頼放棄したと言われてもおかしくないものだ。だがアレースはそうは思わない。

 何故なら、白龍が龍達を手伝いと言っていたのを聞いていたからだ。アレースに言ったのではなく、城の図書館に悠鳥と勉強をするためにきていた時に呟いていたのだ。

 偶然部屋の前を通ったアレースの耳に届いた呟き。まだ幼い白龍にできることは少ない。だが今回は、龍がやらせてあげたいと思う安全な依頼だった。それに、もしかしたら龍も白龍が手伝いたいと思っていることを知っていたのかもしれない。

 封筒を内ポケットに仕舞う龍にアレースは微笑んだ。白龍のためにそのお金を使うのだとしても、額を見て驚けと意味を込めて。そして、ここで封筒の中を確認しないのは正解だと意味を込めて。

「そういえば、訓練は順調か?」

 封筒を仕舞ったことを確認し、以前聞いた訓練のことを問いかけた。

 それは、龍が夜白龍に絵本を読み聞かせている時に疑問に思ったことだった。文字の読み書きは毎日城へと赴き、悠鳥に教えてもらっていたため、龍より早く覚えたことには疑問に思うことはなかった。自宅であるエリスの家で勉強している龍より、本の量も多い城の図書館で誰かに教えてもらった方が覚えも早いだろう。

 それに白龍はまだ子供だ。覚えも早ければ、たとえ自分で文字を読めても夜寝る前に誰かに読んでもらいたくなるだろう。龍が間違えていたら指摘することができるほど読めるとしても。

 毎日白龍は絵本を持ってくるが、読み終わるまで起きていたことは一度もない。龍の方を向いて寝る白龍に、しっかりと布団をかけて疑問が浮かぶ。

 それは、龍とは違い白龍には翼と角がないということだ。龍は一応大人の姿であるのだが、翼と角がある。しかし、子供の姿である白龍にはないのだ。どういうことなのか。それがいつも寝る前の疑問となっていた。

 白龍を連れてきた悠鳥に尋ねたら、連れてくる時には翼も角が生えていたようだった。だが、翌日には消えていたのだ。何故龍には生えたままで、白龍は消えたのか。それは前回も『龍』であったか、違うかではないかと悠鳥は言った。

 そのため、無意識に消すことができるのではないか。龍は人間だったため、今までの『黒龍』達の記憶はない。しかし白龍には少なからず記憶があるのだ。本人の口からは一度も聞いたことはないが、悠鳥がそうであるように、『龍』達も転生を繰り返すことがほとんどなのだ。今回の『黒龍』のように、転生しないこともたまにはある。

 だが、転生をした場合は少なくとも記憶は受け継いでいる。必要なものや、印象が強かったものなど様々だ。そのうちの一つが白龍が歌った歌だろう。間違えることなく歌い切ったあの歌は、先代の『白龍』も歌った雨乞いの歌だ。

 しかし、龍にはそういった記憶は一切ないのだ。それは、前回は『黒龍』ではないからだ。だが龍は気にしてはいない。この間まで『黒龍』であった老人が、もし生まれ変わっていた場合はどうなるのか。龍が気になるのはそれだけだ。

「訓練って、人型から獣型になるための?」

「なんだ、エリスには話してないのか」

 アレースは知っていて、エリスは知らない訓練。2人だけの秘密だったと知って嬉しそうに微笑むアレースと、教えてもらっていなかったことに怒るエリス。その目は、黙っていないで話せと言っているようだった。

 このまま黙っているのと、話すのではどちらがいいかなんて考えなくてもわかる。もしも話さずにいたら、帰っても怒ったままで数日は口を利いてはくれないだろう。

 龍は小さくため息を吐いた。

「白龍には角と翼がないのに、俺にはあるから……それをアレースに相談したら訓練したらどうだって言われたからしてるんだ」

「訓練っていつ……って、最近はよくアレースのところに行ってるものね」

 アレースには様々な仕事を頼まれている。最近までは、家を建てるための木材を運んだり、木材を押さえるだけの手伝いをしたりしていた。頼まれていないこともやっていたが、どうやらアレースの耳には入っているようで、依頼料は言われていた額より多いことがよくある。

 依頼料が多く、返すためだけに訪れても受け取ってもらえたことは一度もない。気づかれないように部屋に置いていっても、いつの間にかポケットに入っている。アレースの特殊能力なのではないかと思うほど、ポケットに入れられたことに龍は気がつかない。

 数度そんなやり取りをしている2人だが、一度だけ角と翼のことを相談した時は真剣に話を聞いてはくれた。その時はポケットではなく、メイドのイザベラが置いて行った封筒を持ってきた。笑顔で渡すそれを受け取らないわけにはいかなかった。

「それで、消せるようにはなったの?」

「少しの間だけは消すことができるようになった。けど、長い間消すのは、まだ体力を消費するから無理だ」

 もしもずっと消すことができれば、もしかすると人間しか入ることのできない場所へも入ることができるかもしれない。背中の翼が出る穴はコートなどを着て、隠せばいい。ずっと消していなくても、少しだけ消せればいい場所もあるだろう。

 だから、龍の訓練は無駄ではない。角や翼を消さなければいけないようなことが起こらなければいいが、残らないとも限らない。

 スカジのような者がいないとも限らないのだ。中には平和ではなく、刺激を求めて戦いたがる者もいる。その者達によって、今後何かが起こる可能性もあるのだ。魔物討伐専門組織でさえ、何を考えているかわからない。全てではないが、あの者達は魔物が倒せればいいのだ。たとえそれが、使い魔であってもだ。

 だから、彼らが何か問題を起こさないとも言えない。自警団でも、問題を起こしそうだと注意していても、問題を起こす前に止めることはできない。それに、魔物討伐専門組織は一つや二つではない。両手でも数え切れないほど多くある。彼らが専門に依頼を受けることのできる場所すら存在するほどだ。そこで依頼を受けても、満足できできない者が多いのだ。組織内に依頼を受けることができるボードがある場所もあるが、それ以外の場所で依頼を受ける者もいる。そういう者達は、組織内のルールを守っていないことが多い。

 アレースの元に組織の名前と共に名簿が届くこともある。これは注意しなければいけない組織とメンバー。それがアレースの元に届く頃には自警団が注意している。届けば届くだけ、戦争が起こるのではないかと不安になる。小さな問題でも起こしてしまえば、捕らえることができるのだが、彼らは注意深いためそれはさせない。

 警戒して様子を見ている者達に気づいていたとしても、それを笑い何もしないのだ。見られていることを知りながら問題を起こすような馬鹿ではないということだ。

「体力を消費しないでも消せるようになるといいな」

 そう言ってアレースは微笑んだが、頭の中は魔物討伐専門組織のことでいっぱいだった。口から出た言葉は本心からだったが、もしかすると角と翼を消してする初めての仕事は、魔物討伐専門組織に関係することかもしれないと思っていたのだ。

 そのあと間もなく用事もすんだエリス達が立ち上り、龍が野菜の入った袋を持つと、彼らは寝ている白龍を起こさないように静かに部屋を出て帰路についた。仕事がまだ残っていたため、アレースは部屋の前まで見送るとすぐに仕事へと戻った。

 数時間後。龍が封筒を持ってアレースの元へと再び戻ってきたが、やはりアレースがその封筒を受け取ることはなかった。「白龍にご褒美でも買ってあげるといい」と言われ、少々迷っていたが礼を言うと龍は封筒を持って帰って行った。

 本来の報酬である額の倍近く入っていれば、龍でなくとも驚いて戻ってきるだろう。今回報酬を用意したのは、アレースではなくエードだ。額は告げていたが、エードが駄目だと思えばそれだけの額は入っていない。

 龍達が城へくる前に村から連絡が入っていたので、それを受けたエードが白龍のことを聞いて言われた通りの額を入れたのだろう。今回の補佐は本当に優秀だと思いアレースは微笑んだ。スカジの前にいた補佐数人より、そしてスカジよりも優秀で心から信頼できる者だと思いながら、あと少しで終わる仕事にとりかかった。






******






 男が帰ってきたということは、日付が変わったということだろう。予定が早く終わったから、早く帰ってくるつもりが遅くなったと言うが、私には関係ない。ここにいれば時間なんかわからないのだから。

 時間を教えてくれる者もいないし、太陽や月が見えるわけでもない。

「面白いものを見つけて、ある者達に直接頼んだら時間がかかってね。いるらしいというのは知っていたけれど、本当にいるとは思わなかった……。金もかかったけど、君の友達になる子だからいくらかかっても構わないよ」

 嬉しそうに話す男は少し興奮してるのか、私のいる牢屋の檻を掴んで微笑んでいる。たとえ少し様子がおかしくなっても、彼が私に何もしないと知っているから何とも思わない。

 彼が見つけた面白いものとは何なのか。それは人なのか、動物なのか。それよりも、生き物なのか。それがわからないのは少し不安ではある。

 何やら呟きながら、檻から手を離した男は奥へと進んで行った。やはり私には何もしない。そう、私にだけは何もしない。彼なりに私を大切にしているのかもしれないが、いつか奥にいる人達のように扱われるのかと思うと怖い。

 聞こえてくる悲鳴に耳を押さえる。私の耳は、人間とは違い頭に生えている。全てを聞こえなくすることは不可能だけれど、耳を頭に伏せて押さえることによって聞こえにくくすることはできる。悲鳴が聞こえなくなるまでずっとそうしている。

 暫くして聞こえなくなると、手を離した。どれだけ時間がたったのかはわからない。ただ、あの男に連れて来られる者が、あの悲鳴をあげていた者のような扱いを受けなければいいと思った。そして、あの男のように私を扱わなければいいとも思った。

 奥からゆっくりと戻って来た男は、私のいる牢屋の前で立ち止まると微笑んだ。

「楽しみにしていなさい。早くて明日。遅くても明後日には連れてくるからね」

 そう言って男は地上へと姿を消して行った。私がずっと見ていない、光の照らされた地上へと階段を上って行った。

 あとどのくらいで私はそこへ行けるのか。右手首の青い毛のブレスレットに問いかけても答えが返ってくるはずはない。そんなことはわかっている。ただ毎日問いかけているため、癖になっているのだ。

 けれど私はブレスレットに問いかけることを止めない。私の話し相手になってくれるのは、このブレスレットだけだから。







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