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青天42

だけど、今は違う。

行きたいんだと。


僕の心が頭が叫んでいる。


それは違うと蓮が教えてくれた。

彼の言葉で僕は救われた。


だから僕はここで死ねわけにはいかない。

こんなところで終わりにしたくない‼


アドレナリンの出た状態の潤に、痛みなどなかった。

あるのは目の前の厄災を倒さなければという使命感。


だから、潤は武器を持つ。

それは厄災を倒すために。


己に課した使命を果たすために。

皆を守るために……‼


自分を鼓舞して潤は、手に銃を持った。

先ほどより重く感じる。


腕に痛みはないが、確実に痛んでいるだろう。

辛うじて動く手で、潤はスコープから赤い雲を見据える。


落ちていく潤は冷静に見極めて。

そんな彼を今の状況に追いやった首謀者が現れた。


「よう」


まるで亡霊のようにゆらりと現れた瀬川がポケットに手を突っ込んで歩いてくる。


「瀬川……てめぇ……ッ‼」


蓮達の前に現れた瀬川が不敵に笑う。

蓮は完全にキレている。


不敵に笑う彼が心底腹が立つ。


「崖が崩壊したな。ふははは‼ざまぁみろ‼」

「瀬川……‼今がどういう状況だか分かってるのか……ッ‼」

「知らねぇな……何かあるのか?教えてくれよ俺に……」

「上等だよ‼」


胸倉を掴んで瀬川を倒そうとするが。


「俺に構ってていいのか?確かにあのまま落ちれば、あいつはなんなく地面に着地出来るだろうな。まぁ、何もなければ……な?」


ふと瀬川が視線を動かした。

彼の視線の先には、赤い雲が映し出される。


蓮もつられて赤い雲を見れば、既に攻撃態勢に入っていた。

もう力が残っていないはずなのに。


それでも赤い雲は攻撃を仕掛け、食らいついて来ようとしている。


「クソッ‼」


蓮は一早く駆け出し、潤の元へと向かった。

未だ意識の無い潤は、無常に体を宙に預けていた。


このままでは確実に潤は赤い雲の格好の的だ。

今の状態では攻撃を防ぐことはおろか、避けることすら出来ない。


そうして時間だけが過ぎていく中、赤い雲が赤槍を今度はいくつにも具現化させて放った。

確実に倒しに来ている赤い雲の攻撃が無情にも潤に向かって飛んで行く。


それと同時に蓮は瀬川から手を放して走り出した。

しかし、体力が底をついた蓮に走る力など残っていない。


真っすぐに射抜かれた赤槍が潤に向かっていく。


(間に合わない……ッ)


悔しさが込み上げてきた。

今目の前で戦友がいなくなろうとしているのに。


自分の足が動かないもどかしさに歯噛みして。

そっと足に触れて気付いた。


蓮は死にかけていた自分の足に手を掛けて放った。


「届けぇえええええ」


蓮が足に仕込んでいたのは、たった一本の帯電ブレードを放った。

それは真っすぐ、風すら切り裂いて飛んで行った。


轟々と鳴る風切り音に耳を預けて、蓮は帯電ブレードの行く末を見据え。

そして、赤い雲の赤槍が届くよりも前に、蓮が放った帯電ブレードが潤の前に現れた。


全ての赤槍が潤に向かう前に帯電ブレードへと収束していった。

吸収されていく赤槍が全て消えたのを確認して、蓮は宙に浮かぶ帯電ブレードを地面へと蹴り落した。


「何だとッ⁉」


その光景に瀬川は驚きが隠せなかった。

瀬川の言葉など無視した蓮が、潤の方に目を向けた。


「大丈夫か潤‼」


安否を確認しようと声を掛けると、彼は若干痺れている体を動かして蓮を見る。


「さすがだね蓮……‼」


親指を立て蓮に向けてくる姿を見た蓮は安堵の息を吐いた。


「声を聴いて安心したぜ」


どうやら無事のようだ。


「ごめん。この借りは返すよ」

「なら今返してくれ」

「?」


潤が謝ると同時に、蓮はある場所を指差した。


「あいつを……赤い雲を倒してくれ」


彼には赤い雲以外見えていない。

正義感溢れる蓮にとって、厄災は一番倒さなければいけない相手。


「……」


潤は彼の依頼に対して、笑って返した。

先に落ちていく蓮の姿を見つめ、潤は銃を握った。


最後の一発を銃に込めた。

カーソルを引く音が響く。


スコープ越しに見据えた赤い雲に。

だが、横やりが入ってくる。


「お前に撃てるわけがない」


耳に入ってきた幽鬼を纏った言霊が、潤の体を蝕む。

ゾッとする背筋を押さえつけて潤が合わせるが、


「撃てるはずがない。そうだよなぁ?あの時君は、僕の妹を見捨てて逃げ出した臆病者だものなァ‼忘れたとは言わせないぞ‼」


瀬川の言葉が全身を駆け巡って潤の心に侵食していく。

もしあの時のように。


目の前で人を失ってしまったあの悲しみを。

僕が犯してしまった初めての失敗に。


「本当は僕はヒーローになりたかったんだ……」

「何……?」


潤は突然語りだした。

それは誰に言うわけでもなく。


ただの独り言だ。


「誰も彼も守れる正義のヒーローになりたかった。でも、全然力が足りない……。全部を守るための力が足りない。どんなに欲を深くしても、どんなに力をつけても、全てを守れなかった……。一体何がダメなんだろう?一体何が悪いんだろう?どうして正義のヒーローになれない?なんでだ?誰か教えてくれ……ッ‼」


それはもう悲哀の言葉だった。

自分に力がないから。


自分が弱いから。

何も守ることが出来ない。


何も救うことが出来ない。

もう僕は駄目だ。


こんなに力がない僕は。

自暴自棄になっていた。


陥る不安が胸にのしかかる。

押しつぶされそうになるプレッシャーに手が震えだす。


スコープが揺れてうまく狙いが定まらない。

このままでは赤い雲を討つことが出来ない。


焦りが更に潤を追い込んでいく。

そして、諦めかけていた—――――その時。


ふと誰かの声が潤の耳を打った。

それは幾度と聞きなれた懐かしい声。


だけど、この声はもう二度と聞けないと思っていなかったから。

驚きが隠せないでいた。


「ダメだよ潤君」


どこか聞き覚えのある声に耳を傾け、必死に記憶の奥底にある何かを見つけ出す。

それは自分が最も聞いていたはずの声。


思い出すのに時間がかかった。

しかし、決して忘れる事の出来ない物だった。


「……渚月なづき


潤は声の主の名前を口にする。

目の前には少し薄みがかった渚月の姿がはっきりと見えていた。


「僕は夢でも見ているのか……?」


今起きている現象がどういったもので引き起ったのか。

潤には分からなかった。


だが、現に彼女は目の前にいる。

確かに死んだはずの彼女が。


潤は無意識のうちに手を伸ばして彼女の手を握ろうとした。

だが、その手は無情にも彼女をすり抜けていった。


その事実に潤は、


「あぁ……そうか」


と、小さく声を出して彼女を見つめた。


すると、彼女はこちらを苦しそうな瞳で見つめながら話し掛けてくる。


「逃げちゃダメだよ潤君」

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