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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第一章 心から信頼できる者
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心から信頼できる者3








******






 スピカはエリスの3歳年上の優しい姉で、アレースにとっては2歳年下の可愛い妹だった。年齢を重ねていくと、スピカは可愛いだけではなく、母であるテミスのように美しい女性となった。

 彼女を見た男性全てが見惚れてしまうほどに。そして、その多くの人が求婚をするほどだった。しかし、それをアレースが見ていたら追い払う。たとえ見ていなくても、スピカ本人が首を縦に振ることは一度もなかった。

 何故なら、彼女には付き合っている男性がいたからだ。家族の誰もが知らず、彼女が初めて好きになった人だった。その男性のことはずっと一緒にいたいと思えるほどに好きだったのだ。

 しかし、彼女には一つだけ問題があった。それは病弱ということだった。そのため彼女はひと月の多くをベッドで寝て過ごしていた。雪や雨が降れば熱を出し、暑ければ倒れてしまう。生まれつきそうなのだ。

 だから、スピカが誰かと付き合っているとは家族は思わなかったのだ。その人とデートをするわけでもなく、一緒に歩いているところも見たことがなかったのだから。

 それもそのはず。スピカが付き合っていたのはヴェルリオ王国の人間ではなかったのだ。彼はヴェルリオ王国の西にある国、ウェスイフール王国に住んでいた。そのため、一緒にいる姿を見たことがなかったのだ。

 他国に住んでいるため、会いたいと思った時に会えるわけではない。それでも手紙のやり取りはしていた。スピカへ手紙を持ってくるのは家族の誰かではなく、メイドや執事だった。その時にスピカがいれば、誰にも言わないように黙ってもらっていた。

 しかし、珍しくスピカが出かけている時に手紙が届いてしまうこともあった。その時に手紙を持ってくる人物が、スピカに口止めをされている人物であったのならいい。それ以外の人物であったのなら、スピカの机の上に手紙を置くと家族の誰かに言いに行く。

 スピカへの男性からの手紙は多い。そのため、男性の名前であれば名前を報告するのだ。またあの人から手紙が来ていたと。しかし、見知らぬ名前は危険なのだ。それを放置していると、ストーカーとなることが多い。そのために報告するのだ。さりげなく忠告をするために必要なのだ。

 その忠告を無視している多くが、何度も手紙を送ってくる。身分は関係ない。それは家族であるアレース達も思っている。しかし、問題なのは内容なのだ。

『自分が好きだから、君も自分のことが好きに違いない。好きじゃないわけがない。今すぐに結婚をしよう。自分とこれから生まれる子供達5人で一緒に暮らそう』

 などと、一方的な押しつけの手紙。忠告してからは、酷くはないがそれでも押しつけてくる者は多い。どうにかしないとスピカが危ないと思っている時に、知らない名前を聞いたら手紙の内容をたしかめる以外なかった。それを聞いたのが、アレースならば尚のこと。

 スピカの部屋をノックしても返事がない。気配がしないことからも、まだ帰ってきていないことがわかる。躊躇うことなく、アレースは扉を開いた。そして扉を閉めると机へと向かう。

 そこには一通の封筒が置かれていた。手に取り差出人の名前を確認する。名前を聞いて少しの不安があったが、手紙に書かれていた名前と薔薇が描かれた封蝋を見て不安が的中してしまったのだと気がついた。

 スピカ宛の手紙を勝手に見ることは悪いと思いながらも、アレースは封筒を開封した。封蝋が砕けて机の上に散らばる。気にすることなく手紙を取り出して読む。

 そこに書かれていたのは、スピカと何度も会っていると思われる内容だった。どこに行った時は楽しかったや、また行こうなど。そして、次はいつ会えるのかといったものだった。

 手紙を手にしたまま机の前で立ち尽くしていると、ノックもなしに扉が開かれた。振り返るとそこにいたのはスピカだった。右肩には彼女の愛鳥でもある伝書鳩のポポが乗っている。彼女本人の部屋なのだから、ノックもしないで扉を開くのは当たり前だろう。

 アレースが持つ手紙と、机の上にある封筒と砕けた封蝋を見たスピカは慌てて取り返そうと近づいて手を伸ばす。しかし、アレースが手紙を持った手を上げてしまう。スピカよりも身長が高いアレースが手を上げてしまえば、スピカが頑張っても手は届かない。

 手が届かないといっても、それだけでは諦められないスピカ。諦めたと見せてかけて、手紙を狙う。だが、それでも手紙を取り返すことはできない。アレースが避けてしまうからだ。そして何度かそれを繰り返していた時、別の存在がアレースの後ろから静かに飛んで来た。静かに近づき手紙を銜えようとしたとき、アレースは手を横へとずらしてしまった。

「気づいていないと思ったか、ポポ」

「もう、返してよ!」

 手紙が取れなかった事にショックを受けて右肩にとまるポポの頭を撫でながらスピカが言う。アレースだって本当は手紙を返したい。だが、それができないのだ。

「お前はこの男と会ったことがあるのか?」

「あるわよ。だって、その人私の彼氏だもの」

「なん……だと?」

 スピカの言葉を聞いて、手を下す。驚いているアレースを気にすることなくスピカは手紙に手を伸ばすと、抵抗されることなく取り返すことができた。

 ――私に彼氏がいたら悪いのかしら。

 驚いているアレースにそう思うスピカだが、驚いている理由はそれだけではないのだ。すでに国王となっているアレースだから知っていることもあるのだ。彼女であっても、彼氏の本当の姿を知らない可能性が高い。

 黙っていることもできたが、アレースにとってスピカは可愛い妹なのだ。ならば、教えるべきだろうと思った。可愛い妹に何かがあってからでは遅いのだ。

「この男――スレイ・ヴィオーリオ・チャントーマのことを知ってるのか!? 西の国、ウェスイフール王国の人間だぞ!」

「そんなこと知ってるわよ。それが何だっていうの?」

「あの国には未だに奴隷がいる。この男のところにも奴隷が何人もいる可能性があるんだぞ!」

「知っているわよ! でも、彼のところに奴隷は1人もいなかったわ」

「……なんだって?」

 アレースの声色が低くなる。低くなった声を聞いてスピカは両手で口を塞いだ。言ってはいけないことを言ったと今気がついたのだ。

 そう、スピカはスレイのところ――家へ行ったことがあるのだ。それは西の国、ウェスイフール王国に踏み入ったことがあるということになる。スピカやエリスは、ウェスイフール王国へは行ってはいけないと言われているのだ。

 未だに奴隷がいるその国に、今は国王がいないのだ。そのため犯罪もよく起こる。それは、他国から来た者が行方不明になるというものだ。奴隷がいる国ではよく起こることで、奴隷商人が誘拐して闇オークションで売るのだ。

 誘拐されるのは子供や女性が多い。そのためスピカとエリスは行ってはいけないと言われていたのだ。男性でも危険な国に、2人を行かせるわけにはいかないのだ。

「お前、危ないだろ!」

「スレイがいるから大丈夫よ!」

「その男も、あの国の人間だ! 危ないことに変わりはない!!」

「あらあら、何を揉めているの?」

 大声を出して言い合う2人の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。いつの間にか開かれていた扉を見ると、そこには母であるテミスが立っていた。いつの間に移動したのか右肩にはポポが乗っている。

「お母様……」

「話は少し聞こえていたわ。2人で話していても喧嘩になるだけでしょう。お父様とお話をしなさい」

「父さんは暫く帰ってこないじゃないか」

「あら、そうだったわね」

「もう! 2人とも出て行って! 私のことは放っておいてよ!」

 そう言ってスピカは無理矢理2人を部屋から追い出してしまった。アレースとの言い合いで、機嫌が悪くなってしまったようで、2人が部屋から出ると扉に鍵をかけてしまった。

 これ以上何かを言うと、本当に喧嘩になってしまう。今は諦めて、数日後に注意をすればいいだろうとアレースは思っていたのだが、スピカの方が行動が早かった。

 父であるゼウスが、国王であった頃からの知り合いの元から戻ってきた翌日にスピカはスレイを連れてきたのだ。それにはゼウス以外の全員が驚いていた。エリスも話を聞いており、アレースと同じ思いだったのだ。だから連れて来られたスレイを睨みつけた。睨みつけられていると気づいているのかいないのかはわからないが、スレイは笑顔のままだった。

 そしてゼウスは、驚いてはいないが前国王ということだけあり、スレイのことを知っているようだった。黙ったままスピカを見て、そしてスレイを見た。

「これから朝食なんだが、こんな朝早くからいったい何の用なんだい?」

 スピカとスレイ以外は椅子に座り、テーブルに並ぶ湯気の立つ料理を前にお預け状態だ。普段は優しく機嫌のいいゼウスであっても、今の状態はよくないらしく、少々機嫌が悪くなっていく。

 機嫌が悪いのはそれだけではないのだろう。スレイの存在が一番の原因なのだろう。ゼウスがはアレースより長く国王をやっていた。それにより、知ろうとしなくても様々な話が耳に入ってきていた。だからこそ、スレイの話も耳に入ってきていたのだろう。

「初めまして。私はスレイ・ヴィオーリオ・チャントーマと申します。私はスピカさんとお付き合いを……」

「簡潔に答えなさい。こんな朝早くに訪問するのは失礼だとわかるだろう? 君の立場からもよくわかると思うんだがね」

「はい、よくわかります。失礼しました」

 息を吐き、一度大きく吸う。

「では、簡潔に述べさせていただきます。私とスピカさんは結婚を前提にお付き合いさせていただいております。それを、認めてほしいのです」

「認めるも何も、付き合うことは当人同士の問題だ。私が口を挟む理由はない」

「父さん!」

 意を唱えようとするアレースを軽く睨みつけることで黙らせる。付き合うことはと言ったゼウスは、それに関してはもう話すつもりがないようで、視線を扉へと向けた。他に話すことがないのなら帰れと無言で示している。

 スピカとスレイはそれ以上何も言わずに、静かに食堂を出て行った。そうして漸く朝食を取り始めた。時刻は午前7時を回ったばかりだ。父であるゼウスの機嫌が少々悪いことに、エリスは気づかれないように溜息を吐いた。

 いつもはスピカも一緒に食事を取り、賑やかなのだが、今日はとても静かな朝食だった。静かで暗い雰囲気の食事。その原因はゼウスとアレース。テミスは黙って食事をしている。何も言わなかったのは、ゼウスと考えが一緒だったからだろう。

 全員が食事を終えると、それを待っていたのかアレースが口を開いた。食事中にこれ以上雰囲気を悪くしないようにと考えていたから、終わってから口を開いたのだろう。

「いいんですか?」

「結婚だったら口は出すが、付き合っているだけなら何も言わない。スレイのことはよく思ってはいないが、スピカが好きになったんだ。全てを否定していたら、彼のいいところが見えないだろう」

 そう言ってお茶を飲む。噂だけではなく、しっかり自分でスレイを見定めようとしているのだろう。それから結婚を認めるか否かを考えようとしたのだ。それならば、アレースはどんなことをやっても納得はできないだろうが、ゼウスがウェスイフール王国に行くようであればついて行こうと考えた。

 それからゼウスとアレースは、直接ウェスイフール王国へと訪れてスレイを隠れて見張ったりした。毎日ではなかったが、何度か見張っていた。1人の時もあれば、2人で見張ることもあった。

 しかしスレイは、この国の人間とは違い奴隷を連れ歩くことがなければ、家である屋敷で働かせている様子もなかった。所詮は噂かと思ったのは、スピカがスレイを連れて来てから半年が経った頃だった。

 そして、まるでそれを待っていたかのように2人は結婚したいと言い出した。アレースとエリスは嫌がった。見張りをしたといっても、家の中での様子はわからないのだ。そのためアレースは、本当に奴隷がいないということを信じられなかった。

 エリスはスレイが義兄(あに)になるのが嫌だった。見た目だけで言ってしまえば、周りの人達が羨ましがる程格好いい人ではある。しかし、どこか嫌な感じがエリスはしていた。それを父であるゼウスに言っても、たしかなものがないため納得させることはできない。

 結婚させない理由がなくなったため、ゼウスは2人の結婚を認めた。喜ぶ2人をテミスは一瞬心配そうに見つめただけで、やはり何も言わなかった。ただ、ゼウスはスピカと結婚するのなら、守ることと結婚するための条件をいくつか上げた。

 スピカは体が弱い。そのためすぐに体調を崩す。そのまま放っておいたら、最悪死亡する可能性もある。そのための条件でもあった。

 条件1。スピカを不安にさせない。不安になることによって、精神的に疲れてしまい、体調を崩してしまうのだ。もし、仕事で出かけ、遅くなるのであれば連絡を入れるようにすると答えるスレイにゼウスは頷いた。

 条件2。もしスピカが体調を崩したのなら、医者に診せること。医者に診せず放っておけば悪化するからだ。体調を崩したら医者に診せる。当たり前のことではあるが、条件として提示しなければ不安でもあり、スレイを完全に信用してはいないという意味でもあった。

 条件3。奴隷を買うな。ウェスイフール王国には未だに奴隷がいる。本当にスレイが奴隷を買っていないかはわからない。もしかすると、ゼウスとアレースがわからなかっただけで、家にいたかもしれない。もしいたとしても、これからは買うなと意味を込めた条件だった。

 条件4。スピカに何かがあったら許さない。これは、もしもスピカが死亡したら許さないということだ。たとえどんな理由であれ、そうなれば二度と関わり合いたくはないとの意味を込めて。

 それだけスピカは体調を崩しやすいということなのだ。たとえ体調を崩しても、スレイが看病しなくてもいい。屋敷にいる誰かが看病してくれればいいのだ。

 そうしてスピカはスレイと結婚をし、ウェスイフール王国のスレイの元へと嫁いで行った。荷物はとても少なかったが、愛鳥であるポポを連れて行った。

 それからアレースはスピカと手紙のやり取りをしていた。たとえ忙しくても、窓を叩くポポに気づくと手紙を読んで返事を書いてポポに持たせる。

 そのやり取りが半年続いた頃、スピカが話したいことがあると手紙に書いてポポに運ばせてきた。

『まだ本当かはわからない。次の手紙を書く時には、本当かどうかがわかっているはず。一体何のことなのか。ポポに運ばせる手紙と、郵便配達員が運ぶ二種類の手紙を書く。内容は同じ』

 次に手紙を送る日付も書かれており、スピカがスレイについて何か言おうとしていると気がついたアレースは返事を書いて次の手紙が来るのを待った。

 しかし、手紙が来ることはなかった。ポポが手紙を運んでいる途中に動物に襲われて死んでしまったのだ。だが不思議なことに、足に手紙を入れていた小さな筒がなくなっていたのだ。それに、動物に襲われたにしては、食べられてもいなければ怪我も少なかった。

 そして、スピカも同じ日に倒れた。どこかへ行こうとしていたスピカは、偶然逃走した奴隷に怒った主が撃った弾に心臓を射抜かれて即死してしまったとのことだった。

 雨が降る中、誰もスピカに気がつかず、撃った本人も気がつかなかった。スピカは夜遅くに冷たくなって見つかった。右手は何かを握っていたのか、握りしめられていたが何も持っていなかった。

 アレースはスピカが手紙を持っていたのだろうと考えた。何が書いてあったのかはわからないが、その手紙の配達を頼みに行こうとしたのだろう。本当にスピカを撃ったのがその男なのかと思ったが、今はその男しかその時間に銃を撃った者はいなかった。

 スピカとポポは変わり果てた姿となり、ヴェルリオ王国へと戻って来た。ウェスイフール王国には、スレイの元には置いておくことができなかった。

 事故なのかもしれないが、ゼウスはスピカとポポが同日に死亡したことにより、スレイを疑っていた。ゼウスだけではなく、アレースもエリスもテミスも同じだった。だが、どうすることもできなかった。別の国で起こったことであり、一応解決していることでもあったからだ。

 そしてそれから、スレイがヴェルリオ王国へと立ち寄っても城へとくることはなくなった。条件を守れなかったため来られないのかと思ったが、本当のところどうかはわからない。

 スレイを紹介され、半年後に2人は結婚。そして、半年後にスピカは死んだ。病気ではなく、事故死。本当にその男が撃ったのかはわからない。目撃者が1人もいないのだから。ウェスイフール王国の者がしっかりと調べて、その結果を導き出したのかもわからない。だが、しっかりと調べていないと言えた。スピカが死亡した翌日に事故死と判断されたのだ。そう判断するのは、早いと誰もが思った。ヴェルリオ王国では、早くても2日で結果が出る。だから、とても早いと感じたのだ。

 それに、ウェスイフール王国では何かがあれば金持ちが賄賂を渡し黙らせることがよくあるのだ。それが当たり前の国なのだ。スレイも金持ちである。そのため、金を渡して黙らせたのではないかと考えたのだ。だが、それを言ってもウェスイフール王国の者達は決して金を渡されたことに対しても、黙っていろと言われたことに対しても首を縦に振ることもない。だから、未だにスピカは事故死となっている。

 ウェスイフール王国であっても、奴隷以外の者を殺してしまえば重罪なのだ。事故であっても、人間を撃ってしまい、殺してしまったのだ。現在その男は刑務所に入っており、スレイは今までと変わらない生活を続けているようだった。何故スピカは同じ手紙を二つ書いたのか。その内容は何だったのか。そして、何故その手紙をポポと郵便配達員に運ばせようとしたのか。それが今でもわからないままだった。










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