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青天31

その二人の間に割って入り、潤が喧嘩を止める。

その瞬間―――潤の記憶の一部が蘇った。


それは遠い記憶の狭間の出来事。

あれは確か、幼い少女を救った時の思い出。


哲人との喧嘩の時、だったか?


今と同じように自分と哲人が喧嘩していた時、自分たちの間に割って入った彼女のことを少しだけ思い出してしまった。


一瞬だけ悲しさが込み上げてくる。

懐かしくも記憶に残る柔らかなあの手の感触を潤は思い出す。


「潤さん……?」


その様子を横目で見ていた司が顔を覗き込んで様子を伺ってくる。

慌てて目頭を抑えて体裁を装う。


「大丈夫……」


心臓を握って心を落ち着かせる。

心の弱い部分を見せてはならない。


弱さを見せれば一気に飲み込まれてしまう。

だから、潤は集中する。


「よしっ、行こう‼」


落ち着かせた潤が皆の顔を見て言う。

頭の中でイメージトレーニングをして体に赤い雲を馴染ませ、万全の状態で挑むために……。


「―――始めよう」


四人は部屋に入り、戦闘の構えを取る。

VSCを再び起動させる。


起動音と共に、アナウンスが入る。


『VSC起動。三十秒後にスタートします』


「潤、作戦は?」

「そうだね……。とりあえず、蓮と薫が前衛で薫が中距離。僕が遠距離で支援するという形でどうかな?」

「つまり、いつも道理ってことだな?」

「そうだね」

「分かりました」

「潤先輩の作戦なら……」


その意見とは違っていて、薫の声は少し淀んでいた。


「なんだ薫?随分不満そうだな」

「ええ……、不満でしかないわ…」

「なんでだ?」

「決まってるでしょ。あんたと前衛だからに決まっているじゃない‼」

「はぁ⁉酷いな‼」


聞いた自分が馬鹿だったと蓮は己を呪った。

薫のツンケンとした態度にはどうにも慣れない。


どうもこいつとは馬が合わなかった。

だからこそ、ついにやけてしまう。


噛み合わないからこそ―――面白い。

馬が合わないからこそ―――やり甲斐がある。


「文句ばっか言ってねぇーで、やるぞ‼」


蓮の手にヴァーチャルで具現化される斧が出現する。

対して薫の手には真剣が握られていた。


綺麗で美しい刀剣だ。

切っ先に刀身が宿る。


ヴァーチャルで具現化される物は基本的に自らが望む形の物が手に現れる。

すなわち、最高の形で挑めるといっても過言ではない。


まぁ、それでも先程潤達は負けてしまったのだが……


「来るよ‼」


潤の掛け声で皆の視線が一斉に前を向いた。

そこには真っ赤に染まった雲が形を成して形成されていく。


異形の形を成して生成された雲が面前に立ちはだかる。

その姿はさながら、巨人の姿を彷彿とさせる。


形成が終わった同時に蓮が仕掛ける。

一歩で間合いを詰めて、思いっきり斧を振りかぶった。


その攻撃は見事にヒットする。

雲の一部を切断して部位を切り離すことに成功する。


「薫‼」


蓮が声をかけると、既に赤い雲の後ろに回り込んでいた薫が親権を振りかざして三連撃加えた。

素早い動きから放たれた攻撃は赤い雲を悶絶させ、動きを鈍らせる。


そこを逃さずに構えていた司が鋭い視線を加え、力強く弓を引いた。

狙いを定めて凄まじい速さで放たれた弓矢が赤い雲に追撃を加える。


司の弓矢が突き刺さり赤い雲にさく裂した。

幾重にも放たれた弓矢が串刺しにしていく。


雄たけびを挙げて怯む。

このチャンスを逃すまいと、潤がスコープに標準を合わせて狙いを定める。


一気に極限の集中状態になる。

この感覚は何度も体感してきた。


スコープ越しから見える赤い雲に狙いを定めて一発の弾丸を撃ち抜く。


その狙いは真っすぐにただ一直線に撃ち放たれた弾丸は、蓮達によって見える形となった星々の源に向かって飛んでいく。


螺旋状の回転を描いて飛んでいく弾丸が空気を斬り裂いて星々の源を穿つ。


パリーン。

という破砕音が耳に聞こえてくる。


四人が歓喜に浸ろうとした時―――

潤が異変に気が付いて叫ぶ。


「いや、まだだ‼」


「「「……ッ」」」


三人がよく見ると、星々の源は破壊されていなかった。


「どうやら、偽物を掴まされたみたいだ」


これが赤い雲の厄介なところだ。

基本厄災は星々の源を破壊すれば倒せる。


しかし、破壊出来なければ厄災を倒すことは出来ない。

故に、星々の源を破壊するのが優先事項なのだが……。


赤い雲に限っては違う。

周りから破壊していくことで、薄くなった面積の中から本物の星々の源を見つけ出すことが出来る。


更に、赤い雲は星々の源の紛い物を作り出すことが出来る。

その為、一個破壊したところで油断してはいけない。


油断すれば忽ち的に先手を取られる。

先手を取られれば足元を掬われてしまう。


「まずいな……蓮‼一旦離れ―――」


潤の忠告が先に二人届く前に赤い雲の洗礼を浴びる。


「ぐぁ……ッ‼」

「カハッ……‼」


伸びる雲が瞬く間に二人に攻撃を加えた。


「蓮‼薫‼」


二人の名前を呼んで近寄ろうとするが、攻撃が阻んで迂闊に近づけない。


「くそっ‼」

「潤さん‼落ち着いてください‼」


二人に近づこうとする潤の体を抑えて一旦遠のく。


「今のままでは駄目です。私と潤さんで赤い雲の注意を惹きましょう」

「司……」


司の真っ直ぐな瞳を見た潤は、冷静さを取り戻す。

そうだ。


ここで慌ててはいけない。

落ち着いゆっくりと深呼吸する。


「ありがとう司」

「いえ……そんな……ッ‼」


真っ直ぐな瞳で見つめられた司は、手をぶんぶん振りながら否定する。


「よしっ‼」


気合を入れて潤は銃を構える。

司も弓を引いて構えた。


そして、二人同時に攻撃を放った。

その攻撃により、注意を引くことに成功する。


「蓮‼薫‼今のうちに‼」

「おう……‼」

「はい……ッ」


辛うじて逃げることが出来た二人は、体勢を立て直して退いた。


「二人共まだ行ける?」

「誰に物言ってんだ?潤‼」

「行けます‼」

「分かった‼僕が周りの雲を破壊するから二人は攻め込んで‼」


潤の合図で二人は一斉に動き出した。


「行くよ‼」


空薬莢が何発も飛んでいく。

衝撃が体にのしかかり、潤の体を蝕む。


徐々に削り取られていく雲に目をやりながら蓮は武器を構えた。

タイミングを見計らっていつでも動ける体勢に入る。


薫はその様子を見つめて思う。


(嗅覚だけはいっちょまえなのよね……)


感心している薫が、ふと気づく。


潤の弾丸によって削り取られた雲が形を崩して粉々に崩れていく中で、視線の先に一瞬だけ見えたその陰に、


「あそこよ‼」


薫が促した先に星々の源が姿を現した。


球体に形成された心の臓が剥き出しになり、蓮はその好機を見逃さないと言わんばかりに勢いよく飛翔した。


目前に迫った源に……。


しかし、一筋縄ではいかないと、蓮の目の前にも赤い雲の攻撃が迫ってきていた。

後少しの所で蓮に攻撃が当たってしまうというところで、


一筋の淡い光が蓮の真横を通り過ぎていく。

何事かと思い目を凝らしてみると、光と思っていた正体は司が放った一矢の一閃だった。


蓮が横目で確認してみると、司は凛とした姿で佇まい、弓矢を再度放つ。

司の矢によって、蓮に向かっていた攻撃が全て消え視界が開く。


この機会を逃せばもう無理だろうと蓮は悟った。

故に力一杯に振りかぶり、垂直に下した—――。

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