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青天32

★☆★



日差しが照り付ける太陽が今日は見えなかった。

何故なら太陽はここから遥か先にあって、普段であっても直視で見ることは困難である。


しかし、今はどうだろうか?

直視することもままならないほどの熱量を帯びている太陽は見る影もなかった。


天を仰いだ先にあったのは、太陽と同じように真っ赤に染まっていた空だ。

だが、その空は太陽のように暖かくはなかった。


むしろ、その逆で寒気が迸り、体が冷え上がる。

外気は体を動かしていなければいけないほどに冷え切っていた。


「寒いな……」


そう呟いた蓮は体を擦り、少しでも自身の体温を上げようと試みる。


「特攻服を身に纏っていても寒いなんてね……」


隣で蓮の様子を見ていた潤も身震いをして体温を保とうとする。


「大丈夫ですか潤さん?」

「うん、司の方こそ大丈夫?」

「はい‼私は大丈夫です‼」


そう言っている司だが、その体が若干震えていることを潤は見逃さなかった。

しょうがないなと思った潤は細く笑み、そっと彼女に近づくと、優しく一枚分厚い服を掛けてあげた。


それは自分が特攻服の上にもう一枚羽織っていたものなのだが、


「え……?」


思いがけない出来事に司は一瞬だけ固まる。

司にとってはこれ以上ないくらいの高揚感を得られるもの。


はっとして、お礼の言葉を声を発そうとする前よりも早く――――


「あ……⁉あぁ……‼あああああああああ‼」


突然大きな声を出して、薫が虚ろな目で潤と司を見つめた。

その姿に驚いた潤がびっくりして薫を見た。


「ど、どうしたの……薫ッ?」


薫の予想外の声の大きさに潤は動揺を隠しきれなかった。

何事かと思っていると、


「わ、私だってぇぇぇえええええ‼」


と、そのまま彼女は泣きわめきながらどこかへと去っていく。


「~~~♪~~~♪」


三人の元を少しだけ離れていた蓮が野暮用を済ませて戻ってくると、何かが彼の横をもの凄い速さで通り過ぎていく。


「な、なんだッ⁉」


突然の突風に驚いて振り返ると、突然打って変わったように変貌を遂げた薫が何かに逃げ出すようにして走り去っていく姿だった。


どんどん遠くなっていく彼女の背中を茫然と見つめた。


「……」


彼女の姿に唖然としていた蓮が「はっ」となって潤に近づいて行こうとして察した。

蓮同様に固まって薫が去っていった方向に目を向けていた。


彼は未だに薫が逃げ出した理由が分かっていないように見えた。

だが、蓮には一体何故薫が逃げ出すようにして去っていったのか理由が分かっていた。


「潤……。それはダメだろ……」

「えっ……?な、何が……?」


蓮の言葉の意味を理解出来ないでいる潤に、これは駄目だと思い薫のことは無視することにした。


「まぁ……いいや。あんまり司ばかりにいい思いをさせてやるなよ」

「え、あ……うん?……うん、分かったよ」


一つ忠告にと諭したのだが、恐らく彼の「分かった」はちっとも分かっていないのだと蓮は思った。

蓮は今の現状を把握するために全体に目をやる。


目の前には自分達の他に数名ちらほらと集まっていた。

蓮達と同じ年齢の少年少女達が会話を楽しみながら、その時を刻一刻と待っていた。


彼らを台頭として先人に立っているのは、幹部ナンバー2藤咲夜桜が遠方に目線を置いて佇んでいた。

彼女の眼差しは鋭く、その目は闘志に灯っていた。


何やら思い入れがあるのだろうか。

蓮が彼女を見つめていると、


「……(キッ‼)」


こちらの視線に気付いた夜桜が更に目を鋭くさせてこちらを睨んできた。


その姿を見た蓮はバツが悪そうな顔をして視線を逸らした。

どうやらあまり見られるのが好きではないのだろう。


蓮と同じく、夜桜の佇まいに見とれていた男女達だったが、夜桜の鋭い眼光に全員が目を逸らしてしまう。


それを以てしても彼女の美しい姿に誰もが釘付けになってしまっていた。


(あれが幹部ナンバー2藤咲夜桜ふじさきよざくらか……)


蓮は視線を切って隊列を組む。

隊列を組むのには理由がある。


なんでも戦闘を前に今回の赤い雲との戦闘に備えるための前説が始まるからである。

その前説を担当するのは――――彼女であった。


目の前に現れるのは、先程まで崖の上にいた藤咲夜桜だった。

彼女は堂々とした立ち振る舞いで前に立つと、口を開いて喋り始めた。


「皆さん。よく集まってくれました」


彼女は淡々と述べていく。


「忌まわしき悪夢が蘇る方も多くいると思われます。数年前の大厄災によって数々の方の命が赤い雲に奪われ、同時に多くの者を失ってきました。煮え切らないほどの苦痛に顔を歪ませ、悔しさを募らせてきたこと。過去を乗り越えて捕食者になった方は数知れず。だからこそ私達は立ち上がった‼再び倒すべき相手が姿を現した‼今こそ私達の力を示す時です‼」


彼女の演説が次第に熱が帯びていく。

さながらその姿は前を歩くリーダー……いや、引っ張って行く姿は指導者のそれだ。


残念ながら上手い表現を知らない。

だが、彼女の言葉は不思議と耳に刻まれていく。


心に響くその演説に少年少女達の力が膨れ上がる。

それぞれが胸にあるわだかまりをうちに秘めて、そして—―――挑む。


「目標は赤い雲‼全力を以て挑む‼」

『『『うぉぉぉぉおおおおおおおおお‼』』』


夜桜の力強い声に合わせて全員が雄たけびを上げる。

蓮は鋭い目で彼女―――藤咲夜桜を見つめた。


夜桜を一瞥した後、蓮はある者を目撃する。

それは、さっきまで何処かに逃げてしまっていた薫が腕を組み、真剣な顔付きで夜桜を見つめている姿だった。


その目はどこか憐れむような目をしていた。

蓮はバレないようして静かにその場から離れると、持ち場に着く為に潤の元へと駆け寄った。


潤は最後尾に位置していた為、簡単に見つけることが出来た。


「潤‼」


蓮は彼の名前を呼びかけると、声に気付いた潤がこちらの存在に気付いて顔を向けてきた。


「蓮、ちゃんと藤咲さんの話は聞いていたかい?」


潤は蓮の姿を見るなり、そんなことを口にした。


「おいおい、さすがの俺でも赤い雲が相手って時に惚けていられねーぜ」

「まぁ……、それもそうだね。今回に限っては、皆も顔つきが違うからね。前にやった雷電雲とはレベルも違うし……」


そう言って潤は、ちらりとあたりを見渡す素振りを見せた。

蓮も彼に釣られて目を向ける。


確かに言われてみれば、全員の顔に神妙さが伺える。

妙に肩に力が入っている者もいれば、体を震わして衝動を抑えようとしている者まで沢山いた。


「緊張感が半端ねぇな……」


口から洩れた言葉がより一層重みのある言葉になった。

小さく息を吐いた口から白い靄が溢れ出て来る。


これから始まる死闘に向けて、潤と蓮は集中力を高めていく――――。



★☆★



遠くから雄たけびのようなものが聞こえてきた—―――。

どこかのグループが気合を入れるために声を出して自分を鼓舞しているのだろう。


そう推測を立てて、ふと視線を声のする方に目を向けた。

地鳴りでも起こさんばかりの雄たけびに、聞いている本人は何とも言えぬ和やかな雰囲気に支配された。


どこか涼しげな顔をしているその男の顔は、薄く笑み余裕に満ち溢れていた。

飄々と佇むは、幹部ナンバー8に在籍する東城南雲であった。


彼は視線を再び戻すと、自分が指揮するメンバーの顔触れを確認した。

そこにはやはり自分と同じような年齢層の少年少女達が緊張感を漂わせた顔で南雲を見ていた。


「ん~♪中々いい顔ぶれだね~」


呑気に鼻歌交じりにそう呟くと、彼を取り巻く周りの少年少女達の顔に不安が募る。

こそこそと南雲に聞こえないような声で喋る者が数人いた。


こいつに任せて大丈夫なのか?と疑問に思う者が大半だろう。

故に—―――


『おい‼』

「ん~?」


咄嗟に声が上がって南雲はそちらに顔を向ける。

そこには明らかに不満を持った少年が深いな顔をして南雲に近づいてきた。


少年の姿を見た南雲は


「またか……」


と、小さく呟いた。

彼のようなものを南雲はいくつも見てきた。


『お前の態度はなんだ‼随分余裕そうな顔してるが……分かっているのか?相手は憎き敵の赤い雲だぞ‼』


どうやらこの少年は南雲の態度が気に食わなかったらしい。

だが、いつものことだ。


このようにして突っかかってくる輩も多くはなかった。

しかし、ここにいる何人かは知っている。


東城南雲は幹部ナンバーであるということに……


「ふ~ん……」

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