青天48
やはり彼女は納得出来ないようだった。
しかし、彼女のもやもやした気持ちを汲み取るわけでもなく、会議は始まろうとしていた。
「さて、始めよう」
「いや、御手洗指揮官。始めると言っても、今回何故俺達を呼んだんですか?」
開口一番に上野が投げ掛けた。
投げられた質問に対して御手洗は黙って彼の方を向いた。
「赤い雲は倒したはずですよね?当面の危機は去った。なら、前回と同じように集める理由が分からないんですが……」
そう言って、上野は発言を終える。
訴えかけるような目を向けられ、御手洗は彼を見続ける。
その発言に続くかのように、
「確かに。彼の言うことは一理あるね」
と、いつものように両腕を組んで椅子に腰掛けている南雲が同様の意を示して頷いた。
二人の発言に釣られるかのように全員が御手洗を見つめた。
上野からの問いかけに応じるように黙っていた御手洗が口を開いた。
「ふむ……赤い雲討伐はご苦労だった。東国に置いて今回の功績は計り知れないだろう……と、喜んで言いたいところだったが。そう上手くはいかないものだな世の中というやつは」
「どういうことですか?」
御手洗の含みのある言い方にその場にいた全員が疑問を感じ首を傾げる。
その答えを全員が待つ。
そして―――。
「残念ながら、今回討伐したのは赤い雲ではなった」
発せられたその言葉に室内は静寂が訪れる。
「え……?どういうことですか?」
困惑した様子の田島が手を挙げて問う。
意味を問われた御手洗は少し顔をしかめて答える。
「言葉通りの意味だ。君達が倒してくれたものは赤い雲とは別のものだった」
「おいおい……そりゃねぇぜ」
信じられないといった様子で上野が天を仰ぐ。
ほとんどの者が動揺を隠しきれないといった様子だった。
しかし、無理も無いだろう。
あれほど苦労して倒したものが全く異なるものであったなど。
今更誰が考えようものか。
「研究員達が解析をした結果、あれは赤い雲ではなく赤雲と呼ばれる厄災であることが判明された」
「赤雲……聞いたことあるぜ。確かAランクの厄災で七つの色の厄災のランクダウンと呼ばれるものが存在するらしいなんて噂が一時期あったが……」
「そうだ。だが、ランクダウンといってもAランクでも相当の上の厄災である事に変わりは無い。それは素直に褒められることだ」
御手洗は今回の功績に対して何の違和感も感じていない。
むしろ、我々だけでよく討伐出来たものだとさえ思った。
ランクダウンなんて聞こえのいいものではない。
ましてや上位交換でもない。
正真正銘赤い雲と言わざるを得ないくらいの強敵であった。
それを倒したことは今回のここにいる面子の実力が十分に発揮され、如実になって現れた証拠だろう。
だが、赤い雲と判別出来なかったという点に置いては痛手かもしれないが―――
「御手洗指揮官の意見は最もだと思いますが、私は賛同しかねます」
その考えを遮るように。
凛とした声でそう言葉を紡いだ。
御手洗は思考を一度取りやめ、声がした方向に首を向ける。
やはり、彼女は声を上げるだろうなと御手洗は思っていた。
その言葉に全員の視線がナンバー2の席に座る者の彼女に突き刺さる。
藤崎夜桜。
朝霞凜華を除けば、幹部の中では生粋の捕食者といえる一人だ。
戦闘に置いて無類の強さを誇る彼女だが、それなりに欠点が存在している。
その一つとして挙げられるのが、朝霞凛華という存在そのものだ。
幹部ナンバー1の席に在する彼女のあり方は、夜桜にとって邪魔なものとしてか感じていないろう。
夜桜は不満を露にした様子で御手洗に噛み付いた。
「確かに功績を挙げたことは大いに喜べることでしょう。ですが。私達の目標は東国を混沌に貶めた七つの厄災です。あれを目標にしている私から言えば、赤雲を倒したところで意味は無く、赤い雲を倒すことが出来なかったのは多少の痛手と考えます」
「ふむ……意味がないとは心外だな。では、君は目的の七つの厄災以外は全て倒したところで意味が無いと思っているのかね?」
「そういう意味ではなくて、私が言いたいのは目的のものを捕らえ切れなかったと―――」
「だが、君の言い方ではそう感じる者も少なくないと思うがね?戦果を上げている者への軽蔑とも取れる発言なのだが」
その言葉に彼女はちらりと全員を見た。
夜桜自身がその目を見てどう感じたのかは不明だが、夜桜は意見を取りやめすっと椅子に腰掛けた。
まだ彼女は納得のいく様子ではなかった。
一番に捕食者という仕事に思い入れがあるからこそ出る正義の発言なのか。
それともそれ以上の何かが彼女にはあるのか。
定かではないが、余り良くない傾向にあると言える。
力とは自身の強さを証明するために備わる所謂努力の賜物というやつだ。
ナンバー1の席に座る朝霞凜華が良い例だろう。
多少の才能を加味したところでやはり抜きん出るものがあるとすれば、それは如何に自身の力を知っているかにかかる。
ベクトルが違えば比べる相手も変わってくるということだ。
彼女のとって不動の一位である朝霞凜華は気に入らないものなのだろう。
誰にだって嫌いなものの一つや二つは存在する。
だからといって私怨を混ぜていいわけではない。
むしろ互いに協力し。弱点を補っていかなければこの先目指せない場所もあるということだ。
それを彼女に分からせるにはどうすればいいのやらと考えていると、
「えぇ、そうですわね。今回は私にとっても余り嬉しいものではありませんわね」
彼女の意見にもう一人同意する者が出た。
御手洗は発言をした者の目を見る。
ナンバー8の席に座るご令嬢―――西園寺麗華だ。
不服そうに彼女も口を尖らせる。
どうやら戦果を上げたい夜桜と自身の活躍が欲しい麗華は案外似たもの同士なのかもしれない。
彼女達に厄災を倒せるだけの力があるのは御手洗も知っている。
だが、性格に難があり、個性が強過ぎるのも弱点といっても過言ではない。
その個性がより肥大化しないことを祈りつつ、溜息を溢そうと口を開く前に―――。
「二人とも自分のことばっかりだな」
溜息を吐きそうになるのを止めて発言した者を見ると、二人に対して告げるのは上野だった。
「結局のところ厄災は撃滅させたんだし、それでいいじゃねーか」
「貴方とは考え方が違うというものですわ。自身の成果を上げたくなるのは当然のことではなくて?」
西園寺が彼の言葉に反論する。
「当然のことではない。現に朝霞はこの場にいない。一位であるからといって評価されるわけでもない。ならば、戦果を上げなくてもよいという考えのやつもいるはずだ」
「ちょいちょい。人の台詞取らんといてよ。まぁ、そゆことなんだけど。自分のことばっかりのやつに背中とか預けたくないじゃん」
こうのもまた上野と似たような考えにあるようだ。
二つの意見が対立する。
一方は自身のために。
もう一方は東国のためにといった考えのようだ。
二極化してしまうのは仕方ないことだが、相容れぬ考えになってしまわぬうちに会議を引き上げることにする。
「もめるのは勝手だ。別に構わないが、出来れば外でやってくれたまえ。以上で会議を終了する」
そう言って、御手洗は早々に立ち去る。
彼らの扱いには困っているところがある。
指揮官などという大役を任されて早数年が経った―――。
正直肩の荷が重いものだ。
自身に勤まる役目であれば良かったのだがな……
ふっと重たい息を吐いて御手洗は横目で上野と西園寺達の姿を確認した。
未だに言い争っているようだ。
彼らが喧嘩する事自体は問題ではない。
大いに論争し合い、何が正しく何が間違っているのかを見極めることが彼らの役目でもある。
己の考えと他人が抱く思想がどの様なずれを起こしているのかを知ることも重要だ。
それを気付かせることは自分の役目ではない。
私に出来る事は間違った道に足を進めないようにする事だけだ。
「気晴らしに奴のところにでも行くか」
ポツリと誰にも聞こえないくらいの声で呟き御手洗は会議室を後にした―――。
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