青天21
潤は視線を切って雷電雲に目を向けた。
何故だか分からないが、そうするしかないと思った。
そして、意を決心して森の影から姿を現して銃を構えた。
雷電雲を見据えた潤は引き金を引いて、銃弾を間髪入れずに撃ち込んでいった。
もうコソコソ隠れてやり過ごすなんて手段は意味をなさないと思ったからだ。
誰かのおかげで風通しが良くなった射線。
邪魔建てするスコールがいなくなった。
撃ち終えた潤は、すぐさまそこから離れて崖の端にうつ伏せの形で倒れ、スコープから雷電雲に標準を合わせた。
撃った弾丸の影響で少し動きが鈍っていた雷電雲。
当たった弾丸部分を再生しようと必死になっている。
だが、そんな余裕を与えるほど潤も甘くはなかった。
うつ伏せの状態で引き金を引く。
螺旋状の回転が素早い速度で回っていき、直線上にいる雷電雲に向かって飛んでいった。
その弾道は雷電雲の星々の源部分を的確に狙っていた。
真っ直ぐに伸びた弾丸が星々の源に当たる―――
寸前のところで雷電雲の再生が終わり、潤の撃ち放った銃弾は見事に星々の源から逸れてしまった。
「あと少しだったのに……」
落胆してるのもつかの間、潤は雷電雲を休ませないために尚も銃弾を撃ち続けた。
それは過去に過ちを犯した者の意思を踏みつけ押し上がる者の闘志そのものだった。
「なぜ、あいつは心が折れない……っ‼」
その様子を遠目から伺っていた瀬川は歯噛みをしながら潤の姿を見ていた。
「何故だ何故だ何故だ何故だ‼」
力強く地団駄を踏みながら苛立ちを募らせる。
瀬川の苛立った姿を見ていた取り巻きの三人は血の気をサッと引かせ、ただただじっとその様子を見ているだけだった。
「例えお前が過去を乗り越えようと許さないからな……ッ。清水……ッ‼」
恨みを込めた言霊が森の中に溶け込んでいった―――。
潤の奮闘する姿を見ていた蓮達が潤に続くために攻撃を仕掛けようとする。
「薫‼このまま一気に押し切るぞ‼」
「分かってるわよ‼指図するんじゃないわよ‼」
蓮に促された薫はスカートをたくし上げて、腿に付けていた二つの拳銃を取り出した。
右手には白炎の模様が刻まれた銀色の銃。
左手には黒炎に染められた独特の焔模様がある白色の銃。
薫は手を前にクロスさせて言う。
「本当は使いたくないんだけど……っ」
右手と左手に拳銃を持って構える。
左右に八発ずつ弾丸が装填されており、交互に撃つことによって隙を作ることなく攻撃することが可能な薫オリジナル攻撃態勢である。
標準を雷電雲へと向けた薫は雷電雲の核である星々の源を洗い出すために、その周りにある雲を打ち払おうと試みた。
銃弾を交互に撃ち込んでいく。
幾重にも重なった薬莢音が休む暇なく鳴らされ続けた。
そして、左右十六発の銃弾を撃ち終えた薫が、
「今よ司‼」
と声を荒らげて司に視線を送る。
「任せて‼」
その合図を受け取った司が三節棍のように折り畳まれたスナイパーライフルを取り出し組み立てていく。
カチッと嵌り込む音が三回鳴る。
司オリジナル仕様の銃がその姿を現した。
銃は折り畳む回数によって弾丸の飛距離が変わってくる特性の代物だ。
伸縮自在の銃を持った司は肩に担ぎ上げて、上空へ銃口を雷電雲に向ける。
「破裂しなさい‼」
巨大な銃を構え、ゆっくりと引き金を引いた。
一発の弾丸が巨大な音を上げて上空に飛んでいく。
凄まじい速さで雷電雲を捉える。
鋭くどこまでも伸びるその弾丸が雷電雲のど真ん中を打ち抜く。
大きく穴が空いてそこから覗き込む星々の源が目前へと迫っていた。
雷電雲はすかさず再生しようとしていた。
「馬鹿蓮(蓮君)‼」
それを阻止するために蓮が先に動き出していた。
「おうよ‼」
二人の視線を受け取った蓮が呼応し、銃を取り出した。
黒くに光る二つのラインに彩られた赤褐色の銃を手に持って銃弾を装填した。
その銃弾は一つではなく二つ繋がりになった弾。
二つずつ装填出来る特別な作りになっていた。
装填し終えた蓮は、雷電雲に向かって一発の銃弾を撃ち込んだ。
「白黒弾」
ゆっくりと飛んでいく弾丸の行方を見守っていく。
その弾丸はある程度のところまで行くと、突然二つに分離して左右から攻めるように雷電雲に向かって飛来していった。
蓮が放った弾は特殊弾と呼ばれ、潤が撃つ黒雲阻害弾とは違い、負荷も少なく尚且扱いやすいという特徴がある誰でも扱える弾だ。
左右から襲いかかる弾丸に対応出来る筈もなく、雷電雲はもろに受ける。
その瞬間―――雷電雲の動きが止まり、完全な無防備となった。
先程撃った弾丸の正体は麻痺弾と呼ばれる厄災を捕獲するために作られた銃弾である。
主な使い方は用途道理に使われることが多いが、稀にこうして厄災の動きを止めるためにも使われる。
被弾した雷電雲は星々の源を守れない完全無防備状態になった。
「今だ潤‼」
蓮は潤がいるであろう崖の上に視線を送る。
それを狙っていたかのようなタイミングで崖の上から一つの弾丸が飛んでいった。
「ナイスだよ皆」
潤は軽く頬を緩めて言った。
素晴らしい仕事をしてくれた彼らには後で感謝しなければならないと、自らが撃った弾丸の行先を見つめ思いに馳せた。
この一発は己が過去を見つめ直すための弾丸。
囚われ続けた因縁を断ち切るための銃弾。
縛り付けられたトラウマから立ち直るための弾。
たった一発の弾丸。
だが、それでも潤の思いが沢山詰まった祈りの弾丸。
潤が放った一発の弾丸はまるで彗星の流れるが如く。
それは綺麗な直線を描いて、雷電雲の星々の源へと向かっていき―――見事に打ち砕いた。
「しゃっあー‼」
蓮は喜びの声を上げてその様子を見守る。
パリンという破砕音と共に雷電雲が呻き声を上げてもがき苦しんだ。
最後の悪あがきといった様子で雷を撃ち込んでくるが―――
それも虚しく力尽き果てた雷電雲は上空から姿を消していった。
同時に雷も消滅した。
その瞬間―――潤達の勝利が確定した。
『『『うぉぉぉおおおおおおお‼』』』
その光景を見ていたほかの隊員達からも歓声の声が湧き上がった。
その声に反応するかのように灰色に塗り固められていた空は、青く澄んだ空へと変わっていき、心地よい風が彼らを取り巻いて流れてきた。
『勝った……っ‼』
『よっしゃぁー‼』
『私達……勝ったのね……ッ』
各々が喜びの声を上げて歓喜に浸った。
ガッツポーズをする男や終わった反動で座り込む女。
互いの身体を抱き合う男女。
まるで、自分が倒したかのような喜び方である。
しかし、次の瞬間には、
『流石は清水リーダー!』
『清水リーダー!尊敬します!』
『見直したぞー!』
彼らは崖の上にいる潤に向かって声を上げた。
下から飛び交う野太い歓声と黄色い声援に潤は、戸惑いつつもそれに応じるために崖の上から彼らを覗き込んだ。
すると、先程より大きな歓声が沸きあがり、更なる盛り上がりを見せた。
「ははっ……、まいったな……」
褒め慣れていない潤は、頬をぽりぽりと掻いて照れを見せる。
しかし、これで終わりかと思い安堵に浸った潤は、張り詰めていた気を緩める。
「よっ‼やったな潤‼」
ふっと、緩めた彼の背後から蓮の元気な声がかけられた。
後ろを振り返ると、蓮と彼の後をついている女の子二人がこちらに微笑みを向けて潤を見つめていた。
「潤先輩‼やりましたね‼」
「それでこそ潤さんです」
二人は胸を張って言った。
薫と司の目には涙の後があった。
過去すら乗り切った潤に司と薫はもう形容し難い胸の内があったが、その表現の仕方を知らない二人は行動に移すしかなかった。
二人は彼に近づくと、力一杯に潤の事を抱き締めた。
「ふっ、二人とも?急に抱きついてどうしたの……?」
突然抱きつかれた潤は明らかに困惑していたが、今の二人にはそんなことお構い無しだった。
「潤さん(先輩)……っ」
抱きしめる感触が二人にじわりと伝わってくる。
この温もりが二人の心を落ち着かせる。
「……」
彼女達のそんな顔を見た潤は、堪らず二人の頭を撫でた。




