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青天12

蓮は愕然とした。

つまり、一般人が少女を見捨てて我先にと逃げてしまったことが原因で、瀬川の妹は逃げられなかったのか。


だが、それと潤に一体何の関係が……


「その時厄災が襲ってきた。絶望的に無理な場面だった。誰もがその子の死を体現する中、潤さんが颯爽と現れて妹さんを助けたのよ」

「————ッ。なるほど‼」


そういう理由でか。

納得がいったのも束の間。


「なのに……勝手に最後にその場にいた潤さんのせいにされて……ッ!」


薫は苛立ちを顕にして言う。


「どういうことだ?」


潤がその場にいたという言葉に蓮は疑問符を浮かべた。

その場にいたから妹を救えたのではなかったのか?


疑念が膨れていくと、彼の耳に不気味な声が聞こえてきた。


「冤罪……」


か細い声で詞が言った。

乗っかるように薫は声を荒らげた。


「そうよ!冤罪よ!寄ってたかって皆で潤さんを疑って……。あの人は何も悪くない‼でも……潤先輩は優しいから何も反論しなくて、ただただ事実だけを受け止めて……」


そこまで言ってもう限界だったのだろう。

司の瞳から涙がホロホロと流れ落ちる。


その涙は悔しさからか。

それとも優しさゆえにか。


はたまた悲しさから来るのか。

どの感情なのかは蓮には読み取ることが出来ない。


ただ、彼女が相当悔しがっているのが身に見て分かった。

蓮が理解に追いついていない中、更に彼女は綴る。


「偶然ね、瀬川の妹がいたその場所に潤先輩がいたの。ちょうど辺りを確認しようとしていて、外に出てたのが幸いだった。誰もが潤先輩がいて瀬川の妹は助かると思った……でも、現実は非情だった―――」

「潤さんがいち早く着いたのはいいんだけど、残念ながら間に合わなかったの……」

「なっ……なんで?」

「話によると、正確には瀬川の妹はなぜかその場を離れなかったらしいの。でも、潤さんはなんとかして説得しようとした。安全な場所に連れていこうと思って、応援要請を呼ぼうと目を離した隙に、妹さんはどこかに行こうとして……そこを厄災にやられてしまったの。潤さんの目の前でね」

「潤先輩は……今でもその光景が夢に出てくるそうよ。目の前で人が死んでいくっていう悪夢に縛られて……」


二人の顔は明らかに疲れている。

感情の寄附が激しすぎて筋肉が強ばったのだろう。


たが、それほどこの二人からは潤の無罪を主張したいんだという思いがヒシヒシと伝わってきた。

真摯に受け止めた蓮が歯噛みをする。


「私は未だに潤先輩が瀬川に殴られたシーンを思い出すわ……」

「潤が殴られたのか?」


薫は目元に手を当てて涙を拭う。

それは潤が当時の指揮官である人に今回の事件のことを報告しに行こうとした時だった―――。


廊下を歩いていると、不意に横から野獣の如く飛びかかってきた拳に反応することが出来なかった潤は、そのまま勢い良く地面に顔を打ち付けた。


「お前がッ!お前があの時、注意を怠っていなければ!俺の妹は死なずにすんだんだよ!!!」


怒りで我を忘れた瀬川は、さらに潤に殴りかかろうとしていた。

他の隊員が数人がかりでようやくその行為を止める。


「ごめん……本当にごめん」


潤は泣きじゃくる瀬川に謝りながら、ただ見ていることしか出来なかった。

ボロボロの顔になりながらも潤はひたすら謝った。


何回も何回も。

永遠に止まない雨の中で……。


瀬川の涙が雨と一緒に流れるのを待ちながら……。


「―――怒りに任せた瀬川は、その後うちの隊を抜けたわ……」

「あの時の瀬川の怒りようは凄かったよ。本当に恐怖を覚えるくらい」


詞は二の腕をさすり身震いする。


「お前のような隊長がいるから人が死ぬんだッ!って言ってたわ」


潤の過去は潤の優しさによって犯してしまった過ちだったのか。


「で、色んなことがあってあんたが入ってきたってわけ」

「なるほどなぁ……」


内容を聞いた蓮だったが、やはり聞くのはまずかったと全てを聞いて理解した。


「私は……」


下を向いていた蓮は薫の言葉に反応し、ふと顔を上げた。


「今でも潤先輩は悪くないと思ってる」


凛とした声で彼女は言う。

その目から感じ取れる。


力の篭った声に凛とした視線。

蓮は飲み込まれそうになる。


「不運にも瀬川の妹はあの場所を動こうとしなかった。ただ潤先輩の不注意で片付けるのは良くないと思う。恐らくこれは私の推論だけど……妹は、瀬川の……兄の言う事を守っていたんじゃないかと思うの」

「……ッ!」

「そう、瀬川は待ってろって言った。妹はそれを信じて兄が来るのを待っていた……」

「それはつまり、忠実に兄の指示に従っていた妹が、潤が来たせいで動かなければならなくなって、その時を偶然厄災が襲ったってことか?」

「そういうことになるわね……あくまで私の推論だけど……」


蓮は愕然とした。

もしそれで潤のせいだというのなら、完全に当てつけだ。


ましてや自分はその場にいなかったのであれば、なおのことだ。

蓮は二人が悔しがるのも無理はないと感じた。


「多分、瀬川はそのことを知らないわ」

「知らない?自分で言ったのにか?」

「あまりのショックに記憶が曖昧なのよ……」


三人が辛辣にしていたその時————後ろから声が聞こえる。


「おーい、皆ごめん。待たせちゃったね」


声の正体は潤だった。

なんら変わらない笑みを浮かべながら、彼はこちらに近付いてくる。


その姿を視認しながら蓮は輝かしい彼を見据えた。

あんなにも素晴らしい人間が他にいるだろうか。


これまでの人生で蓮は彼以上の人間にであったことはないだろう。

それこそ誇りと言ってもいいほどに。


「話を聞いて分かったことがある……」


蓮はゆっくりとした口調で確信し言った。


「俺は……あいつを絶対に何があっても守るって決めた」


拳を高らかに上げて宣言する。


「はぁ?何唐突に変な事言ってんのよ?」

「どうしてそう思ったの?」


薫は呆れ返りながら、司は不思議そうな顔をしながら蓮に視線を向ける。

司の質問に一泊置いて答えた。


「あいつは……死んじゃいけない人種だと思う。誰にでも優しい人間なんてこの世界にはいないと思っていた。でも、目の前にはそんな理想を現実にしている人間がいる。仏様……なんて言い方がお似合いかもしれない。誰にでも優しく出来るなんて本当に凄い奴しか出来ないことだ。だから、俺はあいつをこの命に変えても守っていきたい!せめてあいつだけでも生きて……この荒廃した東国を……世界を変えていってほしい……そう思った」


蓮の言葉に二人は笑うしかなかった。

微笑みかけ、近付いてくる潤を見つめる。


「そうね……確かにそうかも」

「ええ、私もそんな未来になるなら……」


三人は天を見上げて笑う。

自分たちの誇れるリーダーがいつか変えてくれる未来を。


「皆どうした?感傷に浸ってる感じがするんだけど……?」


間の抜けた声ときょとんとした顔の蓮が3人を見つめる。


「なんでもないっ!それより早く行こうぜ!」

「ええ!今の私たちならなんでも倒せる気がするわ!」

「やってやりましょうー!」

「「「おーーーーー!!!」」」


潤は自分の班員達が自分のいない間におかしくなってしまったと思った。

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