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夜の公園で

作者: 勧善寺藍

夜の公園は昼間とは別の姿をみせる。

昼間は子供たちが遊ぶ場所、夜は考え事するのに適した場所だ。

もう日付も変わろうかという時刻に、俺は公園にいた。

住宅街の片隅にある、遊具もブランコと滑り台しかないこじんまりとした公園だ。

灯る街灯に蛾が群がる。

虫の声が嫌でも耳に入ってくる。

俺は端にあるベンチに腰掛けて、ぼんやりと空を見上げていた。

曇っていて星は見えない。


ようやく心臓の鼓動も落ち着いてきた。

体は暴れているというのに、精神の方はやけに冷静だった。

俺は体を起こし、入り口近くに水道へ向かって歩き出した。

上向きの蛇口を下にして手を洗う。

少し乾いてきてた血をきれいに洗い流す。

洗い終わってからまた上向きに戻し、腹が膨れるほど水を飲んだ。

濡れた手をシャツで拭うと、自分のしでかしたことを再確認し、深いため息をついた。


今でも俺の部屋には、死体が転がっているだろう。

口論の上の逆上、ありふれ過ぎてマスコミも気に留めないかもしれない。

まあ、後先考えずの犯行だし、隣の部屋のやつが悲鳴聞いてるだろうし。

凶器のアイスピックは持ってきたけど。

俺が捕まるのは、ほぼ確実だ。

にも関わらず、悪あがきで部屋を飛び出した。

そして、公園でひとり、夜空観察。


なんとも贅沢な時間だ。

なんせ、もうじきシャバともお別れだろうし。


遠くでサイレンが聞こえる。

パトカーだろうか?ここが見つかるのも時間の問題か?

かといって、ことさら逃げ回る気にもなれない。

遅くとも明日には、俺の両手に手錠がついているだろう。


俺はタバコに火をつけた。

ゆっくりと、吸う。ゆっくりと吐く。

煙は、ゆっくりと空に昇っていった。


なぜか家族の顔が浮かんだ。

彼らは明日から晴れて「殺人犯の家族」だ。

世間から誹謗中傷が殺到するだろう。

父は会社にいられるだろうか?母はまともでいられるだろうか?

弟の健太郎は、今年就職だというのに。

彼らの人生まで台無しにしてしまった。


本当に、申し訳ない。

謝って済む話ではないが、謝らずにはいられなかった。


やがて、まばゆい赤い光が、けたたましいサイレンとともにやってきた。

パトカーから二人の警官がこちらへやってくる。

まな板の上の鯉だな、まさに。


その時、頭の中にある考えが浮かんだ。

「一人殺そうと二人殺そうと、一緒じゃないか」

ついさっきまで後悔にうちひしがれていたのが、嘘のようだった。

今のままでは、俺はただの「殺人犯」だ。

だが、「殺人鬼」になれば、崇拝する人間も出てくるってもんだ。


近づいてくる警官は、次の獲物だ。

ご丁寧に、拳銃を持っている。あれを奪えれば。

俺はアイスピックを、握りしめた。

9月28日、加筆修正しました。

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