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第十二章 幻想狂

ポツリと頬を伝う雨粒が涙のように零れ落ちていく。

伝う雨粒はやけに冷たくひんやりと寒気を持ち、肌に触れる度にその涼しさが実感出来る。


その雨粒は一滴一滴地面へと落ちていく。

乾いた地面に水が染み込んで色変していった。


雨音はリズムを刻むような淡々とした一定の音を立てている。

次第に降る雨は強くなり、雨音が激しさを増していく。


やがて雨音以外の音が世界から消えて—―――他に何も聞こえなくなる。

無音にも近しいこの戦場で、赤い雲によって生成せれた雷雲が悲鳴を上げている。


怒号の嵐が如く、鳴りやむことのない雷撃が隊員達を襲う。


「帯電ブレードを使いなさい‼雷の矢を防げるわ‼」


薫が叫びながら蓮に向かって飛来してくる雷撃の対処法を教える。


「た、帯電ブレード⁉なんだそれ?」

「はぁ⁉たくっ‼」


蓮の惚けた言葉に呆れ返りながらも、薫は腰に付けていた小さな小刀を徐に放り投げた。

それは雷を受け、刃に雷を文字道理帯電させる代物である。


光り輝く小刀の刃には特殊な光沢が放っていた。

女性の手でも持てるくらいの小さな小刀は、時間の流れを忘れるくらいに美しく飛んでいく。


蓮に飛来していた雷撃は、薫が放った帯電ブレードに引き寄せられるように急激に進路を変えて直撃する。


バチッ――――‼


強い衝撃音と共に雷撃が吸い込まれていった。

雷撃を取り込んだ帯電ブレードは電撃を帯びて宙に漂う。


雷撃を纏った帯電ブレードが異様に遅く宙を彷徨っていた。

その光景をゆっくりと目で追いながら。


「あれどうするんだよ?」


宙に舞った帯電ブレードを見つめ、蓮は薫に問いかけた。

すると、薫は不意ににたりと笑って言った。


「もちろん――――こうするのよ‼」


薫は力強く飛ぶと、宙にある帯電ブレードのさらに上を行くと。

天高くかかとを振り上げ、直線に振り落とした。


力一杯込められた薫のかかと落としが見事に帯電ブレード柄の部分に当たり、凄まじい速さと共に地面へと向かうと激しく空気を切り裂いて突き刺さるように激突した。


直後、帯電ブレードが纏っていた雷が地面に流れていった。

地面に流れた電気を失った小刀が光を無くして輝きを欠けた。


蹴り上げ終えた薫が地面に到着した。

余韻を残して立ち上がり一言。


「いっちょあがりね‼」

「帯電ブレード蹴って落としたのか……?でも、何でだ?」


蓮の疑問に薫は、


「帯電ブレードは避雷針の役割を果たしているのよ」

「避雷針?」

「雷や雷撃を受けて地面に流すってことね。本来は建物とかに設置してあるのだけれど、帯電ブレードはそれを応用したものってことになるわね。帯電ブレードで一時的に雷撃を帯電させて、そのまま地面に叩きつけることで簡易的な避雷針になるわ」

「なるほどな」

「でも、注意しなければいけないことがあって、帯電ブレードを宙に滞空させ続けてしまうと逆に暴発して危険だから、使う時は早めに地面に押し付けること‼更に注意することは必ず空中で蹴ること‼分かった⁉」


薫の説明が次第に熱を帯びていく。


「お、おう……」


薫の説明に納得して頷く。

なぜ彼女がこんなにも熱を帯びているのか蓮には理解出来なかったが、蓮は帯電ブレードを使う時は絶対一人では使わないようにしようと心に誓うのであった。


蓮が応じたのを見つめ、ひらりひらりと赤い雲の攻撃を躱しながら薫は、次々と帯電ブレードを放り投げる。


宙に舞う帯電ブレードは見事に雷撃を誘い込み、磁針に取り込む。

高く飛んでは蹴落とし、投げては蹴落としての繰り返しだった。


しかし、薫の手は休む事はおろか、むしろその洗練された動きは極みの境地に至っていた。

その完璧な動きに圧倒される蓮は完全に置いてきぼり状態だった。


卓越した薫は、狙いを定めて投げる。

的確に放り投げられた帯電ブレードが回転しながら雷撃に撃たれる様子を確認し、次に雷雲が来そうな場所を目論見て鋭く視線を飛ばす。


気が付けば彼女の周りには人っ子一人いなかった。

どうやら上手く避難することが出来たらしい。


ならばと、薫は踵を返して次なる場所へと移動する。

既に薫には蓮のことなど頭になかった。


そして、まだ避難しきっていない隊員達の元へと駆けて行くのであった――――。


「薫の奴……勝手にどこかに行きやがって……」


置いてきぼりを食らった当の本人、蓮は未だ薫を探して道無き道を進む。

今蓮がいる道に彼女はいないのだが……。


そんなことに気付くような蓮ではないので闇雲に探し回る。

だが、その道にはやはり彼女はいなくて、一人ぽつんと虚しさだけが残る。


ふと回るを見れば、いつの間にか人がどこにもいなかった。

どうにも、人がいないことにすら一瞬気付かなかったように。


「戻るか……」


バカバカしくなった蓮が戻ろうと振り返ってきた道を戻ろうとすると、


「おや?」


どこからともなく男の声が聞こえてきて、不意に蓮の足が止まる。

無言のまま声のする方に目を向ければ、そこには顎を擦りながらこちらを見つめてくる

東城南雲に出くわした。


「君は確か……清水リーダーの所の……」


南雲は自らの記憶を呼び覚ますために頭を抱えて悩むが――――


「すまないね、忘れてしまったよ。失敬失敬」


南雲は思い出せないのを口実に笑いながら謝ってくる。

それで詫びれているつもりなのかと疑いたくなったが、そんなことより気になっていることがあった。


それは彼の後ろに団体を組んでいる隊員達だった。

とても統率の行き届いている部隊なのが一目で分かったのだが、なぜか異様にその光景が悍ましい。


不気味さえ感じる部隊。

その悪寒を刺激される寒気の正体は、誰もが一向に口を開かないからだろう。


談話をしてもいい状況なのにも関わらず。

誰もがただ無心に。


黙ってこちらを見てくる光景に嫌気がさして立ち去ろうとするが、ある違和感に支配されて蓮は急激に自分の体温が下がるのを実感した。


「お前……ここで何してんだよ?」


蓮が口にした言葉によって南雲は立ち去ろうと動かした足を止める。

振り向き直ると、彼の激情した瞳が南雲の瞳を穿たんとする。


蓮の凄味に動きを制されてしまい、一瞬口を開くのが遅れてしまった。


「何、とは……?」


その言葉だだけで、目の前にいる彼の瞳が大きく開かれるのが分かった。

どうやら目的を分かっていない南雲に苛立ちが爆発しそうになるのを抑えて堪える。


南雲は恐らくこの戦いに参加していない。

だからこそ蓮は動きを止めて彼に向き直った。


「お前はここで何をしていたんだ?」

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