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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第一章 心から信頼できる者
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心から信頼できる者1









 ここのところ、毎日晴天が続いている。人間にとって暑いのだから、動物はもっと暑いだろう。ユキは家から出ることもなく、白美の魔法で盥の中に大きな氷を出してもらい、その近くから離れようとはしない。エリスが体調を崩すと言っても聞かないほどユキにとっては丁度いい温度なのだろう。

 それもそのはず。ユキはユキヒョウなのだ。この世界のユキヒョウは、雪山であるウルル山脈に生息している。毎日吹雪いているような雪山で暮らしている種のため、簡単には体調を崩さない。逆に、暑さによって体調を崩してしまうのだ。

 そのため、本日もユキは家から出ずに家で留守番をしている。しかも、1匹で。リシャーナは朝早くから家を出て行ってしまい、エリス達が出かける時にはいなかった。朝10時に、ヴェルリオ王国の西へと向かって家を出たエリス達。ヴェルリオ王国の中心街であるヴェルオウルから出ると、そこは舗装されていない道だった。砂利道がずっと続き、たとえ馬車に乗っていても、乗り心地はよくないだろう。

 歩くことすら少々困難な道を、3時間かけて歩くと村が見えてくる。その村では野菜を育てており、様々な国へ出荷している。エリス達が今日この村へ来たのは、国王であるアレースの頼みだった。

 毎年この村では雨乞いをする。6月上旬に雨乞いをすると、その年は水不足になることも、不作になることもないと言い伝えられているのだ。そのため、数年前までは村人全員が空に向けて『白龍』へと呼びかけていた。その呼びかけに応え、現れた『白龍』は雨乞いをしていたのだ。

 しかし、寿命が近づき弱ってしまった『白龍』は、呼びかけに答えることができなくなってしまった。呼びかけに答えなくなったその年、雨乞いをすることができなかったからなのか村は水不足となってしまった。それだけではなく、ヴェルリオ王国全体でも水不足となってしまったのだ。

 翌年からは、『白龍』が呼びかけに応えなければ、『水龍』へと直接村の人が呼びかけることになった。本来は『水龍』に直接呼びかければ良いのだが、この国では全て『白龍』へと呼びかけていたのだ。そして、『白龍』が『水龍』へ呼びかけて雨を降らしてもらう。この国にとって『白龍』は信仰するべき存在なのだ。そのため信仰するべき存在に呼びかけ、その存在に『水龍』を呼んでもらっていたのだ。その方が、雨乞いをするにも効果があると思っていたのだ。それは、今も変わらない。

 しかし、今回は呼びかけずとも『白龍』は地上にいるのだ。それに村人は今回は『白龍』ではなく、『黒龍』である龍に呼びかけてもらおうと考えていた。それもそのはず。多くの人は、『白龍』が地上にいることを知らないのだから。もし、『白龍』が地上にいると知っていても龍に頼む可能性は高い。だが、龍は雨乞いの方法がわからないのだ。

 エリス達の姿を見るや否や、村人が近づいてくる。遠くから来たことを喜び、早速龍へと雨乞いをしてほしいと告げる。だが龍は何かを考えると、龍の服を掴んでいる白龍を見た。その視線に気がついたのか白龍も龍を見た。2人の視線が合う。そして、龍は白龍に向けて微笑むと村人を見た。

「俺ではなく、この子に任せてもいいですか?」

 白龍の頭に左手を乗せて言うと、村人は白龍に気がついていなかったようで、全員の視線が白龍へと向けられた。それが怖かったのか、白龍は龍の後ろに隠れてしまう。龍の服を強く掴み、村人を見る白龍は僅かに震えていた。

「可愛い子じゃないか」

「その子は誰なんだい?」

「……白龍」

 村人の言葉に龍は左手で軽く白龍の背中を叩く。それは隠れていてもいいから、挨拶をしなさいという意味だった。しかし、白龍は多くの人に同時に見られたことがなく、それが恐くて名乗ることしかしなかった。軽く頭を下げてはいたが、龍の後ろに隠れることはやめなかった。

 それでも村人は気にならなかったようだ。それは、名前を聞いて驚いたからかもしれない。白龍を知らない者はいない。特にこの村だと尚更。小さな子供は知らないかもしれないが、大人で知らない者はいないのだ。

「おや、小さい白龍ちゃん。初めまして」

「……初め、まして」

 隠れながらも挨拶をする白龍に、龍が小さく安堵の息を吐いた。エリス達は何もせず、龍と白龍の後ろで様子を伺っているだけだ。白龍のことは龍に任せているので、龍が困ったりしていなければ口を出すこともない。それでもやってはいけないことをやれば叱ることはする。だが、それ以外ではあまり口を出すことはないと決めているのだ。

 龍が白龍に任せてもいいかと言ったことにより、白龍に気がついた村人は数人で集まると話し合いをはじめた。龍に任せるのか、それとも今まで通り『白龍』にやってもらうのか。『黒龍』である龍も雨乞いはできるのかもしれない。しかし、それは歴代の『黒龍』であればの話だ。龍は雨乞いの方法を知らない。いや、雨乞いの方法を聞いてはいる。しかし、自分がそれをできるとは思ってはいなかった。歴代の『黒龍』達ならできたかもしれないが、『白龍』ほどの効果はなかっただろう。呼ばれることもなかったので、雨乞いをするための能力も必要ではなかったのだから。雨乞いをするための能力は持っていたとしても、白龍に全て受け渡している可能性もある。受け渡しが可能であればの話ではあるのだが。

 どちらに雨乞いをしてもらうのか話し合う村人の横を通り、エリスは畑の中へと歩いていく。その畑の所有者が誰かはわからないが、多くの野菜が芽を出している。この畑の中心には丸い木が埋められており、3人は乗ることができるであろう大きさをしていた。エリスはそこへと立つと、天を仰いだ。何も言わずに、ただ見上げるだけ。雨乞いをするにはここが丁度いい舞台になるだろうと思いながら。

「では、その子に任せましょう」

 話し合いが終わったのか、1人の男性がそう言った。年老いた男性は、この村で一番偉いのだろう。他の者達も何も言わずに頷いた。男性の言葉を聞いて、龍は白龍を見た。

「白龍。エリスのところに行って歌っておいで」

「お歌?」

 白龍の背中を軽く叩いて言うと、服を掴みながら見上げてくる。繰り返された言葉に龍が頷くと、白龍は服から手を離してゆっくりと畑の中へと進んで行く。野菜を踏まないように進み、エリスが上がっている丸い木の上へと乗る。

 交代するようにエリスが丸い木から下りると、白龍は不安そうな顔をしてエリスを見上げた。どうしたらいいのかわからないのだと理解すると、エリスは手を伸ばして白龍の頭を撫でた。

「空にいる水龍様に、『雨を降らしてください』って思いながら歌えばいいのよ。大丈夫。白龍なら歌えるわ」

 そう言うと、エリスは白龍から離れて龍の元へと向かう。龍のそばには黒麒と白美がおり、黙って白龍を見ている。村人達も同じだ。

 畑から出て、龍の隣へ並ぶエリスを黙って見ていた白龍だったが、目を閉じて一度だけ深呼吸をした。そして一度龍を見てから、空を見上げた。『雨を降らしてください』と思いながら歌えばいい。

 何を歌えばいいのかわからない白龍だったが、空を見上げると何故か頭の中に言葉が浮かんできた。知らないはずなのに、白龍はそれを知っている気がした。それもそのはず。今の『白龍』は知らないが、歴代の『白龍』達が歌ってきた雨乞いの歌なのだから。『黒龍』とは違い、『白龍』は一度も他者に『白龍』になってもらってはいないのだ。

 同じ魂でずっと『白龍』に転生しているため、今は覚えていなくても歴代の『白龍』達の記憶は僅かながらに残っているのだ。忘れているものもあれば、覚えているものもある。そして、何かのきっかけで思い出すこともあるのだ。そう、今のように。だが、多くは思い出すことはできないだろう。『白龍』にとって必要なものしか思い出す必要はないのだから。

 空を見上げたまま白龍は口を開く。頭に浮かんだ言葉が、自然と歌になり口から発せられる。それはとても綺麗で、そして静かな歌だった。龍はその歌を初めて聞く。

「懐かしい……」

「え? 懐かしい?」

 隣にいるエリスから聞こえた言葉に、龍はエリスを見た。黒麒達は白龍の歌声に聞き入っているようで、エリスの言葉は聞こえていないようだった。隣にいる龍にでさえ、声が小さくて聞きにくかったのだから聞こえていないのは当たり前だろう。

「ええ、懐かしいわ。昔に聞いた歌と同じ」

 まだエリスが7歳だった頃。一度だけ両親につれられてこの村へと来たことがあった。もちろん、アレースも一緒にだ。その頃はまだ白龍も弱っていなかったため、呼びかけると姿を現した。そして人型になることもせずに歌ったのが、今白龍が歌っている歌と同じものだった。

 10年以上前に聞いた歌だったが、記憶の中の歌と同じものだった。歌詞が変わることなく、忘れてもいなかった雨乞いの歌。

「……まったく、アレースには困ったものよね」

「え? ああ。雨乞いのことか」

「違うわよ」

 突然話題を変えて言うエリスにそう言うと、首を横に振った。龍を見上げるエリスに、他に何か困ったことはあっただろうかと考えるが思いつかない。それならば、自分は困らなくてもエリスは困ることだろうかと考える。すると、一つだけ思い当たるものがあった。

 雨乞いをアレースに頼まれたと同時に、忘れていたとでも言うようにエリスに言った言葉。それは、エリスが気になっていたことだった。

「お父様もお母様も、事件前日にアルトがクロイズ王国に送って行ったなんて大事なこと黙っているなんて!」

 エリスは何度かアレースに両親のことを尋ねていた。両親はアレースと共に城に住んでいたのだ。それなのに、エリスは事件が起こってからは一度も両親の姿を見ていていないのだ。心配するのは当たり前だろう。

 尋ねるエリスに、アレースは答えなかった。答えなかったというより、話を聞いていなかったのだろう。仕事に追われるアレースに話しかけても、忙しさのあまり話は右から左へと抜けてしまい頭に残っていなかったのだろうから。

 エリスもアレースが休憩している時にでも聞いてみればいいのだが、タイミングよく休憩しているアレースの元へと訪れることもなかった。そのため、仕事が落ち着くまではアレースも話すことを忘れていたのだろう。

 何かあると大変だからと、アルトに頼みクロイズ王国のウェイバーの元へと連れて行ってもらったのだ。まさか間もなく事件が起こるとは思っていなかっただろう。

 その所為でアルトはヴェルリオ王国へ戻って来られなくなってしまったのだが。たとえ戻ってきても、仕事も出来ない状況だったのでよかったと言えばいいのだが。

 戦いが終わるまで安全なクロイズ王国にいる予定だったのだが、2人は国が落ち着いてから新婚旅行へと行ってしまったのだ。王と王妃だったため、結婚してから2人は新婚旅行にも行けなかったのだ。国をアレースに任せて旅行に行っても大丈夫だろうと思い、そのまま行ってしまったのだ。

 アレースもアルトが持って来た手紙で知ったことだったが、あの2人なら大丈夫だろうとあまり心配はしなかった。そして、自分1人で納得してしまったためエリスに話すことを忘れてしまったのだ。

「旅行に行く前に会いたかったわ」

 そう言って怒るエリスだが、怒りの矛先を向ける相手はここにはいない。アレースに文句を言っていたエリスだったが、白龍を見て黙ってしまった。楽しそうに歌う白龍に微笑んでから龍を見た。

「過ぎたことをいつまでも言っていたら駄目よね」

「……そうだな」

 2人は同時に歌う白龍を見た。同じ歌を繰り返して歌う白龍は、とても楽しそうに両手を広げてその場で回っている。

 あと何回歌うのかと思いながら、龍は空を見上げた。雲はあるが、雨は降りそうにない。すぐに『水龍』が雨を降らせるわけでもないのだから、当たり前かと思った。

 その時。

「ん?」

「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

「……そう」

 訝しむエリスだったが、何も言わずに白龍へと視線を戻した。問い詰められなかったことに、龍は有り難く思った。たとえ問い詰められたとしても、言っていいのかわからないというのもあったからだ。もしかすると、見間違いということもあるからだ。

 だが龍は見たのだ。浮かぶ白い雲の隙間から、蛇のような体をした水色の生物を。あれが『水龍』なのだろう。きっと白龍の歌を聞いた。もしくは、今も聞いているのだろうと思い龍は微笑んだ。

 『水龍』が白龍の歌を聞いたのなら、必ず雨が降るだろうと思ったからだ。これで、この村は雨が降る。そして、白龍も信頼してもらえるだろうと思ったのだ。たとえ、この間事件を起こしたのが『白龍』となったスカジであっても。中にはそれが原因で、『白龍』へと不信感を抱いている者もヴェルオウルには少なからずいたのだから。









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