プロローグ 旅立ち
2/16 「プロローグ」から「第二話」まで大幅に編集しました。
「おはよう」
「おはよう、師匠。朝飯はもう用意してあるぞ」
翌朝、短剣を素振りしていたら師匠が起きてきた。
「そうか、わかった」
師匠が顔を洗って家に入っていく。
俺も顔を洗い汗を拭いてから家に入る。
「カイ、そのあざはどうした?」
食事中に師匠が聞いてきた。
「あぁ。これは昨日、いつの間にかできてたんだ」
師匠が考え込む。
どうしたんだ?
「カイ。飯を食べ終わったら話がある」
そう言って、師匠は黙って朝食を食べ進める。
何なんだろう。
俺もさっさと、パンに熊肉のスープを片付けようか。
「ついて来い」
師匠が立ち上がり、歩いて行く。
俺も立ち上がって師匠について行く。
「あれ、こっちって俺入っちゃダメだろ?」
家の地下に続く階段を師匠が下りる。
返事は無い。
良いのか?
階段を下りると、そこは物置のような感じだった。
色々と置かれている。
武器や防具、木材、動物だか魔物だかの皮……
師匠は奥の机の前で止まる。
「カイ、この箱を開けろ」
そう言って、机の上にある箱を指差す。
……小さい木箱だ。
両手で簡単に運べそうな大きさ。
蓋を開ける。
中には短剣が入っていた。
手に取ろうと、触れた瞬間。
バチッ。
青い光が生じた。
「いてっ」
手をはたかれたような感じだった。
「今の何なんだ、師匠」
師匠は黙りこくっている。
もう一度、短剣に触れてみた。
今度は何も起きない。
手に取って見てみる。
鞘から抜く。
真っ白の刀身。
綺麗だな。
だが、それ以外これといった特徴のない、普通の短剣だ。
そのはずなのだが。
不思議な感覚だ。
普段使っている短剣より、手に馴染むような気がする。
「師匠、この短剣は何なんだ。黙ってないで教えてくれ」
「その短剣を持って部屋に戻るぞ」
そう言って師匠が歩き出し、階段を上っていく。
本当に何なんだ?
「その短剣だがな。竜剣と言う」
机を挟んで俺と師匠が向かい合って座っている。
「その竜剣はドラゴンの牙から作られている」
「ドラゴンってあの、巨大で空を飛んで強力な魔法を使うっていう、あのドラゴンか?」
「そうだ。そしてその竜剣はドラゴンに認められた者しか触れることができない」
「何だって? 俺は普通に持っているぞ。じゃあ、俺は会ってもいないドラゴンに認められているとでも言うのか?」
「そうだろう。なんせ、お前は勇者だしな」
「……勇者、だと?」
「あぁ。お前のその左手にあるあざが勇者の証だ」
俺の左手を見る。
あざは昨日より、はっきりとしている。
「実際はあざじゃなくて紋様だ。『竜の盟約』と呼ばれる、ドラゴンとの契約の証だ。絵本でも読んだことがあるだろう?」
「これがあの、勇者に与えられた『竜の盟約』……」
「俺は実際に見た事があるからな、間違いない。」
「なんで俺がその『竜の盟約』を持っているんだ?」
「さあな、俺にも分からん。だが、お前と『竜の盟約』を結んだ相方となるドラゴンがいるはずだ。実際に聞いてみればいい」
「会いに行けってことか?」
「会いに行かないと、逆に向こうから来るぞ?」
「は?」
「お前の相方のドラゴンが『竜の盟約』を目印に、ここまで飛んでくるだろう」
「なんだそりゃ。なんで俺が行かないとドラゴンの方から来るんだ」
「『竜の盟約』が結ばれた。しかもドラゴンと対面していない状況で、だ。何かがあるだろうことは間違いない」
「そうか。じゃあ、ドラゴンに会いに行くか」
「そうしろそうしろ。まあ、慌てることはないさ。せっかくだ、旅を楽しんで来い」
「あぁ、楽しんでくるよ。……ところで、師匠。この竜剣はどうやって手に入れたんだ?」
「俺も世界中を旅していたからな。色々とあったんだよ」
「そんなもんか」
「そんなもんだ」
旅には明後日出る。
今日と明日は、旅の支度だ。
師匠に聞き、旅に必要な物、あると良い物を用意する。
携帯食、塩、砂糖、胡椒、鍋、布、予備の服、ロープ、……とにかく色々ある。
それらを背負い袋に詰める。
準備中に、「これはお前のもんだ」と言われたから、竜剣は持っていくことにした。
今まで使っていた短剣は……そうだな、予備として持って行こう。
翌日、師匠から旅で注意する事や知っておくと良い事を聞いたりした。
いつもの幻影を相手にする鍛錬で、竜剣と短剣を二刀流で使えるか、試してみたりもした。
結果はそこそこだった。
体にぎこちなさが出ている気がしたのだ。
もう少し二刀流を馴染ませるべきだと分かったから、まぁ良いだろう。
明日は旅に出る。
見たことの無い景色を見て、食べたことの無いものを食べる。
知識でしか知らないことを経験する。
実に、楽しそうだ。
旅は不安でもあるが。
ワクワクしている俺がいる。
そして、翌日。
「お前に教えることはあらかた教えたはずだ。大丈夫だろう」
家の外で師匠に見送られる。
「あぁ、今まで俺を育ててくれてありがとう。まあ、しばらくしたら帰ってくるよ」
「これは餞別だ。少ないが、お前には自分で稼ぐだけの力はある。頑張れよ」
師匠から小袋を渡される。
中身は少しの銀貨だ。
「ありがとう。それじゃあ、行ってくるよ。師匠」
歩いて徐々に遠ざかっていくカイの背中を見送る。
「カイも大きくなったもんだな……それにしても、カイが勇者、か。きっと、いくつもの困難が待ち受けているだろう。なに、お前は俺が育てた俺の子だ。きっと大丈夫だ。それより、俺はどうするかな。カイに任せて楽できなくなっちまったなぁ……今日はとりあえず熊肉があるし、狩りは明日からでいいだろう」
――やはりそこには、怠け者の姿があった。
山を下りる。
俺の旅路を祝福するかのような、いい天気だ。
鳥のさえずり、虫の声、木々のざわめき。
にぎやかなことだ。
旅の目的地は、アルシェラ山脈南端の麓に広がる森。
そこにドラゴンの住処があるからだ。
アルシェラ山脈は大陸中央から南に、とても長く伸びているらしい。
ちなみに俺の住む山は、このアルシェラ山脈に在る。
山を下り、メサロ国とハルテン国を通過して、アルシェラ山脈南端の森に行く予定だ。
俺は山脈を南に進めばいいと思ったのだが、「少し距離が長くなっても街道を歩く方が速いし楽だ」と師匠が言っていた。
それにしても、『竜の盟約』、か。
俺が勇者とは、信じられない。
敵を真っ二つにするほどの力なんて無い。
魔物の群れを一気に焼き尽くす魔法なんて使えない。
頼れる仲間なんていない。
そして、使命が無い。
特別な力が無い俺が、何をするって言うんだ?
魔物を従えていくつもの国を滅ぼした魔王を倒す?
ドラゴンを操って世界を滅ぼそうとした魔王を倒す?
俺なんかに何ができるって言うんだ。
だが、旅は楽しみだから、行く。
そして、ドラゴンに会おう。
なぜ俺が勇者に選ばれたのか、分かるはずだ。
さぁ、行こうか。
はい、これでカイは旅に出ました。 旅が主だと思いますが、路線変更があるかもしれません。 更新は作者の気分なので、のんびり待っていただけると助かります。