表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

プロローグ

初投稿です。誤字脱字、おかしな点などがあるかもしれません。ご容赦を。

2/16 「プロローグ」から「第二話」まで大幅に編集しました。

 矢をつがえ、弦を引き絞る。

「ふっ」

 矢は獲物にまっすぐ飛んでいく。

「よし」

 矢は兎の頭を貫通し、その一矢だけで仕留めた。

 上出来だ。

 さて、さっさと処理をしておこうか。


 近くの川で兎の死体の血を抜き終える。

 水面には茶髪茶目の男が映っている。

 俺だ。

 おっと、頬に血が付いている。

 顔を洗ってから立ち上がり、家へ向かう。


 おかしい。

 山が妙に静かだ。

 風で木々が騒めいてはいる。

 だが、虫の声、鳥のさえずりが、全く聞こえない。

 近くに、何かいるな?

 それも、大物だろう。

 奇襲されてはまずい。

 茂みに隠れ、気配を薄くし、息を潜める。

 辺りを警戒する。


 来た。

 大熊だ。

 こっちに気付いていないか?

 いや、大丈夫。

 ……結構近いか?

 むしろ好都合だ。


 俺の中にある、魔力を感じろ。

 魔力とは、全てを形作っている万能の力だ。

 俺の魔力は俺の思いに応える。

 強く想像しろ。

 そして、事象へと変換し、現実に創造するんだ。

「炎上」

 イメージを補完する言葉の通り、炎が出現する。

 そして炎が現れた場所は想像した通り、大熊の目の前だった。

「グオオオ!」

 大熊が炎を食らった時にはすでに俺は茂みから出ている。

 炎の目くらましの効果は十分。

 大熊は目の前だ。

 腰のベルトに携えていた短剣を取り、大熊の胸に刺す。

 引き抜き、再び刺す。

 抜き去り、再び刺し込む。

 心臓をえぐり、かき混ぜる。

 仕留めた。

 一瞬、ほんの一瞬の出来事である。

 俺よりも大きな生命が僅かな時間で死ぬ。

 呆気ないものだ。

 だが、やはり気は抜けない。

 それはつまり、死を意味するからだ。

 緊張して動きがぎこちなくなるのはまずいが、慢心もしてはいけない。

 何事もほどほどに、だ。


 川辺に戻り、大熊の血抜きや解体などの処理を終える。

 熊肉は熊皮で包んでから、持っていた袋に入れる。

 今度こそ、帰ろうか。


「戻ったか、カイ」

「あぁ、ただいま。師匠」

「お、今日は熊か? ちゃんと処理はしてきたろうな?」

「もちろんだ」

「じゃあ、早速飯にするとしようか」


 熊鍋を食べ終え、片付けをしていた。

「いてっ」

 左手に痛みを感じたから見てみると、小さくあざになっていた。

 気付かないうちに、どこかにぶつけていたのか?

 まぁ、いいか。

 そのうち治るだろ。


 短剣を素振りする。

 縦、横、斜め。

 色々な方向から。

 敵は人型、獣、師匠から聞いた異形の魔物などをそこにいると思い込む。

 蹴りを混ぜ、仮想の敵の攻撃を避け、たまに掌底を打ち込む。

 想像相手だから実感は無いが、それでも重要だ。

 いつか起こりうる事を想定するのは悪いことじゃない。

 黙々と、素振りを続ける。


 俺の名はカイ。

 師匠と二人、山で暮らしている。

 親はいない。

 赤ん坊の時にこの山で師匠に拾われたから、師匠が親のようなもんだ。

 師匠には小さい時から色々と教えられている。

 人間、国、世界の事、食事や洗濯といった生活の事、魔物や精霊、ドラゴンの事、

 狩りの知識、薬草の知識、魔法の知識、師匠の経験してきた事、……とにかく色々と聞いた。

 聞いたことを実際に見たことが無いから、よく分からない事が多いけど。

 あぁ、そうだ。

 絵本ってのは面白かった。

 最初は文字を読むのは大変だったけど、色んなのを読んだ。

 特に勇者っていう奴――人間なのに、俺や、師匠から聞いた普通の人間じゃ比較にならないほど強い――の話が好きだ。

 圧倒的な力で強大な敵を容易く倒すのは、かっこいい。

 それと俺も、師匠や動物、風景とかの絵を描いてみたんだ。

 師匠に見せたら、褒められた。

 だから、絵を描くのも結構好きだ。

 最初は地面に描いたり、平らな木片に炭で描いたりしてたんだけど。

 師匠が街ってのに買い物をしに行って、白と茶色、2種類の紙と色々な種類の色の粉を買ってきてくれた。

 粉は俺でもどうにかできそうだったから、作ってみて、いくつかの色は自分で用意できるようになった。

 炭で黒、動物の骨を砕いて白、草や木の実の皮を乾燥してから粉々にして赤や茶。

 紙は高価っていうのを聞いてから、平らな木板とかを主に使うようにして、紙は大事に使っている。

 ……ちょっと話がずれたか。

 要するに、師匠が俺に色々としてくれているから、親がいなくても寂しくないってことだ。

 それに最近、たまに女の人がうちに来ることがある。

 俺はお姉さん以外の女性を知らない。

 だから、お姉さんかおばさんか、どっちで呼べばいいかよく分からなくて年を聞いた。

 そしたら、女性に年を聞いちゃいけないと怒られた。

 そんなの教えてもらってねぇぞ、師匠。

 で、そのお姉さんは、メサロっていう国――この山の麓に街があるが、その国の領土らしい――の王直属の魔法使いだと。

 メサロ国王は師匠を部下にしたいようだが、うまくいってないようだ。

 そりゃそうだ。

 師匠は怠け者だからな。

 いつも俺に獲物を狩らせて、自分だけ家で休んでいるような人だ。

 お姉さんは何度も来させられて大変だと言っていた。

 山登りが特にめんどくさいらしい。

 確かに、大型の動物は出るし、魔物も出やすい。

 遭遇が続けば、嫌な気分になるだろう。

 つい最近もお姉さんが来ていて、帰り際に愚痴をこぼして行った。

 まぁ、俺はお姉さんに会えて良いと思うけど。

 お姉さんから話を色々と聞けるからな。

 王様の事、王城での出来事、魔法使いや騎士の仕事、王国の流行、色々だ。

 戦争っていう、国家間の大規模な戦闘は起こっていないとも聞いた。

 最近魔物が頻繁に出現しているらしく、どこの国も戦争どころでは無いそうだ。

 魔物は危険だが、いなくなれば人同士の殺し合い。

 人間ってのは争っていないとダメな生き物のようだ。

 まぁ、俺もその人間だけどな。

 お姉さんとは話だけでなく、俺の魔法や剣を見てもらっている。

 俺は火と水の魔法しか使えないし、魔力量もそれほど多くない。

 だから、剣技の方を特に鍛えてもらっている。

 師匠に教えてもらうのもいいが、お姉さんの指導は新鮮だ。

 魔法使いは自分を守ることを軸にした剣技になるらしく、師匠とは全くの別物だからだ。

 そういえば、剣はそこそこ腕が良いと言われた。

 素早くて、判断が早く、反射的な反応も良いんだとか。

 魔法はまだまだだね、とも言われたが。

 

 日が傾いてきたから今日の分の鍛錬を終える。

 さっさと夕飯を用意しよう。

 師匠は体が大きいし、俺よりも沢山食うが。

 まだまだ熊肉はある。


 夕飯を食べ終え、水浴びを済ませる。

「ふぅ。汚れが落ちるとさっぱりするな」

 布で体を拭いて、シャツを着てズボンをはく。

 そういえば、このシャツやズボンも師匠からもらった物だ。

 武器、衣服、調味料、雑貨……この山で手に入れられない物は師匠が街で買ってくる。

 確か、山を下りるときに獣や魔物を狩って、街で金に換えていると聞いた。

 魔物の中で、特に魔獣は高く売れるそうだ。

 皮は丈夫だし肉もうまいのが理由だ。

 俺はずっとこの山から下りたことが無いから金の価値について実感は薄いけどな。

 街に興味はあるが、山を下りる気は無い。

 師匠やお姉さんの話を聞くだけでも十分だし、狩りや鍛錬をして暮らすここでの生活は楽しい。

 師匠も特に何かを言ってきたりはしない。

 このままでいい。

 俺の部屋に戻り、ベッドに寝そべる。

 布の下の干し草は最近交換したばっかだからふかふかだ。

 さて、寝るか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ