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青天33

南雲は退屈そうに少年を謁見すると、


「君、なんでここにいるのかな?」


と、辛辣な言葉を吐き捨てた。


『あん?』

「君の実力から言って、本来はいてはいけない――――言わばお荷物のような存在のはずなんだけど?」

『なんだと?』


お荷物と言われ、少年に怒りが込み上げてくる。


『お荷物とは言ってくれるじゃねーか……上等だよ‼』


怒りによって制御の利かなくなった少年が武器を手に持って南雲に近づく。


『今ここでお前を倒せば、俺が幹部ナンバーだ』

「それは無理だろう?今の君の実力じゃ……ね」


少年は完全に切れた様子で南雲との距離を詰めていく。

その様子をそばで見ていた他の者達に焦りが生まれた。


これは本気で止めないと大変なことになると、その場にいた者全員が緊迫する中で思い耽る。

しかし、誰一人として止めに入ることが出来ない。


何故なら南雲という人物の不気味に怒気の含んだ表情に圧倒されて動けなかったからだ。

このままでは不味いと、勇気を振り絞って少年が前に一歩出る――――よりも前に、


「それくらいにしておけ南雲」


透き通るような男の声がして少年の足は止まった。

突然発せられた仲裁の声に誰もが振り返った。


彼らの視線の先にいたのは黒縁眼鏡を耳に引っ提げて、髪を七三にきっちり分けた男が足音を立てて南雲の前に現れた。


その人物は――――幹部ナンバー3藤宮だった。

彼は眼鏡を指で上げて指摘すると、一触即発ムード漂う空気を一変させた。


「君も、もう少し冷静になれ。今は仲間内で争っている場合じゃないだろう」

『ちっ……』

「南雲もだ。もう少し幹部としての自覚を持って行動しろ」

「……はいはい。分かりましたよ」


二人は互いに背中を向けて距離を取っていく。

その間に割って入った藤宮は、二人がある程度の距離を取ったことを確認して目を逸らした。


(これから戦闘だというのに……)


少しだけ機嫌を損ねた藤宮が、眼鏡を上げる。


(やはり……、この眼鏡では駄目だな……)


ふと、視線を向ければ辺りには、隊列を揃えた部隊が周りに集まってきた。

何事かとこの様子を伺いに来たのだろう。


「すまない。事を荒立てたな」


心配そうにこちらを見つめていた隊員達に手で制して済ませた。

今は彼らを不安にさせる訳にはいかない。


そう心に決心して、藤宮は顔を上げた。

目前に見えるは、真っ赤に染まった赤い雲。


嫌気がさすほどに真っ赤に染まった雲に思わず目を背けたくなる。

思い出してしまうから。


あの赤く染まった雲によって奪われたあの日の大切な物を……

藤宮は握り拳を作って歯噛みをする。


(この日の為に僕は――――)



★☆★



「緊迫したこの空気、何とも爽快ですね‼ねッ、紫咲さん‼」


高揚感に浸る西園寺を尻目に、


「どこがですか……。頭のねじ一本抜けているんじゃないですか……?」


と、彼女から一歩距離を取ってし咲はおぞましい者を見る目を向ける。


隣にいるのも嫌になったのか。

更に彼女から離れていく。


「どこに行くのかしら、紫咲さん?」


ピッタリとくっついて彼女に引っ付く西園寺に寒気を感じた。

何やら自分は彼女に気に入られているらしい。


何かとくっついてくる彼女に何か裏があるのではないかと詮索を掛ける。


「あの……、西園寺さん?」

「なぁに?」

「いや……、いつも私の後ろにいるけど……、もしかして盾にしてるとかじゃ―――」

「ん?」

「うっ……」


言いかけた言葉が喉から出ない。

彼女の輝かしい瞳を見つめ、他に何も言えなくなる。


「何でもない……」

「え~‼なぁに?気になるぅ~‼」


詮索を掛けたつもりが、逆に質問攻めにされる形となってしまった。

自分の馬鹿な行動に後悔して点を仰いだ。


そこにいたのは―――

今の心情を吹き飛ばすくらいに鮮明に色濃く濃淡の利いた赤い雲が、光彩を通して強く残る。


虚無感に胸を締めつけられて、酷く心に穴が開いた感覚に襲われた。

あの赤い雲を見るのは、これで二度目だ—―――。


同じく天を仰いで見上げる者がいた。

幹部ナンバー5高浪絵夢が真剣な面持ちでじっと天を見つめていた。


その瞳には確かな熱情が籠っていた。

瞳を厳しくして、赤い雲を睨んだ。


「随分険しい顔をしているな」


その時、彼女の隣に大柄な男が話しかけてきた。

絵夢が一瞬だけそちらを確認する。


隣に歩み寄ってきた渉が共に赤い雲を見つめる。

大柄な彼にとって、手を伸ばせば届きそうだと錯覚してしまいそうになる。


「あなたなら、背伸びをすれば届いてしまいそうですね?」

「驚いたな。そんな冗談を言う余裕があるとは……」

「……」

「いや、違うな……。冗談でも言わなければいけないほどに追われているのか?」

「簡単に当ててくれますね……。本当にあなたと一緒にいると、神経を使います」

「すまないな。分かってしまうほどに顔に出ていたからな」

「嫌味ですね」

「どう受け取ろうが構わないが、あまり気負いするなよ」

「分かって……います」


胸に手を当てて、固く決意を結んだ。

この胸に付いたしがらみを取り除きに行くために—―――



★☆★



閉じていた目をゆっくりと開いた。

目に光が入り込んでくる。


その光はいつものように白くは無く、赤く灯る紅炎の焔が瞬いていた。

あぁ――――やはり目を開けても光景は変わらないか……。


少しだけ残念な気持ちに襲われながら、目の前の現実に目をやった。

隣では蓮が苦い顔をして見てくる。


「潤も同じこと考えてたみたいだな……」

「蓮もかい?」

「そりゃ、この現実から目を背けたくもなるさ」

「これから戦闘に入るって時に呑気なものですね……」


二人の会話に割って入ってきた人物に二人は驚いた。

そこにいたのは、異様な空気で周りを支配する夜桜だった。


潤と蓮の会話を聞いていた夜桜が交互に見た後、鋭く睨んで二人を圧倒した。

その凄みに威圧された二人が沈黙していると、先に視線を切った夜桜が二人の横を通り過ぎていく。


「ちょっと待ちなさい」


夜桜が見えなくなる直前―――

彼女に声を掛ける者がいた。


呼び止められた夜桜は、振り返らずとも誰が自分のことを呼び止めたか分かっていた。

だからこそ、敢えて振り向かずに答えた。


「何かよう?薫?」


名前を告げて呼びかけに答えると、振り向いて真っすぐ見つめた。

向き合って相対する人物を見て夜桜は軽く笑んだ。


腕を組んでこちらを見つめてくる薫に負けじと睨み返そうとする。

互いに睨みあう形になった二人に緊迫の空気が張り詰める。


女子二人の間にいた蓮と潤は、いたたまれない空気に板挟み状態となって固まった。


(なんか……、この二人が作り出す空気は独特だね……)

(言ってる場合か⁉何とかこの場を沈めないと—――)


蓮が言い終わる前に二人に動きがあった。


「何かようじゃないでしょう?私の潤さんに突っかかっておいて、ただで帰れると思っているわけ?」


既に喧嘩腰の薫に対して夜桜も反感して言う。


「突っかかるのも無理はないわ。寝言を言っていたから性根を叩き直してあげようとしただけ」

「潤さんは常に冷静に物事を分析しているわ。今だって現実に目を向けて—―――」

「それは分析とは言わないわね。ただ単に目を背けているだけ」


確かに彼女の言うように目を背けている。

だって、仕方のないことだから。


厄災と戦うことは誰だって怖い。

僕だってそうだ。


怖いけど戦わなきゃいけない。

戦場に赴かなければならない。


彼女だってきっとそうだろう――――。

潤は静かな目で夜桜を見据える。


研鑽とした卓越なる力量から幹部ナンバー2に昇り詰めた少女。

朝霞凛華に次いで次席の座に君臨する彼女は強かった。


いくら敵が強くても、強大な厄災に苛まれたとしても、幾度となく困難に飲まれても壁を乗り越えてきた

夜桜にとって、今回の任務も常にいつも通りやるつもりだった。


自分が一番であるから。

自分が戦闘に立ってきたから。


だから、今回もと—―――思っていた。

でも、今回は少しばかり状況が違った。


それは――――彼女が敵対する唯一の敵、朝霞凛華が戦場へ赴くと知ったからだ。

冷たい風に当たりながら、彼女は思いを馳せる。


(赤い雲を倒して今度こそ私が—―――)


そう心に誓って、薫の横を通り過ぎて前へと歩き出した。

彼女の目の前には騒ぎを聞いてやってきた隊員達だった。


不安に見つめる者や焦燥に駆られる者。

怯え震えて、心配そうな仕草を見せる者。


「ここにいる者全員、私についてきなさい」


一言告げる。

それだけで自分の前にいる者たちは、目に輝きを出していた。


全員の目に闘志が燃え上がるように湧き上がる。

それに釣られて不思議と力も出てくる。


先導に立つものがこれほどの熱意を持っているからこそ織り成せる技に感嘆の声を上げて潤は見つめた。


「凄いね……。彼女ほどの才覚を僕は見たことがないかもしれない……」

「言葉だけで人を突き動かす……か」


蓮は感心した瞳で見つめる。

しかし、その思いは彼女の思考とは全く違う形となっていた。


彼女は思う。

純粋に真っ直ぐな気持ちで……。


(違う……。私は彼女に勝ちたいだけ……)


彼女に勝つために目の前にいる人達を礎にする。

生贄にはしない。


全てを私の糧にしていくだけ。

固く心に決心したその時―――


『総員―――戦闘配置に着いたか?』


御手洗の声が聞こえてくる。

その瞬間、全員に緊張が走る。


『敵は目の前にいる厄災レベルA赤い雲だ。全員心の準備はいいな?』


御手洗は問いかける。

心の準備など大半の者が行っている。


『どうやら全員大丈夫みたいだな……。安心した。ならば示そう。あの日の失った者を取り戻す為に……』


あぁ、哲人が言っている。

失った者を取り戻せと―――。


分かってるよ。

分かってる。


あの日失ったものは大きかったね。

取り戻せるかな?


いや、取り戻さないといけないんだ。

そうだよね?渚月―――

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