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青天26

「ふっ……。君たちはリーダーから聞けないだろうから、個人的に呼び出した」


蓮は納得といった様子で言った。


「なるほど……」

「後で清水リーダーにも伝えとていてくれ。あいつの力は……必要だからな」

「……?」

「よし、もう解散していいぞ」


そう言われた三人。


司と薫は最初は呆けて呆然と立っていたが、蓮が二人の背中を叩くとハッとして、やがて順番に会議室を後にしようとする。


「失礼します」

「失礼しました」


薫の後に続いて司が退散していき、最後の蓮だけになった時―――


「ちょっと二人とも、先に行っててくれ」


蓮がその場に残ろうとするのを聞いた二人は、蓮の方を向いて彼を見つめた。


「どうして?」


司が問いかけると、蓮はヘラヘラしながら言った。


「いや~、御手洗指揮官にちょっと聞きたいことがあるからよ」


微笑みながらいう彼にそれ以上問い詰めることなく、司と薫は承諾した。


「ふ~ん……、分かったわ。じゃあ、先に行ってるわよ」


薫が手をひらひらさせて会議室を離れていった。

司も特に残るというわけでなく薫に続いていなくなる。


そして、静かになった会議室には異様な空気が流れた。


「蓮君……。何を聞きたいのかしら?」


会議室を後にした司が蓮の動向を気にがかっていた。


「さぁ?あいつの考えてることなんて分からないわよ」


対して薫はどうでもいいと言わんばかりに素っ気ない態度で司に言う。


「とか言って、本当は薫も気になってんじゃないの?」


にやにやしながら司は薫に言った。

先程の仕返しのつもりか。


薫は顔を引くつかせながらも相手のペースにのせられないように涼し気な態度で応じる。


「私は司と違って潤先輩一筋だからな~」


一際大きな声で言うと、司はまたも薫の口を抑えて言った。


「だから、どうしてそういうことを大きな声で言うのよ‼」

「むぐー‼むぐー‼」


二人の喧嘩は会議室まで聞こえてきた。


「またあの二人は……止める奴がいないといつまでもやってるからな……」


御手洗と蓮は互いに向かい合う形で立っていた。


「それで残ってまで聞きたいこととは何かね?」


御手洗はさしも気にした様子はなく、目の前にいる蓮に問いかける。


「まぁ、別に大したことじゃないんですよね。御手洗指揮官あんたに一つ聞きたいことがあるんすよ」

「何かね?」

「俺はとある場所で、ある写真を見たんすよ」

「写真……?」

「そうそう。んで、そこに写っていたのは―――御手洗指揮官あんたとうちのリーダー清水潤。そして、もう1人いたんすよ」

「……」

「教えてくれませんかね御手洗指揮官。あの人は誰なんすか?いや、渚月さんは潤の一体何だったんですか?」


蓮が真剣な表情で御手洗に問い詰める。

あの写真の人物の正体が知りたい。


思えば潤はどことなく―――弱い。

実力とかそういう問題ではなく、優しさの反面から滲み出る何か。


その何かをもしかしたら分かるかもしれない人物を目の前に蓮は問い詰めにかかった。


向けられた目をじっと見つめる御手洗。

そして数秒後―――頑なだった表情を変えて微笑んだ。


「ふっ、久方ぶりだな……。誰かの口から、渚月という名前が出るのは……」


その口を開いた御手洗の顔はどことなく柔らかい表情をしていた。


「そうだな……。あいつと一緒の隊である君には知っておくべきことなのかもな。あの二人は知っているだろうことをな……」


御手洗は語り始める。

あの写真に写っていた三人のことについてを。


「あれは突如厄災が現れ、日本が腐敗していった始めた頃だったか……。俺達三人はいつも一緒にいた仲だった。あの写真はちょうど結成して半年目に撮った写真だったか。奴は……第一駆除隊を作ったやつだ」

「第一駆除隊を?」

「そうだ、奴は……渚月は女ながら凄いやつだった―――」


当時、日本がまだ厄災によって襲撃を食らってから対処策を出せずじまいだった頃。

関東南関部に位置する場所にて、


「―――私達が‼この街を守ろうよ‼」


人通りの少ない路地を挟んだ公園に、凛とした少女の声が響き渡る。


突然の言葉にその場にいた御手洗と潤は唖然として固まってしまった。

無音が駆け抜け場を貫いた。


「ちょっとちょっと‼何でそこで固まるのさ‼」


少女は不貞腐れた態度で男二人にびしっと指を指した。


「いや……だって、突然のことだったから……ねぇ?」

「ああ……そうだな。突然過ぎて反応出来なかっただけだ」

「なんでよ!?全く二人は……だから全然ダメなんだよ‼」

「でも、なんでまた突然?」

「そうだな。言葉の真理が気になる」


二人は少女の顔を覗き込む形で彼女の前に座っていた。

少女はその二人を見つめ、顔をうつむかせて言った。


「私は……ううん。私が、いつまでも厄災に怯える生活を過ごすなんて嫌だと思ったからだよ」

「渚月……」

「なるほどな」

「それに……」


渚月と呼ばれた少女は一拍置いて話し始めようとする。


「それに?」

「みんなが怯えてる姿を見るのが耐えられなくてさ……」

「……」

「だからね、私はこの街を救う人になりたい‼皆が安心して暮らせる世にしたい‼」


彼女の力強い言葉。

力強い目に宿る魂に。


潤と御手洗は自然と笑みが零れてしまった。


「そう言ったやつの言葉は……、自然と力が湧き上がってきた」


御手洗は嬉しそうに語っている。

その口元はやはりにやけていた。


「そうだね……。渚月の言う通りだ」

「ああ、皆が怯えることなく暮らせる世にする。俺もいい思うぞ」

「だよね‼二人もそう思うってことは間違ってないよね‼」


三人は互いの顔を見ながら笑い合う。

楽しい楽しい一時を噛み締めながら笑う。


「そして、俺達は三人ながら、厄災討伐隊を作った」


当時から討伐部隊は幾つか存在していたが、俺達は独立部隊として幅広く活躍していた。

武器などは国から支給されたものを使用していた。


「俺達の隊は数々の厄災を倒し尽くしてきた。特に凄かったのは渚月と潤だ。あの二人はめきめきと頭角を現していき、あっという間に隊長格に昇格していった」

「すげぇ……」

「俺はそんな二人に付いていくのがやっとだったがな」

「……」


御手洗の自虐的な言葉に苦笑いで対応した。

しかし、次の瞬間―――。


御手洗の顔に怒気の様なものが孕んだのを蓮は一瞬だけ感じ取った。


「そんな中、ある一人の男が割って入ってきた……。そして、そこから崩壊が始まった―――」


ゆらゆらと揺れる木々が葉を伝ってリズムを刻んでいた。

ぽつりと落ちる音に地団駄を踏む。


まるで、悲しみの雨とも言えるその豪雨の中に彼らはいた。


「―――生きて……潤。あなたは生きて……」


しんしんと降り注ぐ雨がゆっくりと頬を伝っていく。


「嫌だよ……渚月。君のいない世界なんて……嫌だよ僕は……ッ‼君は、僕に光を与えてくれた……光が無ければ僕は……この世界を見ることが……だから逝かないでくれ……ッ」


潤の目元には涙が浮かぶ。

その涙は雨と一緒に流れていく。


泣き叫ぶ潤の手に腹に大きな穴を開けた状態で横たわる渚月の姿がそこにはあった。


「泣かないでよ……」

「ぐずっ……」


渚月の手が優しく潤の目元を拭う。

その二人の背後から鈍い足音が近付いてくる。


砂利を踏む音が一定のリズムで聴こえてくる。

足音は二人の近くまでくると、その音を止めた。


そして、


「無様だな」

「……ッ‼」


その放った言葉に一切の慈悲はなく、冷徹なまでの無情なる言葉が潤の苛立ちをより一層募らせた。


「渚月。結局お前は何も救えなかった……。綺麗事を散々並べてそれで満足だったか?」


男は侮蔑の目を向け、横たわる渚月を見据えた。

目を向けられた彼女は体を少しだけ横に倒して男を見つめた。


「ごふっ……確かに……。そうかもしれない……ね。私は、ここで……死ぬ……」


腹に空いた穴に手を当てながら途切れ途切れになりそうになる言葉を繋げて言う。

渚月は自分でも感じ取れるほどに死期が近いことを悟った。


「何言ってんだよ渚月‼」


潤が必死に彼女の腹に手を当てて止血しようとするが、その思いとは裏腹に腹から夥しい量の血が雨と共に流れていく。


「私が……死んで、君は……生きる。この事が、し……勝者と敗者の象徴なんだろう……ね」

「そうだ。勝者が常に正しく、敗者は常に間違いを犯したと勘違いされる」

「そう……だね。でも……ね、私は……君の中にも光があると……信じてる……よ―――」


少女から力が無くなり、ずっしりと潤の手に体重がのしかかる。


「渚月!?渚月!渚月ーーーーーーー‼」

「……ふっ、くだらない……」

「許さない……ッ。お前だけは許さないからな―――ッ‼」


男はそれ以上いることを無意味と思ったのか。

視線を切って潤の元から離れていく。


そして、男の背中が見えなくなった頃、


「潤……」

「渚月ッ⁉」


微かに聞こえた渚月の声に反応した。


「潤は……、本当に……優しいから……。私のために……彼を……、殺めようとした……でしょ?」

「―――ッ!?」


突然の言葉だったが、その言葉は潤の心情を見事に掴んでいた。


「当たり前だろ……ッ‼あいつを許せるわけがない‼」


ぎりぎりと歯が軋む音が聞こえる。

しかし、そっと触れられた手に潤は一瞬時を忘れた。


「ダメだよ……潤。いつも言ってるでしょ?―――だって」

「渚月⁉駄目だ‼逝くなよ渚月‼」


二人から離れた場所でその光景を見ていた御手洗は何も出来ず、潤と渚月にすら駆け寄ることが出来なかった。


「今でもその光景に嫌悪感を覚える……。あの男は私達三人を仲違いにした……」


御手洗は自分を殴りたくなる衝動に駆られた。

何も出来なかった自分の弱さに。


そばに駆けつけられなかった未熟さに。


「そいつは誰なんですか……?」

「君も一度は聞いたことあるだろう。奴の名は―――」


名前を聞いた瞬間、蓮はハッとした。

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