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第七章 新たな試練

重苦しい空気が充満する会議室で御手洗指揮官と彼を含めた幹部及びリーダーが各々席について沈黙していた。


その中で腕を組んで頑なに難しい表情を崩さない御手洗は、その場に全員が集合するのを待っていた。

すぐさま集まるよう収集を掛けた御手洗だが―――


「……」


彼はちらりと視線を動かし辺りを確認した。

ここの場には御手洗を含み、全部で十一席の椅子がある。


決して狭いわけではない会議室だが、今日はやけに周囲との距離が近い気がする。

呼吸がしづらくなるような沈黙が辺りを包み込み、会議室にいたほとんどの者が目を伏せていた。


このまま何事も無ければ、辛抱強く耐えている者達が痺れを切らして抜けてしまうのではないかという不安に御手洗は駆られていた。


そして、まさにその考えが頭に過ぎった瞬間―――沈黙を貫いていた一人の男が堪らず声を上げた。


「御手洗指揮官」


ガタッと椅子を揺らして男は立ち上がる。

その行動に目を伏せていた者達が一斉に彼の方に視線を向ける。


屈託なガタイをした男は、じっと御手洗の方を見つめる。

彼は視線を向けた先の男がこちらを見る様子はないと分かると、その口を再び開いた。


「いい加減に会議を始めたらどうですか?」

「……」

「この一大事に……一体何を待っているというのですか?」

「…………」

だんまりですか。全く……。赤い雲が出現した今、一刻も早く討伐準備を整えなければならないというのに……」


言葉を発するにつれ、苛立ちを募らせていく。

怒気を含んだ声で男—――鴻渉こうのわたるは言う。


そんな彼に横槍を入れるかのように陽気な声をした男が言う。


「なぁなぁ。さっきから気になってはいたが……、そのなんだ?赤い雲……だっけか?一体何なんだそりゃ?すげぇやつなのか?」


場の空気を壊しかけない飄々(ひょうひょう)とした声で問いただす。


その声の正体は鴻の左隣に腰掛けていた金髪に染められた髪をオールバックに固め、足を組んで椅子に座る上野信太うえのしんたから発せられたものだった。


鴻は信太を一瞥すると、次には侮蔑の目を向け、挑発じみた言葉をぶつけた。


「そんなことも知らないで幹部をやっているのか?お前は……」

「はぁ……?いやいや、しょうがねぇだろ?なんせこちとら外部遠征が多いんだからよ。情報なんか知らされるのは、毎回討伐に向かう直前だっつーの」

「ふん……。だからと言って、赤い雲の正体を知らない理由にはならないだろう?」

「分かってねぇな。外部遠征は遠出をするんだから当然時間だってかかる。何より調べなくても倒せるだけの実力を備えているのが幹部メンバー何だろうが」

「そんなもの理由になどならない。言い訳が上手くなったな上野」

「……んだと?そういうお前は、人に突っかかるのが上手くなったな……ッ。大体な―――」


今にも喧嘩が始まりそうな剣呑な雰囲気が会議室を包み込む。

二人の会話は徐々にヒートアップし、互いに椅子から立って口論している。


誰もがその二人のやり取りに呆れを覚え、誰かの溜息が聞こえてくる。

何人かは絡まれない様に傍観している。


二人のやり取りが鎮火するのをじっと見守っていると、


「くだらない争いは何も生まない。二人共幹部メンバーとしての自覚が足りないな」

「あぁッ?」


反論を述べようとした信太の言葉を遮るように別の男の声が割り込んで来た。

その声に反応して上野は首を向けた。


それに続いて鴻も自分達の口論に割って入ろうとする奴の顔を拝むために首を向ける。


上野が睨み付けるように見つめた先にいたのは、銀縁フレームの眼鏡に黒髪を七三に分けた真面目な外見をした男だった。


「まぁ、喧嘩する理由も分かるが、今は冷静になるのが先決だ」


彼は二人に静かにするよう促す。


男の名前は藤宮浩太郎ふじみやこうたろう

幹部ナンバー3の席に座する彼は眼鏡のフレームに指を置いて上野と鴻の二人を見据えた。


「外部遠征は私もしている。北から南まで遥々と遠外遠征を行っている。だが、上野。私は君と違ってきちんと赤い雲について知識を保有し認識している。そういう細かい実力を磨けないのが上野の悪い癖だ。だから、いつまで経ってもナンバー4の席から離れられない」


眼鏡を光らせて睨みつける藤宮にぴくぴくと頬を引き攣らせて何も言えなくなる上野。

藤宮の射を纏った発言に鴻も黙って聞いていた。


ピリついた空気が一層強くなり、会議室に嫌な空気が張り詰めるが、


「ちょっとちょっと~。不穏な空気になるの辞めてもらえます~?」


どんよりした空気を一早く察した少女の声が会議室に響き渡る。

たった一言でその場にいた誰もが彼女に向かって視線を集める。


向けられた視線を一斉に受けたその少女は、小柄な体躯とは裏腹に堂々とした眼差しを全員に向けていた。


小柄な彼女は上野・鴻・藤宮の三人を順番に見つめていくと、大きな溜息を吐いて憐れむように呆れ返った。


「はぁ……。これだから男は困りますわ~」

西園寺白雪さいおんじしらゆきか……」


藤宮は少し傾いた眼鏡を整えながら、彼女の名前を口にした。

西園寺白雪―――彼女の幹部ナンバーは8。


幹部ナンバーは数字が高ければ高いほど、厄災討伐に対する好成績を残しているその人の強さを表す証そのものである。


その順位を上げるのは単純明快。

つまるところ―――厄災を多く倒せばいいだけの話である。


彼女はここにいるメンバーの中では決して高い数字とは言えない。


普通であれば、順位の高い者に対してある程度引け目を感じ、発言する気力など出るはずもないが、彼女に至っては違う。


西園寺がこうもナンバー3である藤宮に真正面から意見を言えるには理由わけがあった。


それは―――彼女が有名な財閥の娘であるということである。

これを聞いただけでは、たかがその程度かと思うかもしれない。


いくら財閥の娘であったところでそれが強さに匹敵するわけではない。

むしろ財閥の娘ならば、力の序列は必然的に感じるもの。


だが、厄災の絶えないこの世で財閥というものは数少ない国的補助のスポンサーでもあった。


黒い雲に覆われている地域日本で食物が根絶しない理由の一つとして財閥が挙げられる。

財閥は絶大な権力を保有していた。


何故ならば、各地にある食物のありとあらゆるを西園寺白雪は、電話一本で取り寄せることが出来るのだ。


その気になれば、自分だけ他国に逃げてしまうことも可能である。

ましてや自分以外に食物を渡さないということも出来るだろう。


かつて他の名のある財閥が行っていたように……。


彼女一人欠けるだけでもこの国にとっては多大なる損失へと繋がっていく。

しかし、彼女は―――いや正確には西園寺財閥は未だに日本に留まることを良しとしている。


西園寺財閥にとっても日本に留まることは自分達にとっての利であることが少なからずあるということだ。


その理由はそれぞれによって異なるが、それらのおかげで日本は未だ食糧不足になっていない。

これが藤宮が西園寺に厳しく言えない最大の理由である。


彼女に逆らえば、それ相応の報いある可能性がある。

故に喧騒していた二人は彼女の言うことを素直に聞いていた。


藤宮と上野は互いにそっぽを向きながら黙りこんでしまった。


「おいおい~……。平行なお二人さんだな〜。まぁ元気があるのはいい事だけどな?」

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