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第四章 不穏な空気

四人は重い足取りで作戦会議が行われる集合場所へと向かっていた。

向かう途中の道ではあちこちに巨大なテントが張ってある。


テントには各隊員用の寝袋や少量の食糧などが支給されており、各自の持ち場で指示を待つ状態だ。

このテントは縮小可能な設計となっているため、ありとあらゆる場で使用可能となる。


隊員達はテントで待機をし、緊急時に備えていつでも出撃出来るよう準備している。


疎らに置かれたテントをいくつも見かけては、視線を遮る。

テントの数から今回行う討伐対象の厄災の規模が伺える。


散らばるテントを避けるようにして数分歩いた。

そして、四人は目的の場所へと到着する。


潤達の目の前には大きな外壁に白い塗装が施された白色の四角い建設物があった。

先頭にいる潤が建物に備え付けられていた取っ手の扉をそっと開けて、様子を伺うように中へと入る。


扉の鈍い音を立て四人が中に入ると、潤達と同じように特攻服に身を纏い、ある程度の人数で固まった者達がいくつかに別れてそこにいた。


何人かは時折、笑顔を浮かべながら話をしているように見える。


隅の方に視線をやると、長机を囲むように四人が真剣な表情で机の上に広げられた資料に目を移して話をしている。


ここにいるほとんどの者達が男二人・女二人の比率に別れているため男女差は大してなかった。

中には招集された部隊がいる。


潤達を含めて約八十人が入れるほどの広さを誇る建物のスペースに偉大さを感じる。


幸い今日は全部隊の召集はないため、少しばかりスペースが余分に空いている。

室内は組まれたチーム内で固まっているせいなのか。


全員にまとまりは無く、バラバラに散らばっている。

壁と床が白く塗装されたその建物。


内装を見た潤は、瞬時にそれらが大理石と呼ばれる代物だと分かった。

強固な造りで人を守る様に建設された建物は、外からの異物の侵入を拒むような奇妙な雰囲気を醸し出していた。


ふと下を見れば、自分の顔が反射するほど輝いた鏡のような透明さと白さを誇っていた。

扉辺りには何も置かれていない。


視線の先————前方にはマイクと机が設置されていた。


室内の奥まで足を進める。

潤は辺りを確認しながら見て回る。


すると、潤達の後を続くようにして次々と招集されたであろう者達が扉を開けて中へと入ってくる。

数は既に五十人近くはいるだろうか。


これからもっと増えることを想像すると、少し窮屈な気分になりそうだった。


人の密度が高いためなのか。

自然と室内温度は徐々に上がっていった。


換気しようにも窓はない。

曰く、『厄災により窓が割られてしまったら、二次被害の危険性がある』ということだ。


そのため、この建物には設備されていないようだ。

割れた窓が捕食者に飛来して怪我でもしたら危ないとのことだろう。


実際どうなるかは分からないが、対策しておいて損はないはずだ。

よって室内温度を下げる手段は一つ。


窓からの喚起ではなく冷房などを駆使して対策する方法を取っている。


温暖化が進む今の時期に冷房を多様に使用するのは不本意極まりないが……。

対策をしない限り温度によって支配された空間が地獄のようにこちらに襲い掛かってしまうのだ。


贅沢極まりないと言われても仕方なし。

しかし、これも上層部の処遇あってのこと。


上の意向なら意見の主張が難しい。


仮に捕食者の者達が意見を発言しようにも正当性の意見など放ったところで無意味である。

権力逆らうことが出来ない以上、従う他の選択肢はないに等しい。


黙っていることに越したことがないが、結果がこれであるのは心苦しい。

室内を見ながら思慮深く考え込む潤の耳に一際声の大きい複数人の笑い声が聞こえてきた。


『がははは‼』

『笑うなよ~‼』


潤が声のする方に視線を向けると、男二人が何やら楽し気に話をしていた。


彼らは周りの視線を気にすることなく、大声で笑っている。

それに釣られてかはどうか定かではないが、他の場所からも楽しい笑みを浮かべて話に集中している者達が数名見て取れた。


「何よ。あいつら緊張感ないわね……」


あちこちで話している隊員達を見た薫は、そう辛辣な言葉を吐き捨てた。


「緊張を和らげるためとかじゃねーの?笑うことが出来ているのは良い事だろ」


薫の言葉に反応して蓮が最もらしい意見を述べるが―――


「そんな理由?阿呆らしいわね……」


薫は思う。

蓮の言葉が仮に当たっていたとしても心底呆れる。


溜息を零す薫。

冷たい瞳で情景を凝視しながら、彼らを軽蔑しているといった目で見つめる彼女の姿を蓮は黙って見つめた。


「ちょっと二人とも……。周りに聞こえるからあまり大声を―――」


二人の会話が耳に入っていた潤が二人を宥めようとした―――その時だった。


バタンッ――――


一際大きな音が建物全体に響き渡った。

その音に反応した全員が言葉を失い、辺りが静まり返った。


急速に音が無くなる。

無音が支配する。


音の正体は、右隅の奥の方に作られた巨大な扉が閉じる音だった。

隊員達は一斉にそちらを見る。


扉に手を掛けて入って来たのは、抱えきれんばかりの資料を手に持ち、すらっとした体系の麗しい女性。

黒髪のショートヘアに銀縁眼鏡を掛けた女性は、悠然と歩きだす。


その顔立ちは綺麗に整っており、少し冷たく厳しい視線が鋭利に隊員達へと突き刺さる。

睨むように凄味のある瞳が隊員達の心を削り、彼らの芯を抉り取る。


彼女は全体を見渡した後、一拍置いてゆっくりと前に出る。

そして、真っ先にマイクのある壇上へと向かった。


歩く姿さえ、思わず見とれてしまうほどに妖艶で美しいと感じさせる。


歩き方はさながらモデルのような空気を漂わせている。

壇上に立ち全員を見渡すように向き直ると、マイクのスイッチをオンにして女性は声を発した。


「これより作戦会議を始める」


口から発せられた透き通る声。

その中にある凛とした姿に見惚れる者も数少なく。


彼女の声はマイクを通してスピーカーに。

スピーカーから隊員達へと届く。


爆音とも呼べる彼女の声に。

だが、全員耳を塞がない。


塞ぐようなことはしない。


その力強い掛け声と共に疎らになっていた隊員達が近くへと集まり、綺麗な隊列を組んで真っ直ぐきちんと揃う。


その場に充満していた弛緩のある空気が一変する。

彼女の一言によって場は緊迫した空気へと変貌を遂げた。


女性は一つ呼吸を整える。

空気を吸い込んで述べる。


「本作戦の指揮官を務めることとなった御手洗指揮官の補佐役を務めることとなった相賀寧々(あいがねね)だ。よろしく頼む」


相賀寧々と名乗った女性は鋭い眼光をその目に灯し、隊員達をじっと見つめた。

彼女の姿を見た蓮が声を上げる。


「へぇ……、女の人が指揮官補佐をやることもあるんだなぁ……」


感慨深く思ってぼそりと呟いた蓮の声は、どうやら彼女に聞こえていたらしく。

寧々は血相を変えて蓮を睨みつけた。


「私語厳禁ですよ?」

「……スイマセンッ⁉」


指摘された蓮はすぐに彼女に向かって腰を折り謝った。

突然の指摘に咄嗟に対応した蓮だが、彼女の威圧的な視線に戸惑う。


蓮が頭を下げている光景を見た周りの隊員達から高らかな笑い声が上がってくる。

中には馬鹿にしたような罵声も飛んできた。


『あっはっは!怒られてやんの‼』

『おい。あれ見ろよ』

『あぁ、清水リーダーの班のやつだろ……。全く勘弁してほしいよな~』

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