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青天36

蓮が噛み付いてきたと思うが否や、南雲は不敵に笑って言った。


「何とは心外だな……赤い雲の討伐に決まっているじゃないか」

「本当か?」

「本当だとも」

「なら、どうしてこんな場所にいるんだ?」

「別に然したる理由なんてものはないさ」

「なおのことおかしいな……」

「というと?」


南雲は柳蓮という男が存外、勘ぐり強い男ということに今更ながら気付いた。

このままでは流れが悪いと思った南雲が話の流れを変えようと試みるが、


「お前の部隊……何か様子が変だな?何をした」

「特に何もしていないよ?彼らが勝手に付いてくるだけさ」


先に話を変えられて南雲は心の中で再認識した。

蓮の疑い深い性格は今非常に厄介なことだ。


何とか嘘で誤魔化すが、正直あまり効果のほどは期待していない。

その言葉を聞いた蓮は感づいていた。


彼は嘘を憑いている。

蓮の第六感が告げていたのだが、下手に手も出せないので自分すら騙すことにした。


平気で嘘を憑いてくる南雲に蓮は困惑しながらたじろんだ。

演技を一つ噛まして動揺する。


その姿を見た南雲が予想道理余裕の出来た勝ち誇り方で前に出る。

そして、最後に一言。


「では、これで失礼するよ。赤い雲を討伐しないといけないんでね。君もこんなところにいないで早く行った方がいいんじゃないか?」


敢えて嫌味のように告げてくる南雲に、蓮は心底ウザったくなりつつ未だ演技を続けた。

蓮の困惑すら清々しく受け流して、彼は取り巻き達と共にどこかに行こうとする。


彼の後ろ姿を鮮明に目に焼き付け最後まで見送る。

蓮は取り合えず息を吸うのを忘れていた肺に空気を送り込んで深呼吸した。


深い深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

彼の動向を伺うべきか、それともこのまま赤い雲を探すか。


しかし、彼の動向を伺おうにも周りにいる彼の隊員達が邪魔になる。

しれに尾行してるのがばれてしまえば何されるか分かったものでもない。


リスクを犯してまでやる仕事ではないと思った蓮は南雲とは反対方向に進んだ。

無論、彼らが歩いた先には赤い雲がいないことが分かりきっていた。


何故なら彼らが歩き出した方向には雲が一つも漂っていなかった。

それだけじゃない。


雷撃によって燃やされた木々達が引火していなかった。

故に燃えた森林が目に映ってこなかったのだ。


結局彼らは戦闘に参加しないという意思の表れなのだろう。

兎に角蓮は自分に出来ることをするために走り出す。


決意した蓮は内心南雲の行動に動揺しつつも、足を出して一気に駆け出した。

余計なことに時間を奪われたと叱責して、体を前に出す。


地面が抉れるほど強く軽やかに。

反発する力を速さに変えて—―――。



薫が雷撃を捌いている中、彼女の近くには沢山の取り残された隊員達が、各々逃げ道を探しながら惑っていた。


薫は退路を開く為に装備していたありったけの帯電ブレードを放る。

だが、僅かに気付いた。


手探りでまさぐると、残りの数が少ないことに内心苛立ち、足を止めて立ち止まった。

どの道このままじり貧でやっていくのにも限界を感じていたところだ。


ちょうどいい。

薫は残りの弾数が乏しい帯電ブレードを使うのを止めて武器を持ち替えた。


薫の手には二つの銃が握られていた。

美しい光沢に塗りたくられた色合いの銃に、不思議と笑ってしまう。


なんだかんだ言ってもやはり自分の相棒はこの二つの銃なんだと。

手に篭る力を体全体に馴染ませて駆ける。


双銃を駆使して薫は瞬く間に雷撃を蹴散らしていく。

発砲音が聞こえたと思えば自然消滅でもしたのではないかと勘違いするほどに素早く消えていく雷雲に、薫は慈悲の目を向ける。


そうして皆の退路が確保され、一気に隊員達が脱出出来る進路が開通した。

全員が通れるくらいの隙は作ることが出来る。


薫は雷撃が自分に向くように誘導していく。


「今のうちに逃げなさい‼」


薫の激高ともとれる声に臆した隊員達が腰を震わして逃げる。

もはや赤い雲に臆しているのか、薫に臆しているのか分からなかった。


だが、彼らとて馬鹿ではなかった。

素早く動く洗礼された動きであっという間に逃げると、薫に負担が掛からないようにあらかたの雷雲は撃ち砕かれていた。


あらかた逃げたことを確認した薫が立ち去ろうとした――――その時だった。

突然自分の横を猛スピードで何かが飛んできた。


後から遅れてくる風に圧倒され呆ける。

しばらく固まっていると、背後からうめき声が聞こえてきてようやく我に返った。


何事かと思い後ろに目をやると、そこには傷付き地面にへたり込んでいる夜桜の姿があった。

彼女は確か前線で皆を逃がす為に奮闘していたはず。


だが、現状ここにいるということは相当押し切られているのだろう。

その事実に薫は悪寒が走る。


一体どれだけ進行したのだろうか?

目をやってもどこにも赤い雲の姿が見当たらなかった。


後ろでうめき声を挙げて必死に立ち上がろうとしている夜桜に近寄ろうとするが……

夜桜はふらふらになりながらも自分の力で立ち上がった。


おぼろげな足取りと虚ろな瞳で真っすぐを見つめ睨み付けている。

彼女には赤い雲が見えるらしい。


彼女は鋭い視線をぶつけ、何かを見いていた。

彼女の視線を追うようにして後を追うと—――――薫は我が目を見張った。


そこにはもはや完全に赤き模様を失った、赤い雲とは名ばかりの雲が異様な大きさまで膨れていた。

ありえない景色に薫は唖然とした。


もはやここら一体を飲み込んでしまうのではないかと疑いたくなるくらいに絶望に打ちひしがれる思いだった。


これは何だと思ったのも束の間。

すぐに危険だと思った薫が夜桜の手を引いて去ろうとするが、それよりも前に夜桜が先に駆けて行き赤い雲に対峙する為に行ってしまった。


夜桜のことを知っているからこそ薫には感じた。

恐らくこのままでは夜桜は先程と同じく負けてしまう。


最悪は死すら頭に過ぎったのだが、錯乱した夜桜にそんな話をしたところで彼女に余裕なんてものはない。


どうしようかと考えている時間すらもったいないというか、無駄なように。

薫が動き出す前よりも早く、夜桜の絶命が目の前に迫ってきていた。


目の前を覆い尽くすくらいの巨大な雷雲が電気を溜めて放電の準備をしていた。

この量は不味いと。


薫だけではなく、夜桜自身も気付いていたが、もう間に合わないくらいに致命的に遅かった。

既に彼女の目の前には雷鳴を伴った雷撃が目前に迫っていた。


それに反応出来る訳もない。

体力は底を尽き、体を動かすのも困難である。


夜桜はフラフラとした足取りで前へと進んだ。

必死に足掻こうにも体はいうことを聞いてくれない。


彼女に向かって赤い雲の特徴である、鋭く弾丸のように降る雨から名付けられた技。

赤い弾丸が飛んできた。


(これは……避けられない……ッ!?)


薫は叫び、夜桜は自分の死すら感じないほどにそれほど早く迫ってきていた。

走馬燈すら見せてくれないのかと悔しく思い、しかしあとは他に託すしかないと胸に誓って最後の時を素直に待った。


人は死ぬときには死ぬ。

自分はそれが今なのだというだけなのに。


「私は……負けられない……一番にならなきゃ……一番に……」

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