青天16
涼し気な顔をして答える潤に対して司が自分の思った疑問をぶつけてくる。
彼女の疑問は最もだ。
常に動いて雷電雲の硬い装甲を剥がしていかなければいけない。
それは同時に的にされるのと同意義。
司の疑問に潤は納得する。
だが、潤は彼女の意見を聞いてもなおその意思を曲げなかった。
その理由は各班のリーダーは、一応の形ではあるけど一番強い者を選任している。
何に対しても優れた者を選出しているということである。
リーダーは基本遠距離も近距離も両方得意なのである。
だが、基本的にリーダーは前衛で戦う方の事が多い。
正確にはリーダーは遠距離よりも近距離にさせられる。
その理由は近距離に弱い者を持っていった場合、殆どが負傷してしまう場合が多い。
最悪の場合は死ぬ事だってある。
そんな危険な戦場にわざわざ人を死なせてまで行かすはずもなく。
故に新人などは最初は遠距離をやらされる事が多い。
その時に慣れさせられる銃の扱いが長けている者ほど遠距離を任される。
潤はリーダー職にありながら、遠距離を中心とした戦闘を行う。
しかし、今回潤は近距離を任されている。
事もあろうことか近距離で銃を扱うと言っているのだ。
司が疑問に思うのも無理はない。
「そうだね、本来の役割でもある僕は遠距離に使うべきなのかもしれない。でも、僕は今回遠距離を使用しない。だから、基本的には近距離攻撃で皆の援護をしながら雷電雲を撃つことになりそうだね」
潤は力強く言う。
司が押し黙るが、今度は薫が異議を申し立てた。
「潤先輩はいいですけど……、私達は近接戦闘があまり得意ではないので……」
薫が司との間に視線を泳がせながら困った表情をする。
彼女達にとって近距離は専門外と言えるだろう。
しかしーーー
「そこら辺は大丈夫だと思うよ」
「どうしてですか?」
「多分薫達には遠距離から雷電雲の注意を惹いてもらうことになると思うからね」
「……どういうことですか?」
「今回、僕が雷電雲のコアを破壊することを任されているからね。薫と司と蓮は遠距離で雷電雲の気を惹いてもらえば、その分雷電雲の注意が削がれることになる。その隙をついて僕が倒すって算段なんだよ」
その話を聞いていた蓮は、潤の言葉に納得のいかないといった表情で彼を見る。
「それだとお前の負担が大きすぎねぇか?」
「ん?負担……?何のこと?」
潤は彼の言葉の意味が分からないといった表情で見つめる。
「お前のやることが多くなるんじゃねーかって言ってんだよ。今の近距離でコアを狙うことの他に奴の攻撃まで防げって言われてるんだろ?」
「……っ」
潤の表情に珍しく焦りの色が見られた。
言い当てられたことが予想外だったのか。
潤は心底驚いていた。
「まさか聞いてたの?」
探るような潤の問いかけに、蓮は隠すこともなく堂々と言った。
「あぁ、盗み聞いていた」
「そっか……」
蓮が聞いていたという事実に隠せないと思った潤が言う。
「まぁ……、蓮の言う通りだよ。御手洗指揮官に言われてね」
「そんな……」
「潤さんは断らなかったのですか?」
薫が口で手を覆い驚きを隠しきれていない。
司の目にも若干揺らめきが生じ、明らかな狼狽が見られる。
さすがの二人も内容を聞いて信じられないといった様子だ。
確かに蓮の言う通り負担は大きいだろう。
哲人がやれといったことは、蓮達が囮になっているのにも関わらず、彼らに向く攻撃を塞いで尚且つ雷電雲の核を破壊しろという無茶なお願いだ。
一体何の意図があってそう言ったのかは分からないが、無駄なことをしないと分かっている潤は素直に承諾したのだ。
「まぁ、これくらいのこといつものことだし、大丈夫かなって思って請け負ったよ」
三人の表情が次第に浮かなくなっていき、場の空気が重くなっていく。
「僕は大丈夫だから」
平然を装って皆を落ち着かせる。
安心させるような彼の一言で三人の顔に少しだけ明るさが帰ってきた。
「うん、取り敢えず三人が他の隊と一緒に雷電雲の注意を惹いて、僕が奴のコアを破壊するってことでいいね?」
「え……えぇ……」
「潤先輩がそう言うのなら……」
「分かった……」
三人とも歯切れの悪い返答だったが、今はそんなこと気にしていられない。
これから始まる大事な討伐の前に余計なことは考えないようにする。
「よしっ‼行こう‼」
覇気のある潤の声が第一施設に響き渡った。
そのまま外に出ると、閑散とした雑木林の生えた広大な土地が目の前に広がっていた。
嵐の前の静けさとでも呼ぶべきか。
心無しかその雰囲気はどこか忌々しさを物語っていた。
先程までは吹いていなかった風が妙に肌に突き刺さるようにして吹き荒れる。
静寂が時間の流れを狂わせる。
まるで時が止まったかのような感覚に陥り、そして―――。
気が付けば、潤達の周りには幾つかの隊が机を囲んで作戦内容の確認をしていた。
彼らの瞳は真剣そのものだ。
ふと、笑みが溢れる。
かつて共に戦った仲間の何人かは失っていった。
ここにも昔一緒に戦った仲間がいる。
懐かしい顔ぶれに思わず笑みが溢れてしまう。
皆が思っている。
再び戦う為に動いた。
捕食者として。
厄災を刈り取る為に。
潤達は武器を手に取るーーー。
★☆★
吹雪のように吹き荒れる冷たい風が強くなる。
風に靡かれる草原の鬱蒼が生い茂る。
波の如く揺れ動く草木の揺れに目を置き、髪が風によって遊ばれる。
これから始まる戦闘に向けて少年少女が外へと出ていた。
彼らの目の前には遠くから鳴り響く雷電雲の轟きが聞こえてくる。
轟々と鳴り響き、轟く雷鳴が不安を募らせていく。
その前にはスコールが濁流の如く襲い掛かり、人々を飲み込まんとする。
雨を凌ぎきる壁も碧もない。
あるのは捕食者が悠然と佇む姿だけ。
そして、彼らは厄災を見据えた。
第一施設を後にした四人がそこにいた。
「いよ―――か……」
蓮の言葉が風により遮られる。
「なんて言ったのかよく聞き取れなかったわ」
「おいおい冗談だろ?」
「冗談でどうでもいいこと言わないわよ」
「マジかよ……」
「二人ともこんな時まで仲良くしないで」
「「してねーよ(ないです)‼」」
薫と司の相変わらずの仲の良さに司が溜息をついていると、その様を遠目で見ていた潤は口では笑いつつも真剣な眼差しで見つめていた。
すると、ちらほらと潤達の周りに何人か集まり始めた。
彼らも潤達同様に特攻服に身を纏い、身なりをきちんと整えている。
それぞれの腰には己の武器が携えられており、これから始まる戦闘に向けての準備を始めていた。
『そろそろかしら……?』
『気を引き締めていかないとね』
『俺、これ初任務なんだけど……』
周りからは様々な声が飛び交っている。
内容を聞く限り、焦りと不安が入り混じって緊張しているのが伝わってきた。




