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青天8

「それにしても……ずいぶん遅かったじゃねーか。流石に待ちくたびれたぜ」

「あはは……ごめんごめん」


潤は面目なさそうに謝ると、蓮に向かって礼をした。


「止せよ。そんなことする間柄でもないだろ?俺達」

「……それもそうだね」


蓮のはにかんだ笑顔に釣られて潤も彼に負けじと満面の笑みを浮かべた。

そんな光景を潤から離れていた二人が忌々しそうに視線を投げる。


「蓮君ばっかりずるわよ」

「全くよ」


ぶつぶつと文句を言う二人に、潤は突然首をそちらに向けて問いただす。


「何か言ったかな?二人とも?」

「いえ……‼」

「何でもありません‼」


二人は尚もカタカタと体を震わせていた。


その時だった―――。

潤達の後ろから突然声がかけられる。


「相変わらず、君の部隊は統率が取れていないようだね」


耳に流れてくるその声はどことなく聴く人の心を凍らせる癖のようなものが確かにあった。

のっそりと現れた人物を潤は目で確認する。


「その声はッ―――⁉」

瀬川煌斗せがわらいと‼」


その主が発した声を聞き取った瞬間、司と薫が目の敵のように視線をそちらへと向け、潤を守る形で彼を囲う体制を取った。


「誰だ?この男は……」


呑気な声で蓮が言うと、薫が答える。


「瀬川煌斗……潤先輩と同じリーダー職の一人で、幹部候補のエリートよ」

「幹部候補?何だそれ?」

「その話はあまりここでは言えないけど……兎に角、超偉いってこと」

「おいおい。いくらお前らのリーダーではないといっても、俺はそこにいるボンクラ同様リーダーだぞ?きちんと敬語を使え」


瀬川は金色の髪をいじりながら偉そうな態度をとって見せた。

いわばナルシストの一種だろうと、その場にいる全員がすぐに認識した。


「誰があんたみたいなサイテーなやつをリーダーと慕うか‼私たちのリーダーは潤先輩一人だけよ‼」

「そうだそうだ〜」

「誰が貴女みたいなナルシストに敬語を使うもんですか‼」

「そうだそうだ〜」

「「柳(蓮君)は黙ってなさい‼」」


所々でちゃちゃを入れる蓮に、詞と薫が双方からラリアットをかました。


「ぶへぇ⁉」


見事な決めに勢い良く吹っ飛んだ蓮は、そのまま眠るようにして伸びてしまった。

その伸びた蓮を見ながら瀬川は呆れた顔を見せる。


「ふん……まるで躾がなってないな清水。まぁ、お前がリーダーだからなのだろうな」

「ははっ。ごめんね瀬川君。今度ちゃんと言っておくからさ」


その潤のなよなよとした態度が気に入らなかったのか、瀬川はおもむろに潤の足を踏んだ。


「「―――ッ‼」」


司と薫が今にも瀬川に手を出しそうなので、潤は二人の前に出て必死に手で制する。


「貴様……おちょくっているのか?」


瀬川の声には微量ながら怒りが込められている。


「とんでもない」


潤はその気はないと言わんばかりに真実の顔を見せた。

潤と瀬川―――互いの視線が交差する。


一触即発ムードになりそうな展開だったが、数秒おいてから先に視線を外したのは意外にも瀬川のほうだった。


「まぁ、いい。貴様などどうとでも出来るからな。俺はいずれ貴様を狩るぞ清水‼その時は覚悟しろ‼」

「うん、分かったよ」


捨て台詞を吐き捨てスタスタと去っていく瀬川の後ろ姿をしっかり眺めながら、潤は最後まで彼等を見送った。


瀬川の姿が見えなくなると、真っ先に薫が潤の元へと駆け寄ってきた。


「潤先輩‼毎回毎回なんで瀬川のこと責めないんですか‼パワハラですよ‼あれ訴えられますよ‼」


駆け寄ってきた薫の目には多量の涙が浮かんでいた。

恐らく何も言い返さなかった潤に対しての涙だろう。


彼女の後に続いてきた司の目にも同じく涙が溜め込まれている。

二人とも今にも泣きそうな表情になっているので、二人の頭に手を置いて落ち着かせようとする。


「ははっ、彼が僕に突っかかるのも無理ないよ」


潤は遠い目をして去っていった瀬川の背中を思い出す。

一呼吸置いてから潤は静かに言った。


「なんたって彼の妹を殺したのは……僕なんだから……」


声を押し殺しながら言ったその言葉はその場にいた三人を凍りつかせる。


薫はすぐに訂正するように懇願しようとした。


「そんなことないですよ‼瀬川の妹のあれは……その……そう‼事故だったんですよ‼」

「そうです‼潤さんは殺してません‼責任なんてありません‼」


二人は必死に『潤は悪くない』と言っているが、二人の声は潤には全くもって届かない。


「ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しいけど……それは君らの意見であって彼の意見ではない」

「「あ……」」


半ば説得されてしまった二人は露骨に肩を落として押黙る。

彼女らの目には悲しさだけが残った。


「まぁ、潤も変な奴に目を付けられたってことだろ?」


そんな二人を他所にヘラヘラしながら、蓮は頭の後ろに手を組んでその光景を眺めていた。


「そんなところだよ」

「そりゃあ大変なこった」


まるでその素振りを見せていない蓮だが、何だかんだで気にかけているようだ。

その証拠に少しだけそわそわしていた。


「それより、そろそろ作戦が始まる頃だ。皆、気を引き締めて行こう‼」


鼓舞するように強めの声を発した潤の激励は、いつも以上にしっかり出ていた。


三人の歩く歩幅は、僅かに気持ちと同化していた。

司と、薫は覚束無い足を前に出しながら潤の後に続くのであった。

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