青天49
動物の鳴く声が聞こえる。
辺りはすっかり暗くなり、月明かりが雲の隙間から少しだけ顔を覗かせては消える。
太陽の影は無く、夜の支配下に置かれた世界が姿を現す。
東国の夜は静寂に包まれていた。
月明かりに照らされるのはほんの一瞬で、のんびりと空を浮遊する雲に遮られて光を失う。
その静寂さに耳を傾け、潤はある男を待っていた。
彼から接触を試みようとするなど久方ぶりのことである。
無音が支配していく。
やがて、その男は悠然と向こう側からやってきた。
「呼び出した割には随分遅かったじゃないか」
潤は皮肉交じりにそう呟いた。
「久方ぶりの穏やかな外の空気なんでな。存外味わっていたところだ」
その皮肉に応じるように御手洗は返した。
「こんな時間に呼び出すって珍しいね」
「それだけ色々とあるということだ。俺にもな……」
「一番上に立つ者は大変だね」
満面の笑みを浮かべてそう言った。
「他人事のように言うな。お前も味わってみろ」
「嫌だよ。僕は誰かの上に立つような人間じゃない」
「俺だって立ちたくて立ったわけではない。元はと言えばな―――」
そう言って、彼は潤の隣にやってきた。
「それで話って?」
潤は本題に入るために話を催促する。
催促された御手洗は潤の顔を一度見ると、ややあって口を開いた。
「お前は幹部達についてどう思う?」
「幹部?」
「そうだ」
「随分と難しい話題だね。どうしてそんなことを聞くんだい?」
「簡単なことだ。それだけ俺が悩んでいる問題だということだ」
「なるほどね」
「それにーーー」
御手洗は率直に潤に意見を聞いてみたかった。
(俺から見た景色とお前から見た景色はどのように違うのかを確かめてみたかった)
その質問に潤は、しばし顎に手を置いて沈黙する。
思案の表情を浮かべた後、
「そうだね。皆良くやってくれていると思っているよ。状況判断に加えて無人を討伐する力も持ってる。十分だと思うよ」
と答えた。
「そうか……」
彼の答えに御手洗は納得する。
(お前にはそう見えているのか……)
自分と潤の違いを明確に知る。
潤が不思議そうに御手洗の方を見た。
「幹部の子達がどうかしたのかい?」
潤が聞くと、御手洗は頷いて答える。
「あぁ、今日もお前に会う前に会議をやってきた」
「なるほどね。納得したよ。だから来るのが遅れたのかい?」
「いや……、ここに遅れたのはそれとは関係ない」
「関係ないのか……」
潤は頬を引き攣る。
御手洗はそのまま話を続けた。
「会議をすれば、毎回の如く論争に発展する。別に意義がある者同士が意見を交わす分には構わないのだが……、幹部メンバーはどうにも個々が強くてな。俺には扱いにくい連中ばかりいる」
「哲人がそう言うってことはよっぽどの曲者揃いなんだろうね」
「あぁ、個人で扱いきれないという点に関しては、幹部メンバー達は非常に厄介だ……。個性が強いというのもある種の厄災だなと思ってな」
「あはは、確かに。哲人は面白い事を言うね。まぁ、彼らは各々が自分信者である者が多いからね」
「自分信者か。お前こそ面白い言い方をするな」
潤の意見に御手洗は賛同する。
なるほど。
そういう見方も出来るということか。
御手洗は素直に感心する。
一人で頷いている姿を見て、潤は昔を思い出す。
幼い頃から見てきたからこそ分かるというものだ。
彼のこういうところは昔から変わっていないようだ。
「なぁ、お前なら……奴らを扱いきれるか?」
神妙な顔で問いただしてくる御手洗に対して潤は反応する。
「どうだろうね……。人をまとめ上げるのに長けた哲人が無理なら、僕でも無理なんじゃないかな?」
「お前の過小評価のし過ぎとかでは無くてか?」
「うん。自分のことは自分が一番良く分かっているからね。僕に人をまとめることは出来ない。そもそも向いていないよ」
「そうか……」
「哲人が悩み事を抱えるなんて相当深刻な問題なんだね。彼らのこと」
「あぁ、あまり悩んだことがないと言えば嘘になるが、こればかりは頭を抱える悩みの種だな。早く解消されると良いが―――」
と、そこで二人は豪快に笑った。




