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青天3

人々が奪われる前に設立していなかったことが悔やまれるくらい人類は悲惨な敗北を遂げた。

心を折るには十分過ぎるくらいに獰猛で、再起不能にするにはあまりにも苛烈極まりなく。


だからこそ、立ち上げたといっても過言ではない。

あらゆる厄災から人々を守る過酷な職業。


常に死と隣り合わせ―――とまではいかないものもあるが、中には覚悟していかなければならない厄災もこの世には多々存在する。


それこそまだ見ぬ敵として出現する可能性もあるだろう。

その為に日々彼らは世界を守るために生きているのだ。


駆除部隊は基本的に四人一組フォーマンセル編成とし、それぞれがあらゆる状況に置かれても対処出来るような編成部隊となっている。


そしてここ東国は、他のエリア――――つまり他国では採用されることの少ない男女混合部隊を基本とする編成となっている。


他の国では男だけの編成、もしくは女だけの編成となっている。


他国からは『女性に捕食者をやらせるのはどうなのか?』と、記事を書き上げる記者からは心配の声が上がっている。


他の国ならまだしも、東国となれば当然死のリスクも出て来る。

それを考慮しての事だろうが……。


この国を統治する最大の権力者————つまるところ捕食者の任意最初の当事者曰く、『男は女の前でこそ力を発揮する』という格言を残して記者会見を後にした。


その言葉が正しいのかは分からない。

それは証明するしかないことなのだから。


断言したからには見せてもらわなければならない。

他国の記者をそう黙らせることに見事成功した。


口で言ってもどうせすぐに信じる物はいないだろう。

一見見て見なければ……。


百聞は一見に如かずと言う諺がある様に。

当然、その発言を馬鹿にする者もいた。


何が力の発揮だと。

そんなもので厄災が倒せれば、苦労などしていないと。


その発言も正しいものではある。

だが、やらないままでは答えは出ない。


正しいと証明するのは、その行動が愚かではないと提言するしか道はないのだから。

以降他国からは馬鹿にされている始末である。


しかし、そんな当事者を東国に住む人々は誰も責めることなく、ただただひたすらその格言に誰もが忠誠していた。


別に守らなければいけないというルールは特別無いのたが、とりわけ困ることのない内容なのでそのまま採用しているという状態だ。


『続いてのニュースです。昨夜未明―――』


テレビから流れてくる女性キャスターの声に耳を傾けていた蓮は、不意に何かを思い出しソファから腰を上げた。


「そういえば……潤。あの二人―――つかさかおるはどうした?さっきから見当たらないが……自室にいるのか?」


蓮が部屋全体を見渡して、人を探す素振りを見せる。

このラウンジには潤と蓮しかいないため見渡したところでいるはずもないのだが……。


蓮に問われた潤は自分で注いだコーヒーを口に運び、一杯口に含ませるとそれを飲み干し彼に言う。


「ああ、あの二人なら一緒に出かけてるよ」

「出かけって……買い物か何かか?」

「いや、討伐対象を倒しに行ってるところだよ。もうすぐ帰ってくる頃だと思うけど……」


その時————

狙っていたかのようにタイミング良く玄関の扉が開く音が聞こえてきた。


「おっ、噂をすればなんとやらか……」


『ちょうどお前らの話をしていたところだ』と、面白おかしく言おうとしていた蓮だったが、どうにも様子がおかしく何やら騒がしい。


やがて、激しい足音が二つ重なって聞こえてくる。

同時に小さくだが、女性二人組の罵声の飛び交いも聞こえてきた。


その声は次第に大きくなっていった。


「だーかーら‼なんであんたはいつもウチの前に来るわけ?邪魔になってるのに気付かないのッ⁉」

「はぁ?言っている意味が分かりません‼今回だって、私のおかげで倒せたんじゃない‼」

「はっ、それはありえないわね‼あなたの乱暴な戦い方じゃ、いつかこっちの命が尽きるわ‼」

「最初からそれが狙いよ‼」

「よっぽど悪いわよ⁉」

「何よッ⁉」

「やるってのッ⁉」


リビングを挟んだ扉の向こう側では、今にも取っ組み合いが起こりそうな雰囲気を醸し出していた。

いや、もう既に起こっているか……。


嫌な予感しかしないと、蓮は溜息を吐いた。

すると、蓮が息を吐き切ったタイミングで勢い良くリビングの扉が開く。


騒がしく開かれた扉から開かれた二人の少女が小競り合いをしながら出てきた。


「もういいわよ‼あんたなんか、海に落っこちて溺れてしまえばいいのよッ‼」

「そういうあなたこそ‼崖から足を滑らせて落ちてしまいなさいッ‼」


あぁ……、また始まった。

蓮はそんなことを思いながら頭を痛める。


何故なら、この二人の喧嘩はこれが初めてではないからだ。

毎回この二人だけで任務に向かわせると、こうして何かと喧嘩しては帰ってくるのだ。


「潤……。どうしてこの二人を止めなかったんだ?」

「いや……だって、行く時は凄く仲良しだったから……さ……」


潤の途切れ途切れの言葉には、仲良しという単語の信用性を微塵も感じさせなかった。

今も二人は互いに髪やら頬やらの引っ掻き合いを繰り返している。


取り敢えず、蓮は二人の間に入って落ち着かせることにした。


「二人とも落ち着け―――」


既に睨み合い互いの額をぶつけていた二人だったが、こちらの声に反応して蓮を見つめてきた途端、一変して態度を変え始めた。


「潤さァーん‼」

「潤先輩‼」


甘い声と共に目をハートマークにして、まるで猫のようにじゃれる。

豹変した女性二人の姿を見た蓮は、唖然あぜんとして開いた口が塞がらなかった。


その瞳は蓮ではなくその奥にいる人物を映していた。

二人は蓮の脇をすり抜けて潤の元へと駆け寄った。


「聞いてくださいよ潤先輩‼この女‼私が攻撃しようとしたところで、私の前に来て邪魔をしてきたんですよっ‼」


両側に髪を結いでツインテールをひるがえした薫が、その情熱的で燃える様な赤色の髪を輝かせながら、潤の右腕に抱きつき司に人差し指を向ける。


「何を言ってるのかしらこの子は……。すみません潤さん。今度キツく叱っておきますので……」


対して司は、肩まで伸びたくせっ毛ヘアーがふわふわと綿飴のような柔らかさを想像させ、流れるような仕草で潤に向かって腰を折った。


「何いい女ぶってんのよ雌豚……」

「あらあら……。この子は本当に―――天に召されたいようねッ‼」


再び取っ組み合いの喧嘩が始まろうとした瞬間とき、誰かが二人の肩を叩いた。


「「————?」」

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