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第五章 固まる決心

悠然と広がる景色を眼前に。

怒号のように轟く雷鳴と泣き叫ぶように打ち付ける雨音が聞こえてくる。


吹雪のように冷たく吹き荒れる風が狂気の乱舞の如く襲い掛かり、見事なコンビネーションが繰り広げられていた。


激しく打ち付ける雨が地面を抉り取り、剥がす力の増大さを物語っていた。


光が迸る度にその雨の勢いは次第に増していく。

それらは鼓膜を破らんとする。


視界を奪い取らんとする光輝がジグザグに迸る。


その雰囲気に釣られて空を覆っていた燦々とした青空は影も形もなくなっていった。

轟々と風が音を立てて予定調和の開始が告げられようとする。


潤が合流した後―――

彼は戦う前に行っておきたいという場所があるということで再度何処かへ行ってしまった。


蓮達はそれを追いかけようとはせず、彼が戻ってくるのをじっと待とうとしていた。

潤は皆に断りを入れて行く。


神秘を感じさせる空間に一滴の水滴が落ちる音が聞こえてくる。

マイナスイオンを肌で感じる空気の新鮮さを見に染み込ませながら、呼吸をする度に肺を綺麗に循環していく。


明かりが少しだけ灯った暗がりの空間から一つの影が現れる。

その影は僅かな光に反射して映り込んだ。


その影が反骨音を立てて歩く。

耳の左右から別々に聞こえて反響する音が洞窟へと木霊した。


影は唐突に歩を止めて目の前の光景に入り浸っていた。

そこには深淵の蒼が辺り一面に広がっていた。


湿気により滴り落ちてきた水がせせらぎ音を一際目立たせ零れ落ちる。

一枚岩が落ちてくる水滴により窪み削られ、器の形をして水を溜める。


表面いっぱいを落ちてくる水で溜めている。

その水面に一滴の水が再び落ちる。


一定のリズムで一滴、一滴落ちていく。

静かなその場所に水滴の音だけが響き、自然の心地良さを実感させてくれる。


一つの青年の影がかかり、その影は水源に映る自分の顔を見て思う。

反射して映るその顔は暗い。


心ここにあらずといった雰囲気を青年は身体中に漂わせる。

青年は水面から視線を外した。


目を閉じて、心を沈める。

吸い込む息が肺を満腹にしながら、体から力を抜いて息を吐く。


潤は思い出の中にある記憶に入り浸る。

それは遠い記憶の狭間。


昔ここに来たことがある時の狭間へと遡る。

昔を思い出そうとすれば必ず一番初めに思い出す彼女との出会い。


弱気自分が彼女に出会ったおかげで変わることが出来た日に。

少しだけ戻ることにした―――。



★☆★



ある夕暮れの日。

その日はやけに綺麗な夕日だった。


いつにもまして澄んだ日に潤はある者と出会っていた。


『潤君はどうしてそんなに強いの?』


少女の声が聞こえた。

幼い少女の声だ。


呼びかけられた潤は少女の顔を見る。


そう問いかけて来た彼女の瞳はとても眩しかった。

キラキラと輝かせた純粋な目が潤に向けられる。


あまりにも眩しい瞳の彼女に戸惑いながらも質問の答えを紡いだ。


「そんなの分からないよ」


言葉に偽りはない。

出てきた質問は客観的に見た彼女だから感じたことなのだろう。


自分ではそんなこと思わないからこう答えるしか他にない。


だが、ぶっきらぼうに答えた潤に納得が行かなかったのか少女は不機嫌になり頬を膨らます。


『分からないは答えになってない‼︎』


不機嫌な彼女を宥めようとするが、一度機嫌を損ねた彼女を取り戻すのは多少なり時間がかかった。


「ごめん……」


答えられない自分を不甲斐ないと思った潤が少女に対して謝る。

下に俯いて落ち込んだ。


彼女の顔が見えなくなると、ますます下に向けて首を九十度に曲げる。

しばらく黙っていると、少女は突然吹き出し笑った。


『ふふっ……』

「どうしたの?」


彼女が笑った理由が分からない潤は問いただした。

しかし、彼女は答えを言わなかった。


ただ、潤を優しく見つめる。

暖かな瞳が潤を包み込み、温かい気持ちにさせてくれる。


『なんでもない。ただきっとあなたのそういうところが強さに繋がってるんだなぁって思っただけ』


彼女は細く笑みそう答える。

だが、潤はその言葉の意味を理解出来なかった。


「どういうこと?」


彼女に問うがーーー


『ふふっ……』


少女は笑うだけでそれ以上何も答えてくれない。

無情な時間だけが過ぎていった。


あの時、彼女が何を言いたかったのか。

それは今でも分からなかった。


結局その答えを聞けないまま彼女はもういなくなってしまった。


当たり前にいたはずの彼女の姿はもう何処にもなくて、後に残ったのはわだかまりを抱えた自分だけだった。


なんと虚しいことなのだろうか。

それはまるで心に穴がぽっかり空いたように。


無機質な人形のようになったかのような。

息をしない人形が。


少女を助けようと必死に藻搔もがいた悪足搔きも虚しく。

空虚の彼方へと消えていった。


潤は今でも彼女の答えを探していた。

あの時、聞いておけば良かったと後悔しながら。


本当は今すぐにでも答えを聞きたい。

もう一度彼女の声を聞きたい。


彼女に触れたいのに。

そこに彼女はもういなくて。


そこに彼女の姿は無くなってた。

もう彼女自身は答えてはくれない。


見つからない答えを永遠にいつまでも探して……。


記憶の中にいる彼女が徐々に薄れていった。

途切れるように消えていく記憶。


手を伸ばして掴もうとしても、それは無情にも通り過ぎていく。

去っていく記憶に追い縋る力も無く。


抗うことの出来ない力で現実へと引き戻される。

もっと浸っていたかったと思いつつ潤は帰還した。


現実に戻り水面に自分の顔が再び映り込んだ。

先程より血色の良い顔がそこにはいた。


ふと、笑みが溢れる。


その時、正面から小砂利を踏みしめる音が聞こえてきた。

潤が顔を上げ正面を向くと、そこには顔の見慣れた三人が彼の前に立ち止まっていた。


三人は一言も喋ることなく潤の姿をじっと見つめていた。

優しい瞳だ。


それは昔の記憶の中にある少女を思わせるような。

そんな優しい瞳。


不意に三人のうちの一人、髪を染めた少年が軽く話しかけてきた。


「よっ‼こんなところでな〜にしてんだ?」


こちらの顔を覗き込んで笑い掛けてくる。


彼の軽い口調に思わず口元が緩くなる。

お調子者の彼の言動はもう何度と聞き慣れている。


何故ここにいるのか?

そんな愚問は言わない。


彼が来たことで暗かった空間に灯りが灯り始める。


「いや……少し考え事をしていただけだよ。この場所には色々と思い出があるからさ……」

「……なるほどな」

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