青天23
そんな彼らをけたけたと笑いながら、じっと見つめる軽薄そうな男が一人いた。
彼の正体は幹部ナンバー9の席に座る男―――東城南雲だ。
笑った時に鋭く尖った八重歯が印象に残る彼は、イスに深くかけながらポケットに手を突っ込み話の催促をする。
「そんなことより早く会議とやらを始めようぜ?いつまでもこんな薄暗がりなとこにいたらナイーブになっちまう。何事も早いに越したことはない」
明かりの少ない会議室を見渡しつつ彼は、最後に御手洗に視線を向けた。
「話したいのは山々なんだがな。肝心の朝霞凜華がいないのでは……、話したくても話を進められないんだがな……」
そう言って御手洗は、空席になっている幹部ナンバー1の席を見つめた。
会議は全員出席が義務であるが故―――話を進めたくとも進められない現状に御手洗は少し頭を悩ませる。
どう行動するかを考えようとしていた時だった。
「彼女がいなくて何か問題があるの?」
南雲によって変えられたやんわりとしてきた空間に再びピリッとした空気が張りつめた。
誰かが発した言葉に怒りが含まれているのを会議室にいた全員が感じ取っていた。
全員が思い当たる節の方を向いた。
ナンバー2の席に座していた彼女を見つめる。
きれ細かな髪質で絹のような輝き。
肩まで伸びた髪を持った少女から発せられた言葉で全員が息を呑む。
彼女の殺気とも取れる雰囲気に全員が呑まれようとしていた。
「落ち着け夜桜」
ぽつりと呟いた御手洗の言葉に全員が唾を飲んだ。
ここに来て初めて御手洗の怒気にも近い言動にその場にいた全員が押し黙った。
「時は一刻を争う。仲間内で争っている場合でないことぐらいお前達だって分かっているはずだ。それとも今すぐその責を外れたいのか?」
「私が責を外れたら、どうなるかぐらい分かっているはずですが?」
「「「……」」」
御手洗に真っ向から言い合える少女。
その鋭い視線は真っ直ぐに御手洗を見つめている。
彼女以外の全員は無言で肯定の意を出している。
(仕方ない……)
遂に御手洗が話を始めた。
「彼女には後で個別に伝えとく。それでは会議を始めようか」
御手洗がこれから話を始めようとした時―――
「あの~……、ちょっといいです……か?」
すっと、手を挙げる者がいた。
その言葉に全員がそちらを向いた。
「ひっ……⁉」
視線を向けられた少女は悲鳴を上げて背中を向けてしまう。
その行動に彼らは呆れ返っていた。
彼女のこの癖は毎度いつものことだからである。
「どうした?何かあるのか?田嶋紫咲」
御手洗は彼女の行動に特に気分を害することなく、その問いかけに応じようとした。
幹部ナンバー6の席に腰掛けていた女の子は、体を手で支え丸めていた。
田嶋はガタガタ椅子を震わせながら、こちらに顔を向けずに話し始めた。
「もっ……もう一人来てない人がいるじゃないですかッ‼」
自らの頭を抱え指摘した紫咲の言葉に全員が反応する。
「来てない人……?」
「一体誰だ?この場にはすでに全員来ているはずだが……」
藤宮と上野が首を傾げて、疑問符を頭に浮かべた。
その二人の意見にすぐさま答える者が一人。
「ふんっ、そんなの決まっているでしょ?」
鼻を鳴らし答えを持っていた少女がいた。
幹部ナンバー5の席にどんと構えているツンとした態度が面に出ている彼女の名前は高浪絵夢。
ツインテールの髪型を翻した彼女の断定的な言葉に全員が納得した。
その視線の先にはもう一つ空席になった場所―――御手洗から一番遠く離れた場所に位置する幹部ナンバー10の席がそこにはあった。
「たくっ……、その席はいいんだよ空席で」
信太はナンバー10の席をチラッと見た後、視線を戻して御手洗を見据えた。
他のメンバーも彼に続いて御手洗を見つめる。
「え?え?どうしてですか……?」
ただ一人、困惑していた紫咲を除いては……。
紫咲は知らない。
なぜその席が空席なのかを……。
彼女はここ最近幹部候補から幹部へと昇格した実力者。
並の実力で幹部になることは出来ない。
リーダーという実績を積んだものだけが頂ける席。
それが幹部ナンバーというものだ。
本来、その席は10存在する。
大事な戦いの前には会議室に集まり、それぞれの降られた席に座す。
しかし、必ず二つの席が空いている。
そのナンバーは1と10。
1の席に座すのはこの中でトップの成績を誇る実力者朝霞凜華。
10の席に座すのは……ある二人の男女。
一人は現存し、もう一人は……。
「さて……、話が脱線しっ放しになってしまったな」
ここで御手洗が口を開いた。
そして、ようやく話が始まる。
「赤い雲の出現。これは我々にとって二度目の脅威と言っても過言ではない」
御手洗は腕を組んだ状態で話を進めていく。
つらつらと述べられていく御手洗の言葉をその場にいた全員が静かな吐息を立てながら聞いていた。
「一度目の時、我々は赤い雲に多大なる損失をくらった。それは取り返しのつかない大きな損失だ。この事態は恥とも言えよう。だからこそ……、ここでやつに終止符を打つ時が来たのかもしれない」
それぞれの目に魂が灯り始める。
どこまでも燃やし尽くす豪炎の焔を纏い、揺らめく瞳がその光景を焼き付ける。
「これより赤い雲討伐の命を与える。目標は赤い雲の全損及び消滅だ」
御手洗の力強い言葉に全員の顔つきが変わった。
「具体的な作戦は如何なさいますか?」
幹部ナンバー3藤宮が作戦の概要の要求してきた。
「射撃班と近接班に分かれてやるのはどうだ?」
「それだと近接班の負担が多すぎる」
「そうね……。ただでさえ攻撃力が半端ないって言うのに……まともに受けたらひとたまりもないわ」
信太の意見に鴻と絵夢が反論する。
各々が考える意見を互いに弁論しながら交換していく。
どうすれば最善の手を尽くせるか。
何をすれば犠牲なく討伐することが出来るか。
どんな手を使えば奴は倒れるのか。
様々な意見が飛び交う中、御手洗は一人目を瞑っていた。
この場において自分の立場は無いに等しい。
何故なら自分は戦場へと赴かないから。
自らの役目はあくまで指揮官であり、それを実行に移すのは彼らである。
故に彼らにあらかじめ行動基準を定めてもらい、それを聞いた御手洗が彼らに指示を出すというものだ。
「射撃班の案は決定として、もう一つはどうするか……。やはり、近接班が一番優先的な考え方だが、そうすると誰が先陣を切るかってことに―――」
信太が頭を悩ませていると、
「私が先陣を切ります」
騒がしかった会議室に一つの声が透き通るように響き渡った。
その声は幹部ナンバー2の席に座る藤咲夜桜から発せられたものだった。
その一言で彼女の意思が伝わってきた。
鋭く光る瞳が御手洗と他の七人に注がれる。
「随分と派手に出たね~……」
彼女の言葉に一番早く反応した南雲が感心した様子で夜桜を見つめた。
「派手に出た?それはどういう意味ですか?」
南雲の言葉が気に入らなかったのか。
怒気を混ぜた口調で夜桜は南雲を睨みつけた。
凄みのある彼女の眼差しにさしも指された張本人である南雲は平然とした態度で言った。
「だってそうだろ?いつもの君は何かと後方に構えているのが基本スタイルだったはず……それがいきなり先陣を切るって言い出したんだ。皆驚いているよ?」




