青天11
蓮の問いかけに二人は沈黙する。
数秒、体を硬直させた。
(あれ?もしかして俺不味い事聞いたか?)
二人が暗い顔をしていることに蓮は内心しくじったと思った。
やがて、司と薫はお互い顔を見合わせてから蓮に向き直る。
「そっか……。あんたは後から入ってきたから、そこら辺の事情とかあんまり知らないんだっけ?」
「……なんで、ああなっているのかについて聞きたいの?」
薫は腰に手を当て、司は首をかしげて蓮を見つめた。
「まぁ……、そうだな……」
蓮にとってそれは確かに本音だった。
しかし、僅かに二人の表情が強ばったのを見て、聞いてはいけないものを聞いてしまったのではとも思った。
自分の知らない三人の過去。
自分がいない時、なぜ潤は瀬川に恨まれるようなことになってしまったのか―――。
気になっているのは事実だ。
しかし―――。
蓮の顔も二人同様に暗くなる。
その姿を見た司が言う。
「ふふっ、そんな顔しなくても、ちゃんと話してあげるから」
蓮の様子を見ていた司から優しい言葉をかけられる。
彼女は笑いながら言った。
暗かった蓮の表情に明るさが芽生える。
そう言って司は顎に手を当て考える仕草をとる。
「そうね~……まず話すとしたら、やっぱりあれからかな~?」
唇に手を当て悩む仕草をする。
完全にからかっている。
勿体ぶるような話し方の司に。
だが、蓮は特に文句は言わずに聞き入る。
「瀬川煌斗は―――元々私達のチームの一員だったのよ」
その声は目の前にいる司からではなく、視線を明後日の方向に向けていた薫から発せられたものだった。
そして、その内容に驚愕した。
「……ッ!?」
蓮は開いた口が塞がらないといった感じでいた。
第一声からとんでもない内容が飛び出してきて焦りを感じる。
「ちょっと薫!私が話す流れだったでしょ!?」
横槍を入れられて不機嫌になる司を完全に無視して、薫は話を進めようとする。
「驚いた?」
薫の問いかけに蓮は素直に頷いた。
さすがに予期していなかった内容だった。
「おっ、おう……。つか、本当なのか?あの瀬川が……?」
戸惑いつつ薫の瞳を見つめた。
薫の瞳は揺れていた。
「そう……。あれは何年前だったかしら……?今回と同じように空に厄災が現れた時だったかしら?」
まるで物語の語り手のように、彼女の声は聴く者を魅了していく。
そのすんなりと耳に入ってくる声で語られる内容に蓮は釘付けだった。
「瀬川には両親がいたの。私達と同じ捕食者だったと聞いていたわ。なかなか腕のある人達で結構活躍してたみたい」
「そうなのか……」
「けど、その両親は数年前ある厄災によって……死んでしまったの」
「なっ……」
蓮は言葉を失った。
まだ成人していない子供にとって、親を失うというのはあまりにも酷なことだ。
だが、この世界ではありえない話ではなかった。
片親————時には両方を失うことだって珍しくはない。
しかし、蓮にはちゃんと家族がいる。
父親がいて、母親がいて更には弟もいる。
だから、両親を失った瀬川の複雑な人生に驚いてしまった。
「両親を失った彼にはまだ幼い妹がいてね、瀬川は弱冠十歳代にして妹の荷を持つことになったの」
「……」
蓮は更に言葉を失う。
なんとも悲惨な話である――――と、蓮は思った。
両親が同時に亡くなる。
しかも、幼い妹までいると来た。
今の自分に両親が失って弟と二人きりになった場合を考えたが、とてもじゃないが一人では賄いきれない。
「その日から瀬川は毎日のように妹を守るために妹のそばを離れなかった。片時もね。もちろん、色々な注意をされてきたわ、リーダーの命令を無視して妹を取るんですもの。でも、それを止めさせなかったのはやっぱり潤先輩だった……」
「潤さん……他人には優しいからね」
薫の言葉を聞いた司は悲しそうに呟いた。
『他人には―――』
その言葉が妙に胸に引っかかった。
蓮は違和感が拭いきれなかった。
しかし、薫は続けて話を進めていく。
「でも……ある日、事件は起こってしまったの」
薫の顔は次第に暗くなっていく。
隣で聞いている司も下を向いて彼女の話を聞いていた。
「その日は妙に雨が強い日だった。いつもみたいにただのスコールだと思ったけど、いつまで経っても弱さが訪れない異変に気付いた隊員達が、外を見に行ったの。そしたら、外部から侵入したレベルSの厄災が空を1面覆うようにしてそこにいたのよ。運悪くね。気付くのが遅れた私達は完全に後手に回ったわ。必死に市民は逃げ回ったわ、避難指示もきちんと出した。それに従って皆の無事を確認した―――はずだった」
「はずだった?」
「ただ一人、瀬川の妹だけは逃げることが出来なかったの……」
「どうして?」
蓮が聞くと、薫は頷いて答えた。
「その日は朝から召集があってね。瀬川は家を開けていたの。妹は兄の言う通りにしてた。だから、瀬川は妹に『待ってろ』って言ったの。妹は兄の帰りを心待ちにしていた。そんな時にあの厄災がやって来たのよ。まだ幼かった瀬川の妹は、どうしていいかも分からずとりあえずは外に出たの。でも、あまりの恐怖で逃げる事も出来ず、ただその場で泣き叫ぶだけだった……」
話していくうちに薫は体を震わせながら、尚も語っていく。
「最大の問題は……誰もその子を助けようとはしなかったってこと」
薫の手に力が篭る。
「誰……も?」
「そう……誰もね」
薫の変わりに司が答える。
「普通厄災が現れた状態で、一人でいる少女を見かけたら不思議に思うはずでしょ?なんで、あの子は一人なのかな?……って。まぁ、結果的にその少女を全員が見て見ぬふりをして置いていったのが原因なのよ」




