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青天18

心底気に入らないといった表情で雷電雲とは逆方向に目を向ける。

彼の視線の先には恐らく自分が頭に浮かべている人物がいるはずだ。


そう思うと気が気でならない。

恨み辛みを備えた少年ーーー瀬川らいとが鬼のような目で睨みつける。


瀬川は気に食わなそうな表情と侮蔑の目で蓮達を見据えていた。

彼もまた雷電雲が放った雷撃を阻止した一発の銃弾を見ていた。


そして、それを撃ったのが誰なのかも知っていた―――。

だが―――


ギリっと歯噛みをして悔しさを露わにした。

鬱蒼と生い茂る木々の木陰から覗き込む。


鋭い目つきで瀬川は三人を見つめた。

その表層は冷笑に似た雰囲気を醸し出していた。


「気に食わねぇ……」


ぽつりと死神の言霊のように流れていく言葉を吐き出して瀬川は、静かに姿を気配を消した。


ゆっくりと歩き出した彼の足音が森の中で響き、木の枝を踏む音が森の中に吸い込まれる。


パキパキと踏み締める音が返ってくることは無い。


まるで、深淵の奥底に飲み込まれてしまったのではないかと錯覚するほどの静けさが辺りを充満していく。


そんな中、瀬川はしっかりとした足取りで森を抜けるため難なく進んでいく。

彼が行く先に雷電雲の姿は無く、狙撃が行われた方向ともまた異なっていた。


着々と歩みを進めて行く中ーーー。

不意に何かの気配を感じとった瀬川は踏みしめていた足を止め、その場で立ち尽くす。


数秒ピタリと動きを止めた瀬川は、ゆったりとした動きで背後に視線を向けた。

じっと見つめる先―――彼の前に三つの影が現れた。


その瞬間、風が吹き荒れ森がざわめき始める。

木々の揺れが大きくなる。


風の吹き荒れ方が尋常ではない。

そして、三つの影が徐々に彼に近付き、その正体が人だということが分かる。


暗がりの向こうから現れた少年三人。

全員が体格の連ねたガタイのいい男達で瀬川と同じ特攻服を身に纏っている。


瀬川が彼らを見つめていると、三人のうちの一人が慌てた様子で彼の前に膝をついてきた。


どうしたのかと瀬川は様子を見ると、青ざめた表情で男は言った。


『なっ、なぁ‼瀬川‼本当に良かったのかッ⁉』


声が上擦りになって震えている。

彼は明らかに動揺していた。


その瞳には激しい狼狽が見て取れる。

困惑が断ち切らないといった様子だ。


瀬川はそんな彼を一瞥しながら、視線を外す。


「心配するなよ。俺達がサボってることなんて、誰にもバレやしねぇよ」

『で、でもよぉ……ッ‼』

「騒ぐな」

『……ッ⁉』


威圧的な彼の言葉に異論を吐こうとしていた男の口が紡ぐ。

有無を言わさない瀬川の圧倒的威圧に蹴落とされてしまう。


瀬川の鋭い目線で睨みつけられ動けなくなった男は、思わず逃げるようにして視線を森へと変えた。


その光景を見ていた後ろの二人にも同様の緊張感が見て取れた。


「俺達は黙って見てればいい……今はな」


最後の言葉で不敵な笑みを浮かべた瀬川の表情に三人は思わず生唾を飲み込んだ。


この三人には瀬川らいとという男が読めない。

リーダーという立場を利用しながら、着実に清水潤という男を邪魔しているのは知っていた。


前回の母娘を危険に晒したのもこの男が仕組んだこと。


瀬川という人間は非人道的男だ。

目的の為ならば手段を選ばない。


そこに道徳的理論はなく、正義的思考もない。

あるのは深く根深い闇だけ。


「行くぞ」


瀬川がそう言うと、三人は黙って彼の後ろをついていった。


付いて行く他に道はない。

この男に従えば最後。


死の果てまで付き合うことになるだろう。

運の尽きを三人は呪いつつ、彼の後ろを歩く。


そして―――彼らは人知れず姿を消した。


瀬川達が消えた跡地には閑散と閑古鳥が過ぎ去った後のように静けさを増していた。


「ーーーふぅ。これでだいぶ楽になったかな……?」


潤は吐息交じりに言うと、肩の力を抜いて少し安堵する。

先程の一発。


まともに当たっていなかったら、今回の討伐に支障が出てしまっていただろう。

スコープ越しに見えた蓮が慌てる様子をしっかりと観察していたからこそ取れた行動だ。


潤は安心して三度スコープを覗き込み、雷電雲を見据える。

雷電雲はの攻撃は奇しくも抹消され、もがき苦しみながら必死に痛みから耐え足掻こうとしている。


どうやら先程の攻撃は本体から放たれたものらしい。

雲の一部が焼け焦げ、音を立てた消炎していた。


雲は水蒸気の力によって再生を行おうとしていた。

しかし、いくら雲だからといっても再生には少し時間を有してしまう。


厄災ディザスターにはそれぞれ特有の再生能力が備わっている。

今回の雷電雲のような雲系の場合は、辺りの空気に合わせて再生することが出来る。


特に湿気の多い湿っぽい場所では、厄災はその能力を思う存分使うことが出来る。

しかし、今回の場所は大地にすら亀裂を入れ乾涸ひからびる乾燥地帯―――。


雲の厄災が一番嫌う地形をあえて選ぶことで戦闘を有利に運ぶという哲人の作戦の賜物だ。

雷電雲は相も変わらず苦しんでいた。


潤にやられた傷は簡単には癒えず、今は完全な無防備と言ってもいい。

その隙を突いて後は、蓮達が雷電雲の注意を惹いている隙に、自分は移動を始めるだけだ。


蓮達が持ち堪えてくれることを祈るばかりだと。

潤はスコープの標準を変えて蓮達の様子を伺う。


スコープから見えてきたのは、彼らが必死になって雷電雲に立ち向かっていく様子だった。


今、彼らは潤のために雷電雲の気を惹いている。

潤はそんな姿を見て思わず微笑んでしまう。


(自分の為にか……)


頬を緩めて笑っていると―――


『ゴォォォオオオオオオオ‼』


突如―――

耳がはちきれんばかりの野太い音が大地を揺らし、空気を振動させる。


何事かと向かい側を見れば、そこには雷をバチバチと鳴らしながら、光の咆哮を発する雷電雲が雄叫びをあげ始めていた。


それは先程の雄叫びとは違い、自らを鼓舞するようなそんな声。


「まずい……ッ‼」


潤は慌てて銃に手をかけ、雷電雲に標準を合わせる。

移動する暇すら与えてくれないようだ。


スコープから雷電雲を覗き込むと、上空から突然雲の渦が出現する。

その渦は激しく回転しながら、蓮達がいる方向に向かって攻撃を仕掛けようとしている。


やがて渦の回転が止まると、雲の形が異様に鋭く螺旋状の形状をし始める。


蓮達は上空を仰ぎ、じっとその様子を眺めている。

彼らも突然の事態に情報を欲しっているようだ。


潤はすぐさま一発の銃弾を放ち、その軌道を見つめ続ける。

牽制にでもなれば御の字。


そう願い弾丸の行方をじっと眺めて。

潤が放った弾丸が向かう中、鋭く尖った雲から一本の稲妻が発せられた。


ぴかっと明るく光ると同時に光の槍が蓮達に向かって落ちていった。

その速さはとても人間の目では捉えきれない。


辛うじて遠目から見ているからこそ潤の目でも捉えきれている。

だが、例え蓮達が捉えていたとしても、もうその場を動いてからでは既に遅い。


それほどに速く、鋭く蓮達に向かって落ちていった。

数秒後……、轟音が地上に鳴り響き辺り全体を包んでいった。


轟音の後、静かになった空気が潤に向かって押し寄せてくる。


寒気と共に止まらない震えが襲う。

潤はハラハラと胸の高鳴りを抑え、スコープから視線を外して時の流れを待った。


轟音が消え、スコールの止まない雨が深々と降り積もる。


音という音を遮断するスコールに。

それすら飲み込むほどの巨大な轟音だったのにも関わらず。


攻撃されたことに腹を立てた雷電雲の反撃。

―――が、蓮達にその攻撃が当たることはなかった。


「……間一髪で間に合ったみたいだね」


潤はふっと息を吐いて脱力感に浸る。

蓮達に攻撃が当たる直前、潤は素早く装填した弾丸を一発放っていた。


その弾は蓮達に攻撃が当たるよりも速く雷電雲の攻撃にあたり阻止した。


「この弾がなかったら、危なかった……」

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