第二話
2/16 「プロローグ」から「第二話」まで大幅に編集しました。
朝だ。
ベッドから起き上がり、部屋にあった桶に魔法で水を注ぎ、顔を洗う。
竜剣と予備の短剣、弓の手入れをする。
とは言っても、師匠曰く簡単な処置らしいが。
竜剣は特別らしいからともかく、短剣は旅の途中でどっかの鍛冶屋で見てもらえ、とも言ってたな。
指抜きの手袋をはめ、竜剣、短剣を腰ベルトに差す。
外套を羽織り、弓と矢筒を背負い、背負い袋を肩に担ぐ。
部屋を出て、一階に下りて行く。
「おはよう」
「おはよう。朝飯を頼めるか?」
「あいよ。8鉄貨だ」
1銅貨を渡して、釣りの2鉄貨を渡される。
空いていた席に座り、飯が来るのを待つ。
「おはよう、お兄ちゃん!」
「ラリエルか、おはよう」
お兄ちゃんと呼ばれるのは、とっくに諦めている。
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんって旅してるんだよね?」
「ん? まあな。それがどうした?」
「お兄ちゃんの旅に連れて行ってください!」
そう言って、ラリエルが頭を下げる。
「は?」
「私もね、旅をしてみたいの。だから、お兄ちゃんの旅について行かせてください! お願いします!」
「いやいや、いきなり過ぎるんじゃないか? そもそも、何で旅をしたいんだ?」
「えっと、私のママはね、昔は世界中を旅していたらしいの。それでね、いっぱい色んなお話をしてくれたの。
旅は大変なことも辛いこともあるみたいだけど、それでも、ママに聞いた事をこの目で確かめてみたいの!」
「そうか。それで、何で俺なんだ?」
「お兄ちゃんは強くてかっこいいから!」
「……理由はそれだけか?」
「う、うん。 そうだよ?」
ふむ。
聞いた事を自分の目で見たいというのは、分かる。
俺も、ドラゴンに会いに行くついでの事ではあるが、楽しみにしている。
だが、
「ついて来たいのは、まあ、しょうがないとしてだ。ラリエル、お前は金はあるのか?」
「お金は少しだけなら……」
「それに道中は獣や魔物が出るだろうからとても危険だぞ?」
「わ、私、魔法が使えるの! だから、戦えるわ!」
うーん。
どう断ればいいんだ。
教えてくれ、師匠――
会話の途中で飯がきたから、食べながら話したんだが。
結局、ラリエルは旅について来る事になった。
俺の目的がドラゴンに会いに行く事だと聞いても、少し驚くだけだった。
粘られて、押し切られた形だ。
だが、いくつか決めた事はある。
金は自分で稼ぐ事。
自分の身は自分で守るようにする事。
勝手な行動はしない事。
大体こんな感じだ。
「お兄ちゃん、これからよろしくね!」
「あぁ、わかった。よろしくな。ところでトイレはあるか?」
「トイレはこの宿の裏にあるよ。 仕切りがある内側に、穴が掘ってあるの」
「トイレから戻ったら、街を見て回るついでにラリエルの旅の準備をするぞ」
「わかったわ!」
ラリエルは、その身には大きい背負い袋を背負っている。
ショニアさん――ラリエルの母の名前だ――が昔使っていた物らしい。
まだ中は空っぽだ。
今日はこの街を見て回る。
ついでにラリエルの旅の支度をする。
一日かかるかもしれないから、すでに銅貨3枚払って宿をとってある。
「それじゃ、また夕方頃戻ってくると思う」
「行ってきます、ママ!」
「いってらっしゃい」
セルゾ市には壁門が西と南の2ヶ所ある。
昨日入ってきたのは南門だ。
それぞれの門からこの街中央の広場まで大通りがあり、それぞれの道の両側には俺が昨日泊まったような宿屋を始め、色々な店があるとか。
確かに、立派な店や小規模な店、地面に布を敷いて品物を並べた露店など、今見えている範囲でも様々だな。
ラリエルの案内で色々と見て回る。
雑貨屋、食料品店で、俺が用意した物と大体同じような物を買っていく。
「お兄ちゃん、これ似合うかな?」
「どうだろうな。長持ちしそうなやつを選んでおいた方がいいと思うぞ」
あとは服屋で予備の服を買い。
「お兄ちゃん、どう? 様になってる?」
武器屋でラリエル用に短剣を買い。
「お兄ちゃん、前が、見えない……」
防具屋でラリエルが兜をかぶってみたり。
昼飯は、街を見て回っている途中に露店があったから、そこで買って食べた。
何かの肉を焼いたもので、ハーブだろう香りが食欲を刺激する。
何本か追加で買って食べて、とても満足だ。
「ここは何だ?」
「薬師のお店だよ!」
店の中に入る。
雑多な物で溢れかえっている。
乾燥した草や動物の皮、石のような物、とにかくいっぱいだ。
独特な匂いがするな。
この店の主人なのか、老婆がいる。
「若いの、どんな用事で来なさった?」
「いや、特にはな。少し見せてもらうぞ」
そう言って、色々と手に取って見てみる。
ん?
「婆さん、この石は何だ? 少し不思議な感じがする」
「ほぉ、お主は分かるようじゃな。それは魔集石じゃよ。空気中などの魔力を集め、宿す性質があるのじゃ」
「何に使うんだ?」
「まぁ、特に回復薬に使うの。薬草と混ぜて傷の再生を早めるのじゃ。作るにはコツがいるがの」
そう言って、不気味に笑う老婆。
魔集石か。
回復薬は師匠から少し貰って持っているが、これが材料になるのか。
そういえば、材料が薬草と魔集石とか言ってたか?
他にも見て回る。
また気になる石があった。
「これは何だ?」
「それは魔散石じゃ。魔力の流れを乱す石じゃが、主に小さい物を奴隷に埋め込むんじゃよ」
魔散石に奴隷か。
聞いた事はあるな。
奴隷ってのは、魔散石を体に埋め込まれて魔法が使えなくなった人。
主に貴族って奴や金に余裕がある人が買う。
そう、買う、なのだ。
商人の商品である。
大体は金の無い人が自ら奴隷となるそうだが、奴隷狩り、というのもあるそうだ。
人を無理やり奴隷にする行為だ。
国に認められてはいないが、貴族とかもするらしい。
奴隷の大半は普通の人と変わらないそうだが、酷い扱いを受ける事もあるとか。
あまり気分の良い話では無い。
……さて、もう気になる物は無いか。
店の中を色々見て、そう思った時だった。
ある小さな石が目に留まる。
「おい、婆さん、これ」
「やはり、お主は感が鋭いの。それは竜魔石じゃ。魔集石がドラゴンの魔力を宿した代物じゃな」
ドラゴンか……
道理で、竜剣と似た感覚なわけだ。
さて、もういいか。
「婆さん、色々と為になった。礼を言う」
「ほほ、礼を言うなら何か買って行っておくれ」
「……そうか。なら、この竜魔石はいくらだ?」
「それを買うのか? 小さいが高いぞ? それに、使い道は分かっておるのか?」
「使い道は知らないが、気に入った。だから買いたい」
「……飽きれるの。じゃが、悪くない。そうさな、5銀貨でどうじゃ」
「5銀貨か。分かった」
5銀貨を取り出して婆さんに渡す。
そういえば、ラリエルがやけに静かだな。
「ラリエル? どうかしたのか?」
「……っは! お兄ちゃん! 5銀貨なんてそんなポンと出していいの!?」
「ん? そんな事か? まだ金はあるし、今必要な物は特にこれと言って無いからな。それより、次行くぞ」
まだラリエルは微妙な顔をしている。
「それじゃあな、婆さん」
「ほほ、頑張りなされよ、若いの」
その後も色々見て回ったが、既に見た所と同じような感じだった。
ドワーフは見れたが。
立派な髭、がっしりとした体躯、短い脚。
種族的に地と闇の魔法が得意だったか。
「よし。それじゃあ、宿に戻るか。」
「うん、お兄ちゃん!」
宿で夕飯を食べ、部屋に入る。
部屋に置いてある桶に魔法で水を入れて、布を濡らして体を拭く。
特にすることも無くなったからベッドに入る。
明日はこの街から南西方向のレカロ市に向かう。
今日の買い物の時に店主などに聞いたが、2日かかる程度の距離らしい。
村に寄るか、そうでなければ野宿になるだろうな。