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青天29

と、まるで妹を宥めるかのように優しい瞳で薫を見つめた。

その暖かくムズ痒い瞳で見つめられた薫は、頭を掻き毟って頬を少しだけ膨らました。


そのきめ細やかな頬が可愛く膨らみ、その頬を悪戯に突っついて遊ぶ。


「ちょっと‼」

「いいじゃないの〜」


悪ふざけで突っついてくる司を疎ましく思う薫が手でそっと払う。

そうして二人がいつもの調子に戻り、心を通わせていたところに……


「あらあら?何やら楽しそうに微笑んでいますね」


二人の背後から突発的に聞こえてきた凛とした声に反応して司と薫はすぐさま後ろに退いた。

臨界体勢をとって立ち向かおう振り向いて対応しようとするが、


「私はそっちにはいませんよ?」


と、先程まで自分達の目の前にいた彼女は、またも二人の後ろから声をかけ、薫と司を振り向かせた。


二人の額に冷や汗が生じる。

どうやって移動したのか。


それすら掴めないまま一切の思考が停止する。


「それで?私に何か用があったのでは?」


その二人の思考に再度、熱を灯させるように問いかけてくる。


まるで、二人が自分のことを探していることが分かっていたかのような口振りで話す彼女に、先制を取られまいと司が頬を引き攣らせて答える。


「はぁ?何をおっしゃるかと思えば、笑止千万‼貴方なんか探していません‼」

「おや?違いましたか?てっきり私を探しているものかと……」

「その通りよ‼」

「……どっちなんですか?」

「しまった……。つい本音が……」

「司……」


本音を隠しきれなかった司に薫は呆れてものも言えなくなる。

悔しそうに下唇を噛んでいる彼女は、一つ咳払いをして言った。


「まぁ、いいわ……。貴方には聞きたいことがあったのよ‼」

「そうですか。それは大変ですね。では、私は忙しいのでこの辺で―――」

「ちょーっと、待ちなさい⁉何逃げようとしてるのよ‼」


そそくさとその場から去ろうとする凛華に、慌ててその手を握って止めに入る。


「何ですか?こう見えても、私は貴方と違って忙しいんですよ」

「そんなのは知ってる……って‼いいから待ちなさい‼貴方には質問に答えてもらうから‼」


維持でもこの手を離さまいと司は、握る手をさらに強くがっちり固めた。

多少力を入れて抵抗しようとする凛華だが、びくともしない司の力強い手に観念した様子で見つめた。


逃げられないことを確認した凛華が司達と向かい合う形で顔を向けた。


「はぁ……、分かりました。観念しますよ」


最早抵抗する気もない凛華。

彼女は手を挙げて降参ポーズを取り始めた。


やっとの形で話が出来ると思った司は、握っていた手を離して深呼吸する。


「ようやく素直になったわね……。全く……。もう少しで武器を出しそうになったわ……」


ポツリと呟いた司の言葉を薫は聞こえないふりをして下を向いた。


「それで?話って何ですか?」


話を聞く体勢になった凛華が問いた。

手を離して話せる状態になった司は、きっと鋭い目つきで凛華を睨んで口を開いた。


「単刀直入に聞くわ……。貴方、さっき潤さんと仲良くしていたわよね?」

「ええ……体を密着させていました」

「体をみっ……まっ、……ッ。〜〜〜……ッ。そんなことは……どうでもいいわ‼」


司は必死に体をぷるぷるさせ、何かを耐え凌ぐ姿を見せる。

今しばしの葛藤は何だったのかと、そばで見ていた薫は思った。


「一体……、潤さんとは……どういった関係なの?」


口から出た疑問に改めて司は考えた。

前々から朝霞凛華という人物は知っていた。


何せ、幹部ナンバーに史上最年少で在籍し、みるみるうちに力をつけていった。

彼女は今の座席一位の座を獲得した過去最高の逸材だ。


そんな彼女は誰とも入り混じらない、言わば一匹狼と呼ばれる類のものだった。

常日頃から一人でいる彼女だからこそ、先ほどの行動には疑問を感じていた。


彼女が潤さんと顔見知りという話は聞いていないというか、今しがたまで知らなかった。


「あぁ……なんだ。そんなことですか……」


対して凛華は腑に落ちた顔で息を吐くと、呆れ混じりに首を横に降る。


「そんなことって……私にとってはとてもとても大事なこと―――」

「私達ね」

「……」


司の言葉に語弊があったのかは分からないが、薫が横から言った言葉に司は彼女の顔を見て反応した。


「あなた方お二人は、本当に仲が宜しいのですね」

「「……」」

「何故そこで黙るのですか……?」

「いいから話しなさい……」


促されるように凛華は語り始めた。


「そう……ですね……。私と彼が出会ったのは、ちょうど今から五年前でしたかね……」

「五年前……?そんなところまで遡るの?」


五年前と言うと、ちょうど自分が新人として活動していた頃だろうか……?


「私には、二つ上の兄がいました。兄はとても優秀でした。努力で上位まで登り詰めた私の兄はレベルBの厄災を相手にして、殆ど討伐してきた言わいる秀才肌の兄でした。そんな兄に私は……、毎日のように虐げられてきました」

「え……?」

「罵倒され、罵られ、蔑まされ、終いには家族全員から除け者にされていました。そんな私は、兄の後を追うように捕食者になりました」


その軽快な口からは似合わない内容の話が司と薫の頭を支配していく。


「自分で言うのもあれですが、私は捕食者になってからめきめき頭角を現しました。ありとあらゆる厄災をこの手で屠っていきました。そして、遂には兄を超え、幹部ナンバーにまで昇格しました。そんな私の活躍を知った兄は、私を疎ましく思い、更に暴力まで加える毎日でした。そうして、兄からの拒絶を受けていたある日です。私は兄と一緒に任務に行くことになりました。勿論、私と兄の二人だけではなく他にも数人いました。討伐対象は、当時レベルBに指定されていた氷霜ダイヤモンドダスト。私の兄は私を突き飛ばして餌にしようとしたのです」

「……ッ」


司は口を覆うように。

そして、息を飲み込んだ。


薫はあまりの衝撃に言葉が出てこなかった。


「私は死を覚悟しました。目の前で、走馬灯が見え始め、諦めかけていた―――その時です。『彼』が颯爽と駆けつけて私を助けてくれました。当時、最強部隊と言われていた三人のトライフォースが、氷霜をあっという間に倒して私を助けてくれました」

「三人のトライフォース?」

「えぇ……、ご存知ないですか?」


司はしばし考え、やはり自分の記憶にその単語がないことを確認して答えた。


「そうね……。聞いたことがないわ。ごめんなさい」

「おかしいですね……。私より先に入っているはずなんですが……。そちらの方もですか?」

「ええ……、そうね。聞いたことがないわ」

「ふむ…………?まぁ、いいでしょう」


考える仕草を取った凛華だが、話の続きをした。


「その後、トライフォースに助けられた私ですが……保護してもらい無事に帰還することが出来ました。対して私の兄は、私を置いていったバチが当たったのかよくは分かりませんが、数ヶ月後、とある厄災討伐中に不慮の事故に合い―――その場で死にました。私は、助けてもらったあの日から、常に彼のことだけを目標にして生きてきました。彼を目標にして生きていくことこそが今の私の夢です……」

「夢って……貴方、もう潤さんより強くなって―――」

「いいえ……。私なんかまだまだですよ―――」


凛華は記憶の奥深くに眠る、ある日の出来事を思い返す。

手探りで空中をかき分けて掴み取る。


それはある厄災を倒しきれなかった時―――、


「はぁ……はぁ……」


息切れが激しい。

肺が空気をまともに吸い込めないでいた。


最も欲しい酸素が今は喉を通らなかった。

それほどまでに追い詰められていた。


凛華はつい先程まで、レベルA指定の厄災、大嵐ジェットストームと闘っていた。


この厄災の特徴は疾風怒濤の勢いで押し寄せてくる風と、その合間に襲ってくる雨嵐の激しさにより、立つことさえもままならない。


更に厄介なことに雨はまるで弾丸の如く襲い掛かり、風との巧みなコンビネーションに、苦戦を強いられていた。


何とかの思いで倒し終えたのも束の間、その他にも幾つものレベルBの残党が残っていた。

それら全てを瞬く間に倒していった。


だが、体力が無限にあるわけではない。

あまりの疲労感に体の全体重が足全体にのしかかっていた。


立つこともままらないほどのひどい疲れだ。

一体どれほどの厄災を倒してきたのだろうか。


それすらも覚えていないくらいに凛華は、必死に体を動かしていた。

倒しては逃げ、倒しては逃げを繰り返してきた。


しかし、耐え切れなくなった身体がとうとう根を上げて地面に座り込んでしまった。

手足が震えている。

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