青天14
御手洗の説明を受けてもキョトンとした顔をしている蓮がいた。
蓮にとって御手洗の言葉は大変難しいようだった。
全く頭の理解が追いつかない。
今にもパンクしそうになっている。
ぷすぷすと音を立てて困惑していた。
ぽかんとしている彼に潤が理解出来るよう分かりやすく説明する。
蓮のために小声で言う。
「分かり易く言うなら……動いたら攻撃されるってことだよ」
潤は隣で頭をショートさせながら、話を聞いていた蓮の方を向き説明をした。
しかし彼の目を見ると、蓮の目には明らかに怒りのような灯火が込められていた。
「んなことくらい俺だって分かったわ‼」
「そっ、そうなの?ご、ごめん……」
どうやらちゃんと理解出来ていたらしい。
先入観が彼の理解の乏しい頭に入っていないっと思っていたがそれはどうやら違うようだ。
潤は必死に彼に謝り詫びを入れた。
しかし、なら彼は一体何に対して疑問を抱いているのかと気になったが、そこに割って入るかのようにして女性陣二人が蓮に口を挟む。
「ちょっと‼潤さんに謝らせないでよ‼」
「流石に今のは私でも見過ごせないわね……」
女性陣二人の痛烈な言葉に蓮も動揺を隠しきれない。
「えぇ‼俺かッ⁉俺が悪いのかッ⁉」
「そうよ‼馬鹿蓮が潤さんを馬鹿にしていいと思ってるの?」
「当たり前じゃない蓮君。全面的に貴方が悪いわ」
「理不尽だ‼︎」
司と薫二人の理不尽な物言いに抗議するも玉砕。
蓮が驚愕の表情で司と薫を見ていると、
突然―――
「ふははははは……ッ‼」
と、高らかに笑う声が聞こえて来た。
「「「え……?」」」
騒ぎあっていた四人は、予期もせぬ唐突な笑い声によって静まり返った。
有り得もしない笑い声によって戸惑った三人はその声がした方を見る。
すると、そこにはいつも威厳な態度で何かと緊張感を漂わせるはずの御手洗指揮官が、自らの腹を抱えて天を仰ぎながら盛大に笑っていた。
信じられない光景に目を向けていると、
「君達は本当に面白いな。ここまで笑ったのは久しぶりかもしれない」
心底楽しんだ顔で御手洗がはにかみ三人を見つめて来た。
御手洗はさも楽しそうに微笑み、すぐさまその表情を戻して真剣な面持ちになる。
まるで、凶器を目に宿したのかと錯覚するほどの狂気。
鋭く尖ったナイフがひしひしと肌に触れる。
その唐突の変わりように、三人は驚きが止まらなかった。
「だが……」
御手洗はゆっくりと告げた。
「笑っていられるのも今だけだ。戦闘に入ったら笑ってなどいられないだろうから、くれぐれも気を付けてくれ」
戦闘に入ったらという言葉がやけに強調される。
心の動機が僅かに上がったのを蓮は感じ取った。
御手洗に念を押されては三人もそれに従うしかなかった。
だが、唯一潤だけはその凄みに蹴落とされることなく真っ直ぐ彼を見つめた。
彼の瞳に吸い込まれることなく自我を保っている。
だからこそ、潤は力強く応じる。
「勿論です御手洗指揮官。必ず雷電雲を倒して見せますよ……。人々の暮らしがかかっているのですから」
潤の瞳には僅かな闘志が灯っていた。
「それでは御手洗指揮官。私達は作戦を立てるためにこの場を離れます。皆、作戦を立てるから第一施設に集まってほしい」
潤はすぐ行動に移し、三人と雷電雲を討つための作戦を練るため移動することにした。
「うぇ⁉︎ちょっ、待てよ‼︎」
蓮は突発的に動いた潤に付いて行けずに置いてきぼりにあう。
彼はこちらを顧みることなく進んでいく。
その後ろ姿を見つめ、蓮は溜息を一つ吐いて誰に言うわけでもなく言った。
「分かったよ…たくっ、相変わらずなんだからなぁ」
頭をぽりぽりと掻いてやれやれと首を振る。
「「分かりました」」
蓮を除いた少女二人は何の躊躇いもなく了承する。
これくらいのことには慣れている二人は、何の疑心も持つことなく彼の後を追う。
三人がそれぞれ応じて御手洗指揮官に敬礼を送り、その場を立ち去るろうとする。
蓮は前にいる潤を抜いて先に扉に手をかけた。
潤も彼に続いて扉の前に来た時、蓮が咄嗟にこちらを向いて小声で言ってきた。
「お前が先に出てどうする…‼︎こういうのは普通お前が最後だ」
そう提言されては潤は扉に手をかけることが出来ない。
彼に続くように二人の少女が、潤より先に扉に手をかけて去っていく。
「「失礼します」」
司と薫の声が重なってすぐに二人の姿は消えた。
一連の動きを見てから潤は立ち去ろうと扉に手をかけ一言ーーー
「それでは御手洗指揮官、これで失礼します」
深々と御手洗に頭を下げて、潤も彼らに続くようにしてその場を後にしようとした。
扉に手をかけて開こうとしたその時ーーー不意に御手洗に呼び止められる。
「あぁ……待ってくれ」
呼び止められた潤は、足を止めて振り返る。
「なんでしょうか?」
呼び止めにに応じた潤が扉にかけていた手を開いて離した。
「潤。先に行ってるぞ~」
「うん」
潤を除いた三人は先にその場を後にする。
扉が閉じ、音が終符した。
蓮達が去った後、潤はゆっくりと歩き出し御手洗指揮官の前に来る。
潤は三人が去っていったのを確認してから口を開いた。
「それで?話って何かな哲人?」
哲人。
つまり御手洗の下の名前を口にした潤が彼の前に行く。
まるで親しい友人のような振る舞いを見せた潤に対して御手洗は、さも面白そうに笑ってみせた。
彼の足取りは重い。
「用ってほどでもないが…潤、お前には一つやって欲しいことがあってな…」
素直に来てくれない潤の姿を見た哲人は、口角を釣り上げて笑う。
彼も潤を下の名前で呼んで対応してみせた。
何故二人はこんなにも親しいのか?
その答えは簡単だ。
何故ならーーー
「嫌だよ……。哲人のお願い事はいつもろくなことがないんだよ」
「まぁ、そう言うな。お前でも出来る仕事だ」
何を隠そうこの二人は―――昔からの友人なのである。
随分昔からの友人仲だが、相対する性格の二人はどうにも馬の骨が合わない。
今もこうしてお願いをせがまれている潤だが、内心は仕方のないことだと言い聞かせていた。
御手洗は一番上の地位で自分は一介のリーダー職でしかない。
断られないわけではないが、断っても自分に理があるかと言えばそうではない。
故に話は聞くことにした。
「それで……、内容は?」
「お前ならそう言うと思ったぞ。最初から素直にそうして欲しいものだがな」
「どうも哲人のお願いは裏がありそうで嫌いだよ。前にも何回かお願い事されて仕事を熟してきたけど、どれも内容とは異なるもので騙されたし……」
騙されたとは人聞きが悪いと御手洗は思った。
しかし、潤がそう思うのも無理はない。
確かに何度かお願いしたが、その悉くが少しだけ内容とは違うものに発展してしまっていた。
その事に関してはバツが悪いように御手洗は謝罪をするしかないのだが……。
対して潤もやぶさかではないが、内容の確認をしっかりと行う。
潤は御手洗からこうして秘密裏にお願いをされることが多々ある。
周りの隊員達にバレれば厄介毎になるものもあれば、心底どうでもいい内容のものもあるためあまりい役回りとは言えないのが事実である。




