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青天43

その言葉は、昔嫌というほど言われた思い出のある言葉だ。

この言葉を自分は一体何回聞いたことだろう。


懐かしさが込み上げてくる。

そんな潤の気持ちを理解しながら。


薄みがかった彼女は言う。


「潤君、生きるんでしょ?全てを守れるくらい強くなるんでしょ?なら、こんなところで挫けてちゃいけないよ」


激励とも思えるその言葉を、彼女は苦しそうに伝えてくる。

暗くなっている彼女の顔を、沿って手で覆った。


やはりその手に彼女の感覚は無くて。

尚も彼女は語る。


「前に教えたこと……覚えてる?もう忘れたなんて言わせないよ?」


彼女の問いに潤は頷く。

いたずらっぽく微笑む彼女の顔をまともに見ることが出来ない。


もう一度君の顔を見ることが出来たのに。

実際に見てしまえば、こんなにも胸が苦しくなるなんて。


潤は占めて付けられる胸を押さえて彼女から教えてもらった言葉を口にした。


「例え微量でも頑張らなきゃ意味がない……。努力することは悪いことじゃない。君はたくさんの人を救ってきた。その人たちの笑顔を永遠のものにするために—――――正義の心を持って……」

「私のために生きるんじゃないでしょ?生きて、繋ぐんでしょ?私達が目指した世界に。私達の求めた世界に。そして、次の世代に……」

「厄災を残さないためにも‼僕は今ここで―――――厄災を倒す‼」


そして、潤は起き上がった。

力を振り絞って、一歩一歩前へと歩み始めた。


振り絞る力を。

持て余す力を振り絞って。


潤はスコープに赤い雲を見据えて。

そして、ゆっくりと標準の合わせた赤い雲に一発の弾丸を撃ち込んだ。


一直線に飛んで行った弾丸が、星々の源に向かって飛んで行った。

完璧なタイミング。


完璧な位置で放たれた弾丸が、真っすぐ伸びていく。

空気抵抗すら無視した螺旋の渦を巻いた弾丸が—―――最後の力を振り絞っていた状態の赤い雲を。


破壊していった。

星々の源が完全に砕け散り、ちりちりに飛んで行く。


霧散していく星々の源が輝きを放って舞っていく。

これで本当に終わった。


そう思った―――――

命取りとは、そう言った単純な気の緩みで起こるのだと。


潤は認識した。

赤い雲が最後の力を振り絞って出した攻撃は、それこそ誰も反応出来ないほど素早く飛んできた。


潤は正直侮っていた。

もう力を失っていたと思っていたが、それは違った。


最後に赤い雲は、潤に一矢報いるために温存していたのだ。

これが七色の雲と言われる由縁ののだと。


「ははッ―――――ざまぁみろ」


瀬川の乾いた声が空へと響いた。

そうして向かっていく赤い雲の攻撃を見守っていることしか出来ない。


全員が潤の最後を見届けるのかと思った。

瞬間――――


『バシュッ――――』


潤の周りを突然何かが覆った。


「————」


瀬川はその光景を見た瞬間絶句した。

蓮達には何が起きたのか分からない。


突然潤の前に何かが阻むように赤い雲の攻撃を阻止した。

そのまま潤は攻撃を阻止した余韻を残して地面へと着地した。


砂埃が立ち込め、風が吹き荒れた。

そうして何が起きたのか分からなかった蓮より先に瀬川が声を出した。


「なんで……てめぇがそれを……ッ‼」


瀬川に問いだされた潤は すっと手に握り締めていたものを瀬川に見せた。

その瞬間、瀬川の顔色が変わった。


「てめぇ……それをどこでッ⁉」


潤の手のひらにあった物。

彼が見せたのは、小さな御守りだった。


「これは、君の妹が手に持っていたものだよ」

「……ッ⁉」


潤の一言で明らかに瀬川の表情が強張った。

何やら彼は知っているようだった。


潤はしぶしぶ前に出した御守りに悲し気な瞳で見据えて言った。


「君のあげたこれは、確かに並の攻撃は防げるさ。でもね、あの雲の――――赤い雲の攻撃は防げなかったんだよ」

「—————‼」

「君の妹はこの御守りを肌身離さず持っていた。とても大事にね。でも、それが大きな間違いだったんだ。この御守りは雷を弾くことの出来る代物だ。大抵は防げるだろうね。そこがこの御守りのミソだ。それはつまり君の落ち度にあったということにも繋がる」

「なん…だと…ッ‼」

「君の妹はこれを必死に握っていた」

「あぁ、そうさ‼俺が持てと言ったからな‼だからどうしたッ⁉お前が俺の妹を殺したという事実は変わらねぇ‼」

「そうだね……」


潤は悲しそうに事実を受け止めて、そして言った。


「君はあの場にいなかった」

「……だから何だ?まさか俺があの場にいればとかぬかすんじゃねーだろうな?」

「いや、君はあの場には来れなかった。何故なら僕が言った場所とは別の所でも同様に厄災に襲われていた。全員が厄災と戦っていたんだ……」

「そうだ……。あの雨が降る日に俺は紛いにも妹がいる場所とは物の方向に配置させられた。本当ならばお前と一緒のチームである俺が、なぜ別方向に配置させられたのか。お前が‼お前が一人でやると言わずに俺を頼っていれば‼ああはならなかったはずだ‼」


怒りが沸点を超える。

もはや正気を保っていることすらままならない程に。


それでも次に潤が言葉を発した瞬間。

瀬川は止まった。


「君の妹は君を待っていたんだよ―――――」

「なッ――――」

「潤さん‼それは――――」

「いいんだ司」


咄嗟に出てきた司を手で制して潤は口を開いた。


「瀬川。君は妹になんて言った?」

「は?」

「家を出る前に君は、妹に何を言ったのさ」

「何をって……俺が来るまで待っていろと—――――」

「そうだね。君はいつもその言葉を妹に告げてから家を出ていたね」

「何が言いたい?」

「僕が聞いた彼女の最後の言葉は――――」


君が別方向で厄災を倒しているとき僕は君の妹がいる方向に歩いていた。

そう。


僕は全てを請け負うと言わなければ、確かに君がこちら側で対応していたかもしれない。

そうすれば、君の妹を失うこともなかったのかもしれない。


「僕が駆け付けた時には君の妹さんは既に外にいた」

「なん……だと……⁉」

「外を出歩くなんて危険なことだけど、状況が状況なだけに君の妹さんは外に出てしまった」

「だけらどうした‼」

「君は今の説明を聞いて疑問に思わなかったのかい?」


潤の問いの意味を理解出来なかった瀬川が口を開けたまま固まっていた。


「誰も君の妹さんを助けなかったってことさ。外にいたのにも関わらずね」

「————⁉」

「ようやく気付いたようだね。そして、誰の助けも借りられなかった君の妹は、外に出たんだよ――――君を探すためにね」

「あ……あぁ……」


潤の説明が頭に入ってこない。

理解したくない事実が瀬川を追い詰めていく。


その姿に、若干顔を歪ませた潤だが、尚も言葉を綴った。


「その時運良く近くにいた僕が助けようと試みたんだ。だから彼女の手を引いてその場から逃げようとした。だけど、彼女は最後まで君のことを探していたんだろうね」


彼女から手を放した瞬間、僕の耳には届いたんだよ。

最後に彼女から聞こえてきた言葉――――


今でも忘れることがない。


『お兄ちゃんどこ?』


とても悲し気な瞳で辺りを見渡して、誰かを探す素振りを見せて—――――

その先はあまり覚えていない。


「僕が最後に耳にしたのはその一言だった」

「————うそだ‼嘘だ‼嘘だ‼ありえねぇ‼」

「君の妹は、最後まで君のことを探していたよ……」

「あ、あ……あぁ……」


虚ろな目の瀬川にかける言葉はもうない。

潤は彼から視線を切ってそっと、その場を後にした。


残された瀬川は激しく狼狽して、目を泳がせた。


「それじゃあ、あいつは――――花恋かれんは俺の言葉を守って……」


受け入れがたい事実が瀬川を苦しめる。

瀬川の頭の中には罪悪感しかなかった。


頭の中でぐるぐると潤の言葉が回る。

自分が出した答えが、頭の中で一筋の光となって導き出した。


「そうか……。俺は間違っていたのか……」


ようやく気が付いた事実に、今度は確かな目を宿して受け入れた。

彼の弱くおぼろげな声を、近くにいた蓮が聞いていた。


「そうだな」


瀬川がボソリと呟いた言葉に反応するかのように。

彼が肩を落として膝から崩れ落ちた。


地面に接する賀来近づけた顔に。

その時、足元から砂を蹴る音が聞こえて瀬川は顔を上げた。


彼の眼先にいた人物は、先程自分の言葉に反応した蓮だった。

彼は瀬川を見下ろすかのような態度で瀬川を見つめる。


その見覚えのある顔に、瀬川は訝し気に睨み付けた。


「てめぇは……蓮とか言ったか?」

「柳蓮だ。覚えとけ」

「そうか……確か、俺の代わりに入った奴だったな」

「あぁ」


瀬川の質問に淡々と答えていく。

そして、瀬川は鋭い眼つきで蓮を睨むと、口を開いた。


「お前から見て、あいつはどう映る?」


そんな突拍子もない問い。

彼の口から出た言葉に、蓮は一瞬だけどもる。


「唐突だな」

「いいから答えろ」


催促をしてくる瀬川に、蓮は少々考え込みながら答えた。


「お前の望む答えを出せるかどうか分からないが――――俺から見たあいつは、例えるなら太陽のような存在だ」

「……」

「皆を照らす輝きがある。あいつがいるだけで世界は変わるんだ。皆が触発されて動く。そういう人間だ」

「……ふん。そこまで熱弁を求めていなかったんだがな……」

「そうか……望む答えは聞けたか?」

「……」


瀬川の無言を肯定と受け取った蓮が、その場を立ち去ろうとした。

その時――――


「なぁ」


不意に瀬川から声が掛かり、蓮は立ち止まった。


「なんだ?」


蓮が問い返すと、瀬川はすっきりした顔で蓮を見つめ言った。


「あいつを頼む――――」

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